弁護士刺殺事件と国賠請求(肯定)
仙台高裁秋田支部H31.2.13
<争点>
①Vが刃物で刺突された際の態様
②現場に臨場して対応に当たった警察官らの過失の有無
<判断>
●争点①について:
警察官らの供述等⇒Sの刺突時に警察官らがVを取り押さえていたことはなかった。
●争点②について:
①生命、身体等の重大な国民の法益に対する加害行為又はその危険の存在
②警察官の①の状況の認識又はその容易性
③警察官の法令上の権限行使による加害行為の危険除去、法益侵害結果の回避・防止可能性
④警察官による法令上の権限行使の容易性
が認められる場合には、
警察官は特定の個人に対する個別の法的義務として規制権限等を行使すべきところ、これを行使せず、又は許された裁量の範囲を超えて不適切に行使したために前記危険が現実化して当該国民の重大な法益が侵害されたときには、国賠法1条1項における故意又は過失による違法な公権力の行使に該当し、国又は公共団体は損害賠償責任を負う。、
<争点>
①Vが刃物で刺突された際の態様
②現場に臨場して対応に当たった警察官らの過失の有無
<判断>
●争点①について:
警察官らの供述等⇒Sの刺突時に警察官らがVを取り押さえていたことはなかった。
●争点②について:
①生命、身体等の重大な国民の法益に対する加害行為又はその危険の存在
②警察官の①の状況の認識又はその容易性
③警察官の法令上の権限行使による加害行為の危険除去、法益侵害結果の回避・防止可能性
④警察官による法令上の権限行使の容易性
が認められる場合には、
警察官は特定の個人に対する個別の法的義務として規制権限等を行使すべきところ、これを行使せず、又は許された裁量の範囲を超えて不適切に行使したために前記危険が現実化して当該国民の重大な法益が侵害されたときには、国賠法1条1項における故意又は過失による違法な公権力の行使に該当し、国又は公共団体は損害賠償責任を負う。、
①の状況は明らか
②:妻の通報により警察官らはこれを認識して現場に臨場した
③:Sが拳銃を確保したVともみ合っていた状況で、いきなりけん銃を取り上げる行動をとらずに、侵入者を識別する問いかけをしてSを制圧するかV及び妻を避難させるなどしていれば、V殺害に至らなかったことは確実
④:問いかけをすれば容易に侵入者を識別できた
⇒
警察官らの規制権限の不適切な行使が故意又は過失による違法な公権力の行使に該当⇒県に対して損害賠償金等の支払を命じた。
●県の不適切捜査や虚偽説明等による慰謝料請求:
①被害者等が捜査によって受ける利益は事実上の利益にすぎない
②これがあったとも認められない
⇒
請求を棄却。
<解説>
●判例の判断枠組み:
その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、これにより被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。(最高裁H7.6.23)
but
個々の訴訟類型ごとに考慮されるべき具体的な事情(法令に基づく権限の性質、趣旨や行使に至らなかった経緯等)は異なる⇒問題となる公務員の権限や事件類型ごとに裁判例を分析して、規制権限不行使を巡る一連の諸事情のうち考慮の対象とされるべき事情を整理する必要。
●警察官の権限の不行使に関する類型について
最高裁昭和57.1.19:
ホテルでナイフを示して「殺してやる」などと脅していた者が交番に連行された際、ナイフの携帯が銃刀法違反に当たること等が明らかであるのに、警察官がそのまま帰宅させ、帰宅途中立ち寄った飲食店の従業員にナイフで重篤な傷害を負わせた
~
判示の状況から、他人の生命身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況にあったことを警察官は容易に知ることができた⇒ナイフを提出させて一時保管する義務があた。
最高裁昭和59.3.23:
島の海岸に旧日本陸軍の砲弾が打ち上げられ、これを放置すれば人身事故等が発生する危険性を警察官も認識して砲弾発見等の届出を住民に呼びかけるなどして回収にあたっていた状況で、
たき火に中学生が投下した砲弾が爆発して2名が死傷。
~
島民の生命身体の安全が確保されないことが相当の蓋然性をもって予測され得る状況において、これを警察官が容易に知り得る場合には、積極的に砲弾類を回収する措置等を講ずる職務上の義務があった。
●
①国民の声明、身体に対する侵害の危険性やその切迫性
②警察官による前記危険の認識(予見)又はその可能性
各事例の内容や相当因果関係があるとの判断内容
⇒
③警察官の規制権限行使による結果回避可能性
⇒
③警察官の規制権限行使による結果回避可能性
④規制権限行使の容易性
判例時報2423
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