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2020年2月

2020年2月26日 (水)

国有林の分収育林制度に基づく分収育林契約における国の義務

大阪地裁R1.5.10    
 
<事案>
国有林野の管理経営に関する法律17条の2~6に規定された分収育林制度に基づき、被告(国)との間で分収育林契約を締結して国有林野に育成する樹木を被告と共に共有し、又はその持分を承継取得した原告らが、
被告が分収育林契約上の管理経営計画に記載された実施年度に主伐を実施しなかったことが債務不履行に当たる⇒分収育林契約を解除したと主張して、分収育林契約の締結時に支払った金額の返還等を求めた。 
 
<争点>
被告が分収育林契約上いかなる債務を負っていたのか。 
 
<判断> 
● 分収育林契約において、被告の義務の中核となっているのは、同契約における最終的な目的である分収木の販売収益の分収の前提となる、管理経営計画に従った分収木の保育と販売を行うこと。 

本件分収育林制度における収益分収の方法は、分収木の売買代金をもって行う代金分収の方法が採用されている。
but
分収木について売買契約を締結するには、一般競争入札の方法によることとなるが、入札者若しくは落札者がいない場合又は落札者が契約を結ばない場合には、分収木についても売買契約が成立しない場合もあり得ることになり、このような事態が生じることは、制度上、やむを得ないこと。

被告において、直接、分収金の配分を行うことは想定されていない

分収木の販売に係る被告の義務は、分収木の販売等の手続を行うことに止まりそれを超えて、分収育林契約の対象となっている分収木について、買受人との間で分収木についての売買契約を成立させたり、分収金の配分を行ったりする義務を負うものではない
 
● 原告:立木販売方式により売却先が見つからない場合には素材販売を行うべき義務を負っていた。
vs.
①「主伐」という用語それ自体は、分収木を伐採するとの意味で使用されているものとみるのが相当であるとしつつも、
分収木を立木販売方式により売却することは合理的であり、製品販売の方式によって売却することは、制度設計上も想定されていなかった

「分収(主伐)の時期」との記載は、分収育林契約の対象となった分収木について「間伐ではなく主伐による分収が行われるべき時期」を意味しているにすぎないとして、原告の主張を排斥。 
 
<解説>
原告:
分収育成契約の契約書や管理経営計画に「主伐(分収)の時期」等との記載があり、これは法定所定の「伐採の時期」に対応するもの
⇒主伐とは伐採を意味してり、被告は同契約上、分収木を伐採した上で、素材販売の方法で売却すべき義務を負っていた旨を主張。
vs.
①同契約書上、被告が分収木を伐採すべき義務を負うことが明示されているわけではない
同契約書の各条項の内容からみても、被告が分収林を伐採すべき義務を負っていることを認めるべき記述は見当たらない

原告主張の債務の存在を認めることはできないと判断。 

判例時報2428

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真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

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2020年2月25日 (火)

クローン病患者の術後の出血性ショックについて病院側の責任を肯定した事例

福岡高裁H31.4.25    
 
<事案>
Y1大学の開設、運営する病院においてクローン病の治療のために回腸結腸吻合部切除術等の手術を受けたX1とその親族らが、
X1に術後の出血による出血性ショックが生じ、それに伴う低血圧によって脳に障害が残ったのは、執刀医であったY2、主治医であったY3、Y4、Y5、担当看護師であったY6の術後管理などに過失があったことによるもの⇒
不法行為に基づき、連帯して、
X1につき5億4995万6797円、X2及びX3につき各880万円、X4及びX5につき各1100万円、X6及びX7につき各550万円およびこれらに対する遅延損害金の各支払を求め、
X1が、選択的に、診療契約上の債務不履行により、Y1大学に対し、同様の金員の支払を求めた。
 
<争点>
本件手術の術後管理について主治医であるY3ないしY5に過失があったか。
その関係で重要なのは、X1について、本件手術後の出血及び出血性ショックを予見することが可能であったか。
 
<判断>

①X1はクローン病に罹患しているところ、クローン病の特徴の1つとして突然の大量腸管出血があり、ときには致死的出血に至る場合もある
②多くの場合、出血の徴候を把握することは極めて困難であり、出血源の同定すら困難な場合が少なくない
③クローン病の既手術例においては術後1%以上の割合で再出血が発生するとの報告もある。
④X1は、過去2回に及ぶクローン病の手術歴があり、本件手術の術中に6046mlもの出血があった。

Y3ないしY5らにおいて、本件手術の急性期にX1が出血を来すことを予見することは可能であったというべきであり、本件手術後の急性期においては、術後出血を念頭に置いた術後管理が求められていた
術後の出血により比較的急速に血液が失われると、重要な臓器や組織への血流が不足し、組織での酸素代謝が障害される出血性ショックに陥るおそれがあることを念頭に置いた術後管理を行う必要があった
 

具体的にどのような術後管理をすべきであったか?
初期の出血性ショックでは収縮期血圧の低下が見られない場合があり、脈拍数(心拍数)が120回を超える一方で、収縮期血圧が90以上の場合には、脈拍数(心拍数)や収縮期血圧の経時的変化をより綿密に確認し、中等度ショックを示す収縮期血圧の低下が見られた場合(90か少なくとも80を下回った場合)には、直ちに医師に連絡するように指示を行うべき。
but
①本件で行われた医師の指示は、収縮期血圧を80から140の間で維持し、80以下となった場合には、いったん昇圧剤であるイノバンを増量し、それでも70台を継続する場合には、主治医に連絡するという内容。
②かかる指示は、脈拍数(心拍数)について何ら触れておらず、それ以外に口頭での指示もされておらず、初期の出血性ショックでは収縮期血圧の低下を認めない場合もある。

その指示は不適切なものであった。
判例時報2428

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2020年2月23日 (日)

国家公務員の(発注停止を示唆した)圧力について国賠請求が認められた事案

東京高裁H31.4.10    
 
<事案>
Xは、公益法人問題を追及する国会議員の勉強用に、同議員にXの経営する会社の資料等を渡した⇒このことに不満をもった国土交通省の本省の担当者は、公益法人などを介して、A社の発注停止を示唆して、暗に、Xが自発的に自粛とけじめをつけることを求めた⇒Xは代表取締役社長を辞任し、平取締役(会長)になった。 
Xが中心メンバーとなっている海保保存活動を行う団体が、国の所管行政庁である国土交通省の出先機関の関東地方整備局に保存要望書を提出⇒このことに不満を持った関東地方整備局の担当者は、公益法人などを介して、A社への発注停止を示唆して、暗に、Xが自発的に自粛とけじめをつけることを求めた⇒Xは、取締役会長を辞任し、持ち株も全部譲渡して、会社から一切手を引くこととなった。

請願を理由とする差別待遇であるとして、国賠法1条により損害賠償を求めた
 
<規定>
憲法 第16条〔請願権〕
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない
 
<判断>
前記の公務員の行為は、民間企業の自主的な経営に対する法令上の根拠に基づかない介入であって、請願を理由とする差別待遇として国賠法上違法であると判断し、消滅時効の成立も否定し、相当因果関係の認められる損害額の限度で請求を一部認容。
 
<解説>
国の業務の発注先企業やその取締役等が担当省庁の所管の政策に反対する内容の請願行為をしたことを理由に、発注停止をちらつかせて、当該企業や取締役等に対する差別待遇をすることは、憲法16条で禁止される行為であると同時に、国賠法上も違法の評価を免れない。
明示的にXの辞任を求めず、暗にXの自発的な行為(自発的な辞任)を求めた点も、発注停止をちらつかせているもので、違法性を阻却しないと判断。

● 公益法人問題の請願に関する差別待遇は、X個人(代表取締役の地位は失ったが、取締役の地位は失っていない)に対する攻撃というよりは、企業体(A社)に対する不当介入⇒違法性は肯定されたが、これと相当因果関係のあるXの損害賠償請求権は否定。
海堡保存問題の請願に関する差別待遇は、企業体(A社)に対する不当介入であるとともに、X個人(取締役の地位も失った。)に対する攻撃でもあり、違法性も、これと相当因果関係のあるXの損害賠償請求権(取締役報酬1年分)も肯定

● 本判決:消滅時効の起算点(加害者を知った時期(民法724条))はインタビュー終了時(平成27年)であると判断。

平成21年や平成22年の時点においては、訴状に「国土交通省の本庁又は地方支分部局の公務員のうち誰かが発注停止をほのめかしてけじめをつけることを求めた」という程度の記載しかすることができなかったこの程度の状態では加害公務員を知ったとはいえないと判断したのだろう。

判例時報2428

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2020年2月22日 (土)

平成26年改正前の特許法の下において、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益、進歩性の判断における引用発明の認定等

知財高裁H30.4.13    
 
<事案>
発明の名称を「ピリミジン誘導体」とする特許(「本件特許」)の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟。 
 
<争点>
訴えの利益の有無(=本件の訴えの利益は、本件特許に係る特許権の存続期間の経過により、失われているか)
進歩性の有無(=本件特許は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものといえるか)
 
<判断・解説>

訴えの利益の存在を認めた上、
本件特許が進歩性の要件を充足することを認め
原告らの請求をいずれも棄却。 
 
●特許権消滅後の審決取消訴訟の訴えの利益 
審決取消訴訟の原告適格は、審判の当事者、参加人又は審判に参加を申請してその申請を拒否された者に限られる(特許法178条1項)が、
特許無効審判における「当事者」たり得る請求人適格については、特許異議申立制度の変遷に伴い、変遷してきた。
現行法である昭和34年特許法でも、特許無効審判の請求人適格は、条文上明記されず。but一定の限定があるものと解されていた。

平成15年改正:
付与後異議制度を廃止し、特許無効審判制度に統合するに当たり、
特許無効審判制度の請求人適格は、権利帰属に関する無効理由につき利害関係人であることが必要であるとされるとともに、
それ以外の無効理由つき「何人も」に拡大された(123条2項)。

平成26年改正:
付与後異議制度が再度創設されるに当たり、異議申立制度の申立人適格は「何人も」、
特許無効審判制度の請求人適格は「利害関係人」と明記(123条2項)。
 
◎本判決:
特許権消滅後の審決取消訴訟の訴えの利益について、
平成26年改正前の特許法が適用される場合においては、
特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は、特許権消滅後であっても、特許権の存続期間中にされた行為について、何人に対しても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り、失われることはない
という一般論を判示。 
傍論として、平成26年法改正後の特許法が適用される場合においては、
訴えの利益が消滅したというためには、・・・特許権の存続期間が満了し、かつ、特許権の存続期間中にされた行為について、原告に対し、損害賠償又は不当利得返還の請求が行なわれたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要

