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2020年3月22日 (日)

鑑定の評価について、原審の手続きに審理不尽があるとされた事案

東京高裁H29.11.2    
 
<判断>
●原審としては、A鑑定(Aが作成した鑑定の経緯と結果を記載した書面は、原審においては、A証言により部分的に引用されたにすぎないが、控訴審においては、書面全体が証拠採用されたものと思われる。)が採用した異同識別法の科学的原理やその理論的正当性を更に解明するとともに、A鑑定の証拠価値やA証言の信用性を判断することが可能となるよう、A鑑定の正確性やこれを裏付ける事情等を明らかにするため、検察官に対してこれらの点に関して釈明を求めたり、必要な証拠調べを実施したりするなど相応の措置を取るべきであった
but
それらの措置をとらずにA証言を採証した原審の手続には、審理不尽の違法がある
⇒原判決を破棄して原裁判所に差し戻すのが相当。

●原判決の認定判断におけるA鑑定及びA証言の位置づけ:
A鑑定及びA証言は、原判決において、防犯カメラに映った人物の同一性を裏付ける証拠として採用されているほか、
原判決も自認する・・・とおり、被告人と犯人の同一性の認定に当たり、最も重要な証拠であると評価されている。 
A鑑定及びA証言にそのような証拠価値を認めるについては、A鑑定の科学的原理やその理論的正当性を解明するとともに、A鑑定の証拠価値やA証言の信用性を判断することが可能となるよう、A鑑定の正確性や、これを裏付ける事情等を明らかにすることが必要不可欠

●A鑑定で用いられた画像について、鑑定資料としての的確性に問題とすべき点はない。
検討の対象とすべきなのは、A鑑定が、異同識別の目的で、このような客観的な画像データをどのような方法によって評価して異同識別の結論を得ているかという点
・・・鑑定資料は客観的なデータなのであるから、前記のような分析・評価において、誰が行っても同一の結果がもたらされるような客観的な分析方法(結果の正しさについて検証可能な分析方法)が採用されており、かつ、そのような方法により得られた分析結果についての評価方法が、主観的なものではなく、客観的にみて信頼できるということになれば、そこで用いられた分析方法・評価方法は、客観性・信頼性を備えていることになろう・・・
 
<解説>
画像識別鑑定の信頼性については、つとに「同一である」といった識別力の評価については慎重な検討が求められるなどを指摘されてきた。 
本判決は、「司法研修所編・科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方7」が科学的証拠の限界において論述した部分において、中谷宇吉郎・科学の方法等を参照しつつ、科学的かどうかを考える上では「再現可能性」が本質的な要素となっていると指摘しているのと同様の立場に立った上で、A鑑定を分析したものとであるとの評価が可能。
判例時報2430

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