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2020年1月

2020年1月31日 (金)

成年後見人の不正⇒家事審判官の責任による国賠請求(否定)

東京地裁H30.5.18   
 
<事案>
亡Aの養子であるXが、Aの妹でその成年後見人であったBが、Aの判断能力が減退していることを奇貨として、成年後見人選任の前後を通じて、Aの財産を不正に流出させた
Bに対し、不法行為による損害賠償等を求めるとともに
家裁の家事審判官が、
①Bが成年後見人として極めて不適任であることを看過し、Aの養子であるXの意見を聞く機会を設けず、また、後見監督人を選任することもなく、BをAの成年後見人として選任したこと、
②成年後見開始後に、Bによる資産管理に不正があることを知り又は知り得たのに、特段の措置を執らずにこれを見過ごしたことは、
家事審判官に与えられた職務権限を逸脱し、著しく合理性を欠くもの
⇒国賠法1条1項に基づく国賠請求。
Bは訴え提起後に死亡し、子であるY1及びY2が訴訟承継。
 
<判断>  
●Y1及びY2に対する請求を一部認容。 

●適用されるべき国賠法上の違法性の判断基準に関し、
裁判官がした争訟の裁判について国のsン買い賠償責任が肯定される要件を示した最高裁昭和57.3.12は家事審判官が行なう成年後見人の選任及び後見事務の監督についても妥当。

家事審判官が違法又は不当な目的をもって権限を行使したり、その監督権の行使が権限の範囲を著しく逸脱したり、又は家事審判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、家事審判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情が認められる場合に限り、当該家事審判官に職務上の義務違反があったものと認められる。
 
●後見人選任に係るXの主張: 





直ちに、BにAの資産の的確な維持管理や事務処理を期待することができないとか、AとBの利益が相反しており、BがAの資産を不正に費消領得する危険性が極めて大きかったとはいえず、後見開始当時のAの財産の内容を見ても、専門職後見人を選任すべきであったとはいえない。



Xに対して意見照会をしなかったことが不合理であるとも断定し難い。

以上を踏まえると、後見監督人を選任すべきであったともいえない。

Aの成年後見人選任の判断について、前記特別の事情があるとは認められず、家事審判官の権限の行使に関し国賠法上違法である点は認められない。
 
●成年後見人Bに対する監督権の行使または不行使に係る主張:



家事審判官が前記認定に係る不正支出について、これが不正なものであると具体的に認識し又は認識し得たとまでは認められない。

Bの後見事務に対する家事審判官の監督権の行使に関しても、前記特別の事情があるとまでは認められず、国賠法上違法である点は認められない。
判例時報2425

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約款の変更条項と消費者契約法10条

東京高裁H30.11.28    
 
<事案>
消費者契約法13条1項所定の内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体であるXが、法12条3項に基づき、携帯電話の利用に係る通信サービス契約を提供するYに対し、本件各契約における約款の変更条項につき、法10条に規定する消費者契約の条項に該当すると主張⇒
本件変更条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求めるとともに、
これらの行為の停止または予防に必要な措置を求めた。 
 
<規定> 
第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
 
<争点>
Yの準備する「当社は、この約款を変更することがあります。この場合には、料金その他の提供条件は、変更後の約款になります。」との本件変更条項が、法10条に該当するか否か。 
 
<判断>
以下の理由で、請求を認めず。 
①本件各契約は、不特定多数の相手方に対して均一な内容の給付をすることを目的とするもの⇒
個別内容の変更のために個別同意を必要とすれば、多大な時間とコストを要することとなり、
個別同意を得なくとも契約内容を変更することを認めることで不特定多数の相手方の利益にも資する。
②既存顧客との個別合意がなくとも、既存の契約に変更の効力をおよぼすことができる場合があることが裁判例で認められている。
③改正民法548条の4第1項によれば、一定の要件の下に定型約款の変更により個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更し得ることを定める規定が設けられている。

本件各契約約款は、一定の合理的な範囲で変更できると解した上で、
本件変更条項は、一定の合理的な範囲においてのみ変更が許される趣旨と限定的に解すべき消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項であるとは認められない。
本件変更条項自体は、価値中立的なものであって、消費者の権利義務に関するか否かは変更される条項の内容次第⇒法10条該当性も、変更後の内容につき判断されるべき。
 
<解説>
●最高裁昭和45.12.24:
船舶海上保険の約款の変更につき、「変更された条項が強行法規や公序良俗に違反しあるいは特に不合理なものでない限り、変更後の約款に従った契約もその効力を有する」 

福岡高裁H28.10.4:
預金契約における暴力団排除条項の有効性等に触れたうえ
「既存顧客との個別の合意がなくとも、既存の契約に変更の効力を及ぼすことがでいると解するのが相当」

最高裁H5.7.19
銀行の免責約款の有効性について、合理的な範囲において変更することが予定され、変更後の約款は当事者を拘束することを示したもの。
判例時報2425

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2020年1月30日 (木)

子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用とされた事案

最高裁H31.4.26    
 
<事案>
Xが、その夫Yに対し、両名の長男Aの引渡しを命ずる審判を債務名義として、間接強制の申立てをした事案。 
 
<経緯>
Xの申立てにより、子らの監護者をXと指定し、Yに対し子らの引渡しを命ずる審判が確定。 
子らの引渡執行⇒3人の子のうち1人(A)は引き渡されることを拒絶し、泣きじゃくり、呼吸困難に陥りそうになった⇒執行官は、執行を続けるとAの心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあると判断⇒Aの引渡執行を不能として終了。
XがY等(Y及びその両親)を拘束者、Aを被拘束者とする人身保護請求⇒AはY等のもとで生活を続けたい旨の陳述。
同請求は、Aが十分な判断能力に基づいてY等のもとで生活したいという強固な意思を明確に表示しており、その意思はY等からの影響によるものではなく、Aが自由意思に基づいてY等のもとにとどまっていると認められ、Y等によるAの監護は拘束に当たらない⇒棄却。
 
<経緯2>
Xが本件審判を債務名義としてAの引渡しについて間接強制の申立て⇒原々審はYに対し、AをXに引き渡すよう命ずるとともに、これを履行しないときは1日につき1万円の割合による金員をXに支払うよう命ずる間接強制決定。

Yが執行抗告

原審(大阪高裁)はYの抗告を棄却

Yが許可抗告の申立て(原審は許可) 
 
<判断>
婚姻中の父母のうち父Yに対して長男A、二男B及び長女Cを母Xに引き渡すよう命ずる本件審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては、
次の①②など判示の事情の下では、権利の濫用に当たる。 
①本件審判を債務名義とする引渡執行の際、B及びCがXに引き渡されたにもかかわらず、A(当時9歳3箇月)については、引き渡されることを拒絶して呼吸困難に陥りそうになったため、執行を続けるとその心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして執行不能とされた。
Y等を拘束者、Aを被拘束者とする人身保護請求事件の審問期日において、A(当時9歳7箇月)は、Xに引き渡されることを拒絶する意思を明確に表示し、その人身保護請求は、AがY等の影響を受けたものではなく自由意思に基づいてY等のもとにとどまっているとして棄却された。
 
<解説> 
●子の引渡しを命ずる審判は、家裁が、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮した上で(家事手続法65条)、子を引き渡すことが当該子の利益にかなうと判断してされるもの

子が引き渡されることを拒絶する意思を表明しているというだけで、直ちに強制執行を妨げる理由になるとはいえない。 

審判後の経過により当該審判時と異なる事情が生じたとしても、民執法が、執行の迅速かつ円滑な進行のため、強制執行手続を判決手続等から組織的に分離し、執行機関は原則として強制執行を不当ならしめる実体上の事由の有無については判断しないものとしている。
⇒このような事情は、原則として当該審判を債務名義とする強制執行を妨げる理由とならず、再度の審判・調停など執行手続外で検討されるべきもの。 
 
●間接強制は、金銭の支払義務を課すことにより債務者を心理的に圧迫して給付を実現させる⇒債務者に対する不当な圧迫となり人格尊重の理念に反するおそれがある。 

直接強制決定:
執行に着手しても不能⇒終了

間接強制決定:
①これにより直ちに金銭支払義務を生じ、履行の不能等の事由があっても債務者の方から請求異議の訴えを提起するなどしなければならず、
②執行停止が認められない限り、その審理の間も金銭支払義務が累積
⇒過酷な執行となりかねない。

ドイツ法:非代替的作為義務の強制執行について強制金を課す要件として「その行為が排他的に債務者の意思に係っている」ことを求めているのと異なり、
日本法には明治の規定はないものの、一般的な法原則として、債務者にとって債務の履行が社会通念上不可能な場合には、これを強制すべきではないと考えられておりそのような場合には、請求異議事由が認められ得るだけでなく、過酷執行禁止という執行法上の原則に基づき間接強制決定の障害事由にもなり得ると解してよい。(山本和彦)
過酷な執行の申立てについては、強制執行請求権の濫用(民法1条3項)として却下され得るものと解されている。
 
民執法が強制執行手続等から分離⇒強制執行が権利の濫用に当たると認めることには慎重であるべき。 

最高裁昭和62.7.16:
強制執行が権利濫用に当たるとして請求異議事由が認められるには
債務名義の性質、これにより確定された権利の性質・内容、その成立の経緯及び成立後の事情、強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情を総合して、
債権者の強制執行が、著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する

本決定:
本件審判の命ずる子の引渡しが、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ履行しなければならないという特殊な性質を有する義務
②判示の事実経過の下においては、Aの心身に有害な影響を及ぼすことの内容に配慮しつつAの引渡しを実現するために合理的に必要と考えられる行為をYにおいて想定することが困難であり、それにもかかわらず間接強制によってYに心理的圧迫を加えてAの引渡しを図ることは過酷な執行として許されない。

本件の具体的事情の下における子の引渡義務の間接強制が過酷な執行となるとしたものであって、強制執行が権利濫用に当たるとして請求異議事由を認めたものではない。

間接強制以外の強制執行が当然に否定されるものではないし、
前提とされた状況に変化があれば間接強制が認められるに至る余地も否定されない。
 
●間接強制の要件:
現行法に明文の規定はないものの、「債務者の意思のみに係る債務」であるとの要件が必要であると解されている(大決昭5.11.5)。
前記要件を欠く場合には、債務者に圧迫強制を加えても、単に債務者を苦しませるだけで、その行為をさせることは期待できないからであると説明。
判例時報2425

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2020年1月29日 (水)

マンションのゴミステーションに出されたごみ袋の領置の適法性

東京高裁H30.9.5     
 
<事案>
建造物侵入・窃盗とバールの隠匿携帯の事案

公訴事実の要旨:
平成28年5月15日頃、さいたま市内の短期大学に侵入し、現金を窃取

被告人:
犯行を否認
被告人と犯行とを結びつける証拠は、被告人が居住するマンションのゴミステーションに出したごみ袋から発見された、被害短期大学の事務員が前記現金を金庫に収納する際現金と一緒に束ねていた券種、枚数等を記載した紙片(本件紙片)だけ。

