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2020年3月18日 (水)

障害基礎年金等の支給停止処分・支給停止を解除しない処分が理由提示の要件を欠き、違法とされた事案

大阪地裁H31.4.11    
 
<事案>
(1)事案:
原告らが、いずれも、I型糖尿病にり患し、国年法30条2項による委任を受けた国年法施行令別表の定める障害等級2級に該当する程度の傷害の状態にあるとして障害基礎年金の裁定を受けてこれを受給⇒厚生労働大臣から、国年法36条2項本文の規定に基づく障害基礎年金の支給停止処分

本件各支給停止処分は、
①行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠くとともに、
②国年法36条2項本文の事由(支給停止事由)を欠く
から違法⇒その取消しを求める。 

(2)事案:
支給停止処分後、厚生労働大臣に対し、国年法施行規則35条1項本文に基づき、支給停止の解除の申請をしたが、支給停止を解除しない旨の処分

本件不解除処分は、
①行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠くとともに、
②支給停止事由を欠く
から違法

その取消し及び行訴法3条6項2号に基づき支給停止を解除する処分をすべき旨を命ずること(同号所定の義務付け)を求める。 
 
<記載>
各支給停止の通知書には、処分の理由として、
「07障害の程度が厚生年金法(旧三公社の共済年金の受給権者にあっては国家公務員共済組合法)施行令に定める障害等級の3級の状態に該当したため、障害基礎年金の支給を停止しました。」
不解除処分の通知書には、処分の理由として、
「請求のあった傷病については、国民年金法施行令別表(障害年金1級、2級の障害の程度を定めた表)に定める程度に該当していないため。」

◆(1)事案
 
<判断>
行手法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たもの。
同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべき。
(最高裁H23.6.7) 

● 障害基礎年金の給付を受ける権利について裁定を受けた受給権者は、当該障害基礎年金が支給されることを前提として生活設計を立てることになる⇒支給停止処分は、このような受給権者の生活設計を崩し、生活の安定を損なわせる重大な不利益処分。 

国年法36条2項本文
障がい等級の各級の障害について定めた国年法施行令別表
2級15号において「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しいい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」を挙げるなどするにとどまっている⇒その内容は抽象的

支給停止処分についての基準である国民年金・厚生年金障害認定基準のうちの糖尿病を含む代謝疾患による障害の程度に関する内容:
認定基準はごく抽象的なものであり、認定要領も、障害等級3級と認定する場合について具体的に定める一方で、どのような場合を1級又は2級に該当する障害の状態であると認定するかについては、「なお、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定する。」として、総合評価の対象となる事情を列挙したものであって、これらの事情相互の関係や重み付け等を定めたものではなく、抽象的。

糖尿病による障害を理由とする障害基礎年金の支給停止処分については、いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して当該処分がされたのかを、当該処分の相手方においてその理由の提示の内容自体から了知し得るものとする必要性が高い


①本件各支給停止処分の通知書における処分の理由の記載は、単に原告ら8名の各障害の程度が1級及び2級には該当しないとの結論のみを示したものと評されてもやむを得ないほど簡素なもの。
②厚生労働大臣が、原告ら8名に対し、約2~16年の間、障害基礎年金を継続的に支給していたにもかかわらず、一転して本件各支給停止処分を行ったという経緯等

前記のような処分の理由の提示では、・・・2級に該当する程度の障害の状態に該当すると認定しなかった理由は何ら明らかにされておらず、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するという趣旨を全うしていない。
・・・原告ら8名が日本年金機構に提出した障害の現状に関する医師の診断書(障害状態確認届)に記載された事実関係を前提としてされたものであるか否かすら認識することができない
⇒本件各支給停止処分に対して不服を申し立てた場合、前記診断書に記載された事実関係のうちのどの部分や範囲が争点となるのか、また、当該事実関係は争点とはならずこれを前提とした上で、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等に関する総合評価の手法や判断内容等が争点となるのか等の見通しを立てることは困難
⇒不服申立ての便宜を図るという趣旨に照らしても、不十分な理由の提示。

本件各支給停止処分における理由の提示については、いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して支給停止処分がされたのかを、当該処分の相手方たる原告ら8名においてその理由の提示の内容自体から了知し得るものであるということはできない⇒行手法14条1項本文の定める理由提示義務に違反する。
 
<解説> 
年金の額を改定(減額)する旨の処分をするに当たり、その通知書に
「変更理由 障害の程度が変わったため、年金額を変更しました。」「障害の等級 2級16号」と記載したという事案において、
この記載を見れば、処分時において1級相当とは認められず、2級相当と認定されために年金額が変更されることとなったことは容易に理解できる⇒理由の提示を欠くとはいえない旨判示した東京高裁H25.3.28がある。 
 
◆(2)事案
 
<判断>
●上記同旨判断⇒本件不解除処分は、その余の点について判断するまでもなく、違法であって取消を免れない。 

●支給停止を解除する旨の処分の義務付けの訴え 
本件不解除処分は取り消されるべきもの
⇒前記義務付けの訴えは適法(行訴訟37条の3第1項2号)とともに本案要件の一部(同条5項所定の「同条1項各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ」るとの要件)を満たす。
but
①前記義務付けの訴えに係る請求を認容すべきか否かを判断するためには、厚生労働大臣が支給停止を解除する処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかと認められ又は支給停止を解除する処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるか否かを判断することを要する(同条5項)。
②この点については、原告Iの障害の状態が2級に該当するか否かを審理判断する必要があるところ、・・・・その審理には相当の期間を要するものと考えられる。
③本件不解除処分の取消判決が確定すれば、厚生労働大臣において、行手法8条1項本文の定める理由の提示内容の検討等をする過程で、原告Iに対する支給停止の解除の適否自体についても再度検討することも考えられる⇒現時点で本件不解除処分の取消しの訴えについて一部判決をすることにより、原告I に関する最終的な紛争解決がもたらされる可能性も否定できない。

原告Iの訴えについては、行訴法37条の3第6項前段の規定により、本件不解除処分の取消しの訴えについてのみ請求認容の終局判決をすることが、より迅速な争訟の解決に資するものと認められる
 
<規定>
行訴法  第三七条の三
第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
2前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。
3第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。
一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え
4前項の規定により併合して提起された義務付けの訴え及び同項各号に定める訴えに係る弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。
6第四項の規定にかかわらず、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、第三項各号に定める訴えについてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、当該訴えについてのみ終局判決をすることができる。この場合において、裁判所は、当該訴えについてのみ終局判決をしたときは、当事者の意見を聴いて、当該訴えに係る訴訟手続が完結するまでの間、義務付けの訴えに係る訴訟手続を中止することができる。
判例時報2430

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