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2020年3月 6日 (金)

東京都教育委員会によりエンカレッジスクールとして指定された高校の校長の懲戒免職処分に裁量権を逸脱した違法があるとは認められないとされた事案

東京地裁H30.5.15     
 
<判断>
●懲戒事由該当性 
・・・
Xの行為は、調査書、面接、小論文及び実施検査の結果による総合成績の順に決定される合格候補者につき、実施要領に定めのない本件チェック基準に基づく出願日から受験日当日までの面接外の状況を集約した記録を踏まえて、それによる総合成績の数値を差し引くなどしたという点において、実施要項の定めに反するものと認められる
懲戒事由該当性を肯定。
 
●本件処分についての都教委の裁量権の逸脱濫用の有無 
①Xは、関係法令等を遵守して公正・公平な入学者選抜を実施した上で合格者を決定するべき校長、入学者選抜を選考委員会の委員長という地位にありながら、本件高校の荒んだ状況を改善するには、関係法令等上の根拠がなくとも致し方ないとの考えに基づき、
実施要項に明確な根拠がないこと、あるいは少なくとも明確な根拠があるか否かの正式な確認ができていなことを認識しながら、実施要項などに沿って算出される総合成績の数値を校長であるXの裁量との理由でもって引き下げたというもので、関係法令等をないがしろにしたその態様は、重大かつ悪質と言わざるを得ない。
②Xのそのような行為の結果として、本来であれば本件高校に合格するはずであった実人数にして合計21名の受験生が学び直しの機会を奪われたという甚大な影響により、エンカレッジスクールの入学者選抜制度に対する公平・公正という観点での信頼を大きく損なうもの。

Xに特段の処分歴がないことを踏まえても、懲戒免職とした本件処分が、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したなどの違法があったということはできない。
 
<解説> 
●公務員に対する懲戒処分:
当該公務員に職務上の義務違反、その他公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁であるところ、
懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、
当該公務員の前記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するべきかを決定することができる。 

その判断は、前記のような広範な事情を総合的に考慮してされる

地方公務員につき地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、
平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の合理的裁量にゆだねられているというべきであり、
裁判所が当該処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をするべきであったかどうか、又はいかなる処分を選択するべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、
懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべき。
(最高裁)
 
●本判決:
前記判例に沿って、Xの行為の懲戒事由該当を踏まえた上で、
①エンカレッジスクールに指定された高校の入学者選抜に当たって、実施要領によって算出される総合成績の数値を、関係法令等上の根拠もないままに、校長であるXの裁量との理由でもって引き下げたその行為態様の重大性及び悪質性
②その行為によって本来合格すべき多くの受験生が不合格とされたことによる甚大な影響
③エンカレッジスクールの入学者選抜制度に対する公平・公正という観点での信頼が損なわれた

本件処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したとは認められないと判断。

判例時報2429

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