原子力発電所事故当時発電所長の地位にあった者から事故当時の事情を聴取した調書中の個人識別記述等を不開示とした部分開示決定の一部取消しを求めた事案
東京地裁H30.3.28
<事案>
内閣官房に設置された事故調査・検証委員会(政府事故調)が、本件事故当時の福島第一原発所長から事情を聴取した聴取結果調書(本件各調書)について、Xらが、行政情報公開法に基づき、開示の請求⇒処分行政庁により当初その全部を開示しない旨の行政処分不開示決定、その後、状況の変化を踏まえ、個人に関する情報等が記録されている部分を除いて開示する旨の変更決定。
<事案>
内閣官房に設置された事故調査・検証委員会(政府事故調)が、本件事故当時の福島第一原発所長から事情を聴取した聴取結果調書(本件各調書)について、Xらが、行政情報公開法に基づき、開示の請求⇒処分行政庁により当初その全部を開示しない旨の行政処分不開示決定、その後、状況の変化を踏まえ、個人に関する情報等が記録されている部分を除いて開示する旨の変更決定。
Xら:なお不開示とされた一部(本件各記述)について、
①東京電力のグループマネージャー(GM)以上の職位にある個人の氏名又は職名(氏名等)は公表慣行がある⇒法5条1号ただし書イの公領域情報に該当
②本件各記述を公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、同種の過酷事故予防策の構築に必要な事故原因の究明という人の生命、健康等を保護するための必要性が上回る⇒同号ただし書ロの生命等保護情報に該当し、同号所定の不開示情報には当たらない。
⇒
本件各記述を不開示とした部分の取消しを求めた。
<規定>
行政情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
・・・
<判断>
●①の公開情報該当性
本件各記述は、その前後の文章の内容と相まって、個人の行動等を記録した情報(行動情報)としての有意な方法(本件各行動情報)を構成しており、本件各行動情報に係る本件各記述以外の部分が既に開示されている
⇒本件各記述が開示されると本件各行動情報の全部が明らかになる関係にあることを踏まえた上で、公領域情報該当性は、有意といえる最小の情報のまとまりの全体について、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているか否かを吟味すべきもの。
①本件各調書の作成目的や性質に鑑み、本件各記述に係る個人識別記述等のみをもっては有意の情報であるとは解することができず、
②本件各行動情報全体について、本件各変更決定時に公領域情報に該当したことをうかがわせる事情は見当たらない
⇒
本件各記述を含む本件各行動情報は、法5条1号ただし書イの公領域情報として不開示情報から除外されない。
●➁の生命等保護情報該当性
行政文書を
①保護される人の生命、健康、生活又は財産の利益と
➁これを公にすることによって個人の権利利益が害されるおそれ
とを比較衡量して、前者が後者に優越すると認められることを要する。
①本件各記述部分が開示されることによって、政府事故調による調査及びその結果が公表されていることによっては実現できないような人の生命、健康、生活又は財産の利益の保護が図られることになる蓋然性が高いとまでは認められない一方、
➁本件各記述部分が公にされることによって本件各記述対象者の権利利益が害されるおそれは無視し得る程度に低いものとはいえない
⇒
本件各記述は、法5条1号ただし書ロの生命等保護情報として不開示情報から除外されるものであったとはいえない。
<解説>
●①の公開情報該当性
本判決:
公表慣行があるといえるためには、公表主体が行政機関であるべきとするYの主張を退け、
事実上の慣行として公にされ、又は公にすることが予定されていれば足りる。
but
①一時的に公にされただけで爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況になく、また、
➁類似の情報が公にされていても、情報としての性格が同種の情報についてのものでなかったり、
③個別的な事情に基づいて公にされたりしているにとどまれば、
公表慣行があるとはいえない。
結論として、過酷事故の一次資料についての公表慣行を認めることはできない。
●➁の生命等保護情報該当性
本判決の比較衡量の枠組み自体は一般的なもの。
①学識経験者等によって構成される政府事故調が、多数の関係者からのヒアリング結果等の一次資料を基にして中立的な立場から再発防止策を提言する報告書を作成してこれが公表されるとともに、
➁調査・検証によって明らかになった事実関係が検証・批判可能な形で公にされている
⇒
不開示とされた本件各記述部分が開示されることにより、過酷事故の再発防止という生命等の保護が一層図られることになる蓋然性が客観的にみて高いとまではいえず、不開示により保護される利益に優越するとまでは認められないと判断。
~
他の関連情報等の公表状況を勘案した上での事例判断。
判例時報2424
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