被告人は、本件紙片は違法収集証拠であるとして、その証拠能力を争った。
 
<判断>
本件マンションの居住者等は、回収・搬出してもらいために不要物としてごみを各階のゴミステーションに捨てているのであり、当該ごみの占有は、遅くとも清掃会社が各階のゴミステーションから回収した時点で、ごみを捨てた者から、管理組合、管理会社及び清掃会社に移転し、これらが重畳的に占有しているものと解される。
本件ごみ袋4袋は、所有者が任意に提出した物を警察が領置したものであり、警察が本件ごみ袋4袋を開封してその内容物を確認した行為は、領置した物の占有継続の要否を判断するためにされた必要な処分
本件当時、被告人に対して会社事務所等をねらって多発していた侵入窃盗の嫌疑が高まっていた⇒本件のようなごみの捜査を行う必要性は高い。
被告人が捨てたごみの中にその証拠品等が混ざっている可能性があった⇒ごみ捜査の合理性がある。
被告人は検挙を免れるための行動をとっていると推測される状況にあった⇒ある程度期間ごみ捜査をすることもやむを得なかった
警察は、確認の対象を、被告人の居住する18階のごみのうち、外観から被告人の出したごみの可能性のあるごみ袋に絞り込むという配慮もしている⇒捜査の方法も相当
マンションの居住者等が捨てたごみの内容をみだりに他人にみられることはないという期待を有していることを踏まえても、本件捜査は、その必要性があり、方法も相当なものであった⇒適法
 
<解説>  
●人がごみとして出した物を捜査官がその者の同意を得ずに捜査する場面:
①被疑者が公道上等公のごみ集積所に出したごみについての捜査
②マンションに居住する被疑者がマンションのごみ集積所に出したごみについての捜査
③被疑者が門のすぐ内側など自宅敷地内の所定の場所に出したごみについての捜査など 


①の場面に関して、
最高裁H20.4.15:
被告人に強盗殺人等の合理的な疑いがある場合に、被告人及びその妻が公道上のごみ集積所に出したごみ袋を回収し、その中身を確認して、事件関係者が着用していたものと類似するダウンベスト等を領置
「被告人及びその妻は、これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができる」として適法性を肯定

書類上の領置手続は、ごみ袋の中味を見分して、証拠になりそうなものが発見された段階で行われている。
but
その実質に着目し、ごみ袋を回収したことを領置、その後の中味の確認行為を留置継続の必要性を判断するための押収物についての必要な処分と位置づけた上、上記の判断。

占有を放棄した物について、プライバシー保護の必要性は捜査の必要性の背後に退く。
 
●米国連邦最高裁:
被疑者がごみ収集のため自宅前に置いたごみ袋の無令状捜索が問題となったグリーンウッド事件で、公道上に出したごみ袋についてはプライバシーへの合理的期待は認められないとの判断。 
but
その後も、州裁判所においては、州憲法の下で、特に不透明なごみバケツ・ごみ袋内のごみについて、収集のため公道上に排出されてもなお令状等によらぬ限り保護されるであると判断される例が続いていると指摘。
 
●刑訴法 第221条〔領置〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
所持者:自己のために当該物件を占有する者
保管者:他人のために当該物件を占有する者
 
●平成20年最決の事案:
被疑事実は特定の被害者に対する強盗殺人等という特定されたもの。
ごみ袋の領置方法も、被疑者やその妻がごみ集積場に出したものを確認特定して回収

本件事案:
被疑事実平成25年10月頃から警視庁管内で多発している会社事務所等をねらった侵入窃盗という概括的不特定のもの
ごみ袋の領置方法:被害者が居住する階のゴミステーションに出された物を対象とするもので、被疑事件とは全く関係ない者のプライバシーを長期間公権力にさらしかねないもの。

被疑者以外の者に対する捜索は押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限る(刑訴法222条1項、192条2項)という法の趣旨からも問題。 

東京高裁H29.8.3:
警察官が市の清掃事務所に分別して回収することを依頼し任意提出を受け領置したことを適法とする。
判例時報2424

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2020年1月28日 (火)

使用者と労働組合との間の合意により労働者の未払賃金に係る債権が放棄されたということはできないとされた事案

最高裁H31.4.25     
 
<事案>
Yに雇用されていたXが、Yに対し、労働協約により減額して支払うものとされていた賃金につき、当該減額分の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払等を求めた事案。
 
<経緯> 
Yは、Xの所属するA労組等との間で、平成25年8月28日、同月支給分の賃金から12カ月、年間一時金を含む20%の「賃金カット」をし、Yがカット分賃金の全てをロ同債券として確認する旨の労働協約(第1協約) 
Yは、Xに対し、平成25年8月から同26年7月までの月例賃金、賞与について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金1」)
Yは、A労組等との間で、平成26年9月3日、対象の期間を同年8月支給分の賃金から12カ月とうるほかは、第1協約と同旨の労働協約(第2協約)を締結。
平成27年8月10日、対象の期間を同月支給分の賃金から12か月とするほかは、第2協約と同旨の労働協約(第3協約)を締結。
Yは、Xに対し、平成26年8月から同年11月までの支給分の月例賃金について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金2」)
Yの生コンクリート運送業務を行う部門は、平成28年12月31日をもって閉鎖され、Xが所属していたA労組に所属する組合員2名がYを退職。
YとA労組は、第1協約、第2協約によって賃金カットの対象とされた賃金を放棄する旨の合意。(「本件合意」)
 
<原審>
本件合意による賃金債権の放棄を認め、債権消滅。 
 
<判断>
使用者と労働組合との間の当該労働組合に所属する労働者の未払賃金に係る債権を放棄する旨の合意につき、当該労働組合が当該労働者を代理して当該合意をしたなど、その効果が当該労働者に帰属することを基礎付ける事情はうかがわれないという事実関係の下においては、これによる当該債権が放棄されたということはできない
①第1協約の締結前及び第2協約の締結前にそれぞれ具体的に発生していた賃金請求権の額、
②第1協約及び第2協約が締結された際のXによる特別の授権の有無、
③平成28年7月末日以降、YとA労組等との間で支払が猶予されていた賃金についての協議の有無等
が認定されていないため、本件各未払賃金の弁済期を確定することはできない。
but
遅くとも同年12月31日には弁済期が到来していたというべき

本件各未払賃金の元本については請求を認容する自判をし、
遅延損害金については原審に差し戻す
 
<解説>  
●労働組合と使用者との間で、当該労働組合の組合員の労働条件に関し、何らかの合意がされたとしても、組合員は当該合意の当事者ではなく第三者
⇒当然に当該合意で定められた労働条件が組合員と使用者との間の労働契約の内容となるものではない。 

労働組合と使用者との合意が、当該労働組合の組合員と使用者との間の個別の労働契約の内容となるためには、
①前記合意に労働契約としての規範的効力が生ずるか
②合意の内容、その成立状況などに即して、労働組合が組合員である労働者個人を代理して前記合意をした、又はそれが労働契約の当事者の合理的意思であるということができる必要がある。
(最高裁H13.3.13)
 
労働協約中の「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」は、個々の労働契約を直接規律する規範的効力を与えられているが、規範的効力を付与するには、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印する必要がある。
組合員個々人の具体的に発生した賃金請求権など既に発生している権利の処分又は変更は、労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲外であり、当該個々人の特別の授権を得ることが必要となると解されている。(最高裁)
 
●遅延損害金の請求⇒弁済期の検討 
◎ 第1協約と第2協約:
それぞれ対象となる期間の賃金の支払いを猶予するもの。
but
協約中で対象とされたものの全てについて支払の猶予の効果が生ずるかについては、①賃金請求権の発生時期と、②労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲との関係が問題。

◎  第1協約:
平成25年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、これは同月28に締結。
それ以前の労働日に係る賃金が第1協約締結前に具体的に発生⇒その支払を猶予することは、既に発生した権利の処分又は変更に当たる⇒特別の授権なくして労働協約により支払を猶予することはできない。
同年7月21日から同年8月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされ、
同月21日から同年9月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされている

同年7月21日から第1協約締結前である同年8月27日又は28日までの労働に係る賃金について、同月28日時点で具体的に発生していたか?

◎民法 第624条(報酬の支払時期)
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

民法624条は報酬の支払時期を定めるところ、
「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」と定める同情2項について、
A:支払時期だけに関するもの⇒労働日ごとに賃金債権は発生しているが期間の経過までは弁済期が到来していない
B:賃金債権が期間経過後に発生⇒期間の経過前には労働日ごとに賃が院債権が発生するものではない。
民法624条は任意規定⇒当事者がこれと異なる合意をすることを妨げない。

第1協約締結日である平成25年8月28日時点でそれ以前の労働日に係る賃金債権が具体的に発生

①同年7月21日から同年8g圧20日までの労働に係る賃金は1か月分の賃金
②同月21日から同月27日又は28日までの労働に係る賃金は原審確定事実からはその額は定まらない。

◎ 第2協約:
平成26年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、
これは同年9月3日に締結 
 
◎ 本判決:
第1協約及び第2協約により支払が猶予された賃金請求権については、
第3協約の期間の末である平成28年7月末日の経過後、
支払が猶予された賃金のその後の取扱いについて、協議をするのに通常必要な機関を超えて協議が行われなかったとき、又はその期間内に協議が開始されても合理的期間内に合意に至らなかったときには、弁済期が到来。

本判決:
第1協約、第2協約及び第3協約は、Yの経営を改善するために締結。
平成28年12月31日にYの生コンクリート運送業務を行う部門が閉鎖された以上、賃金の支払を猶予する理由は失われた

遅くとも同日には第3協約が締結されたことにより弁済期が到来していなかったXの賃金についても弁済期が到来

本件各未払賃金のうち、第1協約及び第2協約により支払の猶予の効果が生じないこととなるもの本来の支払日に弁済期が到来

前記の検討と併せ、本件各未払賃金の全てについて、原審口頭弁論終結時において弁済期が到来していた。
判例時報2424

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商標が国際信義に反するとして、商標法4条1項7号に該当するとされた事案

知財高裁H31.2.6    
 
<事案>
原告は、「envie CHAMPAGNE GRAY」の欧文字と「アンヴィ シャンパングレイ」のカタカナを上下2段に書してなり、第9類「眼鏡」等を指定商品として設定登録された本件商標の商標権者。
  被告は、本件商標登録の無効審判を請求⇒特許庁は、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとして、無効審決⇒原告が、本件審決には同号の判断誤りの違法があると主張し、その取消しを求めた。 
 
<規定>
商標法 第四条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
 
<判断>
・・・・
以上のような本件商標の文字の構成、指定商品の内容、本件商標のうちの「CHAMPAGNE」、「シャンパン」の文字がフランスにおいて有する意義や重要性、日本における周知著名性等を総合的に考慮

本件商標をその指定商品に使用することは、フランスのシャンパーニュ地方におけるぶどう酒製造業者の利益を代表する被告のみならず、法令により「CHAMPAGNE(シャンパン)」の名声、信用ないし評判を保護してきたフランス国民の国民感情を害し、日本とフランスとの友好関係にも好ましくない影響を及ぼしかねないものであり、国際信義に反し、両国の公益を損なうおそれが高いといわざるをえない。
本件商標は、商標法4条1項7号に該当
 
<解説>
特許庁の商標審査基準第3六:
①その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字または図形である場合、
②当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般道徳観念に反する場合
③他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合
④特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合
⑤当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合等
についても、商標法4条1項7号に該当するものとして運用。 
本件は、特定の国の国民の国民感情を害することを理由に国際信義に反するものとして商標法4条1項7号に該当することを認めた事例。
判例時報2424

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2020年1月27日 (月)

