保佐人による本人の損害賠償金の浪費・費消と地方公共団体の職員の義務違反による国賠請求(一部認容)
大津地裁H30.11.27
<事案>
交通事故により高次脳機能障害等の後遺障害の残存したXが、Xの妻であり保佐人であったAから、暴行・暴言等の身体的及び心理的虐待及びに交通事故に関して受領した損害賠償金を無断で使用される等の経済的虐待を受けていた
⇒Y(滋賀県近江八幡市)がXからの虐待の届出を受理すべき義務を怠って更なる虐待を惹起し、また、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)に基づいて行政指導を行うべき義務を怠り、経済的虐待が継続されたXの財産が散逸
⇒
国賠法1条1項に基づき、届出受理義務違反によって惹起された更なる虐待による精神的苦痛についての慰謝料、経済的虐待を防止できずにXの財産が散逸したために生じた損害及び弁護士費用の合計2403万3201円の支払を求めた。
<判断>
●身体的・心理的虐待
◎ 争点:XがAから受けた身体的・心理的虐待について、Yの担当者が障害者虐待防止法9条所定の措置を講じる義務を怠ったか
◎ XがYの職員に対して、身体的虐待、経済的虐待、心理的虐待を受けている旨を訴えていた⇒障害者虐待防止法9条1項の届出があった。
Yの内部において届出として取り扱われなかったとしても、その後のYの対応が同情の趣旨に沿ったものであれば、国賠法上違法と評価されるわけではない。
Yの職員は、Xの訴えがあった当日及びその翌日には、X宅を訪問してAと面談
障害者スーパーバイズ会議では、Xの届出に係る申告内容についての検討を含め、Xに対する援助の方針や内容等について協議
~
Yは、速やかに訪問調査等による事実確認を行い、適切な時期に原告のケース会議等を開催⇒同条1項に規定する措置を怠ったとは認められない。
・・・・
⇒
養護者による障害者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあったとは認められず、同条2項に規定する措置を講ずべき状況になく、Yが障害者一時保護諸運営事業を委託先からXを退所させたYの対応に違法性は認められない。
●経済的虐待
◎ 争点:
Yの担当者が、
①AにはXの保佐人として財産管理の代理権がないことを確認した時点、あるいは、
②通帳の写し提供を2回にわたって受けた各時点において、
XがAから受けた経済的虐待について、Xに対し、行政指導上の各種措置を実施すべき義務を怠ったか。
◎ Yの担当者は、
前記①の時点において、
A及びその両親が、Xが交通事故に関して受領した損害賠償金を浪費・費消する抽象的懸念を抱いていたとは認められるが、その程度の懸念では前記各種措置に結びつくほど経済的虐待の可能性について具体的に認識していたとはいえない
⇒職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったとはいえない。
<事案>
交通事故により高次脳機能障害等の後遺障害の残存したXが、Xの妻であり保佐人であったAから、暴行・暴言等の身体的及び心理的虐待及びに交通事故に関して受領した損害賠償金を無断で使用される等の経済的虐待を受けていた
⇒Y(滋賀県近江八幡市)がXからの虐待の届出を受理すべき義務を怠って更なる虐待を惹起し、また、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)に基づいて行政指導を行うべき義務を怠り、経済的虐待が継続されたXの財産が散逸
⇒
国賠法1条1項に基づき、届出受理義務違反によって惹起された更なる虐待による精神的苦痛についての慰謝料、経済的虐待を防止できずにXの財産が散逸したために生じた損害及び弁護士費用の合計2403万3201円の支払を求めた。
<判断>
●身体的・心理的虐待
◎ 争点:XがAから受けた身体的・心理的虐待について、Yの担当者が障害者虐待防止法9条所定の措置を講じる義務を怠ったか
◎ XがYの職員に対して、身体的虐待、経済的虐待、心理的虐待を受けている旨を訴えていた⇒障害者虐待防止法9条1項の届出があった。
Yの内部において届出として取り扱われなかったとしても、その後のYの対応が同情の趣旨に沿ったものであれば、国賠法上違法と評価されるわけではない。
Yの職員は、Xの訴えがあった当日及びその翌日には、X宅を訪問してAと面談
障害者スーパーバイズ会議では、Xの届出に係る申告内容についての検討を含め、Xに対する援助の方針や内容等について協議
~
Yは、速やかに訪問調査等による事実確認を行い、適切な時期に原告のケース会議等を開催⇒同条1項に規定する措置を怠ったとは認められない。
・・・・
⇒
養護者による障害者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあったとは認められず、同条2項に規定する措置を講ずべき状況になく、Yが障害者一時保護諸運営事業を委託先からXを退所させたYの対応に違法性は認められない。
●経済的虐待
◎ 争点:
Yの担当者が、
①AにはXの保佐人として財産管理の代理権がないことを確認した時点、あるいは、
②通帳の写し提供を2回にわたって受けた各時点において、
XがAから受けた経済的虐待について、Xに対し、行政指導上の各種措置を実施すべき義務を怠ったか。
◎ Yの担当者は、
前記①の時点において、
A及びその両親が、Xが交通事故に関して受領した損害賠償金を浪費・費消する抽象的懸念を抱いていたとは認められるが、その程度の懸念では前記各種措置に結びつくほど経済的虐待の可能性について具体的に認識していたとはいえない
⇒職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったとはいえない。
◎ Yの担当者は
前記②の時点において、
障害者支援施設に入所するに当たり、所得を確認する目的で通帳の写しの提出を受けた。
but
所得に係る情報以外に、出金や残高に係る情報を知るために通帳の写しを利用することは、個人情報保護法の規定を踏まえると、当初の利用目的達成に必要な範囲を超え、かつ、その利用目的と合理的関連性を有するものではない場合には、法益侵害の予見可能性及び結果回避可能性が存在する必要がある。
国賠法上そのような利用を怠ることが違法と評価されるためには、
これらに加え、緊急に出金や残高に係る情報を知るために通帳の写しを利用することが求められる状況が必要で、
しかも、そのことが前記担当者に明白でなければならない。
本件ではこれらの要件が認められない⇒国賠法上違法ではない。
◎ Yの職員は、その後、通帳の写しを確認して、Aが継続的に多額の出金をしていることを確認⇒このまま放置すればXの財産が散逸する危険が現実に差し迫っている状況にあったことを認識するに至った。
このような状況下で実効性を持って即座に対処することができる措置として、
Xに対し、出金状況及び残額を伝え、口座の管理についての意向を確認し、銀行に依頼して口座からの出金を停止できる旨を教示する措置を講じることが考えられる。
①経済的虐待の継続によるXの損害拡大の防止を期待できるのはYの担当者のみ
②前記措置を講じることにより、職務遂行上、大きな負担が生じるわけではなく、Xの被害拡大を防止することも可能で、その弊害も極めて限定的
⇒
Yの担当者には前記措置を講じる義務があったにもかかわらず、これを怠ったといえ、国賠法上違法。
判例時報2434
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