訴えの利益は職権調査事項であるところ、裁判所は、その審理のために、当事者に対して、例えば、自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき、現に紛争が生じていることや、今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張するよう求めることとなる。
but
このような主張には、自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構成を有していること等、自己に不利益になる可能性がある事実の主張が含まれ得るのであって、このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは相当ではない。

その前提として、特許法において、特許無効審判は、特許権の存続期間満了後も請求することができる(法123条3項)
⇒特許権の存続期間が満了したからといって、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益も消滅するものではないと指摘。

本判決の射程は、特許無効審判請求の審決に対する審決決定訴訟、しかも、特許無効審判請求を不成立とした審決に対するものに限られる
 
◎本判決は、平成26年改正の前後で訴えの利益の消滅を認める場合の判断要素の1つを「何人」から「原告」に変えている。

平成26年改正により、特許無効審判制度が、万人の利益を保護するための制度から、利害関係人の利益を保護するための制度に変わったことを受け、その審決の取消訴訟における訴えの利益についても、同様に解したもの。
 
●進歩性の判断基準 
◎ 進歩性の判断方法:
進歩性に係る要件が認められるかどうかは、
特許請求の範囲に基づいて特許出願に係る発明(本願発明)を認定した上で、特許法29条1項各号所定の発明と対比し、一致する点及び相違する点を認定し、
相違する点が存する場合には、当業者が、出願時(又は優先権主張日)の技術水準に基づいて当該相違点に対応する本願発明を容易に想到することができたかどうかを判断。

その上で、引用発明の認定につき、
進歩性の判断に際し、本願発明と対比すべき特許法29条1項各号所定の発明(本件引用発明)は、通常、本願発明と技術分野が関連し、当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されるところ、
同条1項3号の「刊行物に記載された発明」については、当業者が、出願時(又は優先権主張日)の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきもの⇒当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない

引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であって、当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され、当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には、特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り、当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず、これを引用発明と認定することはできない。

この理は、本願発明と引用発明との間の相違点に対応する他の同条1項3号所定の「刊行物に記載された発明」(副引用発明)があり、主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合において、刊行物から副引用発明を認定するときも、同様。
 
◎進歩性の判断要素とその立証責任につき:
主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができるかどうかを判断する場合には、
①主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆、技術分野の関連性、課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して、主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断
②適用を阻害する要因の要素の有無、予測できない顕著な効果の有無等を併せて考慮して判断することとなる。

特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては、
上記①については、特許の無効を主張する者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取消訴訟においては、特許庁長官)が、
上記②については、特許権者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟において、特許出願人)が、
それぞれそれらがあることを基礎付ける事実を主張、立証する必要がある。
 
◎本判決:
一般論として、刊行物に化合物が一般式の形式で記載されている場合における引用発明の認定につき判示。 
本件のような事案において進歩性を肯定するには、
①刊行物から引用発明が認定できないと解する
②刊行物から引用発明を認定できるが、これを発明の出発点とすることができた合理的な理由がなければならず、これがないと解する
③引用発明の適格性は認めるが、組合せの動機付けがないと解する
といった場合が挙げられる。

本判決:
ある技術的思想が、当業者が認識する範囲に属するといえる刊行物に抽象的に記載されていても、それだけでは引用発明として認定することはできず、当業者が当該刊行物から当該技術的思想を具体的に認識し得るといえるだけの記載がある場合に限り、具体的に当業者が認識する範囲に属するものとして、引用発明として認定し得るとの見解を採用。

当業者の具体的な認識範囲に着目したもの。
判例時報2427

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2020年2月21日 (金)

建築士の過失が否定された事例

東京高裁H28.10.13    
<事案>
店舗駐車場につながる車路スロープの構造設計を途中から引き継いだ建築士である被告人が、自らの設計内容に問題はないものの、その設計内容を設計・工事管理の総括責任者である意匠設計担当者に正確に把握できるように適切に配慮すべき注意義務に違反⇒有罪とされた事件の控訴審。 
 
<原審>
起訴当時の素因は、まさに、被告人自身の設計内容が、床スラブで接合しない危険な内容であると把握して、そのような構造設計をしたこと自体を過失としていた
=検察官は、被告人の客観的な設計内容を取り違えて起訴

検察官の訴因変更請求(床スラブにより接合するとの前提で構造設計をしたことを意匠設計担当者が正確に把握できるように適切に配慮しなかった過失への変更)を許可し、その変更された訴因に沿った過失を認定。 
 
<判断>
原審が認めた配慮する義務自体を原則的に否定。

被告人は、自らの設計内容を変更後構造計算書や変更後構造図を示すなどして意匠設計担当者らに伝えたことは証拠上明らかな事実であり、本来、設計担当者間の伝達はそこでまかなわれるはずのもの

お互いに資格をもったプロとして仕事をしている⇒図面等の成果物の上で設計内容が明確であれば、他の者がこれを適切に引き継ぐことを期待するのは当然(被告人の作成した構造図や構造計算書は、これを建築士が通常の注意義務を払ってみれば、床スラブにより接合するものと認識することが可能であると認定されている)。
経費削減と工期短縮を目的として、構造を変更するために被告人に依頼があった⇒当然構造変更があることは予測できた

原審が認定するような配慮義務は、被告人にはなく、設計を総括していた意匠設計担当者らにおいて、構造変更を予測して、その変更内容を確認すべき義務があった。

被告人の過失を肯定した原判決の認定・説示を論理則、経験則等に適わない、あるいは反するものとして、原判決を破棄
判例時報2427

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2020年2月20日 (木)

指定暴力団の構成員による殺人未遂⇒使用者責任・共同不法行為責任(肯定)

福岡地裁H31.4.23     
 
<事案>
ア事案:
指定暴力団の構成員に刃物で襲撃されたX1⇒組長ら幹部であるYらは前記構成員を指揮監督して本件暴力団の威力を利用した資金獲得活動に従事させており、本件襲撃はX1の親族に関わる工事の利権獲得を目的に行われたもの
⇒民法715条の使用者責任等に基づき、Yらに対して損害賠償を求めた。

イ事案:
本件暴力団の構成員にけん銃で襲撃された元警察官X2が、本件襲撃は本件暴力団の幹部であったYらが共謀して、前記構成員に指示して行わせたもの
⇒民法719条の共同不法行為責任に基づき、Yらに損害賠償を求めた。
 
<規定>
民法 第七一五条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
 
<ア事件判断> 

(1)本件暴力団の指揮命令系統及びYらの地位
(2)X1とYらとの関係
(3)本件襲撃に至る経緯
(4)本件襲撃後のYらの言動
を事実認定した上で、
本件襲撃が本件暴力団の事業の執行として行われたものといえるか、及びYらが同事業の執行における使用者といえるか、をそれぞれ認定。


(1)本件暴力団の指揮命令系統及びYらの地位 
①本件暴力団は、総裁(組長)のY1を頂点とし、会長のY2のもとに、直若(Y2との間で擬制的親子関係を結んだ構成員)である下部組織の組長及び同下部組織に属する構成員から構成されるピラミッド型階層組織となっており、
②本件暴力団の決定事項は理事長のY3らによって構成される執行部によってなされて末端構成員まで周知されることとなっていた。
③本件暴力団には構成員から運営費が上納されていたが、その使途はY2が決定し、Y3ら試行部や下部組織の組長・構成員はその決定に従っていた。

◎ (2)X1とYらの関係
◎ (3)本件襲撃に至る経緯
◎ (4)本件襲撃後のYらの言動


(1)ないし(4)の認定
⇒本件襲撃は、会長のY2の指示の下、本件暴力団の資金獲得を目的としてKを畏怖させ、地元業界団体に関わる利権を得ようとしてなされたもの
本件暴力団の事業の執行として行われた


Yらが同事業の執行における使用者といえるか 
本件襲撃を指示した会長のY2だけでなく、総裁のY1や理事長のY3についてもい、使用者の立場にあったと認定。

Y1(総長):本件暴力団で唯一Y2よりも上位の地位にあり、Y2がK(X1の父)に対して「Y2自身の考えでなく本件暴力団の方針として」危害を加えると示唆
⇒Y1は、Y2を含めた構成員をその指示の下に資金獲得活動に従事させていたといえる。

Y3:Y2の意を受けるなどして執行部の決定事項を下部組織の末端構成員まで周知させており、また、実行犯の属する下部組織の組長として本件襲撃を行わせたものと推認される。
 
イ事件

(1)本件暴力団の指揮命令系統
(2)X2とYらとの関係
(3)本件襲撃に至る経緯
を事実認定し、本件襲撃についてYらの指示があったのかを認定。
 
(1)本件暴力団の指揮命令系統⇒ア事件と同じ
(2)X2とYらとの関係
(3)本件襲撃に至る経緯
 

(1)ないし(3)の認定に加え、
Y1やY2の決定の下、本件暴力団が警察の捜査を極力回避する方針を徹底しており、本件襲撃は同方針に反するものであるにもかかわらず、実行犯の属する下部組織の組長であるY3が叱責や懲罰を受けた形跡がない。

本件襲撃は、Y1が決定し、これを順次Y2、Y3、Y4に指示して行わせたものといえる

Yらの行為はいずれも不法行為に該当し、これらの行為が関連共同して行われている共同不法行為に該当
 
<解説>
両事件とも、本件各襲撃についてYらの指示があったことを立証する直接証拠がない中で、
①本件暴力団の指揮命令系統及びYらの地位、
②X1、X2とYらとの関係、
③本件襲撃に至る経緯等
の間接事実から、Yらの指示を認定

ア事件では、暴対法31条の2に基づく請求が、
イ事件では、民法715条に基づく請求及び暴対法31条の2に基づく請求が、
それぞれ選択的併合として提起。
いずれの請求も認容する余地があるものの、民法715条に基づく請求ないし民法719条に基づく請求の認容額を超えない⇒具体的な認定を行わなかった。

<規定>
暴対法 第三一条の二(威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任)
指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 当該代表者等が当該代表者等以外の当該指定暴力団の指定暴力団員が行う威力利用資金獲得行為により直接又は間接にその生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得ることがないとき。
二 当該威力利用資金獲得行為が、当該指定暴力団の指定暴力団員以外の者が専ら自己の利益を図る目的で当該指定暴力団員に対し強要したことによって行われたものであり、かつ、当該威力利用資金獲得行為が行われたことにつき当該代表者等に過失がないとき。
判例時報2427

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2020年2月19日 (水)

医師の注意義務違反との因果関係を否定。自己決定権侵害を肯定。

神戸地裁H31.4.9     
 
<事案>
XがYの設置する病院において頭部MRAの検査を受けた⇒診察を担当したP2医師が未破裂脳動脈瘤を見落とし、本件脳動脈瘤の治療に関する説明を受けられなかった⇒①直ちに本件脳動脈瘤に対する治療を受けられず、又は②経過観察及び本件脳動脈瘤に対する適時の治療を受けられなかった
⇒その後本件脳動脈瘤が破裂して、くも膜下出血を発症し、後遺障害を負った(予備的には、外科的治療を選択する機会を奪われた)
⇒P2医師の使用者であるYに対し、使用者責任又は債務不履行責任に基づき、損害賠償金7553万8979円及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
P2医師が本件脳動脈瘤の存在を見落としたこととXがくも膜下出血を発症したこととの間に因果関係が存在するか?