加害者が契約している自動車保険の保険会社が被害者に金員を支払ったが本来保険給付の対象でなかった場合の不当利得返還請求

高松地裁丸亀支部H30.12.19    
 
<事案>
Y1が運転する自動車が歩行中のAに衝突し、Aに傷害を負わせた(本件事故)。 
Y1との間で他社運転危険補償特約(本件特約)月の自動車保険契約をを締結していた保険会社であるY3(被告・反訴原告)は、
Aの入院した病院に1231万1122円、
Aが利用したタクシー会社に1万7360円、
Aに1175万6376円をそれぞれ支払った。
but
本件事故時にY1が運転していた車両(本件事故車両)は本件特約対象から除外される「記名被保険者(Y1)が所有する自動車」ないし「記名保険者(Y1)が常時使用する自動車」に該当するから、本件特約は適用されず、本件は保険金支払いの対象でなかった。

Y3が、反訴請求として、(事故後死亡した)Aの相続人であるXらに対し、前記の病院及びタクシー会社に支払った金員並びにAに支払った金員について返還を求めた。
 
<規定>
民法 第707条(他人の債務の弁済)
債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。
2 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。

民法 第500条(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
 
<主張>
●Aに対する支払についての返還 
Y3:
この支払は、Aを債権者、Y1を債務者とする債権につき、Y3が本件特約の適用があると誤信して第三者弁済をした⇒民法707条1項の類推適用により弁済は無効。

X:
①Y3によるAに対する支払は、AがY1から損害賠償債務の弁済を受けたもので、法律上の原因がある
・・:・保険会社から被害者に金銭の交付がされることがあるが、これは加害者からの支払指図によるものであり、被害者に対する損害賠償債務を弁済するのが加害者であることに変わりはない。
仮に本件事故車両に本件特約の適用がないとしても、それはY3とY1との間の原因関係に瑕疵があるにとどまり、Y1とAとの原因関係に影響することはない
 
●医療機関等に支払った金員の返還
Y3:
医療機関及びタクシー会社を債権者、Aを債務者とする債務に対する第三者弁済⇒Y3は、民法707条2項、500条の適用又は類推適用により、Aに対して求償権を有する。

X:
Y3による医療機関等への支払は、Y1のAに対する損害賠償債務についての弁済を、医療機関及びタクシー会社に対して個別にしたものに過ぎない。
 
<判断>
● 本件事故車両の所有者はY1⇒本件特約の適用除外事由がある。

●Y3がAに支払った金員
①この支払は、本件事故を起こしたY1がY3に本件事故を申告して本件特約に基づく保険金の支払を求め、これに応じてY3がAに支払をしたもの。
Y3によるAへの支払は、Y1のAに対する損害賠償債務の履行として、保険契約者であるY1の指示によりY3が行ったものというべき

Y3の支払は、自己の名による弁済とはいえず、Y3による第三者弁済には該当しない

前記支払はAが本件事故の損害賠償としてY1から弁済を受けたもの⇒法律上の原因がないとはいえず、Y3がXらに対して不当利得返還請求をすることはできない。
 
●Y3が医療機関等に支払った金員
①この支払は、本件事故を起こしたY1がY3に本件事故を申告して本件特約に基づく保険金の支払を求め、これに応じてY3が医療機関等に支払をしたもの。
②Y3による医療機関等への支払は、Y1のAに対する損害賠償債務の履行として、保険契約者であるY1の指示によりY3が支払ったもの。

Y3の支払は、自己の名による弁済とはいえず、Y3による第三者弁済には該当しない

民法500条を適用または類推適用する余地はなく、Y3は、医療機関等に支払った金員について、Xらに対し、求償することはできない。
 
<解説>
●講学上三角関係の不当利得として議論されている問題。
保険会社⇒A(被害者)に支払:

外見上:本件会社の給付(金銭支払)による利益は直接には支払を受けたAに発生し、Y1(加害者)は利益を受けないように見える。
but
当該給付によりY1はAに負う損害賠償債務がその限度で弁済されたことになって消滅するという利益を得ている。

AはY1との関係で損害賠償債務の弁済を受けるという法律上の原因がある。

本件で不当利得返還請求の相手となるのはY1であって、Aではないというべき。
(本来のルートである、保険会社が本件給付をY1に行い、他方、Y1がA等に損害賠償債務の支払いをしたというケースとの対比からしても、そう言える)

●最高裁H10.5.26:
消費貸借契約の借主甲が貸主乙に対して貸付金を第三者丙に給付するよう求め、乙がこれに従って丙に対して給付を行った後甲が本契約を取り消した場合、
乙からの不当利得返還請求に関しては、甲は、特段の事由のない限り、乙の丙に対する右給付により、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当。

補償関係が取消しにより消滅した事案について、補償関係の当事者間(本件でいうと保険会社とY1の間)で不当利得が成立すると判断
but
補償関係と対価関係の双方が欠けている場合、すなわち、本件でいうと、対価関係である損害賠償債務も不存在であるという場合については、
保険会社の金員の給付でY1の損害賠償債務が消滅するという利得がY1に生じたと評価できないことになる
⇒Aとの間で不当利得の関係が成立。

保険会社が病院に治療費相当額の金員を支払ったが、その治療が不必要で過剰、あるいは過大な単価のものであったという場合について、保険会社は病院に対して不当利得返還請求ができるとした東京地裁H23.5.31.

補償関係と対価関係の双方が欠けていた場合について判示したもの。

●本判決:
保険会社によるAへの支払は、Y1によるAの損害賠償の履行として保険契約者Y1の指図により保険会社が行ったものというべき
⇒自己の名による弁済とはいえず、本件会社による第三者弁済には該当しない
⇒前記支払はAが本件事故の損害賠償としてY1から弁済を受けたものというべきであり、法律上の原因がないとはいえない。 

金員の給付を債務者以外の者がする場合、
A:これを第三者(本件では保険会社)が自己の名で他人の債務(Y1の債務)を他人の債務として弁済するという第三者弁済として捉える場合と、
B:債務者(Y1)が履行補助者(保険会社)を使用して自己の名で弁済をなすと捉える場合
があり得る。
but
第三者弁済として捉えたとしても、これをY1の委託に基づきなされたものと捉えられ、Y1の指図により履行補助者として保険会社が弁済をしたと捉える場合とその利益状況は同じであり、結論は変わらない。

●医療関係等に支払った金員:
保険会社はY1との間に保険金の給付という補償関係がある
Y1の指示で(Aにより損害賠償債務の支払先として指示された)病院等に金員を給付したものと捉えられる。
この金員の給付により、Y1はAに対する損害賠償債務をその限度で免れるという利益を得る⇒不当利得関係はY1との間で成立し、Aとの間では成立しない。
判例時報2424

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意思能力を欠く常況にある区分所有者に対する弁明の機会

札幌地裁H31.1.22     
 
<事案>
マンションAの管理組合の管理者である原告が、本件マンションの区分所有者である被告に、本件マンションの管理規約に定める管理費等の長期間にわたる滞納があり、このことが本件マンションの区分所有者の共同の利益に反し、区分所有法59条1項の定める要件を満たす程度に至っている
⇒同管理規約に基づき、前記滞納管理費等の支払を求めるとともに、同項に基づき、本件マンションの被告の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求。
 
<経緯>
①原告が区分所有法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会を与えるべく被告に対して通知を送付した時点で、被告は意思能力を欠く常況にあったが、成年後見人は選任されていなかった。
②本件マンションの集会における特別決議を経て提起された本件訴えの訴訟手続において、被告のために選任された特別代理人に対し、改めて弁明の機会を付与するための手続が執られ、再度、本件マンションの集会において、本件訴えに係る訴訟手続を継続する旨の特別決議がされた。
 
<主張>
原告:
①区分所有法58条3項に定める弁明の機会の付与とは文字どおりその機会を付与する外形的事実があれば足り、その機会を付与される区分所有者に意思能力があるかどかは問題とはならない
②仮に、当該区分所有者に意思能力が必要であるとしても、特別代理人に対して弁明の機会が付与され、改めて本件集会がされた⇒その瑕疵は治癒 

被告:
①意思能力を欠いた常況⇒弁明の機会が付与されたということはできない
②特別代人には同法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会の付与を受ける権限を有しない
 
<判断>
原告主張①は否定
原告主張②を認め、本件マンションの被告の区分所有権及び敷地利用権の競売の請求を認容。 
 
<規定>
区分所有法 第五九条(区分所有権の競売の請求)
第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。

区分所有法 第五八条(使用禁止の請求)
前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
 
<説明> 
●区分所有法59条1項に基づく競売の請求 
区分所有建物の区分所有者が、区分所有法6条1項に定めるいわゆる共同利益背反行為をし又はそれをするおそれがあり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合
他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。

前項の請求をするためには、
区分所有者及び議決権の4分の3以上の集会における特別決議に基づくことを要し(法59条2項、58条2項)、
その決議をするに当たっては、当該行為に係る区分所有者に対し、あらかじめ、弁明の機会を付与しなければならない。
(同法59条2項、58条3項)
 
●競売の請求における弁明の機会の付与 

競売によって当該区分所有者の区分所有権に重大な影響が生じることから、その者に確実に反論させる機会を提供。

弁明の機会を付与する旨の通知によって弁明の機会が付与されたというためには、その通知の内容を了解する能力を当該区分所有者が備えていることを要すると解するのが相当。
 
●特別代理人に対する弁明の機会の付与と総会決議の瑕疵の治癒 
民訴法上の特別代理人は選任された事件については法定代理人であり、法定代理人と同一の権限を有する
②弁明の機会の付与は、競売の請求に係る訴えを提起するための手続要件。
民訴法35条の規定は、代理に親しまない離婚訴訟には適用されないとされている(最高裁昭和33.7.25)が、区分所有法に基づく競売の請求に係る訴えはあくまで民事訴訟であり、同判例の射程は及ばない

本判決:特別代理人は弁明の機会を付与されること(さらには弁明すること)についての権限を有していると解した。
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2020年1月26日 (日)

少年らの共同不法行為(肯定)、親権者らの責任(否定)が争われた事案

大津地裁H31.3.14    
 
<事案>
琵琶湖のヨットハーバーの突堤(「本件現場」)から湖面に突き落とされて死亡したV(当時16歳)について、突き落とす行為に参加した少年ら及びその親権者らに対する損害賠償請求の可否が問題となった事案。 
刑事では、B1、C1らは、A1と共謀した事実はない⇒不起訴処分
 
<判断> 
●少年達の共同不法行為の成否
①B1、C1は、A1によるVを琵琶湖に落とそうという提案について、反対することなく了解したことが認められる
②C1は、本件現場で遊ぶ場合には、友人を突き落としたり突き落とされたりすることがあることを十分に認識
②B1においても、本件現場では琵琶湖への飛び込みをして遊ぶしかない場所であることのほか、人によってはふざけて友人を琵琶湖に落としたりする可能性があることを認識していた
③A1、B1、C1は、突然突き落とされておぼれている様子であったVを、しばらくの間、笑いながら見ていた
3名の少年の間にVを不意に琵琶湖に突き落とすことについて、主観的な意思の連絡があたと認められ、主観的共同性が認められる
共同不法行為が成立
 
●親権者らの監護義務違反
未成年者が責任能力を有する場合であっても、その監督義務者に監督義務違反があり、これを未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係を認め得るときには、監督義務者は、民法709条に基づき損害賠償責任を負う。 
監督義務違反尾検討に当たっては、具体的結果との関係における予見可能性及び結果回避可能性を踏まえて判断するのが相当。
①本件事件は飛び込み遊びの延長線上にある友人間の悪ふざけとして行われたものであり、Vの死亡という結果はA1、B1、C1ら少年にとっても意外で不本意なものであった

①3名の少年に非行傾向があったからといって、同少年らが本件事件のような事態を引き起こすことを、その親権者らが具体的に予見することができたとはいえない。
その親権者らが監護指導を尽くしていたとしても本件事件の発生を防止することができたとも言い難い

