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2020年1月 2日 (木)

「交通事故で軽症の外傷性視神経症を発症⇒左眼失明⇒糖尿病増悪で右足膝下切断」について相当因果関係を肯定した事案

東京高裁H30.7.17    
 
<争点>
①本件事故と左眼失明との因果関係・素因減額
②本件事故との左膝下切断の傷害との因果関係・素因減額 
 
<判断>
●争点① 
①亡Aは、本件事故による左頭部又は顔面の打撲によって、左眼外傷性視神経症を発症
②その外傷性視神経症は、非典型例(軽症例)であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかった
③しかし、亡Aは、本件事故前から、増殖性糖尿病網膜症、慢性腎不全、右下肢閉塞性動脈硬化症等の合併症を伴う重篤な糖尿病に罹患しており、視神経内血管にも糖尿病による障害が存在していた、
④そのため、外傷性視神経症によって視神経管内に出現した血管性浮腫の治癒が遅延し、視神経繊維に対する障害が持続した結果、進行性の視覚障害が出現し、最終的に左眼失明にまで至った

本件事故と左眼失明との間には因果関係がある

素因減額について:
①本件事故によって発症した外傷性視神経症は軽症例であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかったところ、
②亡Aが重篤な糖尿病(既往症)に罹患しており、視神経内血管に糖尿病による障害が存在していたために、最終的に左眼失明にまで至った

既往症が左眼失明に寄与した割合は5割
 
●争点② 
亡Aの右足膝下切断は、本件事故後、糖尿病の合併症である右下肢閉塞性動脈硬化症の増悪によって、右足の人差し指に壊疽を発症したことによるもの。
右下肢閉塞性動脈硬化症の重症度は、本件事故当時、「壊疽」までには重症化しておらず、本件事故の約半年後においても特別に重症化していなかった
②しかし、左眼を失明したことから、単独歩行が困難になり、歩行機会を喪失したことが間接的な要因となり、また、心不全を発症して入院し、極端な運動低下に陥ったことが直接的な要因となって、閉そく性動脈硬化症の危険因子である糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、右足人差し指に壊疽を発症

本件事故と右足膝下切断との間には因果関係がある

素因減額について:
①右足膝下切断は、糖尿病(既往症)の合併症である閉塞性動脈硬化症の増悪を原因とする上、
②本件事故によって、外傷性視神経症を発症し、左眼を失明したために、糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、右足の人差し指に壊疽を発症

既往症が右足膝下切断に寄与した割合は8割とするのが相当。
 
<解説>
●因果関係 
本件は、
頭部等を打撲⇒外傷性視神経症の発症⇒左眼失明⇒歩行機会の喪失・運動低下⇒糖尿病(既往症)の増悪⇒下肢血行の重症化⇒右足膝下切断
という因果の連鎖・流れがある事案。
糖尿病増悪には心不全による入院による極端な運動低下とうい要因もあった。

相当因果関係まで認められるか、微妙な事案。

亡Aには、外見上左頭部や顔面に明らかな外傷がなかった⇒外傷性指針軽症の発症と本件事故との因果関係も争点。
but
①亡Aが乗車していたタクシーが大破していること
②亡Aが負った障害の程度、本件事故直後の意識障害の状態など
⇒因果関係を肯定。

相当因果関係が認められた事例
①事故前から肝性脳症に罹患しており、事故により腹部打撲内出血等を負った者が53日後に肝硬変で死亡した事例
②糖尿病の罹患していた者が、事故により左大腿骨・左肋骨骨折等のストレスからくる糖尿病性視力障害となり、右視力障害と事故との相当因果関係が認められた事例
③多発性空洞性脳梗塞を患っていた者が、バス降車中に扉に挟まれ左肘打撲症から、右脚関節症を発症し、脳梗塞・右片麻痺となった事案について因果関係を認めた事例
④糖尿病の既往症がある者が、玉突き事故により頸椎捻挫等の傷害を負い神経因性膀胱を発症した事例
 
●素因減額 
当該被害者が有していた身体的特徴が損害の発生又は拡大に影響している場合には、賠償額を決定するに当たり、当該身体的特徴を考慮することができるかという素因減額の問題。

判例:
損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念⇒民法722条2項の規定を類推適用して一定の限度で身体的特徴を考慮することができる。

素因減額が認められる身体的特徴
は、
原則として身体的特徴が「疾患」に該当する場合であり、
「疾患」に当たらない身体的特徴の場合は、当該身体的特徴が疾患に比肩すべきものであり、かつ、被害者が負傷しないように慎重な行動を求められるような特段の事情が存在するような極めて例外的な場合に限られる。

素因減額の割合について:
あくまで裁判所が具体的な事案につき公平の観念に基づき諸般の事情を考慮して、自由な裁量に基づき決定⇒具体的な基準を立てることは難しい。
but
①疾患の種類、態様、程度(当該病的状態が平均値からどれほど離れているか、その病態除去のためにどの程度の医学的処置が必要か、事故前の健康状態(通院状況等))
②事故の態様、程度及び傷害の部位、態様、程度と結果との均衡等を個別具体的に検討して、
損害の公平な分担という損害賠償法の基本理念の観点からその割合を算定

本判決:
被害者の既往症は重篤なものである一方、
本件事故によって発症した外傷性視神経症は軽症例であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らず、ましてや右足膝下切断に至ることもなかった

素因減額が高い割合で判断された。
判例時報2422

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