被相続人に関する情報と法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」
大阪地裁R1.6.5
<事案>
X1、X2は、国に対して当該各父の石綿による健康被害に係る国家賠償請求訴訟を提起し、和解により賠償金の支払を受けることを検討するために、
兵庫県労働局長に対し、当該各父にの死亡に係るそれぞれの母の遺族給付等に関する各調査結果復命書等の情報(「本件各情報」)の開示請求
⇒
兵庫労働局長は、それぞれ開示請求人が開示請求権を有していない旨の理由により、本件各情報を開示しない旨の決定(「本件不開示決定」)。
⇒
Xらが、本件各情報は行政個人情報保護法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」に当たるから、本件各不開示決定はいずれも違法であると主張し、本件各不開示決定の取消しを求めた。
<判決>
● 本件各不開示決定はいずれも違法であり取消しを免れない⇒Xらの請求を認容。
● 行政個人情報保護法の趣旨目的
⇒ある情報が特定の個人に関するものとして同法12条1項にいう「自己を本人とする保有個人情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべき。 (最高裁H31.3.18)
● 石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の労働者が石綿の粉じんにばく露したことにより石綿肺等の石綿関連疾患にり患した場合における国の賠償責任について判示した最高裁H26.10.9を受けて、国は、石綿工場の元労働者やその遺族が国に対して訴訟を提起し、一定の要件(①一定期間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと、②その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと、③提訴の時期が損害賠償請求権の範囲内であること)を満たすことが確認された場合には、訴訟上の和解に応じて損害賠償金を支払うこととした(「本件救済枠組み」)。
本件救済枠組みでは、石綿工場の元労働者のみならず、その遺族(原則として法廷相続人)が当該元労働者の国に対する石綿による健康被害に係る損害賠償請求権の権利者となることが制度的に予定されている。
そうであるところ、
<事案>
X1、X2は、国に対して当該各父の石綿による健康被害に係る国家賠償請求訴訟を提起し、和解により賠償金の支払を受けることを検討するために、
兵庫県労働局長に対し、当該各父にの死亡に係るそれぞれの母の遺族給付等に関する各調査結果復命書等の情報(「本件各情報」)の開示請求
⇒
兵庫労働局長は、それぞれ開示請求人が開示請求権を有していない旨の理由により、本件各情報を開示しない旨の決定(「本件不開示決定」)。
⇒
Xらが、本件各情報は行政個人情報保護法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」に当たるから、本件各不開示決定はいずれも違法であると主張し、本件各不開示決定の取消しを求めた。
<判決>
● 本件各不開示決定はいずれも違法であり取消しを免れない⇒Xらの請求を認容。
● 行政個人情報保護法の趣旨目的
⇒ある情報が特定の個人に関するものとして同法12条1項にいう「自己を本人とする保有個人情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべき。 (最高裁H31.3.18)
● 石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の労働者が石綿の粉じんにばく露したことにより石綿肺等の石綿関連疾患にり患した場合における国の賠償責任について判示した最高裁H26.10.9を受けて、国は、石綿工場の元労働者やその遺族が国に対して訴訟を提起し、一定の要件(①一定期間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと、②その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと、③提訴の時期が損害賠償請求権の範囲内であること)を満たすことが確認された場合には、訴訟上の和解に応じて損害賠償金を支払うこととした(「本件救済枠組み」)。
本件救済枠組みでは、石綿工場の元労働者のみならず、その遺族(原則として法廷相続人)が当該元労働者の国に対する石綿による健康被害に係る損害賠償請求権の権利者となることが制度的に予定されている。
そうであるところ、
X1はP2の法廷相続人、
X2はP4の法定相続人
であり、
本件各情報には、
(1)P2及びP4の就労状況に関する情報、
すなわち、前記①の期間内にに、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したか否かを直接的に示す情報、
(2)P2及びP4の病状に関する情報、すなわち前記②の要件を満たす健康被害を被ったか否かを直接的に示す情報が含まれている。
⇒
本件各情報は、X1がP2から相続し、X2がP4から相続した、Xらの財産である、P2及びP4の国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報という性質を有する。
⇒
本件各情報はXらの「自己を本人とする保有個人情報」に当たる。
<解説>
● 死者の情報が当該死者の遺族の情報にもなる場合とはどどのような場合か?
X2はP4の法定相続人
であり、
本件各情報には、
(1)P2及びP4の就労状況に関する情報、
すなわち、前記①の期間内にに、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したか否かを直接的に示す情報、
(2)P2及びP4の病状に関する情報、すなわち前記②の要件を満たす健康被害を被ったか否かを直接的に示す情報が含まれている。
⇒
本件各情報は、X1がP2から相続し、X2がP4から相続した、Xらの財産である、P2及びP4の国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報という性質を有する。
⇒
本件各情報はXらの「自己を本人とする保有個人情報」に当たる。
<解説>
● 死者の情報が当該死者の遺族の情報にもなる場合とはどどのような場合か?
● 裁判例
❶東京高裁H11.8.23:
自殺した市立中学校の生徒の父が、個人情報保護条例に基づいて、前記中学校が前記生徒の死について他の生徒に書かせた作文の開示を請求。
親権者であった者が死亡した未成年の子どもの個人情報の開示を求めているという場合については、社会通念上、この子どもに関する個人情報を請求者自身の個人情報と同視し得るものとする余地もある
⇒父に前記生徒に関する個人情報の開示を請求する資格が認められる。
❷名古屋高裁H16.4.19:
母に係る市民病院の診療記録について、その死後に情報公開条例に基づく情報公開請求をした事案で、
①死者はプライバシーの権利又は法的利益を享受する法的地位を有しない⇒そのプライバシーの保護に配慮する必要はない
②母の死亡の原因によって、その相続人である開示請求者が債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得することになるが、前記診療記録には前記損害賠償請求権の存否に密接に関連する情報が記録されていること等
⇒前記診療記録が社会通念上開示請求者自身の個人識別情報にも該当する。
❸大阪高裁H25.10.25:
死亡した妹の「変死体等取扱報告」に記載された情報について、個人情報保護条例に基づいて開示を請求した事案において、
①死者はプライバシーの権利又は法的利益を享受する法的地位を有しない⇒個人情報に係る当該個人が死亡した場合にjは、原則として、死亡した当該個人についてプライバシーの保護を配慮する必要はない。
②死者の個人情報で、死者自身が「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをも含む」情報は、当該死者自身が相続人ら承継人との間の具体的関係に照らして「知られたくない」と考えるかどうかを通常は問題とする余地がない
⇒類型的に、開示請求者が相続人であれば、特段の事情がない限り、当該死者の個人情報は、開示請求者本人のものと同視してよい。
判例時報2431
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
- 懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)(2023.05.29)
- 警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案(2023.05.28)
- 食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案 (過失あり)(2023.05.28)
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント