違法収集証拠として尿の鑑定書等の証拠能力が否定された事案
大阪高裁H30.8.30
<主張>
弁護人は、尿鑑定書等の証拠能力を否定すべき警察官の捜査の違法として
❶K1らが所持品の返還を拒否したこと、
❷K2らが多数で本件建物まで被告人に追随し、被告人の名誉を害した
❸K2らが、管理人の許可なく本件建物に大勢で立ち入り、被告人の居室を確認した後も留まり続けた
❹K2らが、物理的有形力を行使し、被告人の意思を制圧してドアを閉めることを断念させたこと
を主張。
<原審>
●
❶は職務質問に附随する措置として、
❷は任意捜査として
適法。
❸は、管理者の承諾を得ることなく共用部分に立ち入った⇒違法
❹は、約10分間、有形力を行使しつつ被告人と押し問答をしたことにより、被告人らの住人の住居の平穏を害した⇒③の違法の程度を強める。
● but
①覚せい剤使用の相応にj高度が嫌疑があり、既に請求手続に入っていた強制採尿令状の執行のために、本件建物内に立ち入って被告人の居室や所在を把握しておく必要性が高かった
②警察官らに令状主義潜脱の意図は見られない、
③警察官らは、被告人と共に無施錠のドアから共用部分に入ったにとどまり、管理人不在時の立入禁止を明確に認識していたとは認められない
⇒
違法の重大性を否定して尿鑑定書等の証拠能力を認めた。
<判断>
●
❶❷について原判断を是認。
❸❹については、違法な強制処分に当たり、その違法は重大
違法捜査抑制の見地からも、尿鑑定書等の証拠能力を否定すべき。⇒
●
❸の本件建物への立入り:
共用部分は住人の居住スペースの延長で、住居に準ずる私的領域の性質を有する空間⇒管理人不在の間に共用部分に立ち入る行為は、現判決が認めた管理権侵害にとどまらず、被告人ら住人のプライバシーを侵害するもの。
警察官らは、被告人や住人らに断りもなく、大勢で本件建物に立ち入っており、建造物侵入に問われかねない行為。
<主張>
弁護人は、尿鑑定書等の証拠能力を否定すべき警察官の捜査の違法として
❶K1らが所持品の返還を拒否したこと、
❷K2らが多数で本件建物まで被告人に追随し、被告人の名誉を害した
❸K2らが、管理人の許可なく本件建物に大勢で立ち入り、被告人の居室を確認した後も留まり続けた
❹K2らが、物理的有形力を行使し、被告人の意思を制圧してドアを閉めることを断念させたこと
を主張。
<原審>
●
❶は職務質問に附随する措置として、
❷は任意捜査として
適法。
❸は、管理者の承諾を得ることなく共用部分に立ち入った⇒違法
❹は、約10分間、有形力を行使しつつ被告人と押し問答をしたことにより、被告人らの住人の住居の平穏を害した⇒③の違法の程度を強める。
● but
①覚せい剤使用の相応にj高度が嫌疑があり、既に請求手続に入っていた強制採尿令状の執行のために、本件建物内に立ち入って被告人の居室や所在を把握しておく必要性が高かった
②警察官らに令状主義潜脱の意図は見られない、
③警察官らは、被告人と共に無施錠のドアから共用部分に入ったにとどまり、管理人不在時の立入禁止を明確に認識していたとは認められない
⇒
違法の重大性を否定して尿鑑定書等の証拠能力を認めた。
<判断>
●
❶❷について原判断を是認。
❸❹については、違法な強制処分に当たり、その違法は重大
違法捜査抑制の見地からも、尿鑑定書等の証拠能力を否定すべき。⇒
●
❸の本件建物への立入り:
共用部分は住人の居住スペースの延長で、住居に準ずる私的領域の性質を有する空間⇒管理人不在の間に共用部分に立ち入る行為は、現判決が認めた管理権侵害にとどまらず、被告人ら住人のプライバシーを侵害するもの。
警察官らは、被告人や住人らに断りもなく、大勢で本件建物に立ち入っており、建造物侵入に問われかねない行為。
❹の被告人に自室ドアを閉めさせなかった行為:
①被告人が明確かつ強固に説得を拒んだ後も、約10分間押し問答を続け、ドアを手足で押さえる有形力を行使し、預かっている所持品の状態を終始確認してもらうなどと詭弁を繰り返して、ドアを開けさせることに固執⇒許容される説得の域を超えている。
②被告人が傘をドアに差し入れたのも、そのような状況に追い込まれたから⇒承諾があったとは到底いえず、警察官らの行為は被告人の意思を制圧するもの。
③ドアを閉めさせないようにしておく必要性・緊急性もない
⇒
❹の行為は、何らの必要性・緊急性もないのに、被告人の意思を制圧して、住居についてのプライバシーを侵害したものであり、住居そのものへの侵入と比肩するほどの違法性がある。
⇒
❸❹の行為は、令状なくしては許されない強制処分に当たり、違法。
