死刑確定者と親族以外の者との間で発受する信書についての事案
最高裁R1.8.9
<事案>
死刑確定者であるXが、同人宛ての信書の一部について受信を許さないこととして当該部分を削除した大阪拘置所長の措置は違法⇒Y(国)を相手に、本件処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
<判断>
刑事施設の長は、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき、
刑事収容法139条1項2号所定の用務の処理(重大用務処理)のために必要な記載部分のほかに、そのために必要とはいえない記載部分もある場合には、
同項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き、
同条1項に基づき、同部分の発受を許さないこととしてこてを削除し、又は抹消することができる。
<規定>
刑事収容法 第一三九条(発受を許す信書)
刑事施設の長は、死刑確定者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、この目、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、次に掲げる信書を発受することを許すものとする。
一 死刑確定者の親族との間で発受する信書
二 婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の死刑確定者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため発受する信書
三 発受により死刑確定者の心情の安定に資すると認められる信書
2刑事施設の長は、死刑確定者に対し、前項各号に掲げる信書以外の信書の発受について、その発受の相手方との交友関係の維持その他その発受を必要とする事情があり、かつ、その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認めるときは、これを許すことができる。
<解説>
刑事収容法において、外部交通の一類型である信書の発受は、受刑者については、原則的に相手方の範囲に制限はなく、基本的に保障されているのに対し(同法126条)、
死刑確定者については、許される範囲は制限され、
親族との間においては基本的に保障されているものの(同法139条1項1号)、
それ以外の者との間においては
重大用務処理のため(同項2号)又は心情の安定に資すると認められる場合(同項3号)にのみ保障し(権利発受)、
これ以外の場合には、信書の発受により刑事施設の規律秩序を害するおそれがないと認められるときに、刑事施設の長の裁量により許す(同条2項)にとどまる(裁量発受)。
死刑確定者について信書の発受が許される範囲が制限
←
①死刑確定者の拘置の趣旨、目的が、死刑の執行に至るまでの間、同人を社会から厳重に隔離すること等にあるに照らせば、刑事施設における処遇上、受刑者と比較して、より広範にその自由を制約することも許されると考えられる
②死刑確定者は、来るべき自己の死を待つという特殊な状況にあり、外部交通によって、激しい精神的苦痛に陥ったりすることが十分に想定されるため、親族などとの間の信書や交友関係の維持のため等に必要な信書の発受以上に、外部交通の自由を認めるのは適当ではないと考えられる。
刑事収容法139条1項2号による信書の発受は、重大用務処理のための必要性を理由に許されるもの⇒その処理のために必要とはいえない記述部分についてまで、同号により発受を許すべき理由はない。
本判決:「刑事収容施設法139条1項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き」
←
重大用務処理のために必要と認められない記述部分であっても、別途、同条1項3号によりその発受を許すべき場合がある。
同条2項は、刑事施設の長の裁量によりその発受を許すものであるが、その発受を許さない旨の刑事施設の長の判断について裁量権の範囲の逸脱又は濫用があれば、当該判断が違法となることを念頭。
判例時報2433
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