P2医師に注意義務違反がなく、XがP2医師から本件脳動脈瘤の治療方法に関する説明を受けたとして、本件脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を発症し、後遺障害が生じなかったであろうことを是認し得る高度の蓋然性があったか

Xが直ちに外科的治療を選択し、又は、経過観察を続け、経過観察中に、本件脳動脈瘤に対する外科的治療を選択した高度の蓋然性があったかどうか 
 
<判断> 

①未破裂脳動脈瘤に関する医学的知見によれば、Xの本件脳動脈瘤のように無症候性の未破裂脳動脈瘤に対する外科的治療は、脳卒中治療ガイドラインにおいて、外科的治療の検討が推奨される一定の基準が定められていたものの、その推奨グレードは低い
②本件脳動脈瘤と同様に後交通動脈分岐部に動脈瘤が存在し、最大径が7ミリ未満の動脈瘤の年間破裂率は0.58%であり、Xの本件診察時の年齢からすると本件脳動脈瘤の破裂リスクは9.3%と考えられる

本件脳動脈瘤が発見され、適切な説明を受けたとしても、Xが、本件脳動脈瘤につき、保存的治療(経過観察)を選択した可能性も相当程度あった

外科的治療を選択する高度の蓋然性があったということはできない。 

脳動脈瘤の増大は時間の経過に対して一定の傾向を有するわけではなく、不規則・不連続に起こるもの⇒経過観察における画像検査時に、本件脳動脈瘤の増大が確認され、外科的治療が選択されたであろう高度の蓋然性があったとはいえない。

Xが経過観察中に外科的治療を選択した高度の蓋然性あったとはいえない。

P2医師の注意義務違反ないしYの債務不履行と本件脳動脈瘤の破裂によるXのくも膜下出血によって生じた結果発生との間には相当因果関係はない。
 

本件脳動脈瘤が発見されていた場合には、Xは、医師から、原価的治療と保存的治療(経過観察)のいずれを選択するかについて、これを熟慮の上判断することができるように、本件脳動脈瘤の破裂リスクと治療リスクなど、各治療方法について説明を受けることができていたはず。
but
P2医師が本件脳動脈瘤の存在を見落としていたことにより、外科的治療を選択する機会を奪われ、Xの自己決定権が侵害された

合計330万円の損害賠償を認めた。 
 
<解説> 
訴訟上の因果関係の立証は、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るもので足りる(最高裁)。 
以上の規範は、医師の注意義務違反と患者の死亡等の結果との間の因果関係についても適用される(最高裁)。

判例時報2427

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真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

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2020年2月18日 (火)

看護師の注意義務違反⇒損害賠償請求が認められた事例

東京地裁H31.1.10    

<事案>
X1(平成4年生まれ、手術を受けた当時20歳)が、Yの設置する病院(「本件病院」)において中顔面定型性に対する手術中に気管切開術を受けた後、一般病棟において、気管切開カニューレから痰の吸引を行う際に容態が急変⇒救急措置を受けた蘇生したものの、低酸素脳症による遷延性意識障害の後遺症を負った⇒X1及びその両親であるX2、X3が、
①前記後遺症が生じたのは、本件病院の看護師らに吸引を行う際に監視義務違反があり、また、
②本件病院の医師ら及び看護師らに急変後の救急措置義務違反及び気管切開術に関する説明義務違反があったため

Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として、
X1については3億2022万2938円、
X2及びX3については、各300万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
本件病院の医療従事者に過失があったか否か 
 
<判断> 
看護師が気管吸引時にアセスメント(患者の顔貌、呼吸数、胸郭の動き、皮膚の色、疼痛や呼吸苦の訴えの有無等を確認することを含む。)を実施し、監視することを怠った過失を肯定。 

①X1の状態は、痰により気道が狭窄又は閉塞する危険⇒気管吸引を実施する必要があった。
②日本呼吸療法医学会平成19年に作成した「気管吸引のガイドライン」の記載内容を前提にすると、本件病院の医療従事者は、気管吸引を実施しない状態であっても実施した状態であっても、患者が低酸素血症から低酸素脳症に至るリスクが相応にあることを考慮し、気道閉塞の有無を確認し、あるいは、気道閉塞に至らないようにアセスメントをするべき義務あった。
but
看護師P5、P6は、再吸引を実施するにあたり、1回目の吸引に協力的であったX1が、激しく抵抗しており、かつ、酸素飽和度計がはずれてSPO2(酸素飽和度)を知り得ず、呼吸困難と吸引への抵抗との区別がより困難になっている状況において、同人の顔貌を観察する、呼吸苦の有無を尋ねて観察するといったアセスメントが十分にできないことを踏まえ、
異常な事態であると判断して吸引を中止することも、応援を要請することもしなかった
看護師P5、P6には義務違反があった

・・・・の行動をとっていれば、X1が低酸素脳症に至ることはなく、X1に不可逆的な脳障害が生じることはなかった高度の蓋然性がある

看護師P5、P6の過失とX1の後遺障害である遷延性意識障害、低酸素脳症との間の因果関係も肯定
判例時報2427

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2020年2月17日 (月)

未成年者を連れて別居を開始した非監護親(父)と未成年者との面会交流について、監護親の立会いを認めて実施するのが相当とされた事案

東京高裁H30.11.20    
 
<事案>
面会交流の審判申立ての事案 
X(夫)は、同居することに耐えられなくなった⇒平成28年5月18日、Yに何ら知らせることなく別居を開始⇒Yは、同年6月15日、Aの引渡し求める審判を申立て、同年11月9日、申立てを認める審判、抗告棄却で確定。
平成29年3月13日、XはYに対し、Aを任意に引き渡した。
Xは、平成29年3月18日、面会交流調停の申立て⇒平成30年4月10日に不成立⇒本件審判手続に移行。
 
<原審>
①XがAを連れて計画的に別居を開始した上、面会交流が実施されていなかった。
but
Aの引き渡しを求める前件審判事件後には、任意に引渡しがされている

現時点でXが面会交流の際にAを連れ去る具体的なおそれがあるとは認められない。

②本件調停申立て後の面会交流で不適切な関わりをしたと認めるべき事情はない。

XとAとの面会交流を認めるのが相当。 
 
<判断>
XとAとの面会交流が子の福祉に反すると認められるような事情は窺えず、具体的な面会交流の定め方を工夫することでYの懸念を解消することができる
XによるAの連れ去りのおそれがあるとするYの懸念については、Yが面会交流に立ち会うことができる旨を併せて定めるのが相当。 
 
<解説>
非監護親の面会交流権:
未成熟子に対する面接ないし交渉は、親権もしくは監護権を有しない親としての最低限の要求であり、父母の離婚という不幸な出来事によって父母が共同で親権もしくは監護権を行使することが事実上不可能なために、一方の親が親権者もしくは監護者と定められ、単独で未成熟子を監護養育することになっても、他方の親権もしくは監護権を有しない親は、未成熟子と面接ないし交渉する権利を有し、この権利は、未成熟子の福祉を害することがない限り、制限されまたは奪われることはないもの

家庭裁判所は面会交流剣行使に必要な事項についての監護に関する処分を命ずることができる

面会交流権の権利性:
A:実体法上の請求権の一種
B:手続的請求権

実務ではBの立場に立って、子の福祉を第一に考え、面会交流を命ずるための判断基準として、これまでの子の監護状況、子の心身の状況・年齢・意思、面会交流の実施による子の心身や監護状況に及ぼす影響、監護者及び非監護者の意思と意見、双方の協力の可能性・信頼関係の程度、双方の暴力性・虐待の有無その他諸般の事情を総合考慮することとする。
判例時報2427

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2020年2月16日 (日)

7年に及ぶ別居期間で、離婚請求が否定された事案

東京高裁H30.12.5    
 
<事案>
X(夫)かわY(妻)に対する離婚請求事件 
平成5年8月に婚姻の届出、2子(B及びC)をもうけた。
XとYは、Xの実家で一人暮らしをしていた実父Aが高齢のため1人暮らしが困難⇒話し合いの上、新たに購入したマンションでAと同居してYが日常生活の面倒をみる。
Xは、平成23年6月頃から仕事の関係で単身赴任を開始⇒同年7月25日、Yに対し、電話で、離婚した旨を告げた。
この間、Y及びB・Cの将来を気にかけたAが、Xの同意を得ないまま、Yとの間で養子縁組をし、実家不動産の売却剰余金をYに贈与するとともに、生命保険緒保険金受取人をB・Cに変更。
Xは、平成23年11月に離婚調停申立て⇒不調⇒平成24年10月離婚訴訟提起⇒棄却。平成25年10月30日に控訴棄却で確定。
Xは、Yに対し離婚調停申立て⇒平成29年4月26日に不成立⇒離婚訴訟提起。
 
<原審>
Xの離婚請求を認容。

①原審の口頭弁論終結時までに別居期間は6年10か月が経過しており、Xの離婚意思は強固。
②AからYに対してされた出来事は、Xの理解を求めずに行われた⇒XのYに対する信頼を失わせるの十分。

Yに復縁の意思があるとしても、離婚関係は破綻し、その修復は極めて困難であり、婚姻を継続し難い重大な事由が認められる。 
 
<判断>
原判決を取り消してXの請求を棄却。

有責事由のない家事専業者側が離婚に反対している場合には、離婚を求める配偶者は話し合いその他の方法により婚姻関係を維持するように一層強く努力すべき
それにもかかわらず、Xは、Yとの連絡、接触を極力避け、婚姻関係についてまともな話し合いをせず、婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者側への配慮を怠っている別居期間が長期に及ぶ場合であっても、直ちに婚姻を継続し難い重大な事由があると判断することは困難

別居期間が7年以上に及んでいることが婚姻を継続し難い重大な事由に当たる⇒離婚請求が信義誠実の原則に照らして許容されるかどうかが検討されなければならない。

その判断に際しては、
①離婚請求者の離婚原因発生についての寄与の有無、態度、程度、
②相手方配偶者の婚姻継続意思及び離婚請求者に対する感情、
③離婚を認めた場合の相手方配偶者の精神的、社会的、経済的状態及び夫婦間の子の
監護・教育・福祉の状況、
④別居後に形成された生活関係、
⑤時の経過がこれらの諸事情に与える影響
などを考慮すべき。