①警察官らは、被告人から立ち入りに疑義を呈されながら、何ら再考の姿勢を示すことなく違法行為を継続し、単に令状の執行を容易にするため、被告人の意思を制圧して自室のドアを閉めさせず、令状発付までの約1時間半、本件建物内に留まって被告人の居室内の様子をうかがい、被告人の住居についてのプライバシーを大きく侵害している。
②住居についてのプライバシーの重要性や、警察官らの無配慮な態度等⇒その違法は重大。
③被告人の尿はこの違法行為を直接利用して得られたものであり、同行為は尿の押収を目的としたものであって、このような違法な手続により押収された尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することは、その違法が警察官らの確信的な侵害行為によってもたらされた⇒違法捜査抑制の見地からも相当ではない。
<解説>
●
❸について:
本件建物は管理人が不在の夜間・早朝は外部者の立入りが禁止されていた
⇒共用部分であっても、管理者の承諾なく立ち入ることは管理権者の管理権を侵害
⇒憲法35条、刑訴法197条1項ただし書により、令状その他特別の法的根拠がなければ許されない強制処分の典型。
本判決:
本件建物の共用部分は住人の住居に準ずる私的領域⇒❸の立入りは被告人を含む住人のプライバシーをも侵害したもの⇒原判決よりも違法性を重く評価。
⇒
❸❹の行為は、令状なくしては許されない強制処分に当たり、違法。
①警察官らは、被告人から立ち入りに疑義を呈されながら、何ら再考の姿勢を示すことなく違法行為を継続し、単に令状の執行を容易にするため、被告人の意思を制圧して自室のドアを閉めさせず、令状発付までの約1時間半、本件建物内に留まって被告人の居室内の様子をうかがい、被告人の住居についてのプライバシーを大きく侵害している。
②住居についてのプライバシーの重要性や、警察官らの無配慮な態度等⇒その違法は重大。
③被告人の尿はこの違法行為を直接利用して得られたものであり、同行為は尿の押収を目的としたものであって、このような違法な手続により押収された尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することは、その違法が警察官らの確信的な侵害行為によってもたらされた⇒違法捜査抑制の見地からも相当ではない。
<解説>
●
❸について:
本件建物は管理人が不在の夜間・早朝は外部者の立入りが禁止されていた
⇒共用部分であっても、管理者の承諾なく立ち入ることは管理権者の管理権を侵害
⇒憲法35条、刑訴法197条1項ただし書により、令状その他特別の法的根拠がなければ許されない強制処分の典型。
本判決:
本件建物の共用部分は住人の住居に準ずる私的領域⇒❸の立入りは被告人を含む住人のプライバシーをも侵害したもの⇒原判決よりも違法性を重く評価。
GPS捜査に関する最高裁H29.3.15:
この規定(憲法35条)の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれる
~GPS捜査が秘かにプライバシーを侵害することを可能にする強制処分であると判示。
●
❹について:
強制処分の意義を「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為」とした最高裁に従い、
自室のドアを閉めさせないかった行為等は、被告人の意思を制圧して、住居についてのプライバシーを侵害した強制処分に当たると認めた。
❹について:
強制処分の意義を「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為」とした最高裁に従い、
自室のドアを閉めさせないかった行為等は、被告人の意思を制圧して、住居についてのプライバシーを侵害した強制処分に当たると認めた。
❹の違法判断の中で、行為の必要性・緊急性がなかったことに言及。
but
ある捜査方法が、相手の意思を制圧して重要な法益を侵害するものである限り、必要性や緊急性があっても、それはあくまで強制処分であって、無令状で行なえば違法。
⇒必要性・緊急性の点は違法の重大性の問題。
but
ある捜査方法が、相手の意思を制圧して重要な法益を侵害するものである限り、必要性や緊急性があっても、それはあくまで強制処分であって、無令状で行なえば違法。
⇒必要性・緊急性の点は違法の重大性の問題。
判例時報2430
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