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2020年2月 5日 (水)

収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が不当利得返還義務を負わない場合

最高裁H30.11.16    
 
<争点>
収支報告書に記載された支出のうち一部は実際に存在しない架空のもの。
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本件会派の収支報告書上の支出総額が、政務活動費等の交付額を大きく上回っており、支出総額から架空のものとされた支出を差し引いても、なお支出総額が交付額を上回っていた⇒このような場合も不当利得が成立するか?
 
<判断>
政務活動等につき、具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費等を負う付すべきものとは定めておらず、年度ごとに行われる決定に基づき月ごとに一定額を交付し、年度ごとに収支報告を行うこととされ、
その返還に関して当該年度における交付額から使途基準に適合した支出の総額を控除して残余がある場合にこれを返還しなければならない旨の定めがある新旧条例に基づいて交付された政務活動費等について、
その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該年度において、収支報告書上の支出の総額から実際に存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は、県に対する不当利得返還義務を負わない。 

本件会派の本件各年度における各収支報告書上の支出の総額から本件各支出を控除した額は、それぞれの年度における政務活動費等の交付額を下回ることとはならない⇒本件会派が不当利得返還義務を負うものとはいえない。
 
<解説>
●政務活動費等に関する条例の定め 
政務活動費について、地自法は、わずかに、
①議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として政務活動費を交付することができ、その経費の範囲は条例で定めること、
②収入及び支出の報告書を議長に提出すること、
③議長は使途は透明性の確保に努めること
のみを定めており、
交付、収支報告、清算の具体的な手続は各地方公共団体の条例に委ねられている。

神奈川県の新旧条例:比較的オーソドックスなもの
年度ごとに行われる交付決定に基づいて、一定期間ごとに一定額を交付し、年度末に収支報告、清算を行った上で、交付額から適法な支出額を控除して残余がある場合に返還義務が生ずるというもの。

具体的な支出に対応させてその都度交付されるのではなく、いわゆる概算払い方式がとられている

●民法703条の不当利得返還請求権の成立要件:
①損失
②利得
③損失と利得の間の因果関係
④利得が法律上の原因に基づかないこと

政務活動費等法律上の根拠:
政務活動費等は、地自法及び条例上、その使途を限定して交付されるものであり、使途基準に適合する支出を行った結果残余が生じた場合には当然に返還すべき性質のもの

「交付を受けた政務活動費等のうち、使途基準に適合する支出に充てていない部分がある」場合には、その部分については、④法律上の原因に基づかない利得となろう

本件返還規定は、これを返還すべきことを明確にしたもの。
●所定の支出が実際には存在しないにもかかわらず架空の領収証を提出したような場合には、これが違法な支出のために政務活動費等を取得するものであり、そのように取得された政務活動費等は前記④法律上の原因に基づかない利得であるとの評価が可能であるか?
政務活動費等の交付にあたって具体的な使途を個別に特定することなく、概算払いをして、年度ごとにまとめて生産することにより透明性を確保⇒年度末に虚偽内容の領収証を提出したとしても、交付の段階で「架空の支出のために政務活動費等を取得した」と評価することは困難

●政務活動費等に関する条例に、本件返還規定のように残余について返還義務があることをいう規定とは別に、違法な支出が認められた場合等に返還義務を定める規程が存在する場合等には、異なる結論となる可能性は否定できない。 
判例時報2426

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