Yは、家事専業者であり離婚が認められた場合には居住環境を失うことにより、精神的苦境及び経済的窮地に陥るものと認められ、子への悪影響は必至
婚姻関係の危機を作出したのはXであって有責配偶者に準ずるような立場にあった

AからYに対してされた出来事がったとしても、離婚請求は信義誠実の原則に反する
 
<解説>
民法770条5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは1号から4号までの離婚原因を一般化、抽象化したもので、「婚姻を継続し難い重大な事由」とは婚姻関係が深刻に破綻し、婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがない場合を言い、その判断は、婚姻中における当事者の行為や態度、婚姻継続意思や子の有無、当事者の年齢、性格、健康状態、経歴、職業、資産状態など婚姻関係に現れた一切の事情が考慮される。(判例・通説) 

別居期間は「婚姻を継続し難い重大な事由」の重要な判断事情の1つではあるが、別居期間は同居期間との関係でも期間の長短が問題となる⇒一概に破綻事由を認めうる年数を定めることはできない

本判決:別居期間には触れつつも、離婚請求者が婚姻関係維持の努力や別居中の他方配偶者への配慮を怠ったことをもって、婚姻を継続し難い重大案事由があるというのは困難であると判断。
判例時報2427

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2020年2月14日 (金)

統合失調症により精神科の医師の診療を受けていた患者が中国の実家に帰省中に自殺⇒医師の義務違反を否定。

最高裁H31.3.12    
 
<事案>
統合失調症により精神科の医師であるYの診察を受けていた患者(中国国籍の女性)が、中国の実家に帰省中に自殺⇒本件患者の夫及び子らであり、相続人であるXらが、Yには本件患者の自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務を怠った過失がある⇒債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求めた。 

・・・・本件患者は、中国の実家への帰省後、平成23年4月以降、抗精神病薬の服薬量を漸次減量したが、幻聴が悪化し、マンションから飛び降りたいという衝動があるなどとも述べるようになり、同年5月下旬頃から希死念慮が現れるようになった。

X1は、平成23年5月28日、Yに対し、「ここ数日、夕方になると、幻聴が激しくなり、また、眼球上転もでているようです。今日は希死念慮がかなりつよくでていて、「これからは3人で生きて下さい」との言葉もありました。危険なので、義母に監視を頼み、セレネースを11mgに戻すようにいいました。」「原薬の先に何があるのか、その見通しを示してください。」などの記載が含まれる電子メールを送信
Yは、同月30日頃、本件電子メールを読み、X1に対し、「困難な場合には、入院で薬の調整をして頂くことを考える必要があるかも知れません。」などと記載した電子メールを返信

本件患者は、平成23年6月8日、激しい幻聴を訴え、同月10日、マンションの6階にある実家から飛び降りて自殺した。
 
<原審>
Xらの不法行為に基づく損害賠償請求を合計1257万余円の限度で一部認容。

①Yは、遅くとも本件電子メールを読み、その内容を知った時点において、本件患者の自殺の具体的な危険性を認識⇒その自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務がある
②過失と本件患者の自殺との間の因果関係がある 
 
<判断>
Yは、抗精神病やくの服薬量の減量を治療方針として本件患者の診察を継続し、これにより本件患者の症状が悪化する可能性があることを認識していたとしても、本件の事情の下においては、本件患者の自殺を具体的に予見することができたとはいえないYに本件患者の自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務があったとはいえない。 
 
<解説>
●一般に、統合失調症、うつ病等の精神疾患のある患者は、健常人又は他の病気の患者と比べると、相対的に自殺に至る確率が高いといわれている。
統合失調症患者の約10%が自殺しており、その自殺率は一般よりも30~40倍高いとされる) 
 
●民法709条における過失の構成要素:
①具体的結果予見可能性を基礎とする結果予見義務違反、
②具体的結果回避可能性を基礎とする結果回避義務違反 

一般的・抽象的な危険の予見だけで、患者が自殺に及んだ場合に医療側に過失があったとみるとすれば、全ての精神病患者を保護して隔離病棟に入院させる必要があることにもなりかねず、精神科医療が萎縮し、患者の社会復帰を目指すという治療の目的も損なわれるおそれ

医師の過失判断の前提となる予見可能性については、自殺の具体的な危険ないし差し迫った危険についての予見可能性がなければならないというべきであり、また、これを基礎付ける具体的事実がなければならないと解するのが相当。

近時の裁判例では、患者に希死念慮があり、又は、過去に自殺企図があったというだけで医療等の具体的予見可能性を認めることはせずどの程度深刻な希死念慮であり、また、具体的な自殺企図であったかについて検討した上で、患者の状態の変化等を踏まえて慎重に判断しているものが多い。
 
●原審:
①本件患者につき、自殺企図歴のある統合失調症患者であったこと
②抗精神病薬の減量によりその症状が悪化する可能性があったこと
③Yがその病状を直接観察すること等ができない状況になっていたこと(原審は、Yの診療態勢等に不備があったこなどと評価)

自殺の具体的な危険性を十分認識し得たとする。
vs.
これらの事実からは一般的ないし抽象的な自殺の危険があったことが認められるにとどまり、具体的ないし切迫した自殺の危険があり、そのことをYが認識し得たとまで認めることはできない。 

本件患者の自殺につき具体的な予見可能性が認められない⇒Yにおいて診療契約上の注意義務違反があると認めることも同様に困難
本判決:
「以上説示したところによれば、上告人は、被上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負わず、また、債務不履行に基づく損害賠償責任も負わない。」と判示。 
判例時報2427

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2020年2月13日 (木)

生活保護を受け、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた⇒精神障害者保健福祉手帳が更新されなかった⇒保護費の返還処分が違法とされ、国賠請求が一部認容された事案

東京地裁H31.4.17    

生活保護を受け、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた⇒精神障害者保健福祉手帳が更新されなかった⇒保護費の返還処分が違法とされ、国賠請求が一部認容された事案
 
<事案>
Y1(東久留米市)において生活保護を受けていたXは、平成19年から精神障害者保健福祉手帳の更新を受け、生活扶助について障害者加算の認定。
but
平成27年7月以降、精神障害者保健福祉手帳の更新を受けていなかった。

福祉事務所長は、平成28年9月、Xの精神障碍者保健福祉手帳の有効期限が経過していたことが発覚⇒
①同年10月以降の障害者加算を削除する変更決定をするとともに、
②生活保護法63条に基づき、精神障碍者保健福祉手帳の有効期限が切れた以降支払われていた障害者加算の全額を返還すべき額とする返還金額の決定処分。

Xが
本件加算削除処分の無効確認及び本件返還処分の取消しを求めるとともに、
本件加算削除決定により支給されるべきであった障害者加算の額の損害及び精神的損害を受けたとして、Y1及びY1に対して助言・指導を行う立場にあるY2(東京都)に対し、国賠請求の支払を求めた
 
<判断>
●生活保護法63条は、「資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき」に該当する場合に、被保護者がその受けた保護金品に相当する範囲内において返還すべきことを定める。 
障害者加算は障害により最低生活を営むのにより多くの費用を必要とする障碍者に対し、そのような特別の需要に着目して基準生活費に上積みする制度であり、その要件に該当しない被保護者に対し、障碍者加算を支給した場合には、障碍者加算の額に相当する部分については、資力があるにもかかわらず、誤って保護を実施したことになる⇒費用返還の対象となる
●従前から障害者加算を受けていた者に対し、障碍者加算の要件該当性が失われたとして生活保護法63条に基づき、支給されていた障害者加算の額の返還を求めることは、実質的には遡って保護の変更の効果を生じさせるもの

職権による保護の変更(生活保護法25条2項)及び不利益変更の禁止(同法56条)の規定に照らして、障碍者加算の額の返還請求が認められるためには、積極的に障害者加算の要件該当性が失われたことを基礎付ける事由の損害が認められる必要があり、そのような事由が存在することの立証責任は保護の実施機関が負う。 

Xの精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったことは、その精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったことを一応推認させる事実。
but
①従前は精神障碍者保健福祉手帳の更新が続いていたこと
②手帳を更新できなかったのは医師の診断があったからではなく医師との関係が良好でなかったためであること
③Xはその後も断続的に通院していたこと

精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったという一事をもって、Xの精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったと推認することはできない
本件返還処分の違法性を肯定

●本件返還処分の違法性判断と同様の理由で、本件加算削除処分を違法とした。
福祉事務所所長は、Xが精神障碍者保健福祉手帳を更新できなかった理由などを認識していた必要な調査を行うなどのXの障害の程度の把握に努めるべき義務があったというべきであり、これらの義務を尽くしたとはいえない
国賠法上の違法性及び福祉事務所長の過失を認めた

本件加算削除処分の無効確認の訴えについては、行訴法36条の要件を満たさない⇒却下。
XのY2(東京都)に対する損害賠償請求については、Y2の職員の回答とXの損害との間に相当因果関係は認められないとして否定。

慰謝料の請求:
本件国賠請求が、実質的には、障碍者加算の額の支給という金銭債務の履行遅滞の責任を問うものであると解される⇒その障害者加算の額を超える損害の賠償を請求することはできない。(最高裁昭和48.10.11)
判例時報2427

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2020年2月11日 (火)

手術後の準強制わいせつ被告事件が無罪とされた事案

東京地裁H31.2.20  
 
<判断>
●Aに対して麻酔薬が投与された時刻、投与された麻酔薬の種類及び量、手術終了後のAの言動等を認定し、2名の専門家の証言に基づいて
①Aに対する手術は述語せん妄の危険因子とされる乳房手術であった
②Aには通常より多量の麻酔剤が投与された
③Aは手術に起因する疼痛を感じ、かつ、Aに対する鎮痛剤の投与は通常より少量であった

Aはせん妄状態に陥りやすい状態であった

麻酔覚醒時のAの動静等
⇒Aがせん妄状態に陥り、性的幻覚を体験していた可能性が相応にある。

このような幻覚は鮮明であって、訂正しがたい確信を持っているとされている
⇒Aの証言が具体的で迫真性に富み、Aが一貫した供述をしていることをもっていしても、Aの証言の信用性に疑義を差し挟む余地が広がる。

●Pの鑑定手法:
①Pはアミラーゼ試験の陽性反応の結果やリアルタイムPCRによるDNA定量検査の結果をワークシートに手書き記載しているところ、同ワークシートには消しゴムで消して上書きした痕や消しゴムで何らかの記載を消した痕が残されている。
②実験結果の検証可能性確保や刑事裁判に向けた証拠についての紛糾を避けるためにも鉛筆での記載はふさわしくない。
③ワークシートの記載の中には、日時が前後して記載されたことがうかがわれるものがある。
④Pは、鑑定時に本件付着物からDNAを抽出した液の残余を、検察官からDNA定量検査の結果が重要であることを知らされた後に廃棄しているところ、この行為は、DNA定量検査の結果の妥当性を端的に検証する手段を失わせたもの。

