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2020年1月 3日 (金)

自動車運転過失致死の過失の択一的認定を理由不備の違法があるとした事案

東京高裁H28.8.25   
 
<原審>
A過失又はB過失という2つの過失を択一的に認定し、被告人に対して禁錮1年6月、3年間執行猶予の判決。
A過失:目視及びサイドミラー等を注視するなどして、同横断歩道上及び同自転車横断帯上を横断する自転車等の有無及びその安全を確認しつつ左折進行すべき自動車運転上の注意義務の違反
B過失:微発進と一時停止を繰り返すなどし、死角内の同横断歩道上及び同自転車横断帯上を横断する自転車等の有無及びその安全を確認しつつ左折進行すべき自動車運転上の注意義務の違反
 
<判断> 
本件において過失の択一的認定は許されない⇒原審を理由不備の違法により破棄した上、控訴審において追加された予備的訴因を認定して、被告人に対して禁錮1年6月、3年間執行猶予の判決。
 
<解説>
●択一的認定 
証拠上、A事実とB事実のいずれについても合理的な疑いを容れない程度に証明がなされたとは認められないが、A事実又はB事実のいずれかであることは証明されていると認められる場合に、どのように取り扱うべきか?


A事実であっても、B事実であっても、該当する構成要件は同一
ex.動機、日時、場所、手段方法等について1つの事実に確定し難い場合
⇒択一的又は概括的な事実認定が許される

A事実を認定するかB事実を認定するかで、該当する構成要件が異なる
butA事実とB事実との間にいわゆる大小関係がある
ex.殺意の有無が証拠上いずれとも確定しない
⇒傷害の故意の範囲で傷害罪を認定。

構成要件が異なる上、A事実とB事実との間に大小関係がない
ex.
窃盗罪と盗品等に関する罪
行為時点での生死が確定できない被害者を遺棄した場合のほぞ責任者遺棄致死罪と死体遺棄罪
α:無罪

①A事実、B事実いずれにも合理的疑いがある⇒そのいずれも認めることはできず、「A又はB」という択一的認定をすることは「疑わしきは被告人の利益に」という原則に反する。
②合成的構成要件を設定して処罰するものであり、罪刑法定主義に反する。

β:択一的認定を正面から認める。
←A罪かB罪のいずれかが成立することは疑いがないにもかかわらず、無罪とするのは、国民の法感情に反する。

γ:択一的認定は否定しつつ、軽い方の罪を認める。
 
過失犯における択一的認定 
同一構成要件における択一的認定に当たるのか、それとも異なる構成要件にまたがる択一的認定に当たるのか?

α:罰条としては同じであっても、過失の態様が異なれば構成要件的評価が異なる⇒過失の態様の択一的認定は、異なる構成要件にまたがる択一的認定に当たる⇒仮にそれが許されるとしても、罪となるべき事実における択一摘な判示は認められず、犯情の軽い方の過失を認定。

β:過失の態様によって構成要件が異なることはない⇒過失の態様の択一的認定は、同一構成要件内における択一的認定に当たる⇒罪刑法定主義の問題は生ぜず、罪となるべき事実における択一的な判示も認められる。
but
複数の過失の間に犯情の差があれば、軽い方の過失を認定すべき。

●本判決 
過失を択一的に認定することは、過失の内容が特定されていないことにほかならず、罪となるべき事実の記載として不十分
②過失犯の構成要件はいわゆる開かれた構成要件であり、その適用に当たっては、注意義務の前提となる具体的注意義務、その注意義務に違反した不作を補充すべき⇒具体的な注意義務違反の内容が異なり、犯情的にも違いがあるのに、罪となるべき事実として、証拠調べを経てもなお確信に達しなかった犯情の重い過失を認定するのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則に照らして許されない。

択一的認定が許されない根拠として「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反する。
vs.
過失の態様を構成要件要素と考えるかどうかにかかわらず、
実務上は、
過失の態様の記載は、過失犯における罪となるべき事実の特定のために不可欠なものとされており、過失の態様が異なれば、罪となるべき事実が異なる

1つの罪となるべき事実の中に、過失の態様を択一的に記載することは許されないことに根拠を求めるべきという指摘。

本判決:
被告人は被告人車両の死角の存在を知っていた
横断歩道上が被告人車両の死角にある段階(直進中)は微発進と停止を繰り返すなどして死角内から死角外に出る自転車等がないか確認して、これに備えるとともに、横断歩道上が死角から外れてくる段階以降(左折開始後)には、引き続き前記走行を続けた上で、目視やサイドミラーを注視するなどして、死角外に出てきた自転車等の発見及び対応に努めるべきであったといえ、これが注意義務の内容を構成

本件のように進行中の車両同士の事故の場合、両車両は共に動いており、状況は時と共に変化⇒本件は死角内と死角外の両方の注意義務を果たして初めて事故が回避できる「A又はB」という択一的な注意義務ではなく、「AかつB」という結合された1つの注意義務を認定すべきとする。
判例時報2422

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