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2020年3月21日 (土)

じん肺管理区分4⇒胃がん併発⇒肺炎で死亡で業務起因性(否定)

福岡高裁R1.8.22    
 
<事案>
Aの妻であるBが、Aの死亡は業務上の事由(じん肺)によるもの⇒労災法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めた⇒処分行政庁がじん肺と死亡との間に相当因果関係がないとして不支給決定⇒Y(国)に対して当該処分の取消しを求めた。 
 
<判断>
じん肺や胃がんの状態についての検討

死亡に至る機序について、
①Aの全身状態が急激に悪化してC病院に入院するに至ったのは、
従前からのじん肺による肺機能の低下や体力減退に加齢的な要因も加わり、全身状態としては芳しくない状況にあったところ、胃がんからの大量の出血が発生したことによるものと推測
②出血があったと考えられる時期に急激な悪化が見られた

こうした複合的な要因の中でも、その全身状態の悪化に胃がんからの出血が寄与した割合が大きいことは明らか

肺炎発症はじん肺や胃がんと直接関連するものではなく、全身状態の悪化により易感染症が高まり、招来されたと考えられる、
②上記のように、全身状態の急激な悪化の主たる要因が胃がんからの出血

肺炎の発症についても、胃がんからの出血が最も大きく寄与していた。

入院後に全身状態が回復せずに肺炎が遷延したことについて、
もともとAの体力がじん肺によって著しく減退していたことも相当程度寄与していた
but
上記のように、胃がんからの出血により全身状態が急激に落ち込んだことの影響が大きく、
じん肺はそれを持ち直すことを阻害した背景的な要因として評価されるにとどまる

Aの死亡原因となった肺炎は、
胃がんからの多量の出血が主たる要因となった急激な全身状態の悪化により招来されたものであり、じん肺の影響がこれを上回るものであるとは認められない

Aの死亡とじん肺との間の相当因果関係を否定
 
<解説>
●労基法施行規則35条・別表第1の2第5号は「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法・・・に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則・・・第1条各号に掲げる疾病」を、業務上の疾病と規定。
じん肺り患者に併発した胃がんや肺炎は、じん肺法施行規則第1条各号に掲げられていない。 
●一般に、業務起因性(業務と傷病等との間の相当因果関係)の判断は、当該傷病等が当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるか否かによって判断するのが相当。

「業務に内在する危険の現実化」の有無は、業務上の有害因子がどの程度疾病の発症に寄与したかによって判断される。

危険責任の法理を出発点とし、業務に内在する危険の現実化を労災補償の根拠と捉える業務の原動力は、他の要因より相対的に有力な原因でなければならない
判例時報2430

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