親権者の責任を否定。

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法廷での反対尋問での発言が証人の名誉を毀損するとされた事例

東京高裁H30.10.18    
 
<事案> 
懲戒解雇無効確認等請求事件において、会社の証人として尋問を受けたXが、被解雇者の訴訟代理人弁護士Yから反対尋問を受けた際のYの発言
「Xが会社を辞めたことに関して、横領して辞めたのではないか、自己の意思に反して会社に有利に証言しなければならない立場にあるのではないか」
⇒名誉を毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料300万円を請求。
 
<原審>
①本件各発言は、事件との関連性があり、正当な訴訟活動であると認識・判断した上でされたものであり、
②証人に証言拒否権があるこも勘案すれば
相当性を欠くとはいえない。

請求棄却。 
 
<判断>
原判決を変更し、請求を100万円の範囲で認容。 
本件各発言は横領という犯罪事実を公開の法廷で摘示するものであり、Xの社会的評価を低下させるもの
②正当な訴訟活動として違法性が阻却されるか否かの判断は、当該質問によって毀損される名誉の内容や程度、質問の必要性、当該質問において摘示した事実の真実性、又は真実であると信じた相応の根拠の有無、質問の表現方法や態様の相当性を総合考慮するのが相当
③Yによる本件各発言は、それによってXの証言の信用性が減殺されるとは言い難いこと、相応の根拠のないこと、執拗かつ不適切な態様であったこと

正当な訴訟活動として違法性が阻却されるものとは認められない。
 
<解説>
証人に対する反対尋問は、
「主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項並びに証言の信用性に関する事項」について行う。(民訴規則114条1項2号)
この場合において、証言の信用性に関する事項の質問も無制限に許されるわけではなく、相応の根拠をもってされなければならないのであって、証人を侮辱する質問は許されない。(民訴規則115条2項1号)
法廷における訴訟活動は、裁判の役割からみて、できるだけ尊重しなければならない(最高裁昭和60.5.17)のであって、正当性に係る評価は慎重でなければならない。

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2020年1月24日 (金)

高圧一括受電方式導入のため、団地建物所有者等に対して個別に締結されている電力供給契約の解約申入れを義づける旨の集会決議等の効力

最高裁H31.3.5    
 
<事案>
高圧一括受電方式の導入を希望していた団地建物所有者が、その導入に反対していた団地建物所有者が個別契約の解約申入れをしなかったことによりその導入ができなかった⇒同団地建物所有者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。
本件マンションの団地管理組合法人の集会において、専有部分の電気料金を削減するため、団地管理組合法人が一括して電力会社との間で電力の供給契約を締結する方式(「本件高圧受電方式」)に変更し、その変更をするために、電力の供給に用いられる電気設備に関する団地共用部分につき規約を変更する旨等の「決議(「本件決議」)がされた。
本件高圧受電方式への変更をするためには、個別契約を締結している者の全員が、その解約をすることが必要
⇒本件決議は、本件高圧受電方式以外の方式で電力の供給を受けてはならない旨の規約細則(「本件細則」)を設定することなどにより、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるもの。
 
<争点>
本件決議又は本件細則が団地建物所有者等に前記解約申し入れを義務付けるものとして効力を有しなければ、Yらが前記解約申入れをしないことが不法行為を構成する余地はない
⇒本件決議又は本件細則が区分所有法に基づき前記の効力を有するか否か
 
<原審・1審>
本件決議は団地共用部分の変更またはその管理に関する事項を決するなどして本件高圧受電方式への変更をすることとしたものであって、その変更のためには個別契約の解約が必要⇒団地建物所有者等にその解約申入れを義務付けるなどした本件決議は区分所有法66条において準用する17条1項又は18条1項の決議として効力を有する。
Yらがその専有部分について個別契約の解約申入れをしないことは本件決議に基づく義務に反する⇒Xに対する不法行為を構成する。
 
<判断>
本件決議のうち団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は専有部分の使用に関する事項を決するものであって法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。 
本件細則のうち前記解約申入れを義務付ける部分は法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、前記部分は同項の規約として効力を有するものとはいえない。

Yらが本件決議又は本件細則に基づき前記解約申入れをする義務をおうことを否定し、原判決を破棄し、Xの請求をいずれも棄却
 
<解説> 
●区分所有法は、区分建物いおいて、
共用部分の変更及び管理については集会決議で決することができるとする一方(法17条1項、18条1項)、
建物等の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は規約で定めることができるとする(法30条1項)。

共用部分の管理・変更については規約を待つまでもなく当然に集会決議で決することができるとする一方、
専有部分の使用については、「区分所有者相互間の事項」に限り、規約によってのみ規制することができるものとしたもので、
これらの事項以外の事項につき決議し、又は規約を設定したとしても、当該決議又は規約は区分所有法に基づく効力を有しない。

本件マンションについては団地管理関係が成立している(法65条)
⇒本件決議及び本件細則の効力の検討は法66条において読替えの上で準用される法17条1項、18条1項及び30条1項により行うべきこととなり、前記読替えにより、法17条1項及び18条1項は、団地内の区分建物(法68条1項により団地管理の対象とされたもの)の共用部分の変更・管理については団地管理組合法人の集会決議で決することができる旨などを、
法30条1項は前記区分建物の管理又は使用に関する団地建物所有者相互間の事項は団地管理規約で定める旨などをそれぞれ定めたものとなるが、
これらの文言の解釈等は、読替え前の条文における文言の解釈に準じて考えることができるものと解される。
 
●本件決議は団地共用部分の範囲の変更等を決する部分がある⇒本件決議中に、団地共用部分の変更又は管理に関する事項を決する部分が含まれることは明らか。
but
専有部分において使用する電力の供給契約の選択は、専有部分の使用に関する事項⇒本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は専有部分の使用を制約するものに当たるというべきで、「共用部分の変更」(共用部分の形状又は効用を確定的に変えること)又は「共用部分の管理」(共用部分の維持のため必要又は有益な行為)に該当するものとは解し難い。

専有部分の使用を「区分所有者相互間の事項」に限り規約によってのみ制約し得るものとした法30条1項の趣旨に沿わず、相当でない。

本件決議のうち団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は団地共用部分の変更またはその管理に関する事項を決するものではないとして、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有しない。
 
●法66条において準用する法30条1項の規約としての本件細則の効力の有無について、
法30条1項の「区分所有者相互間の事項」は
「建物等の管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項」ないし
「区分所有者相互間において専有部分の管理又は使用を調整するために必要な事項」などと説明されるものの、
その具体的範囲ないし外延は必ずしも明確ではない。

区分所有法の趣旨が、専有部分が1棟の建物の一部を構成するという区分建物の特性に鑑み、区分所有者相互間における専有部分の使用関係を調整し、共用部分を含めた区分建物の管理の適正化を図ることあり、独立の所有権の対象である専有部分の管理又は使用を規約によって制約し得る根拠はこの点に求めることができると解されている。

専有部分の使用を制約する内容の規約が法30条1項の範囲内のものとして効力を有するか否かについては、
①当該制約の対象となる事項が、その性質上、他の区分所有者等による専有部分の使用又は共用部分等の管理に影響を及ぼすものであるか否かという点や
②当該制約が、区分所有者相互間による専有部分の使用関係の調整又は共用部分等の適正な管理のために必要なものであるか否かという点などを考慮して検討。

本件:
専有部分において使用する電力の供給契約の選択は、本来、当該専有部分の区分所有者に委ねられるべき事項であり、かつ、通常は前記選択が他の専有部分や団地共用部分等に何らかの影響を及ぼすものではないと考えられ、専有部分の個別契約を解約するか否かは、その性質上、それのみによって他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものとは解されない
②本件において、本件高圧受電方式への変更は専有部分の当面の電気料金を削減しようとするものにすぎないとされており、本件高圧受電方式への変更がされないことにより専有部分の使用に支障が生じるような事情や、団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれない。

判例時報2424

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2020年1月23日 (木)

滞納処分(差押処分)が超過差押えに該当して違法とされた事案

奈良地裁H31.2.21    
 
<事案>
Xは、市税である市県民税及び固定資産税を滞納⇒滞納処分として土地建物についてのXの持分の差押⇒Xは、処分行政庁の所属するY(奈良県大和郡山市)に対し、本件処分は、地税法が準用する税徴法が禁止している超過差押え(同法48条1項)及び無益な差押え(同条2項)に当たる⇒①本件処分の一部取消しを求めるとともに、本件処分によりXが精神的苦痛を被ったと主張し、②国賠法1条1項に基づき10万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断> 
●請求①
本件処分は無益な差押えには該当しない。
超過差押え該当性について:
差押処分時に財産価値を正確に把握するのは困難⇒徴収職員が差し押さえる財産に裁量権を認めた。
but
その裁量権の行使に当たっては、滞納者の生活への支障や財産の可分性等を考慮して判断すべき。
本件不動産は経済的用法に従っても6つに分けられ、そのうち4つはそれだけで滞納税額を上回るにもかかわらず、滞納税額の約10倍もの価値を有する本件不動産全てを差し押さえたことは、前記裁量権の逸脱・濫用⇒本件処分全体が違法⇒処分権主義に従い、Xが取消しを求める限度で請求を認容。
 
●請求② 
国賠法1条1項の違法性につき、行政処分の取消訴訟の違法性とは異なるとする違法性相対説。
その判断基準として職務行為基準説(最高裁H5.3.11)

税収職員には税の滞納があれば滞納処分をする義務があり、差押処分時に財産価値を正確に把握するのは困難
⇒滞納処分における徴収職員の財産の選択にかかる裁量権は広範なもの。
①本件不動産は市場性減価が一定程度見込まれる市街化調整区域内にある⇒直ちに価値を把握するのは困難。
②Xの納税意思がないまま、数年にわたって滞納が継続していたなどの本件の具体的事情。

Yの徴収職職員が職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分を行ったとは認められない⇒前記違法性を否定。
 
<解説>
滞納税額を超える財産の差押えに関する裁判例:
①滞納税額に対し、実質価格で60~70倍、購買価額で30~40倍という超過額の著しい差押えにつき、他に財産がないことなどから有効とした事案(最高裁昭和46.6.25)
②滞納税額の約4倍に相当する複数の預金債権の差押えを超過差押えに該当するとして違法とした事案(那覇地裁H8.12.17)
③滞納処分後になされる公売処分に関する事案であるが、滞納税額の10倍近い公売処分につき、滞納税額に達する唯一の財産であったことなどから適法とした事案(京都地裁昭和35.6.22)

滞納処分が超過差押えに該当する場合であっても、差押えの一部解除等により超過差押えでなくなったときは、その違法性は治癒される
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原子力発電所事故当時発電所長の地位にあった者から事故当時の事情を聴取した調書中の個人識別記述等を不開示とした部分開示決定の一部取消しを求めた事案

東京地裁H30.3.28     
 
<事案>
内閣官房に設置された事故調査・検証委員会(政府事故調)が、本件事故当時の福島第一原発所長から事情を聴取した聴取結果調書(本件各調書)について、Xらが、行政情報公開法に基づき、開示の請求⇒処分行政庁により当初その全部を開示しない旨の行政処分不開示決定、その後、状況の変化を踏まえ、個人に関する情報等が記録されている部分を除いて開示する旨の変更決定。

Xら:なお不開示とされた一部(本件各記述)について、
①東京電力のグループマネージャー(GM)以上の職位にある個人の氏名又は職名(氏名等)は公表慣行がある⇒法5条1号ただし書イの公領域情報に該当
②本件各記述を公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、同種の過酷事故予防策の構築に必要な事故原因の究明という人の生命、健康等を保護するための必要性が上回る⇒同号ただし書ロの生命等保護情報に該当し、同号所定の不開示情報には当たらない。

