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2020年2月 8日 (土)

売上げの過大な不正計上や分配可能利益を超える剰余金の配当等と代表取締役の監視義務違反及び内部統制システム構築義務違反(いずれも否定)

東京地裁H30.3.29    
 
<事案>
学習塾の経営等を行うことを目的とする上場企業である株式会社A(「A社」)の株主であるXが、A社が平成21年2月期から平成25年2月期までの有価証券報告書等に売上げを過大に不正形状した虚偽記載があるとして金融庁長官から課徴金納付命令を受けた⇒A社の代表取締役を勤めていたYには本件不正会計等を防止するための監視義務及び内部統制システムを構築すべき義務を怠った善管注意義務違反・忠実義務違反並びに違法配当等に係る責任がある

Yに対し、
①会社法423条1項に基づき、前記課徴金の支払に係る損害及び違法配当等に係る支払額等の合計49億1237万4523円及び
②会社法462条1項に基づき、①の金額の一部42億3396万5000円並びにこれらに対する遅延損害金をA社に対して支払うよう求めた株主代表訴訟。 
 
<規定>
会社法 第四二三条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

会社法 第四六二条(剰余金の配当等に関する責任)
前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
・・・・
2前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。
 
<主張>
Yは本件不正会計やその兆候を認識しながら黙認⇒Yに監視義務違反があり、また、Yには内部統制システム構築義務違反がある 
 
<判断> 
●監視義務違反
本件不正会計より前の会計年度である、平成17年6月期、平成18年8月期(中間期)及び平成19年2月期について、当時の会計監査人であったD監査法人から学習塾の売上げの不正計上を指摘等されていた。
but
①Yは、平成16年頃から既存事業の経営をP3に、管理業務をP1にそれぞれ委ねて自身は新規事業の立ち上げに注力
②平成19年2月期の売上げ不正計上についてD監査法人から直接指摘を受け、慌てて事実関係確認のためにP3及びP1並びにブロック長から事情を聴取

Yが平成17年及び平成18年のD監査法人の指摘等を認識していたということはできない(これらについては、D監査法人からYには報告されていないと認定)。

その後、D監査法人に代わって会計監査人に就任したF監査法人は、本件不正会計の対象会計年度である平成21年2月期から平成24年2月期の監査に当たり、学習塾の売上げについてP3らに各教室の管理を徹底するよう指導するなどし、平成25年2月期の監査においては、売上計上を減額修正するよう指導。
but
Yは、平成20年4月以降P3に代表取締役社長の職を譲り、F監査法人からの前記指導等については、現場で教室運営や財務会計を担うP3及びP1が対応していた
Yが代表取締役であったことをもって直ちに本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたと認めることもできない

Yは、平成25年2月頃、売上の不適切な計上を告発する匿名の手紙を受領し、P1に調査を命じたことがあったが、P1は、P2に調査させた結果売上げの不適切計上の事実が確認されたにもかかわらずこれをYには報告せず、問題はなかった旨の虚偽の報告を行った。
同内部告発の事実をもってYが本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたと認めることもできない

Yが本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたにもかかわらずこれを黙認した旨のXの主張は、その前提を欠く
Yに監視義務違反があるとは言えない

●内部統制システム構築義務違反 
①Yは平成19年に売上の不正計上を知った直後から、事実確認のためP3らに対する事情聴取を実施し、不正計上に関与したブロック長を処分するとともに、P3に再発防止委員会を設置させた再発防止策を検討させた、
②同委員会の報告を受け、F監査法人等からの助言を受けて「G」と呼ばれる、売上計上の基礎となる授業の実施数を正確に管理集計するシステムを導入
③Gの導入後、平成19年の不正会計の手法(次期に実施する予定の授業の売上げを先取りして計上するなどの方法)を用いた売上げの不正計上はできなくなった
④本件不正会計は平成19年に発覚した不適切な会計処理とはまったく異なる要因に基づいて発生したもの

Gを導入した当時において、本件不正会計の手法を用いて不正会計が行われるということは通常想定されるものではなくYが導入したGは、平成19年の売上不正計上が発覚した当時に想定された不正行為を防止する程度に機能を有していた

①Yは平成19年の売上げ不正計上の発覚を受け、内部監査室の体制を強化して内部監査室長1名を配置
従業員に対する研修等において平成19年の件に言及
目安箱を設置して従業員の意見が直接Yに届くようにするなどの措置を採った
④A社においては平成19年以前から社外監査役による監査体制や文書の保存体制等が整備されていた
平成20年2月期以降、Yは本件不正会計の事実又はその兆候を知ることができず、前記体制をさらに強化すべき状態にあったとはいえない

Yの整備した内部統制システムは、A社の事業の内容、規模等に照らして、通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を具えていた
(尚、代表取締役の内部統制システム構築義務の具体的内容や義務違反の判断基準を示した最高裁H21.7.9(判事2055・147)の判断枠組みに拠って検討、判断)

Yに内部統制システム構築義務違反があったとするXの主張は採用することができない

● 会社法462条1項に基づく責任 
Yが上記の通り内部統制システムを整備したこと等の事実⇒Yは本件不正会計の事実を知らなかったというべき

A社においてはもともと
①公認会計士や税理士の資格を有する社外監査役3名を含む4名の監査役が選任されて監査にあたっていた
②Yは平成20年2月期から会計監査人となったF監査法人から監査に問題があるなどの報告を受けたことがなかった
A社の教室別経営分析会議においてYに報告された売上高等の数値は改ざんされたものであった
財務会計を含む管理業務をP1に委ねて新規事業の立ち上げに注力していたYが、監査役会や会計監査人の監査を経た財務諸表等に経理上の不正があることを発見することは困難であった。
Yには本件剰余金の配当等が分配可能額を超えることについて注意義務違反はなかった

「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(会社法462条2項)と言えるから、会社法462条1項の責任は認められない。


Y:本案前の抗弁として、
Xが、本件不正会計が報道され株価が急落した後にA社の株式100株(最小単位)を取得⇒本件訴えは「当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合」(会社法847条1項ただし書)に該当すると主張
but
同主張は理由がないとして退けた。
判例時報2426

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