検査者としてのPの誠実さには疑念がある

●Pが採用した方法はアミラーゼが微量でも含まれれば陽性反応を示す点で鋭敏度が高いとする専門家証言⇒唾液以外の体液に由来するアミラーゼにより陽性反応がもたらされる可能性も否定できない。

本件付着物から被告人1人分のみのDNA型が検出。
検察官請求の専門家証人:2名の混合DNA量の比率が100対1以上の場合⇒すべてのアレルにおいて1名分のDNA型しか顕出されない。
弁護人請求の専門家証人による実験⇒陰性コントロール対照資料である、なめられた理しなかった女性の乳首から採取した試料から女性のDNA型が検出されない場合もあった⇒本件付着物に含まれる被告人のDNA量にかかわらずA(被害者)のDNA型が検出されなかった可能性は残る。

本件付着物に含まれる被告人のDNA量が多量であるという点:
検察官請求の専門証人:
本件付着物中の唾液の量が多量であり、それは会話による唾液の飛沫の付着などでは説明できない。

弁護人請求の専門家証人:
唾液の量ではなく口腔内の細胞がどのくらい含まれているを考慮しなければならない。
口腔内細胞の塊が唾液の飛沫に含まれることはある。

口腔内細胞が含まれた唾液が会話により飛沫し、本件DNA定量検査の結果をもたらした可能性があることを排除することはできない


被告人は無罪
判例時報2426

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2020年2月10日 (月)

育児休業後のパート契約への変更、その後の解雇の効力・不法行為

東京地裁H30.7.5      
 
<事案>
原告が、
①第1子妊娠後、事務統括から降格され、第1子出産後の復帰時に時短勤務を希望したために有期のパート契約に変更されたことは、妊娠、出産に伴う不利益取扱いであること、
②同パート契約の締結により継続勤務年数が途切れたことを理由として有給休暇の申請を拒否されたため、年次有給休暇日数の確認を求める利益があること、
③第2子の出産のため産休・育休を取得することを申し出た際、被告会社の取締役であったY2から退職を強要され、行政の協力を得て産休及び育休を取得して職務復帰後、業務を取り上げられ、孤立させられたことが就労環境整備義務違反又は不法行為に該当すること、
④解雇又は雇止めは無効であり、不法行為にも該当すること
等を主張し、

①労働契約上の権利を有する地位の確認、
②解雇後の賃金、事務統括手当及び賞与の支払を求め、
③債務不履行(就労環境整備義務違反)又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料等の支払を求めた。
 
<判断> 
●年次有給休暇請求権の確認の利益 
①原告が既に退職扱いとされていること、
②原告が確認を求めている年次有給休暇の日数は、派遣社員として勤務していた期間も勤務年数として引き継がれていることを前提とするもの

原告の雇用契約上の地位の確認をしたのみでは年次有給休暇の日数を確定することができない
紛争を抜本的に解決するため、年次有給休暇請求権の確認の利益を認めるのが相当
 
●原告の第1子出産後の職務復帰の際に締結されたパート契約の有効性 
①第1子妊娠後の事務統括の引継は、降格には当たらない
育児のための所定労働時間の短縮申出等を理由として解雇等不利益な取扱いをすることは、育児介護法23条、23条の2に反して違法、無効
労働者と使用者との間の合意により労働条件が不利益に変更される場合でも、その合意は、労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要

本件における労働条件の変更は、
労働時間に期間の定めが設けられ、従前の職位であった事務統括に任用されず、賞与の支給がされなくなったなど、原告に与えた不利益は大きい一方で、
Y2は、原告に対し、勤務時間を短くするためにはパート社員になるほかないと説明したのみであり、原告は、釈然としないながらも出産により他の社員に迷惑をかけているとの気兼ねからパート契約の締結に至った

原告の自由な意思によりパート契約を締結したとは認められない
パート契約は無効
 
●原告に対する退職扱いは解雇。
原告の第2子出産後の職務復帰からわずか4カ月後に、軽微な事実を根拠としてされた解雇は無効

不法行為について:
第1子出産後の復帰時に雇用形態を有期のパート契約に変更したこと、
第2子を妊娠した原告に対して退職を強要したこと
原告を解雇したこと
は、育児介護法や雇用均等法が禁止する不利益扱いに当たり、
不利益の内容や違法性の程度等に照らして不法行為を構成する。

事務統括手当額の経済的損失のほか、精神的苦痛に対する慰謝料の請求も認めた

判例時報2426

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2020年2月 9日 (日)

有期契約労働者と無期契約労働者との労働契約の相違が不合理とされた事案

東京高裁H30.12.13    
 
<事案>
一審被告である日本郵便㈱との間で、有期労働契約を締結した一審原告X1からX3までが、無期労働契約を締結しているY社の正社員と同一内容の業務に従事していながら、手当及び休暇の労働条件について正社員と相違があることが労契法20条に違反

正社員の給与規程及び就業規則の各規定がXらにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
労契法 20条施行後について、
主位的に同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき正社員の諸手当との差額の支払を求め、
予備的に不法行為に基づき、同額の支払を求めた。
 
<判断>
次のとおり判断し、
認容額を年末年始勤務手当及び住居手当相当額全額に変更、
休暇の相違に係る損害賠償請求について、病気休暇に換えて無給の承認欠勤を取得した日及び有給休暇を使用した日の賃金相当額の限度で認容。

その余の原判決の結論は維持。
新人事制度において、新一般職を比較対象として労働条件の相違が不合理と認められる場合は、労契法20条に違反することになる。
正社員に対してのみ年末年始勤務手当を支払い、時給制契約社員に対し、当該手当てを支払わないこと及び
新一般職に対して住居手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないことは、不合理であると評価することができる。
正社員に対して夏季冬期休暇を付与する一方で、時給制契約社員に対してこれを付与しないという労働条件の相違及び
病気休暇について、正社員に対し私傷病の場合は有給とし、時給制契約社員に対し無給としている労働条件の相違は、不合理であると評価することができる。
病気休暇の日数の点は、不合理であると評価することができるものとはいえない。
Xらは、年末年始勤務手当相当額及び住居手当相当額の損害を被ったと認められる。

Xらが現実に夏季冬期休暇が付与されなかったことにより、賃金相当額の損害を被った事実、すなわち、Xらが無給の休暇を取得したが、夏季冬期休暇が付与されていれば同休暇により有給の休暇を取得し賃金が支給されたであろう事実の主張立証はない。
X3は病気休暇が無給のため、無給の承認欠勤を取った日の賃金相当額の損害及び有給休暇を使用し、その使用権が消滅した当該日の賃金相当額の損害を被ったことが認められる。
Xらに病気休暇の相違による精神的苦痛の損害が発生した事実は認められない。
 
<解説>
労契法20条については、
最高裁H30.6.1ハマキョウレックス事件
最高裁H30.6.1長澤運輸事件

①有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効
同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない
③同条による「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう、
④同条にいう「不合理と認められるもの」とは、同労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう、
⑤個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき

本判決:
新人事制度において、Xら契約社員と労働条件を比較すべき正社員について、正社員全体と比較すべきか、新一般職のみを対象とすべきかの観点から検討し、
新一般職は地域機関職とは連続性がない格別の職員群⇒新一般職を比較対象。

一審判決:
①年末年始勤務手当について
長期雇用への動機付けという意味がないとはいえない⇒正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえない
⇒正社員への支給額の8割相当額を損害と認めた
②住居手当の相違について、
正社員に対する長期的な勤務に対する動機付けに向けた福利厚生の面も含んでいる⇒正社員への支給額の6割相当額を損害として認めた。
but
本判決はそれを採用せず、手当相当額全額を損害と認めた。
判例時報2426

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2020年2月 8日 (土)

売上げの過大な不正計上や分配可能利益を超える剰余金の配当等と代表取締役の監視義務違反及び内部統制システム構築義務違反(いずれも否定)

東京地裁H30.3.29    
 
<事案>
学習塾の経営等を行うことを目的とする上場企業である株式会社A(「A社」)の株主であるXが、A社が平成21年2月期から平成25年2月期までの有価証券報告書等に売上げを過大に不正形状した虚偽記載があるとして金融庁長官から課徴金納付命令を受けた⇒A社の代表取締役を勤めていたYには本件不正会計等を防止するための監視義務及び内部統制システムを構築すべき義務を怠った善管注意義務違反・忠実義務違反並びに違法配当等に係る責任がある

Yに対し、
①会社法423条1項に基づき、前記課徴金の支払に係る損害及び違法配当等に係る支払額等の合計49億1237万4523円及び
②会社法462条1項に基づき、①の金額の一部42億3396万5000円並びにこれらに対する遅延損害金をA社に対して支払うよう求めた株主代表訴訟。 
 
<規定>
会社法 第四二三条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

会社法 第四六二条(剰余金の配当等に関する責任)
前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
・・・・
2前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。
 
<主張>
Yは本件不正会計やその兆候を認識しながら黙認⇒Yに監視義務違反があり、また、Yには内部統制システム構築義務違反がある 
 
<判断> 
●監視義務違反
本件不正会計より前の会計年度である、平成17年6月期、平成18年8月期(中間期)及び平成19年2月期について、当時の会計監査人であったD監査法人から学習塾の売上げの不正計上を指摘等されていた。
but
①Yは、平成16年頃から既存事業の経営をP3に、管理業務をP1にそれぞれ委ねて自身は新規事業の立ち上げに注力
②平成19年2月期の売上げ不正計上についてD監査法人から直接指摘を受け、慌てて事実関係確認のためにP3及びP1並びにブロック長から事情を聴取

Yが平成17年及び平成18年のD監査法人の指摘等を認識していたということはできない(これらについては、D監査法人からYには報告されていないと認定)。

その後、D監査法人に代わって会計監査人に就任したF監査法人は、本件不正会計の対象会計年度である平成21年2月期から平成24年2月期の監査に当たり、学習塾の売上げについてP3らに各教室の管理を徹底するよう指導するなどし、平成25年2月期の監査においては、売上計上を減額修正するよう指導。
but
Yは、平成20年4月以降P3に代表取締役社長の職を譲り、F監査法人からの前記指導等については、現場で教室運営や財務会計を担うP3及びP1が対応していた
Yが代表取締役であったことをもって直ちに本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたと認めることもできない

Yは、平成25年2月頃、売上の不適切な計上を告発する匿名の手紙を受領し、P1に調査を命じたことがあったが、P1は、P2に調査させた結果売上げの不適切計上の事実が確認されたにもかかわらずこれをYには報告せず、問題はなかった旨の虚偽の報告を行った。
同内部告発の事実をもってYが本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたと認めることもできない