本件各記述を不開示とした部分の取消しを求めた。
 
<規定>
行政情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
・・・
 
<判断> 
●①の公開情報該当性
本件各記述は、その前後の文章の内容と相まって、個人の行動等を記録した情報(行動情報)としての有意な方法(本件各行動情報)を構成しており、本件各行動情報に係る本件各記述以外の部分が既に開示されている
⇒本件各記述が開示されると本件各行動情報の全部が明らかになる関係にあることを踏まえた上で、公領域情報該当性は、有意といえる最小の情報のまとまりの全体について、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているか否かを吟味すべきもの。
①本件各調書の作成目的や性質に鑑み、本件各記述に係る個人識別記述等のみをもっては有意の情報であるとは解することができず、
②本件各行動情報全体について、本件各変更決定時に公領域情報に該当したことをうかがわせる事情は見当たらない

本件各記述を含む本件各行動情報は、法5条1号ただし書イの公領域情報として不開示情報から除外されない。
 
●➁の生命等保護情報該当性 
行政文書を
①保護される人の生命、健康、生活又は財産の利益と
➁これを公にすることによって個人の権利利益が害されるおそれ
とを比較衡量して、前者が後者に優越すると認められることを要する。
本件各記述部分が開示されることによって、政府事故調による調査及びその結果が公表されていることによっては実現できないような人の生命、健康、生活又は財産の利益の保護が図られることになる蓋然性が高いとまでは認められない一方、
本件各記述部分が公にされることによって本件各記述対象者の権利利益が害されるおそれは無視し得る程度に低いものとはいえない

本件各記述は、法5条1号ただし書ロの生命等保護情報として不開示情報から除外されるものであったとはいえない。
 
<解説>
●①の公開情報該当性
本判決:
公表慣行があるといえるためには、公表主体が行政機関であるべきとするYの主張を退け、
事実上の慣行として公にされ、又は公にすることが予定されていれば足りる
but
①一時的に公にされただけで爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況になく、また、
➁類似の情報が公にされていても、情報としての性格が同種の情報についてのものでなかったり、
③個別的な事情に基づいて公にされたりしているにとどまれば、
公表慣行があるとはいえない
結論として、過酷事故の一次資料についての公表慣行を認めることはできない。

●➁の生命等保護情報該当性 
本判決の比較衡量の枠組み自体は一般的なもの。
①学識経験者等によって構成される政府事故調が、多数の関係者からのヒアリング結果等の一次資料を基にして中立的な立場から再発防止策を提言する報告書を作成してこれが公表されるとともに、
➁調査・検証によって明らかになった事実関係が検証・批判可能な形で公にされている

不開示とされた本件各記述部分が開示されることにより、過酷事故の再発防止という生命等の保護が一層図られることになる蓋然性が客観的にみて高いとまではいえず、不開示により保護される利益に優越するとまでは認められないと判断。

他の関連情報等の公表状況を勘案した上での事例判断。
判例時報2424

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2020年1月20日 (月)

検察官の勾留請求を身体拘束の時間制限を逸脱する違法なものと認定した事案

京都地裁H30.10.25    
 
<事案>
勾留請求却下⇒準抗告の事案
平成30年9月11日、本件と被疑者を異にする同種被疑事実で逮捕、勾留及び勾留延長⇒同年10月2日処分保留により釈放
同日、本件と被疑者を異にする同種被疑事実で逮捕され、勾留及び勾留延長を経た上で、同月23日処分保留により釈放。
同日、本件被疑事実で逮捕。
 
<判断>
本件勾留請求は、実質的には身体拘束の時間的制限を逸脱する違法なもの⇒勾留請求を却下した原裁判は、結論において正当
①前2件と本件の被疑事実を比較し、被害者は異なるものの、共犯者は同じであり、犯行の構造自体は同一
証拠もその多くが共通しており、捜査対象はほぼ同一
被疑者の関与をうかがわせる証拠物や共犯者供述が、当初の逮捕以前から捜査機関により入手されている

前2件の逮捕・勾留期間中に、本件被疑事実の捜査を行うことが困難であった事情はうかがえない
 
<解説>
●勾留に関して
事件単位説
⇒複数の被疑事実が存在するときには、長期の身柄拘束を可能にする。

実質上1つの事実と考えられるときに
①捜査機関に課される「同時処理の義務」や、
②捜査機関がその事件全体の捜査に掛けることのできる「制限時間」など

厳格に制限時間を規定する刑訴法の趣旨からして、実質同一の事件であるときには、事件単位の原則からこれを同一事件として捜査を尽くすべきであり、それを逸脱するような身柄拘束を許さないとする考え方。 

●最高裁H30.10.31:
勾留を認めた原裁判を取り消した準抗告決定に対する検察官からの特別抗告に対するもの。
いまだ刑訴法411条を準用すべきものとまでは認められないとして、抗告を棄却。
but
その理由中において、
原決定が当該勾留の被疑事実である大麻の営利目的輸入と、当該勾留請求に先立つ交流の被疑事実である規制薬物として取得した大麻の代替物の所持との実質的同一性や、両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等のみから、前件の勾留中に本件勾留の被疑事実に関する捜査の同時処理が義務付けられていた旨説示した点は是認できない
との判断。 

三浦裁判官の補足意見:
本件と前件の被疑事実が一連のもので密接に関連するとはいえ、
併合罪の関係にあり、
両事実の捜査に重なり合う部分があるといっても、
本件の被疑事実の罪体や重要な情状事実については、前件のそれらより相当幅広い捜査を行う必要がある

原決定が
「両事実の実質的同一性」や「両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等」のみから捜査機関が前件の被疑事実による勾留中に同時処理を義務付けられていた旨を説示した点は、刑訴法60条1項、426条の解釈適用を誤ったもの。

問題は、複数の事実が関連し合う具体的事案において、どの程度の時間内においてすべての捜査を完了すべきか、ということであり、もろもろの要素を検討してそれを適切に判断していくところにある
判例時報2423

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2020年1月14日 (火)

被告人が、自宅で父親の背中を包丁で刺すなどして死亡させた傷害致死被告事件の起訴後の接見等禁止決定に関する特別抗告事件

最高裁H31.3.13      
 
<事案>
被告人は平成30年4月20日に起訴され、検察官の請求により、第1回公判期日が終了する日までの間、弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見等を禁止する決定。
裁判員裁判対象事件の公判前整理手続において、主な争点は、責任能力の有無、程度に絞られた
弁護人は、平成31年2月7日、弁護人の依頼により精神鑑定書を提出したA医師及び被告人の妹について、接見等禁止の一部解除を申請⇒職権発動がされなかった⇒接見等禁止の取消しを求めて準抗告申立て。
 
<原審>
A医師及び被告人の妹を含めて接見等を禁止する必要があり、弁護人が防御等の必要性として主張するところを考慮しても、接見等禁止の判断を左右しない
⇒本件準抗告を棄却 
 
<規定>
刑訴法 第八一条[接見等禁止]
裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第三十九条第一項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。

刑訴法 第四二六条[抗告に対する決定]
抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。
②抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。

刑訴法 第四一一条[著反正義事由による職権破棄]
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
 
<判断>
本件抗告の趣意は刑訴法433条の抗告理由に当たらない
but
原決定には刑訴法81条、426条の解釈適用を誤った違法がある
⇒刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消した上、和歌山地裁に差し戻した。 
 
<解説>
●逃亡、罪証隠滅のそおれは、勾留理由(刑訴法60条1項)であるが、
接見等禁止(81条)は、接見、通信、物の授受等による逃亡や罪証隠滅のおそれがあることが必要であると解されている。 

実務上、被疑者に対する接見等禁止の決定には、
「公訴の提起に至るまで」という終期を定め、
起訴後は、被告人としての当事者の立場を考慮し、改めて接見等禁止の要否を判断。

起訴後に接見等禁止をする場合、事案に応じ、
「第〇回公判期日が終了する日まで」
「〇年〇月〇日まで」
といった終期を定め、一定期間ごとに接見等禁止の要否を判断。
裁判員裁判対象事件公判前整理手続に付された事件では、第1回公判が開かれるまでに時間を要する場合があり、接見等禁止が長期間にわたることがあり得る。

本決定:
「原々裁判が、公判前整理手続に付される本件について、接見等禁止の終期を第1回公判期日が終了する日までの間と定めたことは、公判前整理手続における争点及び証拠の整理等により、罪証隠滅の対象や具体的なおそれの有無、程度が変動し得るにもかかわらず、接見等禁止を長期間にわたり継続させかねないものである」と判示

実務では、このような問題意識から、起訴後の接見等禁止の終期については、2、3か月後の日を定めるなど特定した終期を定める工夫がされている。

●一般に抗告審の審査は事後審的に原裁判の当否を判断するもの⇒原裁判後に生じた事情や原裁判後に明らかとなった資料は、原則として考慮することができない。
but
原裁判には様々な性質のものがあり、事案の内容、迅速処理の要請、再度の申立ての可否、事実の変動の可能性、資料の重要性や入手の難易等の事情を考慮し、職権による事実の取調べとして、合理的な範囲内で、新事実、新資料を考慮する場合があり得る。

本件弁護人:
原々裁判後に公判前整理手続における争点・証拠の整理が進捗した結果、接見等禁止を継続すべき罪証隠滅のおそれがなくなったと主張

原決定:
原々裁判時はもとより原決定時においてもなお罪証隠滅のおそれが認められるとした。

①原々裁判の接見等禁止の終期の定め方にそもそもの問題があり、約10か月前の原々裁判時に存在した事情のみに基づいてその当否を審判する意味は失われていた
②接見等禁止の一部解除の申請に対し、職権が発動されなかったため、本件準抗告以外に不服申立ての手段がなかったこと

本決定においては、例外的に被告事件の公判前整理手続の経過等の事情を考慮して、原決定の当否を判断

●罪証隠滅のおそれについて、
裁判員裁判の導入を契機として、保釈に関し、より具体的、実質的に判断していくべきであるとの指摘。 

本件では、
①公判前整理手続で、公訴事実の行為と結果に争いがなく、争点が責任能力の有無、程度に絞られていた。
②A医師は、精神鑑定書を提出し、情状証人の被告人の妹と共に弁護側証人となることが予定されていた。
③原決定当時、既に証人請求の予定が明らかとなり、具体的な審理日程に関する協議がされるなど連日的な集中審理に対応するための立証準備が重要な段階に至っていた。
④責任能力に関して、A医師のほかに起訴前の鑑定を行った医師の証人尋問が予定され、同医師が被告人と十分な時間面接していた⇒弁護人の公判準備や防護の観点からも、A医師が被告人と面接する必要性が高まっていた。
罪証隠滅のおそれの有無、程度に直接関わる事情ではないが、接見等禁止の必要性に影響を与える事情であったと考えられる。

本決定:A医師について、検察官の従前の意見の内容等を踏まえ、接見等による実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがうかがわれないことに加え、連日的な集中審理の公判に向けた準備を行う必要性が高いと指摘
判例時報2423

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2020年1月13日 (月)

