政務活動費等の使途基準の適合性が問題となった事案
静岡地裁H31.2.15
<事案>
静岡市の住民であるXらが、
同市の市議会議員団であるAが、
現在の同市に属する地区の出身で静岡茶の祖とされる聖一国師に関する小冊子を作成及び配布することを目的として、同市から交付を受けた政務調査費ないし政務活動費を違法に支出
⇒
同市に対してその支出額に相当する金員を損害賠償として支払い、又は不当利得として返還すべき義務を負うにもかかわらず、同市の執行機関であるY(静岡市長)は、その行使を怠っている
⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、Aに前記支出額に相当する金員及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するよう求めた住民訴訟。
<判断>
●静岡市の条例や規則等において、政務調査費の使途基準として、
「広報費」につき「調査研究活動、議会活動及び市の政策について住民に報告し、又は広報するために要する経費」
「広報広聴費」につき「政務活動及び市政について住民に報告するために要する経費」
と定めている。
静岡市における政務調査費及び政務活動費(合わせて「政務活動費等」)の支出について、政務活動費等の交付を受けた会派又はその所属議員は、これを本件使途基準に合致する経費に充てるために支出しなければならず、
これに合致しない経費に充てるために支出した場合は、法律上の原因なく、静岡市の損失において利益を受けたことになる⇒これに相当する額を不当利得として返還すべき義務を負う。
政務活動費等の交付を受けた会派又はその所属議員が本件使途基準に適合しない使途に充てたことにつき故意又は過失がある場合には、静岡市に対し、これに相当する損害賠償義務を負う。
具体的な政務活動費等の支出が本件使途基準に合致するというためには、本件使途基準の文言や、支出の対象となる行為の客観的な目的や性質に照らして、当該行為と、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動ないし政務活動との間に合理的関連性が認められることに加え、
支出の要否及び支出額等の点については、会派又は所属議員に一定の裁量権があることを考慮した上で、政務活動費等として支出する必要性、相当性が認められることを要する。
本件冊子の作成の経緯や本件冊子の内容等
⇒
①Aの議員らによる聖一国師に関する調査研究の成果は、本件冊子に反映されている
②本件冊子は、Aが、静岡市の偉人である聖一国師について調査研究した事項を静岡市の住民に示すことを目的として作成されたもの
③関係法令等の文言に照らして、本件各支出のうち、前記の目的に沿う形で支出されたものについては、「住民に報告するために要する費用」として、「広報費」ないし「広報広聴費」に当たり、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を有する
⇒
これをもって、本件使途基準に反する支出ということはできない。
Aが各団体等を通じて静岡市の住民に配布したもの
~
前記の目的に沿うものとして、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を有する上、支出する必要性もある⇒本件使途基準に適合する支出。
but
Aが、直接に、福岡市や京都市等の市街団体へ配布するために本件冊子に係る政務活動費等を支出することは、市街団体に対し、静岡市を宣伝(PR)することを目的として本件冊子を配することを内容とする行為⇒同支出は、広報費のうちの住民に報告するために要する経費ないし広報広聴費に当たらないものと解するのが相当。
本件冊子を通して、聖一国師や静岡茶が静岡市の魅力として訴求力があるかどうかを調査研究すること自体については、一般論として、調査研究としての必要性・合理性を肯定し得る。
but
本件において、実際に、Aの議員らが、本件冊子を静岡市外に配布した後、配布先において、実際に、Aの議員らが、本件冊子を静岡市外に配布した後、配布先において何部配布され、どのような反応があったのか、本件冊子を通して静岡市の魅力がどの程度伝わったのかなどについて、具体的に調査を行っていたことw認めるに足りる証拠はない、。
⇒静岡市外へ配布するための本件冊子に係る支出が、政務活動費の使途基準のうちの「調査研究費」(議員の議会活動の基礎となる調査研究のための費用)に該当する支出として必要性・合理性があったということはできない。
⇒
Aが直接に静岡市外に配布したものと認められるものに係る支出については、政務活動費の使途基準に反する支出である。
判例時報2426
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