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2020年1月 8日 (水)

違法な仮差押命令の申立てと逸失利益との間の相当因果関係(否定)

最高裁H31.3.7    
 
<争点>
本件仮差押申立てとY主張の逸失利益の損害との間に相当因果関係が認められるか否か。 
 
<原審>
本件仮差押申立ては、当初からその保全の必要性が存在しないため違法であり、Yに対する不法行為に当たる。 
①本件仮差押命令の発令当時、Yと本件第三債務者との取引期間は1年4か月であり、Yにおけるその他の大手百貨店との取引状況等をも併せ考慮すると、Yは、本件仮差押申立てがされなければ、本件第三債務者との取引によって少なくとも3年分の利益を取得することができた。
②本件仮差押命令の送達を受けた本件第三債務者が、Yの信用状況に疑問を抱くなどしてYとの間で新たな取引を行なわないとの判断をすることは、十分に考えられ、Xはこのことについて予見可能であった。

本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間には相当因果関係がある。
 
<判断> 
債権の仮差押命令の申立てが債務者に対する不法行為となる場合において、前記仮差押命令の申立ての後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったとしても、次の①②など判示の事情の下においては、前記不法行為と債務者がその後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったことにより喪失したと主張する得べかりし利益の損害との間に相当因果関係があるといういことはできない
①債務者は、1年4か月間に7回にわたり第三債務者との間で商品の売買取引を行ったが、両者の間で商品の売買取引を継続的に行う旨の合意があったとはうかがわれず、債務者において両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったとはいえない
前記仮差押命令の執行は、前記仮差押命令が第三債務者に送達された日の5日後に取り消され、その頃、第三債務者に対してその旨の通知がされており、第三債務者が債務者に新たな商品の発注を行わない理由として前記仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない。 
 
<解説>
●一般に、企業間取引で多くみられる継続的契約では、「仮差押えがあったとき」などを基本契約又は個別契約の解除事由とする旨の合意がされることが多い。
but
金銭債権に対する仮差押命令およびその執行は、債務者に対しては被差押債権の処分を相対的に禁止し、第三債務者に対しては債務者への弁済を禁止する(民保法50条1項)にとどまるものであり、債務者と第三債務者との間に前記のような合意があったなどの特段の事情のない限り、第三債務者が債務者との間で新たな取引を行うことを妨げるものではない。

最高裁:
債務者が違法な仮処分によって被ったと主張する営業利益の喪失や信用失墜による無形の損害等の損害は、当該仮処分の執行によって通常生ずべき損害に当たらず、特別の事情によって生じたものと解すべきであるとした上で、その賠償席因を否定した原審の認定判断を是認したものがある。

下級審裁判例:
不当保全執行による逸失利益の有無については特に慎重な判断がされており、
取引先から取引を一時停止されたこと等を考慮しながらも、無形損害又は慰謝料として一定額の賠償を認めるにとどまるものがある一方、
無形損害又は慰謝料の賠償自体も否定したもの等もあった。
 
●民法における損害賠償の範囲に関する議論:
消極的損害の賠償責任を認めるためには、被害者がその消極的損害に係る将来の利益を取得することが確実であることを要するとされ(新版注釈民法10Ⅱ284頁以下、
富喜丸事件判決は、消極的財産損害(騰貴価格による得べかりし利益)の賠償を請求する者は、これを確実に取得したであろう事情があり、その事情が不法行為当時予見又は予見することができたことを主張立証しなければならない旨を判示しているとの指摘。 
また、相当因果関係説の下では、因果関係に争いがある場合、立証の対象となるべき要件事実として、「特定の事実が特定の結果発生を招来した関係」が高度の蓋然性をもって是認し得ることの主張が必要であるとされており、このことは不法行為によって消極的損害(被害者の所得の喪失又は減少)が発生したことについても同様である。
 
●継続的売買の解消については、学説上、
継続的売買契約が存在⇒契約上の責任を考えることになる
継続的売買契約が存在するとはいえない場合であっても、当事者は互いに信義則上の注意義務を負い、それに反した解消によって生じた損害を賠償する責任を負う場合があり、
①現実的履行の強制まで可能な継続的売買契約
②履行の強制はできないが損害賠償請求は可能な継続的売買契約
③契約の存在は認められないが信義則上の責任が認められる継続的売買
④解消者に何らの責任も認められない継続的売買
という4段階に分類して考えることが可能。

第三債務者との間で継続的売買を行っていた債務者が、第三債務者との取引によって将来の利益を取得することが確実であるというためには、
両者間に継続的売買契約の成立が認められるか、
継続的売買の解消につき第三債務者に信義則上の責任が認められるような事情、すなわち、債務者において両者間の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情が必要。 

本件:
Yにおいて両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったといえない。
 

①本件第三債務者がYとの間で新たな取引を行うか否かは本件第三債務者の自由な意思に委ねられていた
②Yが相当程度の売上高及び資産を有する会社であった
③本件仮差押命令の執行が本件仮差押命令の送達日の5日後に取り消され、本件第三債務者にその旨の通知がされた
④本件第三債務者がYに新たな商品の発注を行わない理由として本件仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない


本件第三債務者が、本件仮差押申立てによりYの信用がある程度毀損されたと考えたとしても、このことがYとの間で新たな取引を行わないとの判断を招来したことを高度の蓋然性をもって是認し得るとまではいい難い。 
判例時報2423

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