生活保護を受け、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた⇒精神障害者保健福祉手帳が更新されなかった⇒保護費の返還処分が違法とされ、国賠請求が一部認容された事案
東京地裁H31.4.17
生活保護を受け、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた⇒精神障害者保健福祉手帳が更新されなかった⇒保護費の返還処分が違法とされ、国賠請求が一部認容された事案
<事案>
Y1(東久留米市)において生活保護を受けていたXは、平成19年から精神障害者保健福祉手帳の更新を受け、生活扶助について障害者加算の認定。
but
平成27年7月以降、精神障害者保健福祉手帳の更新を受けていなかった。
福祉事務所長は、平成28年9月、Xの精神障碍者保健福祉手帳の有効期限が経過していたことが発覚⇒
①同年10月以降の障害者加算を削除する変更決定をするとともに、
②生活保護法63条に基づき、精神障碍者保健福祉手帳の有効期限が切れた以降支払われていた障害者加算の全額を返還すべき額とする返還金額の決定処分。
⇒
Xが
①本件加算削除処分の無効確認及び本件返還処分の取消しを求めるとともに、
②本件加算削除決定により支給されるべきであった障害者加算の額の損害及び精神的損害を受けたとして、Y1及びY1に対して助言・指導を行う立場にあるY2(東京都)に対し、国賠請求の支払を求めた。
<判断>
●生活保護法63条は、「資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき」に該当する場合に、被保護者がその受けた保護金品に相当する範囲内において返還すべきことを定める。
障害者加算は障害により最低生活を営むのにより多くの費用を必要とする障碍者に対し、そのような特別の需要に着目して基準生活費に上積みする制度であり、その要件に該当しない被保護者に対し、障碍者加算を支給した場合には、障碍者加算の額に相当する部分については、資力があるにもかかわらず、誤って保護を実施したことになる⇒費用返還の対象となる。
●従前から障害者加算を受けていた者に対し、障碍者加算の要件該当性が失われたとして生活保護法63条に基づき、支給されていた障害者加算の額の返還を求めることは、実質的には遡って保護の変更の効果を生じさせるもの
⇒
職権による保護の変更(生活保護法25条2項)及び不利益変更の禁止(同法56条)の規定に照らして、障碍者加算の額の返還請求が認められるためには、積極的に障害者加算の要件該当性が失われたことを基礎付ける事由の損害が認められる必要があり、そのような事由が存在することの立証責任は保護の実施機関が負う。
Xの精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったことは、その精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったことを一応推認させる事実。
but
①従前は精神障碍者保健福祉手帳の更新が続いていたこと
②手帳を更新できなかったのは医師の診断があったからではなく医師との関係が良好でなかったためであること
③Xはその後も断続的に通院していたこと
⇒
精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったという一事をもって、Xの精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったと推認することはできない。
⇒本件返還処分の違法性を肯定。
⇒
職権による保護の変更(生活保護法25条2項)及び不利益変更の禁止(同法56条)の規定に照らして、障碍者加算の額の返還請求が認められるためには、積極的に障害者加算の要件該当性が失われたことを基礎付ける事由の損害が認められる必要があり、そのような事由が存在することの立証責任は保護の実施機関が負う。
Xの精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったことは、その精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったことを一応推認させる事実。
but
①従前は精神障碍者保健福祉手帳の更新が続いていたこと
②手帳を更新できなかったのは医師の診断があったからではなく医師との関係が良好でなかったためであること
③Xはその後も断続的に通院していたこと
⇒
精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったという一事をもって、Xの精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったと推認することはできない。
⇒本件返還処分の違法性を肯定。
●本件返還処分の違法性判断と同様の理由で、本件加算削除処分を違法とした。
福祉事務所所長は、Xが精神障碍者保健福祉手帳を更新できなかった理由などを認識していた⇒必要な調査を行うなどのXの障害の程度の把握に努めるべき義務があったというべきであり、これらの義務を尽くしたとはいえない。
⇒国賠法上の違法性及び福祉事務所長の過失を認めた。
本件加算削除処分の無効確認の訴えについては、行訴法36条の要件を満たさない⇒却下。
XのY2(東京都)に対する損害賠償請求については、Y2の職員の回答とXの損害との間に相当因果関係は認められないとして否定。
慰謝料の請求:
本件国賠請求が、実質的には、障碍者加算の額の支給という金銭債務の履行遅滞の責任を問うものであると解される⇒その障害者加算の額を超える損害の賠償を請求することはできない。(最高裁昭和48.10.11)
福祉事務所所長は、Xが精神障碍者保健福祉手帳を更新できなかった理由などを認識していた⇒必要な調査を行うなどのXの障害の程度の把握に努めるべき義務があったというべきであり、これらの義務を尽くしたとはいえない。
⇒国賠法上の違法性及び福祉事務所長の過失を認めた。
本件加算削除処分の無効確認の訴えについては、行訴法36条の要件を満たさない⇒却下。
XのY2(東京都)に対する損害賠償請求については、Y2の職員の回答とXの損害との間に相当因果関係は認められないとして否定。
慰謝料の請求:
本件国賠請求が、実質的には、障碍者加算の額の支給という金銭債務の履行遅滞の責任を問うものであると解される⇒その障害者加算の額を超える損害の賠償を請求することはできない。(最高裁昭和48.10.11)
判例時報2427
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