財産分与審判前の夫婦共有財産(建物)の名義人による他方配偶者への明渡請求の事案

札幌地裁H30.7.26    
 
<事案>
原告(元夫)が、被告(元妻)に対し、所有権に基づく建物明渡し及び賃料相当損害金の損害賠償請求を求めた。

被告:
①被告も本件建物の共有持分権を有している、
②原告の請求は権利濫用である
などとして争った。 
 
<規定>
民法 第七六二条(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

民法 第七六八条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
 
<判断・解説>
●夫婦共有財産と共有持分権 
◎ 原告の給与等を購入原資として、原告名義で得た財産⇒形式的に見る限り、原告の特有財産(民法762条1項)
but
婚姻後に取得された財産であり、被告も本件建物購入に寄与してきた離婚時の財産分与(民法768条)の対象となる実質的共有財産に当たり、近時のいわゆる2分の1ルールの下では、被告にも、2分の1の分与率が認められる

◎ 被告:
本件建物が実質的共有財産⇒本件建物について共有持分権を有している⇒共有物を単独で占有する他の共有者である被告に対し、当然にはその占有する共有物の明渡しを請求することができない(最高裁昭和41.5.19)と主張。
財産分与手続を経ることなく、共有持分権の確認請求や更正登記手続請求などを認めた裁判例もある。
but
不動産の購入資金自体が共働きの夫婦双方の収入から拠出されており、一方配偶者の単独名義で取得されているが、当初から、夫婦が共同取得した不動産であるとの事実を前提としたもの。
vs.
実質的共有財産であるからといって、財産分与手続を経ることなく、当然に他方配偶者が共有持分権を有しているということはできない。
離婚によって生ずることあるべき財産分与請求権は、1個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確である」(最高裁昭和55.7.11)
 
●建物明渡請求が権利濫用に当たるか否か 
①本件口頭弁論終結時において、被告による財産分与の申立てが係属中であり、
実質的共有持分権が被告に財産分与される可能性も否定できない状態にあった

本判決:
原告の損害賠償請求を認めて、被告に対して賃料相当損害金の支払を命ずる一方、
原告の建物明渡請求を権利濫用として否定

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被告(東京電力)の従業員とその家族による原発事故に起因する損害賠償請求の事案

福島地裁いわき支部H31.2.19    
 
<事案>
Xらが、Y(東京電力)に対し、平成23年3月11日の福島第一原発事故により被案を余儀なくされた⇒原賠法3条1項に基づき、慰謝料、避難帰宅費用及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた。 
 
<争点>
①Xらの被侵害利益(X1がYの従業員、X2らはX1の家族であり、包括的に配転命令を受け入れている点をどのようにみるか。)
②本件事故との相当因果関係が認められる期間と損害額 
 
<判断>
●被侵害利益 
本件事故時におけるXらの居住態様Xらが有する大熊町内での居住継続への期待やこれに伴う社会生活上の便益などは、住居を所有するなどして大熊町内で居住していた者と同程度と認めるのが相当であり、法的保護に値する利益というべき。

XらはYの従業員及びその家族として包括的な配転命令権の行使を許容していた旨のYの主張:
同命令権によりXらには大熊町に居住し、その意思に反して転居させられないことについての法的利益がないものと主張する趣旨
vs.
雇用契約の当事者ではないX2らに対しては、同命令権の行使により一方的に転居を命じられるものではなく
X1についても、本件事故の時点でX1が大熊町からの転居を伴う異動が予定されておらずそのような異動を命ずる業務上の必要性を基礎付ける事情も見当たらない

本件事故の時点で雇用契約に基づいてX1が大熊町からの転居を伴う異動をする可能性が現実化していたとはいえず、Yの主張は採用できない。
 
●本件事故との相当因果関係が認められる期間と損害額 
◎ 本件配置転換や埼玉県内に自宅を建築して居住を開始したといった事情は、本件事故とXらが大熊町内に居住できなかったこととの相当因果関係を否定する事情には当たらない
Xらが本件事故の発生から平成29年5月31日までの間大熊町に居住できず、前記の居住への期待、利益が侵害されたことと本件事故との間には相当因果関係が認められる

Xらが主張する慰謝料は、本件事故の発生によって住み慣れた地から避難することを余儀なくされ、日常生活が著しく阻害されたことによる精神的損害を原因とするものであり、
かかる精神的損害は、実際の避難の有無や避難終了時期を問わず、本件事故発生時に一定の内容として生じると解される。

①Xらは、大熊町を生活の本拠としていた者と同様の生活を営むに至っていたところ、本件事故によって住み慣れた地から避難を余儀なくされるなど日常生活阻害の程度は重大
中間指針における帰還困難区域に居住していた者に対する精神的損害の金銭評価

本件事故によってXらに生じた精神的損害の額は、1人当たり1450万円を下らないと認めるのが相当。 
 
<解説>
福島地裁H27.9.15:
Yの従業員であり、本件事故当時、大熊町に居住していた者が本件事故のため避難を余儀なくされるなどしたと主張して、Yに対し原賠法に基づく損害賠償請求をした事案について、
被告の業務命令に基づき勤務地を変更することも予定されており、上記のとおり東京都内や茨城県内に勤務したこともあった
⇒原告が、福島第一原発での勤務を継続し、長期間にわたって大熊町に居住し続けることを期待していたとしても、それ自体は事実上の期待であったといえる。

被告は、福島第一原発を設置、運転していた原子力事業者であり、本件事故発生を受けて、その収束のため、従業員の勤務内容や勤務地を大幅に変更することはやむを得ないことといえる
⇒被告の従業員であった原告に対する勤務地変更の業務命令も、やむを得ないものであったといえ、原告の上記の期待そのものが直ちに法的に保護されるものとはいえない。

避難慰謝料について前記の中間指針等より大幅に低い金額しか認めていない。 
判例時報2423

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2020年1月11日 (土)

交通規制中に交通事故で死亡した警備員を雇用していた警備会社による営業損害の賠償請求

京都地裁H31.3.26    
 
<請求>
本件事故現場での警備業務の提供等が不可能になり、得られるはずの利益を失ったと主張⇒
大型貨物自動車の運転手(被告運転手)に対しては不法行為責任に基づき、
同運転手を雇用している会社に対しては使用者責任に基づき、
営業損害の賠償を求めた。 
 
<判断>
● 本件は、企業が請負業務の履行中に、雇用していた従業員と保有していた車両に対して、それらを進路前方に認識しながら制動措置を講じられなかった自動車が衝突してきたという事案⇒被告らが主張する企業損害と事例とは事案と異にする。 
● 従業員と保有車両を侵害されることで請負契約の履行自体に関しても侵害を受けた企業が、加害者に対して、当該請負業務の停止に伴う事業損害を請求⇒当該請負業務の停止に伴う原告の2か月間の営業損害については、被告らには損害賠償義務がある。

被告運転者は、高速道路の規制がされていることを認識し、その作業車両に対し、大型のトラックをもって時速約90ないし100キロメートルの高速で衝突
原告の作業車両に乗るなどしてた作業員5名が死傷し、原告の作業車両が損傷するとの結果は十分に予測可能であり、その結果、本件事故現場での工事ないし高速道路警備業務が2か月内にわたって中断されることは予見可能であった。

中断期間における高速道路警備業者の利益喪失は、本件事故と相当因果関係のある損害であり、その額は500万円。
2か月を超える期間の本件事故現場での利益喪失や、本件事故との間で相当因果関係は認められない
 
<解説>  
従業員が交通事故で業務に従事できなくなり、企業に事実上の損害が生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者にとって一般に予見可能ではなく、間接損害としての企業損害は認められない(最高裁昭和54.12.13)。 

例外的に、間接被害者であっても損害賠償請求が認められる事例として、
会社がいわゆる個人会社であり代表者に会社の機関としての代替性がなく両者が経済的に一体をなす関係がある場合において、交通事故により会社代表者を負傷させた加害者が会社に対し損害を賠償する責任がある(最高裁昭和43.11.15)。

現在の交通事故損害賠償実務においては、個人営業の会社とはいえない一定の規模以上の会社において、積極損害、消極損害を問わず、原則として企業の間接損害が認められることはないと捉えられている。
 
● 他方で、営業中の企業の店舗に車両が衝突し、店舗が営業休止に追い込まれた場合の休止期間の営業補償などは、営業休止に相当因果関係があるのであれば、これは損害賠償の対象になる。 

判例時報2423

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2020年1月10日 (金)

弁護士刺殺事件と国賠請求(肯定)

仙台高裁秋田支部H31.2.13      
 
<争点>
①Vが刃物で刺突された際の態様
②現場に臨場して対応に当たった警察官らの過失の有無 
 
<判断>
●争点①について:
警察官らの供述等⇒Sの刺突時に警察官らがVを取り押さえていたことはなかった。

●争点②について:
生命、身体等の重大な国民の法益に対する加害行為又はその危険の存在
②警察官の①の状況の認識又はその容易性
③警察官の法令上の権限行使による加害行為の危険除去、法益侵害結果の回避・防止可能性
④警察官による法令上の権限行使の容易性
が認められる場合には、
警察官は特定の個人に対する個別の法的義務として規制権限等を行使すべきところ、これを行使せず、又は許された裁量の範囲を超えて不適切に行使したために前記危険が現実化して当該国民の重大な法益が侵害されたときには、国賠法1条1項における故意又は過失による違法な公権力の行使に該当し、国又は公共団体は損害賠償責任を負う。

①の状況は明らか
②:妻の通報により警察官らはこれを認識して現場に臨場した
③:Sが拳銃を確保したVともみ合っていた状況で、いきなりけん銃を取り上げる行動をとらずに、侵入者を識別する問いかけをしてSを制圧するかV及び妻を避難させるなどしていれば、V殺害に至らなかったことは確実
④:問いかけをすれば容易に侵入者を識別できた

警察官らの規制権限の不適切な行使が故意又は過失による違法な公権力の行使に該当⇒県に対して損害賠償金等の支払を命じた

県の不適切捜査や虚偽説明等による慰謝料請求
被害者等が捜査によって受ける利益は事実上の利益にすぎない
②これがあったとも認められない

請求を棄却。 
 
<解説>  
●判例の判断枠組み:
その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、これにより被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。(最高裁H7.6.23) 
but
個々の訴訟類型ごとに考慮されるべき具体的な事情(法令に基づく権限の性質、趣旨や行使に至らなかった経緯等)は異なる⇒問題となる公務員の権限や事件類型ごとに裁判例を分析して、規制権限不行使を巡る一連の諸事情のうち考慮の対象とされるべき事情を整理する必要。
 
●警察官の権限の不行使に関する類型について
最高裁昭和57.1.19:
ホテルでナイフを示して「殺してやる」などと脅していた者が交番に連行された際、ナイフの携帯が銃刀法違反に当たること等が明らかであるのに、警察官がそのまま帰宅させ、帰宅途中立ち寄った飲食店の従業員にナイフで重篤な傷害を負わせた

判示の状況から、他人の生命身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況にあったことを警察官は容易に知ることができた⇒ナイフを提出させて一時保管する義務があた。

最高裁昭和59.3.23:
島の海岸に旧日本陸軍の砲弾が打ち上げられ、これを放置すれば人身事故等が発生する危険性を警察官も認識して砲弾発見等の届出を住民に呼びかけるなどして回収にあたっていた状況で、
たき火に中学生が投下した砲弾が爆発して2名が死傷。

島民の生命身体の安全が確保されないことが相当の蓋然性をもって予測され得る状況において、これを警察官が容易に知り得る場合には、積極的に砲弾類を回収する措置等を講ずる職務上の義務があった。
 

国民の声明、身体に対する侵害の危険性やその切迫性
②警察官による前記危険の認識(予見)又はその可能性
各事例の内容や相当因果関係があるとの判断内容

③警察官の規制権限行使による結果回避可能性
規制権限行使の容易性 
判例時報2423

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2020年1月 9日 (木)