Yが本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたにもかかわらずこれを黙認した旨のXの主張は、その前提を欠く
Yに監視義務違反があるとは言えない

●内部統制システム構築義務違反 
①Yは平成19年に売上の不正計上を知った直後から、事実確認のためP3らに対する事情聴取を実施し、不正計上に関与したブロック長を処分するとともに、P3に再発防止委員会を設置させた再発防止策を検討させた、
②同委員会の報告を受け、F監査法人等からの助言を受けて「G」と呼ばれる、売上計上の基礎となる授業の実施数を正確に管理集計するシステムを導入
③Gの導入後、平成19年の不正会計の手法(次期に実施する予定の授業の売上げを先取りして計上するなどの方法)を用いた売上げの不正計上はできなくなった
④本件不正会計は平成19年に発覚した不適切な会計処理とはまったく異なる要因に基づいて発生したもの

Gを導入した当時において、本件不正会計の手法を用いて不正会計が行われるということは通常想定されるものではなくYが導入したGは、平成19年の売上不正計上が発覚した当時に想定された不正行為を防止する程度に機能を有していた

①Yは平成19年の売上げ不正計上の発覚を受け、内部監査室の体制を強化して内部監査室長1名を配置
従業員に対する研修等において平成19年の件に言及
目安箱を設置して従業員の意見が直接Yに届くようにするなどの措置を採った
④A社においては平成19年以前から社外監査役による監査体制や文書の保存体制等が整備されていた
平成20年2月期以降、Yは本件不正会計の事実又はその兆候を知ることができず、前記体制をさらに強化すべき状態にあったとはいえない

Yの整備した内部統制システムは、A社の事業の内容、規模等に照らして、通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を具えていた
(尚、代表取締役の内部統制システム構築義務の具体的内容や義務違反の判断基準を示した最高裁H21.7.9(判事2055・147)の判断枠組みに拠って検討、判断)

Yに内部統制システム構築義務違反があったとするXの主張は採用することができない

● 会社法462条1項に基づく責任 
Yが上記の通り内部統制システムを整備したこと等の事実⇒Yは本件不正会計の事実を知らなかったというべき

A社においてはもともと
①公認会計士や税理士の資格を有する社外監査役3名を含む4名の監査役が選任されて監査にあたっていた
②Yは平成20年2月期から会計監査人となったF監査法人から監査に問題があるなどの報告を受けたことがなかった
A社の教室別経営分析会議においてYに報告された売上高等の数値は改ざんされたものであった
財務会計を含む管理業務をP1に委ねて新規事業の立ち上げに注力していたYが、監査役会や会計監査人の監査を経た財務諸表等に経理上の不正があることを発見することは困難であった。
Yには本件剰余金の配当等が分配可能額を超えることについて注意義務違反はなかった

「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(会社法462条2項)と言えるから、会社法462条1項の責任は認められない。


Y:本案前の抗弁として、
Xが、本件不正会計が報道され株価が急落した後にA社の株式100株(最小単位)を取得⇒本件訴えは「当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合」(会社法847条1項ただし書)に該当すると主張
but
同主張は理由がないとして退けた。
判例時報2426

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2020年2月 7日 (金)

著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たると認められないとされた事例

東京地裁H31.4.16    
 
<事案>
Xが、未発表であったX創作に係る楽曲の一部をYらが共同してXの許諾なくテレビ番組内で放送⇒Xの公衆送信権及び公表権を侵害したと主張し、
Yらに対し、民法719条及び著作権法114条3項に基づき、
損害賠償金の連帯支払を求めた。 
 
<争点>
①本件楽曲の放送は時事の事件の報道のための利用(著作権法41条)に当たるか
②正当業務行為等により公表権侵害の違法性が阻却されるか
③公表権侵害による慰藉料の額 
 
<判断>  
●争点① 
Y主張:
本件楽曲は、視聴者がXによる覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための材料であって、捜査機関がXを覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であるという事実の事件を構成するもの。
vs.
本件楽曲は、捜査機関がXが対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという時事の事件が報道された際に放送されたものであるものの、本件楽曲はその主題となるものではないし、かかる時事の事件と直接の関連性を有するものでもない時事の事件を構成する著作物に当たるとは認められない

Y主張:
本件楽曲は、Xが執行猶予期間中に更生に向けて行っていた音楽活動の成果物であって、「Xが有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という時事の事件を構成するもの。
vs.
本件番組中におけるXの音楽活動に関する部分は、捜査機関がXに対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることを報道する中で、ごく短時間に、断片的に紹介する程度にとどまっており、本件楽曲の紹介自体も、Xがそれまでに創作した楽曲とは異なる印象を受けることを指摘するものにすぎず、それ以上にXの音楽活動に係る具体的な事実の紹介はない

同部分が「Xが有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という「時事の事件の報道」に当たるとはいえない。
 
●争点② 
Y主張:
本件楽曲の公表は、捜査機関が覚せい剤使用の疑いでXに対する逮捕状を請求する予定であることを報道する差し迫った状況において、有罪判決後のXの音楽活動や更生に向けた活動等を具体的に報道するととともに、Xによる覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための材料を視聴者に対して提供することを目的として行われた
⇒著作権法41条の趣旨の準用、正当業務行為その他の事由により違法性が阻却される。
vs.
①本件番組ではXの音楽活動にごく簡単に触れたに止まり、
②具体的な事実の紹介もなく、
本件楽曲がXによる覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための的確な材料であるとも認められない
⇒Yらの主張は前提を欠く。
 
●争点③
①Xが本件楽曲を創作した目的に即した時期に本件楽曲を公表する機会を失った
②本件楽曲が、捜査機関が覚せい剤使用の疑いでXに対する逮捕状を請求する予定であるという報道に関連して紹介された⇒その視聴者に対してXが本件楽曲を創作した目的とは相容れない印象を与えることとなった

公表権侵害に対する慰謝料の額は100万円が相当

Xは、本件番組において、Xが覚せい剤の使用により精神的に異常をきたしたかのような報道をされたことにより、精神的苦痛を受けた旨主張
vs.
本件請求はあくまで本件楽曲に係る公表権侵害を理由とするもの⇒公表権侵害の方法・態様として評価し得る事情の限度で考慮するにとどめるのが相当
 
<規定> 
著作権法 第四一条(時事の事件の報道のための利用)
写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる
 
<解説>
本件は著作者人格権のうち公表権のみが侵害された事例。
著作者人格権のうち氏名表示権や同一性保持権の侵害、あるいはこれらの権利と公表権の侵害について慰謝料を認めた裁判例はあるが、
公表権のみの侵害について慰謝料を認めた先例は見当たらない。
判例時報2426

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投資名目で行われた美容機器付音響機器等の連鎖販売取引等

名古屋地裁H31.4.16     
 
<事案>
株式会社であるY1との間で、平成23年9月18日から同年12月17日にかけて4回にわたり、連鎖販売取引の一環として美容機器付音響機器等の売買契約を締結したXが、Y1、Y2(Y1の代取)及びY3(Y1の元取締役であり、Y1の会長を名乗っていた者)に対し、
主位的には不法行為又は会社法429条1項に基づき
予備的には不当利得(特定商取引法(法)40条1項に基づくクーリング・オフによる解除、詐欺、錯誤)又は使用者責任に基づき、
売買代金相当額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<主張>
①Y1の事業(連鎖販売取引)が無限連鎖講の防止に関する法律で禁止されている無限連鎖講に当たる⇒4回の取引はいずれも無効
3回目及び4回目の取引は、Y1の従業員らからY1に対する投資である旨の説明を受け、出資のつもりで行ったもの⇒違法
②各取引の際に交付された書面には不備があり、法37条2項に規定する書面が交付されたとはいえないクーリング・オフによる解除が認められる。
 
<判断>
●①について 
本件で行われた連鎖販売取引自体は公序良俗に反しない
but
投資名目で行われた取引については、真実は連鎖販売取引(したがって、Xは新規会員を勧誘しなければ支出した金額を回収することができないこととなる)
これをY1に対する投資であるとして、あたかも毎月分配金が得られるかのように事実と異なる説明をし、Xを誤信させた点については違法
このような勧誘行為は会社ぐるみで行われていた⇒Y1については民法709条、Y2及びY3については共同不法行為の責任を認めた。
 
●②について 
クーリング・オフ制度の趣旨を踏まえ、契約書面には、連鎖販売取引の仕組みの基本である特定負担や特定利益について、最大もらさずすべての記載を尽くすことはもちろん、新規加入者においてその内容が理解できるように記載されていることが必要。
本件では、各取引の際に交付された書面には記載されていない特定利益が発生していたり、源泉所得税と事務手数料が控除されていたりするなど、
特定利益の内容をとして必要な事項が記載されていない上、
特定利益を計算するための前提である会員の資格取得方法に関する記載が不十分であるなど、
その記載から特定利益の内容を加入者が理解することは著しく困難であり、重大な不備に当たる

実質的に契約書面と評価できず、法40条1項の定めるクーリング・オフ期間が経過していない⇒クーリング・オフによる解除が認められる
 
●損害額 
Y1からXに支払われた金員を損益相殺として損害額から控除することは民法708条の趣旨に反し許されない
but
前記①で違法とは評価されなかった取引(2回目の取引)によってY1からXに支払われた金員(2万円)については、その分をXの損害額から控除するのが相当。
 
<解説> 
●契約書面(法37条2項)における特定利益の記載の程度 

特定利益:
「その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部」(法33①)

契約書面においては、特定利益に関する事項、具体的には、
①特定利益の計算の方法、
②前記①のほか、特定利益の全部または一部が支払われないこととなる場合があるときは、その条件、
③前記①②のほか、特定利益の支払の時期及びその方法その他の特定利益の支払の条件
を記載しなければならない。
(特定商取引法施行規則29条5号、30条1項7号)
判例時報2426

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2020年2月 6日 (木)

褥瘡の発生を防止すべき義務及び褥瘡を適切に治療すべき義務を怠った過失が肯定された事案

東京高裁H30.9.12    
 
<争点>
Yの過失の有無 
 
<原審>
①Aは褥瘡発生のリスクが高い患者であり、本件病院の医療従事者が褥瘡発生防止のための対策を行なうべき一般的な義務がある
②本件病院の医療従事者は、Aに対し、体位交換を最低2時間ごとに実施し、体圧分散寝具を使用し、皮膚に異常がないか観察すべき義務を負う。
③本件病院では、2時間を空けない体位交換がルーティンワークとして実施されず、通常のマットレスを使用
Aの褥瘡発生を防止すべき義務を怠った

