« 建築士の過失が否定された事例 | トップページ | 国家公務員の(発注停止を示唆した)圧力について国賠請求が認められた事案 »

2020年2月22日 (土)

平成26年改正前の特許法の下において、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益、進歩性の判断における引用発明の認定等

知財高裁H30.4.13    
 
<事案>
発明の名称を「ピリミジン誘導体」とする特許(「本件特許」)の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟。 
 
<争点>
訴えの利益の有無(=本件の訴えの利益は、本件特許に係る特許権の存続期間の経過により、失われているか)
進歩性の有無(=本件特許は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものといえるか)
 
<判断・解説>

訴えの利益の存在を認めた上、
本件特許が進歩性の要件を充足することを認め
原告らの請求をいずれも棄却。 
 
●特許権消滅後の審決取消訴訟の訴えの利益 
審決取消訴訟の原告適格は、審判の当事者、参加人又は審判に参加を申請してその申請を拒否された者に限られる(特許法178条1項)が、
特許無効審判における「当事者」たり得る請求人適格については、特許異議申立制度の変遷に伴い、変遷してきた。
現行法である昭和34年特許法でも、特許無効審判の請求人適格は、条文上明記されず。but一定の限定があるものと解されていた。

平成15年改正:
付与後異議制度を廃止し、特許無効審判制度に統合するに当たり、
特許無効審判制度の請求人適格は、権利帰属に関する無効理由につき利害関係人であることが必要であるとされるとともに、
それ以外の無効理由つき「何人も」に拡大された(123条2項)。

平成26年改正:
付与後異議制度が再度創設されるに当たり、異議申立制度の申立人適格は「何人も」、
特許無効審判制度の請求人適格は「利害関係人」と明記(123条2項)。
 
◎本判決:
特許権消滅後の審決取消訴訟の訴えの利益について、
平成26年改正前の特許法が適用される場合においては、
特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は、特許権消滅後であっても、特許権の存続期間中にされた行為について、何人に対しても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り、失われることはない
という一般論を判示。 
傍論として、平成26年法改正後の特許法が適用される場合においては、
訴えの利益が消滅したというためには、・・・特許権の存続期間が満了し、かつ、特許権の存続期間中にされた行為について、原告に対し、損害賠償又は不当利得返還の請求が行なわれたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要

訴えの利益は職権調査事項であるところ、裁判所は、その審理のために、当事者に対して、例えば、自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき、現に紛争が生じていることや、今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張するよう求めることとなる。
but
このような主張には、自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構成を有していること等、自己に不利益になる可能性がある事実の主張が含まれ得るのであって、このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは相当ではない。

その前提として、特許法において、特許無効審判は、特許権の存続期間満了後も請求することができる(法123条3項)
⇒特許権の存続期間が満了したからといって、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益も消滅するものではないと指摘。

本判決の射程は、特許無効審判請求の審決に対する審決決定訴訟、しかも、特許無効審判請求を不成立とした審決に対するものに限られる
 
◎本判決は、平成26年改正の前後で訴えの利益の消滅を認める場合の判断要素の1つを「何人」から「原告」に変えている。

平成26年改正により、特許無効審判制度が、万人の利益を保護するための制度から、利害関係人の利益を保護するための制度に変わったことを受け、その審決の取消訴訟における訴えの利益についても、同様に解したもの。
 
●進歩性の判断基準 
◎ 進歩性の判断方法:
進歩性に係る要件が認められるかどうかは、
特許請求の範囲に基づいて特許出願に係る発明(本願発明)を認定した上で、特許法29条1項各号所定の発明と対比し、一致する点及び相違する点を認定し、
相違する点が存する場合には、当業者が、出願時(又は優先権主張日)の技術水準に基づいて当該相違点に対応する本願発明を容易に想到することができたかどうかを判断。

その上で、引用発明の認定につき、
進歩性の判断に際し、本願発明と対比すべき特許法29条1項各号所定の発明(本件引用発明)は、通常、本願発明と技術分野が関連し、当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されるところ、
同条1項3号の「刊行物に記載された発明」については、当業者が、出願時(又は優先権主張日)の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきもの⇒当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない

引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であって、当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され、当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には、特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り、当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず、これを引用発明と認定することはできない。

この理は、本願発明と引用発明との間の相違点に対応する他の同条1項3号所定の「刊行物に記載された発明」(副引用発明)があり、主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合において、刊行物から副引用発明を認定するときも、同様。
 
◎進歩性の判断要素とその立証責任につき:
主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができるかどうかを判断する場合には、
①主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆、技術分野の関連性、課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して、主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断
②適用を阻害する要因の要素の有無、予測できない顕著な効果の有無等を併せて考慮して判断することとなる。

特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては、
上記①については、特許の無効を主張する者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取消訴訟においては、特許庁長官)が、
上記②については、特許権者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟において、特許出願人)が、
それぞれそれらがあることを基礎付ける事実を主張、立証する必要がある。
 
◎本判決:
一般論として、刊行物に化合物が一般式の形式で記載されている場合における引用発明の認定につき判示。 
本件のような事案において進歩性を肯定するには、
①刊行物から引用発明が認定できないと解する
②刊行物から引用発明を認定できるが、これを発明の出発点とすることができた合理的な理由がなければならず、これがないと解する
③引用発明の適格性は認めるが、組合せの動機付けがないと解する
といった場合が挙げられる。

本判決:
ある技術的思想が、当業者が認識する範囲に属するといえる刊行物に抽象的に記載されていても、それだけでは引用発明として認定することはできず、当業者が当該刊行物から当該技術的思想を具体的に認識し得るといえるだけの記載がある場合に限り、具体的に当業者が認識する範囲に属するものとして、引用発明として認定し得るとの見解を採用。

当業者の具体的な認識範囲に着目したもの。
判例時報2427

|

« 建築士の過失が否定された事例 | トップページ | 国家公務員の(発注停止を示唆した)圧力について国賠請求が認められた事案 »

知的財産権」カテゴリの記事

判例」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 建築士の過失が否定された事例 | トップページ | 国家公務員の(発注停止を示唆した)圧力について国賠請求が認められた事案 »