ツイッター上の投稿に関し、IPアドレスの情報につき、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとされた事例

東京高裁H31.1.23    
 
<事案>
芸能活動を行う女子高生であるXが、氏名不詳者によりされたツイッター上における特定のアカウント(「本件アカウント」)からの複数の記事の投稿により、名誉等を侵害されたと主張⇒経由プロバイダであるYに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた。 
本件アカウントは、遅くとも平成29年8月17日頃に開設。
 
<判断>
本件ログインに係る情報は、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとした。 

ログインが1つしかないなど、当該ログインを行ったユーザーがログアウトするまでの間に当該投稿をしたと認定できるような場合⇒当該ログインに係る情報を発信者情報と解することができ、法の趣旨によれば、そのようなログインにかかる情報も、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得る。
but
①本件アカウントの名称は「〇〇応援隊」という複数のユーザーにより共有されていることと矛盾しない。
②少なくとも7件の投稿が行われているが、本件各記事が投稿された前後にどのような投稿がされていたかは証拠上明らかでない
③本件アカウントには、平成29年8月17日以降、本件各記事の投稿がされるまでに11回のログインがあり、そのうち7回は、Y以外のプロバイダを経由してされている。
④③のいずれのログインについても対応するログアウトの日時は明らかではなく、ツイッターでは・・長時間投稿をせずにログイン状態が継続していることも想定される⇒本件ログインより以前になされたログインによって、本件各記事の投稿が行われた可能性も十分ある。
⑤・・・ログインと投稿の連続性を認められるほど時間的近接性がなく・・・必ずしも本件各記事の投稿が本件朗吟によりされたことを裏付ける事情になるものではない。
⑥・・・・本件各記事の投稿時点でも、本件アカウントに本件各記事を投稿したユーザーとは別のユーザーが存在した可能性を排斥することはできない。

本件ログインを行ったユーザーが、本件アカウントからログアウトするまでの間に本件各記事の投稿を行ったものであるとまで認めることはできない。

本件ログインに係る情報が「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできない。
 
<解説>
本件も、Yにおいて、投稿がされたIPアドレスを保有していない⇒投稿時に近接するログインを行ったIPアドレスの情報の開示が請求。 

判例時報2423

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2020年1月 8日 (水)

違法な仮差押命令の申立てと逸失利益との間の相当因果関係(否定)

最高裁H31.3.7    
 
<争点>
本件仮差押申立てとY主張の逸失利益の損害との間に相当因果関係が認められるか否か。 
 
<原審>
本件仮差押申立ては、当初からその保全の必要性が存在しないため違法であり、Yに対する不法行為に当たる。 
①本件仮差押命令の発令当時、Yと本件第三債務者との取引期間は1年4か月であり、Yにおけるその他の大手百貨店との取引状況等をも併せ考慮すると、Yは、本件仮差押申立てがされなければ、本件第三債務者との取引によって少なくとも3年分の利益を取得することができた。
②本件仮差押命令の送達を受けた本件第三債務者が、Yの信用状況に疑問を抱くなどしてYとの間で新たな取引を行なわないとの判断をすることは、十分に考えられ、Xはこのことについて予見可能であった。

本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間には相当因果関係がある。
 
<判断> 
債権の仮差押命令の申立てが債務者に対する不法行為となる場合において、前記仮差押命令の申立ての後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったとしても、次の①②など判示の事情の下においては、前記不法行為と債務者がその後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったことにより喪失したと主張する得べかりし利益の損害との間に相当因果関係があるといういことはできない
①債務者は、1年4か月間に7回にわたり第三債務者との間で商品の売買取引を行ったが、両者の間で商品の売買取引を継続的に行う旨の合意があったとはうかがわれず、債務者において両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったとはいえない
前記仮差押命令の執行は、前記仮差押命令が第三債務者に送達された日の5日後に取り消され、その頃、第三債務者に対してその旨の通知がされており、第三債務者が債務者に新たな商品の発注を行わない理由として前記仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない。 
 
<解説>
●一般に、企業間取引で多くみられる継続的契約では、「仮差押えがあったとき」などを基本契約又は個別契約の解除事由とする旨の合意がされることが多い。
but
金銭債権に対する仮差押命令およびその執行は、債務者に対しては被差押債権の処分を相対的に禁止し、第三債務者に対しては債務者への弁済を禁止する(民保法50条1項)にとどまるものであり、債務者と第三債務者との間に前記のような合意があったなどの特段の事情のない限り、第三債務者が債務者との間で新たな取引を行うことを妨げるものではない。

最高裁:
債務者が違法な仮処分によって被ったと主張する営業利益の喪失や信用失墜による無形の損害等の損害は、当該仮処分の執行によって通常生ずべき損害に当たらず、特別の事情によって生じたものと解すべきであるとした上で、その賠償席因を否定した原審の認定判断を是認したものがある。

下級審裁判例:
不当保全執行による逸失利益の有無については特に慎重な判断がされており、
取引先から取引を一時停止されたこと等を考慮しながらも、無形損害又は慰謝料として一定額の賠償を認めるにとどまるものがある一方、
無形損害又は慰謝料の賠償自体も否定したもの等もあった。
 
●民法における損害賠償の範囲に関する議論:
消極的損害の賠償責任を認めるためには、被害者がその消極的損害に係る将来の利益を取得することが確実であることを要するとされ(新版注釈民法10Ⅱ284頁以下、
富喜丸事件判決は、消極的財産損害(騰貴価格による得べかりし利益)の賠償を請求する者は、これを確実に取得したであろう事情があり、その事情が不法行為当時予見又は予見することができたことを主張立証しなければならない旨を判示しているとの指摘。 
また、相当因果関係説の下では、因果関係に争いがある場合、立証の対象となるべき要件事実として、「特定の事実が特定の結果発生を招来した関係」が高度の蓋然性をもって是認し得ることの主張が必要であるとされており、このことは不法行為によって消極的損害(被害者の所得の喪失又は減少)が発生したことについても同様である。
 
●継続的売買の解消については、学説上、
継続的売買契約が存在⇒契約上の責任を考えることになる
継続的売買契約が存在するとはいえない場合であっても、当事者は互いに信義則上の注意義務を負い、それに反した解消によって生じた損害を賠償する責任を負う場合があり、
①現実的履行の強制まで可能な継続的売買契約
②履行の強制はできないが損害賠償請求は可能な継続的売買契約
③契約の存在は認められないが信義則上の責任が認められる継続的売買
④解消者に何らの責任も認められない継続的売買
という4段階に分類して考えることが可能。

第三債務者との間で継続的売買を行っていた債務者が、第三債務者との取引によって将来の利益を取得することが確実であるというためには、
両者間に継続的売買契約の成立が認められるか、
継続的売買の解消につき第三債務者に信義則上の責任が認められるような事情、すなわち、債務者において両者間の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情が必要。 

本件:
Yにおいて両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったといえない。
 

①本件第三債務者がYとの間で新たな取引を行うか否かは本件第三債務者の自由な意思に委ねられていた
②Yが相当程度の売上高及び資産を有する会社であった
③本件仮差押命令の執行が本件仮差押命令の送達日の5日後に取り消され、本件第三債務者にその旨の通知がされた
④本件第三債務者がYに新たな商品の発注を行わない理由として本件仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない


本件第三債務者が、本件仮差押申立てによりYの信用がある程度毀損されたと考えたとしても、このことがYとの間で新たな取引を行わないとの判断を招来したことを高度の蓋然性をもって是認し得るとまではいい難い。 
判例時報2423

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2020年1月 7日 (火)

地目を宅地と認定するなどして算出された当該土地の登録価格を適法とした原審の判断に違法があるとされた事案

最高裁H31.4.9    
 
<事案>
三重県志摩市所在の隣接する2筆の土地に係る固定資産税の納税義務者であるXが、本件各土地につき、志摩市長により決定され土地課税台帳に登録された平成27年度の価格を不服として志摩市固定資産評価審査委員会に対し審査の申出⇒これを棄却する旨の決定⇒志摩市を相手に、その取消しを求めた。
 
<争点>
調整池の用に供されている本件各土地について、その地目を宅地と認定するなどして算出された本件各登録価格の適否。 
 
<原審>
本件各土地は、本件商業施設が適法に開発許可を受け、同施設が有事のための洪水調整機能を維持して安全に運営を継続するために必要なものであり、宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地
⇒本件土地の地目をいずれも宅地と認定した上で決定された本件各登録価格は適法。 
 
<判断>
固定資産評価基準における土地の地目のうち宅地とは、建物の敷地のほか、これを維持し、又はその効用を果たすために必要な土地をも含む

本件各土地は、本件商業施設に係る開発行為に伴い調整池の用に供することとされ、排水調整の必要がなくなるまでその機能を保持することが前記開発行為の許可条件となっているが、
開発許可に前記条件が付されていることは、本件各土地の用途が制限を受けることを意味するにとどまり、また、
開発行為に伴う洪水調整の方法として設けられた調整池の機能は、一般的には、開発の対象となる地区への降水を一時的に貯留して下流域の洪水を防止することにあると考えられる

前記条件に従って調整池の用に供されていることから直ちに、本件各土地が本件商業施設の敷地を維持し、又はその効用を果たすために必要な土地であると評価することはできない

原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
 
<解説>
●「宅地」の意義 
評価基準:
土地の評価は地目の別に、それぞれ定める評価方法によって行う。
地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定する旨を規定。
but
各地目の具体的な意義については明示されていない。 

固定資産評価基準解説:
「宅地」について、不動産登記事務取扱手続準則68条3号を引用して、
建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地をいうとした上、建物の敷地のみに限定されず、建物の風致又は風水防に要する樹木の生育地、建物に附随する庭園、通路等のように、宅地に便益を与え、又は宅地の効用に必要な土地については、宅地に含まれる

本判決:
建物の敷地のほか、これを維持し、又はその効用を果たすために必要な土地をも含む」と説示。
~従前の一般的理解に沿うもの。
 
●本件各土地の地目の認定等
原判決:
本件土地が調整池としての調整機能を保持することが本件商業施設に係る開発行為の許可条件となっている。

本件各土地は、本件商業施設が適法に開発許可を受け、同施設が有事のための洪水調整機能を維持して安全に運営を継続するために必要なものであり、本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地と認められる。

①その調整機能を保持することが前記許可条件となっているという法的な側面と、
②これが洪水調整機能を有することで本件商業施設の安全な運営の継続に資するという物理的な側面
に着目。
vs.
①の点⇒住宅が立ち並ぶ一体とは離れた一角に独立して調整池が設置されているるような場合でも、調整池の設置が宅地開発の許可条件となっていることを理由にその地目を宅地と認定し得ることになりかねないが、それは、相当ではない。
②の点について、本件各土地が調整池として洪水調整機能を有することが、これより高い位置にある本件商業施設の敷地における洪水を防止するという関係にあると直ちにいうことはできない。

判例時報2423

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2020年1月 3日 (金)

自動車運転過失致死の過失の択一的認定を理由不備の違法があるとした事案

東京高裁H28.8.25   
 
<原審>
A過失又はB過失という2つの過失を択一的に認定し、被告人に対して禁錮1年6月、3年間執行猶予の判決。
A過失:目視及びサイドミラー等を注視するなどして、同横断歩道上及び同自転車横断帯上を横断する自転車等の有無及びその安全を確認しつつ左折進行すべき自動車運転上の注意義務の違反
B過失:微発進と一時停止を繰り返すなどし、死角内の同横断歩道上及び同自転車横断帯上を横断する自転車等の有無及びその安全を確認しつつ左折進行すべき自動車運転上の注意義務の違反
 
<判断> 
本件において過失の択一的認定は許されない⇒原審を理由不備の違法により破棄した上、控訴審において追加された予備的訴因を認定して、被告人に対して禁錮1年6月、3年間執行猶予の判決。
 
<解説>
●択一的認定 
証拠上、A事実とB事実のいずれについても合理的な疑いを容れない程度に証明がなされたとは認められないが、A事実又はB事実のいずれかであることは証明されていると認められる場合に、どのように取り扱うべきか?


