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2020年1月 3日 (金)

大崎事件についての第3次再審請求に関する特別抗告事件

最高裁R1.6.25    
 
<原審>
①M・N鑑定は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められない。
②O鑑定は十分な信用性を有する
but
I旧鑑定は、元々、Cの死因を推認し得るほどの証明力を有するものではない

O鑑定によってI旧鑑定の信用性が否定されたとしても、直ちにCの死因は頚部圧迫による窒息死であるとの確定判決の認定に合理的疑いを生じさせる関係にはない。
③O鑑定の影響により、Cは溝に転落したことによる既に出血性ショックで死亡し、あるいは瀕死の状態にあった可能性が相当程度に存在することになる⇒G及びHの各供述の信用性には疑義が生じる。

④CがG及びHによってC方に送り届けられたという事実及びCが窒息死させられたという事実が認められなくなる⇒A、B及びDの各自白並びにEの供述は、客観的状況による裏付けを欠き、かえってO鑑定が存在する
⇒これらの各自白や供述は、大筋において合致するからといって直ちに信用できるものではない。


O鑑定は、新旧全証拠との総合判断により、確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるに足りる証拠であるなどとして、即時抗告を棄却。
 
<判断>
O鑑定は、条件が制約された中で工夫を重ねて専門的知見に基づく判断を示している。
but
同人の死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとはではいえない

これが無罪を言い渡すべき明らかな証拠といえるか否かは、その立証命題に関連する他の証拠それぞれの証明力を踏まえ、これらと対比しながら検討すべき。

O鑑定は、Cの死因が出血性ショックであった可能性等を示すもの
but
同人の死亡時期を示すものではなく、G及びHがCを同人方に送り届けるよりも前に同人が死亡し、あるいは瀕死の状態にあったことを直ちに意味する内容ではない。 

原決定がいうように、O鑑定を根拠として、Cが出血性ショックにより同人方に到着する前に死亡し、あるいは瀕死の状態にあった可能性があるとして、A、B及びDの各自白並びにEの目撃供述の信用性を否定するのであれば、
関係証拠から認められる前記の客観的状況に照らし、事実上、Cの死体を堆肥中に埋めた者は最後に同人と接触したG及びH以外に想定し難いことになる。
but
同人らがCの死体を堆肥中に埋めるという事態は、本件の証拠関係の下では全く想定できない

原決定が、G及びHの各供述の信用性に疑いを生じさせるとして掲げる事情も、信用性に影響を与えるようなものではない。

確定判決の認定の主たる根拠:
客観的状態に照らして少なくともCの死体を堆肥に埋めたことについては何者かが故意に行なったとしか考えられず、その犯人としてAらF家以外のものは想定し難い状況にあった。
G及びHの各供述も、相互に支え合い、この推認の前提となっている。 
A、B及びDの各自白並びにEの目的供述は、相互に支え合っているだけでなく、以上のような客観的状況等からの推認によっても支えられている

A、B及びDの知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを考慮しても、それらの信用性は相応に強固なものであるということができる。
O鑑定が前記のような問題点を有し、Cの死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとまではいえない

同鑑定によりこれらも各自白及び目撃証拠に疑義が生じたということは無理がある。 
 
<解説・判断> 
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」について、
再審請求においても「疑わしきは被告人の利益に」という利益原則の適用があることを前提に、
「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。

新証拠がそのような証拠に当たるか否かの判断方法は、
新証拠の証明力を検討した上、新証拠が弾劾の対象とする旧証拠の証明力が減殺されたか否かを検討し、
それが減殺される場合には、その旧証拠が確定判決の有罪認定とその証拠関係の中で有罪認定の証拠としてどのような位置を占め重要性をもつものであるかを検討することにより、新証拠が、確定判決の事実認定に合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠であるか否かを審査

新証拠によって確定判決の事実認定を支えた旧証拠の一部の証明力が減殺されたとして、そうした証拠の変化があってもなお有罪の認定を維持することができるか否かを評価することにより、有罪を支えた旧証拠の内容はどのようなものなのか、新証拠がどの旧証拠の証明力と関連し、どのようにその証明力を減殺したのか、これにより合理的疑いが生ずることになるのかを、個々の事案に応じて総合的に評価。

本決定:従来の最高裁判例に従って、新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらないと判断。
刑訴法の特別抗告については、最終裁判所としての最高裁判所に当該事件における具体的正義の実現を図らせるため、刑訴法411条が準用されることが確立。
判例時報2422

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