財産分与審判前の夫婦共有財産(建物)の名義人による他方配偶者への明渡請求の事案
札幌地裁H30.7.26
<事案>
原告(元夫)が、被告(元妻)に対し、所有権に基づく建物明渡し及び賃料相当損害金の損害賠償請求を求めた。
<事案>
原告(元夫)が、被告(元妻)に対し、所有権に基づく建物明渡し及び賃料相当損害金の損害賠償請求を求めた。
被告:
①被告も本件建物の共有持分権を有している、
②原告の請求は権利濫用である
などとして争った。
<規定>
民法 第七六二条(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
民法 第七六八条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
<判断・解説>
●夫婦共有財産と共有持分権
◎ 原告の給与等を購入原資として、原告名義で得た財産⇒形式的に見る限り、原告の特有財産(民法762条1項)
but
婚姻後に取得された財産であり、被告も本件建物購入に寄与してきた⇒離婚時の財産分与(民法768条)の対象となる実質的共有財産に当たり、近時のいわゆる2分の1ルールの下では、被告にも、2分の1の分与率が認められる。
◎ 被告:
本件建物が実質的共有財産⇒本件建物について共有持分権を有している⇒共有物を単独で占有する他の共有者である被告に対し、当然にはその占有する共有物の明渡しを請求することができない(最高裁昭和41.5.19)と主張。
財産分与手続を経ることなく、共有持分権の確認請求や更正登記手続請求などを認めた裁判例もある。
but
不動産の購入資金自体が共働きの夫婦双方の収入から拠出されており、一方配偶者の単独名義で取得されているが、当初から、夫婦が共同取得した不動産であるとの事実を前提としたもの。
vs.
実質的共有財産であるからといって、財産分与手続を経ることなく、当然に他方配偶者が共有持分権を有しているということはできない。
「離婚によって生ずることあるべき財産分与請求権は、1個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確である」(最高裁昭和55.7.11)
●建物明渡請求が権利濫用に当たるか否か
①本件口頭弁論終結時において、被告による財産分与の申立てが係属中であり、
②実質的共有持分権が被告に財産分与される可能性も否定できない状態にあった
⇒
本判決:
原告の損害賠償請求を認めて、被告に対して賃料相当損害金の支払を命ずる一方、
原告の建物明渡請求を権利濫用として否定。
| 固定リンク
« 被告(東京電力)の従業員とその家族による原発事故に起因する損害賠償請求の事案 | トップページ | 被告人が、自宅で父親の背中を包丁で刺すなどして死亡させた傷害致死被告事件の起訴後の接見等禁止決定に関する特別抗告事件 »
「判例」カテゴリの記事
- 退職の意思表示が心裡留保により無効とされた事例・仮執行宣言に基づく支払と付加金請求の当否(2023.09.28)
- 市議会議員による広報誌への掲載禁止と頒布禁止の仮処分申立て(消極)(2023.09.28)
- 頸椎後方固定術⇒第1手術で挿入したスクリューの抜去・再挿入術⇒四肢麻痺の事案(2023.09.27)
- 凍結保存精子による出生と認知請求権の事案(2023.09.26)
- 地方議会議員の海外視察が不当利得とされた事案(2023.09.25)
「民事」カテゴリの記事
- 市議会議員による広報誌への掲載禁止と頒布禁止の仮処分申立て(消極)(2023.09.28)
- 頸椎後方固定術⇒第1手術で挿入したスクリューの抜去・再挿入術⇒四肢麻痺の事案(2023.09.27)
- 凍結保存精子による出生と認知請求権の事案(2023.09.26)
- 敷地所有者に対する承諾請求・妨害禁止請求の事案(2023.09.09)
- 被疑者ノートに関する国賠請求(肯定事例)(2023.09.02)
コメント