④本件病院では、褥瘡認識後も通常のマットレスを使用し、褥瘡診断以降に細菌検査を行わず、黒色壊死や一部肉芽があるのに壊死組織の除去を実施しなかった⇒適切な治療を行うべき義務を怠った。

前記過失がなければ、Aに褥瘡が発生しⅣ度まで悪化する事態も他院での治療を受けるなどの事態も避けることができた高度の蓋然性がある。
⇒過失と損害発生との間に因果関係がある。

⑤その損害は、本件病院、他院での治療関係費及び慰謝料等合計668万2956円。
 
<判断>
原審の判断は相当。 
判例時報2426

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政務活動費等の使途基準の適合性が問題となった事案

静岡地裁H31.2.15     
 
<事案>
静岡市の住民であるXらが、
同市の市議会議員団であるAが、
現在の同市に属する地区の出身で静岡茶の祖とされる聖一国師に関する小冊子を作成及び配布することを目的として、同市から交付を受けた政務調査費ないし政務活動費を違法に支出

同市に対してその支出額に相当する金員を損害賠償として支払い、又は不当利得として返還すべき義務を負うにもかかわらず、同市の執行機関であるY(静岡市長)は、その行使を怠っている
⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、Aに前記支出額に相当する金員及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するよう求めた住民訴訟。 
 
<判断> 
●静岡市の条例や規則等において、政務調査費の使途基準として、
「広報費」につき「調査研究活動、議会活動及び市の政策について住民に報告し、又は広報するために要する経費」
「広報広聴費」につき「政務活動及び市政について住民に報告するために要する経費」
と定めている。 

  静岡市における政務調査費及び政務活動費(合わせて「政務活動費等」)の支出について、政務活動費等の交付を受けた会派又はその所属議員は、これを本件使途基準に合致する経費に充てるために支出しなければならず、
これに合致しない経費に充てるために支出した場合は、法律上の原因なく、静岡市の損失において利益を受けたことになる⇒これに相当する額を不当利得として返還すべき義務を負う。

政務活動費等の交付を受けた会派又はその所属議員が本件使途基準に適合しない使途に充てたことにつき故意又は過失がある場合には、静岡市に対し、これに相当する損害賠償義務を負う。
具体的な政務活動費等の支出が本件使途基準に合致するというためには、本件使途基準の文言や、支出の対象となる行為の客観的な目的や性質に照らして、当該行為と、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動ないし政務活動との間に合理的関連性が認められることに加え、
支出の要否及び支出額等の点については、会派又は所属議員に一定の裁量権があることを考慮した上で、政務活動費等として支出する必要性、相当性が認められることを要する
   
本件冊子の作成の経緯や本件冊子の内容等

①Aの議員らによる聖一国師に関する調査研究の成果は、本件冊子に反映されている
②本件冊子は、Aが、静岡市の偉人である聖一国師について調査研究した事項を静岡市の住民に示すことを目的として作成されたもの
③関係法令等の文言に照らして、本件各支出のうち、前記の目的に沿う形で支出されたものについては、「住民に報告するために要する費用」として、「広報費」ないし「広報広聴費」に当たり、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を有する

これをもって、本件使途基準に反する支出ということはできない。

Aが各団体等を通じて静岡市の住民に配布したもの

前記の目的に沿うものとして、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を有する上、支出する必要性もある⇒本件使途基準に適合する支出。
but
Aが、直接に、福岡市や京都市等の市街団体へ配布するために本件冊子に係る政務活動費等を支出することは、市街団体に対し、静岡市を宣伝(PR)することを目的として本件冊子を配することを内容とする行為⇒同支出は、広報費のうちの住民に報告するために要する経費ないし広報広聴費に当たらないものと解するのが相当。

本件冊子を通して、聖一国師や静岡茶が静岡市の魅力として訴求力があるかどうかを調査研究すること自体については、一般論として、調査研究としての必要性・合理性を肯定し得る。
but
本件において、実際に、Aの議員らが、本件冊子を静岡市外に配布した後、配布先において、実際に、Aの議員らが、本件冊子を静岡市外に配布した後、配布先において何部配布され、どのような反応があったのか、本件冊子を通して静岡市の魅力がどの程度伝わったのかなどについて、具体的に調査を行っていたことw認めるに足りる証拠はない、。
⇒静岡市外へ配布するための本件冊子に係る支出が、政務活動費の使途基準のうちの「調査研究費」(議員の議会活動の基礎となる調査研究のための費用)に該当する支出として必要性・合理性があったということはできない。

Aが直接に静岡市外に配布したものと認められるものに係る支出については、政務活動費の使途基準に反する支出である。

判例時報2426

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2020年2月 5日 (水)

収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が不当利得返還義務を負わない場合

最高裁H30.11.16    
 
<争点>
収支報告書に記載された支出のうち一部は実際に存在しない架空のもの。
but
本件会派の収支報告書上の支出総額が、政務活動費等の交付額を大きく上回っており、支出総額から架空のものとされた支出を差し引いても、なお支出総額が交付額を上回っていた⇒このような場合も不当利得が成立するか?
 
<判断>
政務活動等につき、具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費等を負う付すべきものとは定めておらず、年度ごとに行われる決定に基づき月ごとに一定額を交付し、年度ごとに収支報告を行うこととされ、
その返還に関して当該年度における交付額から使途基準に適合した支出の総額を控除して残余がある場合にこれを返還しなければならない旨の定めがある新旧条例に基づいて交付された政務活動費等について、
その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該年度において、収支報告書上の支出の総額から実際に存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は、県に対する不当利得返還義務を負わない。 

本件会派の本件各年度における各収支報告書上の支出の総額から本件各支出を控除した額は、それぞれの年度における政務活動費等の交付額を下回ることとはならない⇒本件会派が不当利得返還義務を負うものとはいえない。
 
<解説>
●政務活動費等に関する条例の定め 
政務活動費について、地自法は、わずかに、
①議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として政務活動費を交付することができ、その経費の範囲は条例で定めること、
②収入及び支出の報告書を議長に提出すること、
③議長は使途は透明性の確保に努めること
のみを定めており、
交付、収支報告、清算の具体的な手続は各地方公共団体の条例に委ねられている。

神奈川県の新旧条例:比較的オーソドックスなもの
年度ごとに行われる交付決定に基づいて、一定期間ごとに一定額を交付し、年度末に収支報告、清算を行った上で、交付額から適法な支出額を控除して残余がある場合に返還義務が生ずるというもの。

具体的な支出に対応させてその都度交付されるのではなく、いわゆる概算払い方式がとられている

●民法703条の不当利得返還請求権の成立要件:
①損失
②利得
③損失と利得の間の因果関係
④利得が法律上の原因に基づかないこと

政務活動費等法律上の根拠:
政務活動費等は、地自法及び条例上、その使途を限定して交付されるものであり、使途基準に適合する支出を行った結果残余が生じた場合には当然に返還すべき性質のもの

「交付を受けた政務活動費等のうち、使途基準に適合する支出に充てていない部分がある」場合には、その部分については、④法律上の原因に基づかない利得となろう

本件返還規定は、これを返還すべきことを明確にしたもの。
●所定の支出が実際には存在しないにもかかわらず架空の領収証を提出したような場合には、これが違法な支出のために政務活動費等を取得するものであり、そのように取得された政務活動費等は前記④法律上の原因に基づかない利得であるとの評価が可能であるか?
政務活動費等の交付にあたって具体的な使途を個別に特定することなく、概算払いをして、年度ごとにまとめて生産することにより透明性を確保⇒年度末に虚偽内容の領収証を提出したとしても、交付の段階で「架空の支出のために政務活動費等を取得した」と評価することは困難

●政務活動費等に関する条例に、本件返還規定のように残余について返還義務があることをいう規定とは別に、違法な支出が認められた場合等に返還義務を定める規程が存在する場合等には、異なる結論となる可能性は否定できない。 
判例時報2426

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2020年2月 4日 (火)

間接事実を総合して被告人を犯人と認定し、死刑判決の事案

東京高裁H30.7.30    
 
<事案>
干物店の元従業員であった被告人が、その干物店内において、経営者Aと従業員Bを殺害し、現金約32万円を強取したという強盗殺人の事案。 
事件当日に再就職依頼のために干物店を訪れたことは認めた。
自白なし。

検察官が主張した情況証拠:
事件直後に被告人が所持していた金員の禁酒と金額が被害者の金種と金額に類似
防犯カメラとタクシーのドライブレコーダーによって認められる被告人所有車両の現場の駐車時間が犯行時間帯と合致
 
<原審>
有罪認定で
死刑判決
 
<判断・解説>
●犯人性等についての弁護人の主張を排斥
量刑不当の主張も排斥
「その認定・判断の中核的な部分には、論理則、経験則等に照らして概ね不合理な点はなく、当裁判所としてのその結論は是認できる」

●殺害犯人と被告人との同一性 
駐車していた車両について、控訴審で供述を変更。
(原審において被告人は弁護人にはその旨の説明をしていたが防御方針として敢えてその主張はしなかった)

●量刑不当 
「本件のような死刑選択の当否が問題となる重大事案においては、極刑からだけは逃れたいとの強い欲求から虚偽の弁解をすることは被告人の心情としてはある程度やむを得ないところであって、非難を強める事由としてこの点を重視するのは相当ではないが、結果として反省の情が認められず、犯行後の事情に何ら有利に斟酌すべき点がないという限度では、当然考慮すべき事情となるといえる
判例時報2425

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2020年2月 3日 (月)

モデルチェンジと3年の保護期間(不正競争防止法19条1項5号イ)の起算点

知財高裁H31.1.24      
 
<事案>
X(控訴人・一審原告)が、Y(被控訴人・一審被告)の販売するサックス用ストラップが、Xの販売するサックス用ストラップの形態模倣に該当⇒Yに対し、不正競争法3条に基づき、被告商品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、同法4条、5条2項に基づき、880万円の損害賠償を求めた。 
 
<原審>
原告商品の形態のうち不正競争法2条1項3号の保護を受けるのは、モデルチェンジ前の商品の形態を実質的に変更した部分に基礎を置く部分に限られる。
前記部分と被告商品のうち前記部分に対応する部分とは、実質的に同一であるとはいえず、被告商品が原告商品に依拠したということもできない。

Xの請求をいずれも棄却。 
 
<解説・判断>
●不正競争法2条1項3号:
個別の知的財産権の有無にかかわらず、他人が商品化のために資金・労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらずことさら完全に模倣して、何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為を「不正競争」と位置づける。

①先行者が資金・労力を投下して商品化した成果にフリーライドすることが競争上不正と観念される。
②模倣を禁止するのは先行者の投資回収の期間に限定することが適切。

日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品については、不正競争法2条1項3号の保護は及ばない(同法19条1項5号イ)。 
 
●本件:
被告商品の販売開始日:
原告商品が最初に販売された日から3年以内であったが、
原告商品のモデルチェンジ前の商品である旧原告商品が最初に販売された日から3年以上が経過。
⇒原告商品の販売日と旧原告商品の販売日のいずれが保護期間の基準時となるか? 

