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2020年1月28日 (火)

使用者と労働組合との間の合意により労働者の未払賃金に係る債権が放棄されたということはできないとされた事案

最高裁H31.4.25     
 
<事案>
Yに雇用されていたXが、Yに対し、労働協約により減額して支払うものとされていた賃金につき、当該減額分の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払等を求めた事案。
 
<経緯> 
Yは、Xの所属するA労組等との間で、平成25年8月28日、同月支給分の賃金から12カ月、年間一時金を含む20%の「賃金カット」をし、Yがカット分賃金の全てをロ同債券として確認する旨の労働協約(第1協約) 
Yは、Xに対し、平成25年8月から同26年7月までの月例賃金、賞与について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金1」)
Yは、A労組等との間で、平成26年9月3日、対象の期間を同年8月支給分の賃金から12カ月とうるほかは、第1協約と同旨の労働協約(第2協約)を締結。
平成27年8月10日、対象の期間を同月支給分の賃金から12か月とするほかは、第2協約と同旨の労働協約(第3協約)を締結。
Yは、Xに対し、平成26年8月から同年11月までの支給分の月例賃金について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金2」)
Yの生コンクリート運送業務を行う部門は、平成28年12月31日をもって閉鎖され、Xが所属していたA労組に所属する組合員2名がYを退職。
YとA労組は、第1協約、第2協約によって賃金カットの対象とされた賃金を放棄する旨の合意。(「本件合意」)
 
<原審>
本件合意による賃金債権の放棄を認め、債権消滅。 
 
<判断>
使用者と労働組合との間の当該労働組合に所属する労働者の未払賃金に係る債権を放棄する旨の合意につき、当該労働組合が当該労働者を代理して当該合意をしたなど、その効果が当該労働者に帰属することを基礎付ける事情はうかがわれないという事実関係の下においては、これによる当該債権が放棄されたということはできない
①第1協約の締結前及び第2協約の締結前にそれぞれ具体的に発生していた賃金請求権の額、
②第1協約及び第2協約が締結された際のXによる特別の授権の有無、
③平成28年7月末日以降、YとA労組等との間で支払が猶予されていた賃金についての協議の有無等
が認定されていないため、本件各未払賃金の弁済期を確定することはできない。
but
遅くとも同年12月31日には弁済期が到来していたというべき

本件各未払賃金の元本については請求を認容する自判をし、
遅延損害金については原審に差し戻す
 
<解説>  
●労働組合と使用者との間で、当該労働組合の組合員の労働条件に関し、何らかの合意がされたとしても、組合員は当該合意の当事者ではなく第三者
⇒当然に当該合意で定められた労働条件が組合員と使用者との間の労働契約の内容となるものではない。 

労働組合と使用者との合意が、当該労働組合の組合員と使用者との間の個別の労働契約の内容となるためには、
①前記合意に労働契約としての規範的効力が生ずるか
②合意の内容、その成立状況などに即して、労働組合が組合員である労働者個人を代理して前記合意をした、又はそれが労働契約の当事者の合理的意思であるということができる必要がある。
(最高裁H13.3.13)
 
労働協約中の「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」は、個々の労働契約を直接規律する規範的効力を与えられているが、規範的効力を付与するには、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印する必要がある。
組合員個々人の具体的に発生した賃金請求権など既に発生している権利の処分又は変更は、労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲外であり、当該個々人の特別の授権を得ることが必要となると解されている。(最高裁)
 
●遅延損害金の請求⇒弁済期の検討 
◎ 第1協約と第2協約:
それぞれ対象となる期間の賃金の支払いを猶予するもの。
but
協約中で対象とされたものの全てについて支払の猶予の効果が生ずるかについては、①賃金請求権の発生時期と、②労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲との関係が問題。

◎  第1協約:
平成25年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、これは同月28に締結。
それ以前の労働日に係る賃金が第1協約締結前に具体的に発生⇒その支払を猶予することは、既に発生した権利の処分又は変更に当たる⇒特別の授権なくして労働協約により支払を猶予することはできない。
同年7月21日から同年8月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされ、
同月21日から同年9月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされている

同年7月21日から第1協約締結前である同年8月27日又は28日までの労働に係る賃金について、同月28日時点で具体的に発生していたか?

◎民法 第624条(報酬の支払時期)
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

民法624条は報酬の支払時期を定めるところ、
「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」と定める同情2項について、
A:支払時期だけに関するもの⇒労働日ごとに賃金債権は発生しているが期間の経過までは弁済期が到来していない
B:賃金債権が期間経過後に発生⇒期間の経過前には労働日ごとに賃が院債権が発生するものではない。
民法624条は任意規定⇒当事者がこれと異なる合意をすることを妨げない。

第1協約締結日である平成25年8月28日時点でそれ以前の労働日に係る賃金債権が具体的に発生

①同年7月21日から同年8g圧20日までの労働に係る賃金は1か月分の賃金
②同月21日から同月27日又は28日までの労働に係る賃金は原審確定事実からはその額は定まらない。

◎ 第2協約:
平成26年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、
これは同年9月3日に締結 
 
◎ 本判決:
第1協約及び第2協約により支払が猶予された賃金請求権については、
第3協約の期間の末である平成28年7月末日の経過後、
支払が猶予された賃金のその後の取扱いについて、協議をするのに通常必要な機関を超えて協議が行われなかったとき、又はその期間内に協議が開始されても合理的期間内に合意に至らなかったときには、弁済期が到来。

本判決:
第1協約、第2協約及び第3協約は、Yの経営を改善するために締結。
平成28年12月31日にYの生コンクリート運送業務を行う部門が閉鎖された以上、賃金の支払を猶予する理由は失われた

遅くとも同日には第3協約が締結されたことにより弁済期が到来していなかったXの賃金についても弁済期が到来

本件各未払賃金のうち、第1協約及び第2協約により支払の猶予の効果が生じないこととなるもの本来の支払日に弁済期が到来

前記の検討と併せ、本件各未払賃金の全てについて、原審口頭弁論終結時において弁済期が到来していた。
判例時報2424

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