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2020年4月16日 (木)

水路の流水についての当該土地改良区の排他的管理権侵害(否定)

最高裁R1.7.18    
 
<事案>
Xは、かんがいの目的で河川の流水の占有について河川法23条の許可を受け、当該許可に基づいて取水した水を水路に流しており、Xの組合員は本件水路を農業用の用排水路として使用。
本件水路は、いわゆる法定外公共物として国から徳島市に譲与されたものであり、その全般的な維持管理は、事実上、Xが行ってきた。
 
Xは、定款等において、Xが維持管理する用排水路へXに無断で汚水を流してはならず、当該用排水路等を使用しようとする者は、Xの定める基準により計算される使用料を支払わなければならない旨を規定。
 
Yらは、本件水路の周辺の土地建物を所有するなどしており、公共下水道が整備されていないため、し尿を各自の浄化槽により処理し、Xの承認を受けないで本件水路へ排水。
 
Xが、本件水路へのYらの排水により、本件水路に係るXの排他的管理権が侵害され、Xに損失が生じるとともにYらに利得が生じた⇒Yらに対し、不当利得返還請求権に基づき、それぞれ本件水路の使用料相当額の支払等を求めた。 
 
<原審>
河川法23条の許可に基づく流水占有権は排他的に流水を占有する物権的な権利⇒Xは同条の許可を受けて取水した水が流れる本件水路の流水について排他的管理権を有し、Yらによる本件水路への排水によりXの前記排他的管理権が侵害され、Yらに不当利得が生じた⇒Xの請求を一部認容。 
 
<判断>
原審の判断には違法がある。
Yらの敗訴部分を破棄し、Xの控訴を棄却。
 
<解説>
●河川法23条は、河川の流水を占有しようとする者は、河川管理者の許可を得なければならない旨規定。

流水の占有:
①流水を排他的・継続的に取水して使用する「量的な占有」と
②一定の流水面を排他的に使用する「面的な占有」
とが考えられ、本件で問題となるのは①。

同条の許可を受けた取水利益は「許可水利権」と呼ばれている。
許可水利権は、物権的性格を有し、許可された流水の占有が第三者により妨害された場合には、その妨害を排除し、予防し又は回復することができる
but
その内容は、流水に対する全面的な支配権ではなく、流水を許可された範囲内で指定に使用する権利であり、許可に係る使用目的を満たすために必要な限度の流水を使用しうる権利であって(最高裁昭和37.4.10)、
自己の必要な範囲を超えて第三者による流水の使用を排斥したり、第三者にこれを使用させる権能まで有するものではない。

許可水利権は、河川の流水の一定量を取水して使用することができる権利であり、その権利自体には物権的性格が認められる。
but
許可水利権に基づいて取水した水が流れる水路に第三者が排水をしたというだけで、当該許可水利権において許可の対象とされた流水の占有が妨害されたとはいえず、当該許可水利権の侵害を認めることはできない

●本件水路のように河川法等の機能管理に関する特別法の適用のない公共用物については、その機能に着目して行政的に規制する法律が沿革的に存在しなかった⇒「法定外公共物」と観念。 
平成12年4月1日に施行されたいわゆる地方分権一括法等による地方分権推進施策により、公共用水路として現に公共の用に供されているものは、国から市町村に譲与され、市町村が管理条例等を制定するなどして管理。

●本件は、法廷外公共物である水路を事実上維持管理する土地改良区と周辺住民との間の法的関係について、最高裁が判断を示したもの。
判例時報2433

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