本判決:
原告商品と旧原告商品を対比すると、需要者が注意を引きやすい特徴的部分であるV型プレートの形態が相違
⇒原告商品から受け取る商品全体としての印象と旧原告商品から受ける商品全体としての印象は異なる
⇒原告商品の形態は、商品全体の形態としても、旧原告商品の形態とは実質的に同一のものではなく、別個の形態
原告商品の販売日が保護期間の基準時
 
不正競争法2条1項3号によって保護される商品形態は、いかなる範囲か? 
原判決:商品の形態において実質的に変更された部分に基礎を置く部分に限られる。
本判決:不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商品の形態」とは、商品全体の形態をいう。
原告商品の形態と被告商品の形態とを対比すると、商品全体としての印象が共通し、その形態は実質的に同一。
 
モデルチェンジの前後で実質的に同一とはいえない
保護期間の起算点は、モデルチェンジ後の商品の販売時となるし、
保護される範囲は、商品全体 

不正競争法2条1項3号については、商品の一部のみ保護対象となることはないとの解釈が一般的。

判例時報2425

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2020年2月 2日 (日)

元県副知事による県職員採用試験における合格口利きの疑惑と、それについての名誉毀損が問題とされた事案

那覇地裁H30.12.11    
 
<事案>
元県副知事であるXによる教員及び学校事務職員採用試験における合格口利きの疑惑について、

X:Y(元県教育長)に対し、Yが本件口利きの事実を記載した内容虚偽の文書を作成して県に提出するとともに、当該事実に係る情報を新聞社に提供するなどしたために、自身の名誉が毀損された⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。 

Y:反訴として、Xが前記文書の内容が虚偽であるなどとする記者会見⇒自身の名誉が毀損された⇒不法行為に基づく損害賠償及び謝罪広告を求める。
前記文書の内容が虚偽であるとして本訴事件を提起し、Yを名誉毀損罪で告訴したXの各行為は、いずれも不法行為に当たる⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。
 
<争点>
①本件口利きの事実の真実性の有無
②X及びYによる名誉毀損行為の有無
③謝罪広告の要否
④Xによる本訴事件提起と告訴の違法性 
 
<判断>
本件口利きの事実は真実
Xの記者会見によってYの名誉が毀損⇒Xの不法行為責任を認める
but謝罪広告の必要性は否定
Xによる本訴事件の提起と告訴についても、著しく相当性を欠き違法⇒不法行為の成立を肯定 
 
<解説>
●本件口利きの事実の有無については、当事者であるX及びYの他にはこれを直接見聞きしたとされている者はいない
本件口利きについての直接証拠であるYの供述の信用性を子細に検討し、結論としてその信用性を肯定。 
 
●Xによる名誉毀損の有無 
Xは記者会見の場において、本件口利きの事実を記載したY作成の文書を虚偽であるとして、「Yの説明は真実ではなく作り話である」旨述べている。

本判決:
Xの言論の自由にも一定の配慮を示したものの、結論として、Xの行為は、一般人をしてYの品行・徳性について疑念を抱かせ得るものであり、違法な名誉毀損行為

判例:
自己の正当な利益を擁護するために、やむを得ず他人の名誉・信用を毀損した場合でも、かかる行為は、その他人の行った言動に対比して、その方法・内容において適当と認められる限度を超えない限りは違法性を欠くとされている。
 
●謝罪広告の要否 
Yの謝罪広告の請求は棄却。
民法723条の趣旨が、金銭による損害賠償のみではてん補できない、毀損された人格的価値に対する社会的、客観的評価を回復することを可能ならしめる点にある(最高裁)

謝罪広告の請求を認めるには、金銭による損害賠償のみではてん補できない程度に名誉が毀損されていることが必要
but
本件ではその程度に至るまでの名誉毀損は認められないとしたものと思われる。
 
●Xによる本訴事件提起及び告訴の違法性の有無 
判例上:
訴えの提起については、提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときには、不法行為を構成。

本判決は、同最判の趣旨を本訴事件提起のみならず告訴にも及ぼしたもの。
判例時報2425

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アスベスト国賠訴訟での遅延損害金の起算点

福岡地裁小倉支部H31.3.12     
 
<事案>
アスベスト国賠訴訟については、国が、泉南アスベスト第2陣訴訟の最高裁判決の判断に従って、訴訟上の和解の方法により被害者に対し損害賠償を負う旨表明。
争点は、遅延損害金の起算点。
 
<解説>
不法行為に基づく損害賠償請求債務は、損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅滞に陥る。
このことは、国賠法に基づき国が損害賠償義務を負う場合についても同様

本件における問題は、石綿由来の肺がんについて、その損害発生の時期を何時と認めることができるか。 
 
<判断>
じん肺が粉じんの肺組織への貯留等により肺の固化などが生じる疾病であって、進行程度が予測困難とされている
but
石綿由来の肺がんは、その診断に石綿肺の存在を前提としないことや、石綿そのものが悪性腫瘍の原因となることが指摘されている

石綿由来の肺がんがじん肺と同様に進行程度が予測困難である疾病であると認めることはできない

管理区分決定や労災認定といった行政上の決定がなくとも、その診断日において肺がん発症という損害発生を認定することができる

診断日を起算点とする遅延損害金の支払を命じた

判例時報2425

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2020年2月 1日 (土)

私立高校の柔道部における生徒間のいじめ⇒加害者らの共同不法行為を肯定

福島地裁H31.2.19     
 
<事案>
私立高校の柔道部に所属するXが、同部に所属する同級生であるYらから、継続的かつ執拗にいじめを受けていた⇒うつ状態等になった⇒Yらに対し、共同不法行為に基づき、眼鏡買替費用、通院交通費用、診断書費用及び慰謝料及び逸失利益等の損害賠償を求めた。 
 
<判断>
Xの供述は、客観的証拠及びYらの供述等から認定できる事実と概ね整合し、信用することができる。
⇒Yらが、平成26年7月頃から平成28年12月12日までの間、Xに対し、継続的かつ執拗に嫌がらせ等の言動をしていたことが認められる。 

Yらによる前記言動は、一般的に被害者に恐怖感や嫌悪感を抱かせたり、人格を否定するものであった上、単発ではなく1年以上にわたって継続的かつ執拗に行われていた
⇒悪ふざけの限度を超えたいじめに該当するものであり、不法行為を構成する違法なもの。

Yらは必ずしもすべての行為を共に行っているわけではない
but
Yらがいずれも柔道部に所属し、他の者のいじめ行為に対してXが抵抗できないでいる状況を相互に認識した上で、そのような状況を踏まえて自らもXに対するいじめ行為に加担
Yらは、一連のいじめ行為を共同して行っていたものと認めるのが相当

損害について:
眼鏡買替費用、通院交通費用、診断書費用及び慰謝料(150万円程度)は、前記不法行為により生じたものと認められる。

逸失利益:
Xのいじめ告白後の通学・進学状況や生活状況など
⇒Yらの前記いじめ行為によるうつ状態等によってXの就職が遅れたとはいえず、前記不法行為により生じたものとは認められない。
判例時報2425

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冬季に凍結していた道路で大型トレーラーが滑走したため発生した交通事故⇒道路の設置又は管理の瑕疵が争われた事案

名古屋地裁H30.3.6    
 
<事案>
X1(運送会社)の従業員が運転していた大型牽引貨物自動車(大型トレーラー)が、Y(滋賀県)の管理する国道を走行中、凍結路面で滑走し、道路を塞ぐ格好で停車⇒後続車両6台が次々に衝突

X1が、Yに対し、道路の設置、管理に瑕疵があったと主張し、国賠法2条1項に基づき損害賠償を請求。 
 
<主張>
X1:
本件道路の設置又は管理に瑕疵⇒
主に
①本件装置の誤作動(降雪のない状態で散水を続けた)
②本件道路の排水能力の欠如
③グルーピング舗装は凍結防止策として不十分
 
<判断>
●最高裁判決等⇒
国賠法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいう。
道路管理者は、自動車運転者に社会通念上要求される一般的な運行態度を前提として、予見し得る道路の危険性の有無や程度に応じた管理を行なえば足り、それにもかかわらず発生した危険については、管理者に設置又は管理上の瑕疵について責任を問うことはできない。

●本件融雪装置:
本件装置が誤作動することは考えにくいというYの主張を容れ、
①本件事故現場付近において降雪がない状態で本件装置が誤作動したとは認められない
②本件装置が、降雪が止んだ後も気温が1度になるまで散水を継続する点についても、路面凍結を防ぐため合理的なもの

本件装置の設置及び作動によって、本件道路が通常有すべき安全性を欠いているとはいえない。

●本件道路の排水能力:
①本件道路の排水能力は、本件装置による散水量よりも多量となる降雨流入量を想定して設置されている
②本件道路の傾斜度、水抜き穴の排水量、道路脇に設置されている排水路の排水能力について検討

排水能力の点でも本件道路は通常有すべき安全性を欠いていない。 

●グルービング舗装等:
降雪があった場合に本件装置が作動して散水すると、水分が付着して、道路の凍結状態を生ずるおそれがある
but
Yは、それを防止するため、排水機能を備えたグルービング舗装を行い、凍結防止剤を散布するなどの種々の対策を講じている
⇒事故防止対策は十分機能しており、グルービング舗装が劣化しているとはいえない。 
①冬季に平均気温が氷点下になる地域においても除雪方法として散水融雪装置によることも排除されていない
②本件道路では路面凍結による事故の頻度が高いとは言えない
③他にも散水融雪装置の設置より高額の費用を要するロードヒーティングを本件事故現場付近に優先して設置しなければならないほど、凍結による事故発生の危険が本件道路にあるとは認められない

ロードヒーティングによる凍結防止策をとっていないことをもって、本件道路が通常有すべき安全性を欠くものではない。
 
<解説>
国賠法2条1項の「瑕疵」について
最高裁:
国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、
当該営造物の使用に関連して事故は発生し、被害が生じた場合において、当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき

被害者の行動との関係における設置管理者の責任のあり方:
当該事故が営造物の通常の用法に即しない行動の結果生じた場合において、その営造物として本来具有すべき安全性に欠けることなく、前記行動が設置管理者において通常予測することのできないものであるとき
⇒当該事故は営造物の設置管理の瑕疵によるものであると言うことはできない。

最高裁H22.3.2:
道路の設置又は管理の瑕疵を判断する場面において、「そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり」と判示
予算的制約面も考慮要素とすることを肯定
判例時報2425

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