マンションのゴミステーションに出されたごみ袋の領置の適法性
東京高裁H30.9.5
<事案>
建造物侵入・窃盗とバールの隠匿携帯の事案
公訴事実の要旨:
平成28年5月15日頃、さいたま市内の短期大学に侵入し、現金を窃取
<事案>
建造物侵入・窃盗とバールの隠匿携帯の事案
公訴事実の要旨:
平成28年5月15日頃、さいたま市内の短期大学に侵入し、現金を窃取
被告人:
犯行を否認
被告人と犯行とを結びつける証拠は、被告人が居住するマンションのゴミステーションに出したごみ袋から発見された、被害短期大学の事務員が前記現金を金庫に収納する際現金と一緒に束ねていた券種、枚数等を記載した紙片(本件紙片)だけ。
被告人は、本件紙片は違法収集証拠であるとして、その証拠能力を争った。
<判断>
本件マンションの居住者等は、回収・搬出してもらいために不要物としてごみを各階のゴミステーションに捨てているのであり、当該ごみの占有は、遅くとも清掃会社が各階のゴミステーションから回収した時点で、ごみを捨てた者から、管理組合、管理会社及び清掃会社に移転し、これらが重畳的に占有しているものと解される。
本件ごみ袋4袋は、所有者が任意に提出した物を警察が領置したものであり、警察が本件ごみ袋4袋を開封してその内容物を確認した行為は、領置した物の占有継続の要否を判断するためにされた必要な処分。
本件当時、被告人に対して会社事務所等をねらって多発していた侵入窃盗の嫌疑が高まっていた⇒本件のようなごみの捜査を行う必要性は高い。
被告人が捨てたごみの中にその証拠品等が混ざっている可能性があった⇒ごみ捜査の合理性がある。
被告人は検挙を免れるための行動をとっていると推測される状況にあった⇒ある程度期間ごみ捜査をすることもやむを得なかった。
警察は、確認の対象を、被告人の居住する18階のごみのうち、外観から被告人の出したごみの可能性のあるごみ袋に絞り込むという配慮もしている⇒捜査の方法も相当。
マンションの居住者等が捨てたごみの内容をみだりに他人にみられることはないという期待を有していることを踏まえても、本件捜査は、その必要性があり、方法も相当なものであった⇒適法。
<解説>
●人がごみとして出した物を捜査官がその者の同意を得ずに捜査する場面:
①被疑者が公道上等公のごみ集積所に出したごみについての捜査
②マンションに居住する被疑者がマンションのごみ集積所に出したごみについての捜査
③被疑者が門のすぐ内側など自宅敷地内の所定の場所に出したごみについての捜査など
●
①の場面に関して、
最高裁H20.4.15:
被告人に強盗殺人等の合理的な疑いがある場合に、被告人及びその妻が公道上のごみ集積所に出したごみ袋を回収し、その中身を確認して、事件関係者が着用していたものと類似するダウンベスト等を領置。
「被告人及びその妻は、これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができる」として適法性を肯定。
書類上の領置手続は、ごみ袋の中味を見分して、証拠になりそうなものが発見された段階で行われている。
but
その実質に着目し、ごみ袋を回収したことを領置、その後の中味の確認行為を留置継続の必要性を判断するための押収物についての必要な処分と位置づけた上、上記の判断。
~
占有を放棄した物について、プライバシー保護の必要性は捜査の必要性の背後に退く。
●米国連邦最高裁:
被疑者がごみ収集のため自宅前に置いたごみ袋の無令状捜索が問題となったグリーンウッド事件で、公道上に出したごみ袋についてはプライバシーへの合理的期待は認められないとの判断。
but
その後も、州裁判所においては、州憲法の下で、特に不透明なごみバケツ・ごみ袋内のごみについて、収集のため公道上に排出されてもなお令状等によらぬ限り保護されるであると判断される例が続いていると指摘。
●刑訴法 第221条〔領置〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
所持者:自己のために当該物件を占有する者
保管者:他人のために当該物件を占有する者
●平成20年最決の事案:
被疑事実は特定の被害者に対する強盗殺人等という特定されたもの。
ごみ袋の領置方法も、被疑者やその妻がごみ集積場に出したものを確認特定して回収。
本件事案:
被疑事実:平成25年10月頃から警視庁管内で多発している会社事務所等をねらった侵入窃盗という概括的不特定のもの。
ごみ袋の領置方法:被害者が居住する階のゴミステーションに出された物を対象とするもので、被疑事件とは全く関係ない者のプライバシーを長期間公権力にさらしかねないもの。
~
被疑者以外の者に対する捜索は押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限る(刑訴法222条1項、192条2項)という法の趣旨からも問題。
東京高裁H29.8.3:
警察官が市の清掃事務所に分別して回収することを依頼し任意提出を受け領置したことを適法とする。
判例時報2424
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