A事実であっても、B事実であっても、該当する構成要件は同一
ex.動機、日時、場所、手段方法等について1つの事実に確定し難い場合
⇒択一的又は概括的な事実認定が許される

A事実を認定するかB事実を認定するかで、該当する構成要件が異なる
butA事実とB事実との間にいわゆる大小関係がある
ex.殺意の有無が証拠上いずれとも確定しない
⇒傷害の故意の範囲で傷害罪を認定。

構成要件が異なる上、A事実とB事実との間に大小関係がない
ex.
窃盗罪と盗品等に関する罪
行為時点での生死が確定できない被害者を遺棄した場合のほぞ責任者遺棄致死罪と死体遺棄罪
α:無罪

①A事実、B事実いずれにも合理的疑いがある⇒そのいずれも認めることはできず、「A又はB」という択一的認定をすることは「疑わしきは被告人の利益に」という原則に反する。
②合成的構成要件を設定して処罰するものであり、罪刑法定主義に反する。

β:択一的認定を正面から認める。
←A罪かB罪のいずれかが成立することは疑いがないにもかかわらず、無罪とするのは、国民の法感情に反する。

γ:択一的認定は否定しつつ、軽い方の罪を認める。
 
過失犯における択一的認定 
同一構成要件における択一的認定に当たるのか、それとも異なる構成要件にまたがる択一的認定に当たるのか?

α:罰条としては同じであっても、過失の態様が異なれば構成要件的評価が異なる⇒過失の態様の択一的認定は、異なる構成要件にまたがる択一的認定に当たる⇒仮にそれが許されるとしても、罪となるべき事実における択一摘な判示は認められず、犯情の軽い方の過失を認定。

β:過失の態様によって構成要件が異なることはない⇒過失の態様の択一的認定は、同一構成要件内における択一的認定に当たる⇒罪刑法定主義の問題は生ぜず、罪となるべき事実における択一的な判示も認められる。
but
複数の過失の間に犯情の差があれば、軽い方の過失を認定すべき。

●本判決 
過失を択一的に認定することは、過失の内容が特定されていないことにほかならず、罪となるべき事実の記載として不十分
②過失犯の構成要件はいわゆる開かれた構成要件であり、その適用に当たっては、注意義務の前提となる具体的注意義務、その注意義務に違反した不作を補充すべき⇒具体的な注意義務違反の内容が異なり、犯情的にも違いがあるのに、罪となるべき事実として、証拠調べを経てもなお確信に達しなかった犯情の重い過失を認定するのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則に照らして許されない。

択一的認定が許されない根拠として「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反する。
vs.
過失の態様を構成要件要素と考えるかどうかにかかわらず、
実務上は、
過失の態様の記載は、過失犯における罪となるべき事実の特定のために不可欠なものとされており、過失の態様が異なれば、罪となるべき事実が異なる

1つの罪となるべき事実の中に、過失の態様を択一的に記載することは許されないことに根拠を求めるべきという指摘。

本判決:
被告人は被告人車両の死角の存在を知っていた
横断歩道上が被告人車両の死角にある段階(直進中)は微発進と停止を繰り返すなどして死角内から死角外に出る自転車等がないか確認して、これに備えるとともに、横断歩道上が死角から外れてくる段階以降(左折開始後)には、引き続き前記走行を続けた上で、目視やサイドミラーを注視するなどして、死角外に出てきた自転車等の発見及び対応に努めるべきであったといえ、これが注意義務の内容を構成

本件のように進行中の車両同士の事故の場合、両車両は共に動いており、状況は時と共に変化⇒本件は死角内と死角外の両方の注意義務を果たして初めて事故が回避できる「A又はB」という択一的な注意義務ではなく、「AかつB」という結合された1つの注意義務を認定すべきとする。
判例時報2422

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大崎事件についての第3次再審請求に関する特別抗告事件

最高裁R1.6.25    
 
<原審>
①M・N鑑定は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められない。
②O鑑定は十分な信用性を有する
but
I旧鑑定は、元々、Cの死因を推認し得るほどの証明力を有するものではない

O鑑定によってI旧鑑定の信用性が否定されたとしても、直ちにCの死因は頚部圧迫による窒息死であるとの確定判決の認定に合理的疑いを生じさせる関係にはない。
③O鑑定の影響により、Cは溝に転落したことによる既に出血性ショックで死亡し、あるいは瀕死の状態にあった可能性が相当程度に存在することになる⇒G及びHの各供述の信用性には疑義が生じる。

④CがG及びHによってC方に送り届けられたという事実及びCが窒息死させられたという事実が認められなくなる⇒A、B及びDの各自白並びにEの供述は、客観的状況による裏付けを欠き、かえってO鑑定が存在する
⇒これらの各自白や供述は、大筋において合致するからといって直ちに信用できるものではない。


O鑑定は、新旧全証拠との総合判断により、確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるに足りる証拠であるなどとして、即時抗告を棄却。
 
<判断>
O鑑定は、条件が制約された中で工夫を重ねて専門的知見に基づく判断を示している。
but
同人の死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとはではいえない

これが無罪を言い渡すべき明らかな証拠といえるか否かは、その立証命題に関連する他の証拠それぞれの証明力を踏まえ、これらと対比しながら検討すべき。

O鑑定は、Cの死因が出血性ショックであった可能性等を示すもの
but
同人の死亡時期を示すものではなく、G及びHがCを同人方に送り届けるよりも前に同人が死亡し、あるいは瀕死の状態にあったことを直ちに意味する内容ではない。 

原決定がいうように、O鑑定を根拠として、Cが出血性ショックにより同人方に到着する前に死亡し、あるいは瀕死の状態にあった可能性があるとして、A、B及びDの各自白並びにEの目撃供述の信用性を否定するのであれば、
関係証拠から認められる前記の客観的状況に照らし、事実上、Cの死体を堆肥中に埋めた者は最後に同人と接触したG及びH以外に想定し難いことになる。
but
同人らがCの死体を堆肥中に埋めるという事態は、本件の証拠関係の下では全く想定できない

原決定が、G及びHの各供述の信用性に疑いを生じさせるとして掲げる事情も、信用性に影響を与えるようなものではない。

確定判決の認定の主たる根拠:
客観的状態に照らして少なくともCの死体を堆肥に埋めたことについては何者かが故意に行なったとしか考えられず、その犯人としてAらF家以外のものは想定し難い状況にあった。
G及びHの各供述も、相互に支え合い、この推認の前提となっている。 
A、B及びDの各自白並びにEの目的供述は、相互に支え合っているだけでなく、以上のような客観的状況等からの推認によっても支えられている

A、B及びDの知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを考慮しても、それらの信用性は相応に強固なものであるということができる。
O鑑定が前記のような問題点を有し、Cの死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとまではいえない

同鑑定によりこれらも各自白及び目撃証拠に疑義が生じたということは無理がある。 
 
<解説・判断> 
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」について、
再審請求においても「疑わしきは被告人の利益に」という利益原則の適用があることを前提に、
「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。

新証拠がそのような証拠に当たるか否かの判断方法は、
新証拠の証明力を検討した上、新証拠が弾劾の対象とする旧証拠の証明力が減殺されたか否かを検討し、
それが減殺される場合には、その旧証拠が確定判決の有罪認定とその証拠関係の中で有罪認定の証拠としてどのような位置を占め重要性をもつものであるかを検討することにより、新証拠が、確定判決の事実認定に合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠であるか否かを審査

新証拠によって確定判決の事実認定を支えた旧証拠の一部の証明力が減殺されたとして、そうした証拠の変化があってもなお有罪の認定を維持することができるか否かを評価することにより、有罪を支えた旧証拠の内容はどのようなものなのか、新証拠がどの旧証拠の証明力と関連し、どのようにその証明力を減殺したのか、これにより合理的疑いが生ずることになるのかを、個々の事案に応じて総合的に評価。

本決定:従来の最高裁判例に従って、新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらないと判断。
刑訴法の特別抗告については、最終裁判所としての最高裁判所に当該事件における具体的正義の実現を図らせるため、刑訴法411条が準用されることが確立。
判例時報2422

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テーマパークでの標章の使用が非商標的使用とされた事案

大阪地裁H30.11.5    
 
<争点>
被告各商品における被告各標章の非商標的使用該当性 
 
<規定>
商標法 第二六条(商標権の効力が及ばない範囲)
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
 
<判断>
●被告各商品に接した需要者が、被告各標章を『需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができる態様により使用されていない商標』 (法26条1項6号)と認識するか否かは、
ミニオンの図柄や被告各標章が服飾品のデザインとしての性質を有することを前提にしつつ、更に被告各標章の使用態様や取引の実情等を総合考慮して検討する必要がある。
①ミニオンが登場する映画が大ヒットとなっていること、
②被告のアンケート調査によるものであるがミニオンが高い周知性を有するキャラクターであることが認められ、需要者は被告各商品がミニオンのキャラクターグッズである点に着目し購入するものと考えられること、
③USJパーク内の看板等で、ミニオンのキャラクターに関連して「BELLO!」との表示がされており、需要者は被告各標章や「BELLO!」が、ミニオンのキャラクターと何かしらの関連性を有する語ないしフレーズであると認識すると考えられること等

被告各商品の出所については、それがUSJ(被告)の直営店舗で販売されるミニオンのキャラクターの公式グッズであることや、被告各商品にも一般に商品の出所が表示される部位である商品のタグやパッケージに本件被告ロゴが表示されていることによって識別すると認めるのが相当。

●本件各商標が周知なものであれば、需要者は被告各標章を出所表示として認識することになると考えられる。
but
本件各商標が被告各商品の需要者の間で周知性を有するとは認められない

その既知性に基づいて被告各商品の需要者が被告各標章を出所表示として認識するとはいえない。 

①USJのオンラインストアでの被告各商品の販売においても、トップページに本件被告ロゴが表示される
②USJオンラインストア以外のオンラインストアにおいて、その出所がUSJであるミニオンのキャラクターグッズであることが明記されている。
被告各標章をミニオンの図柄と関連がないものとして、また被告各商品の出所として、識別をすることが考え難い

証拠により示されたこれまでの取引の実情に基づく限り、被告各商品が販売されているいずれの局面においても、被告各標章が出所表示として機能していない⇒非商標的使用(商標法26条1項6号)に該当。

将来の被告各標章の使用についても、
取引きの実情の変化の有無やその態様が明らかでない⇒将来における取引の実情の変化を前提とする判断をすることはできない。
 
<解説>
本判決:
被告各標章が服飾品のデザインつぃての性質を有することを前提にしつつも、
本件で対象になった商品に限らず、被告各標章が使用されている具体的状況、一緒に表示されているキャラクター及び本件各商標それぞれの周知性、被告各商品が販売されている際にどのような表示がされているか等、
具体的な取引の実情等から、被告各標章が出所表示として需要者に認識されてないと判断。
判例時報2422

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説明義務違反での自己決定権を侵害⇒慰謝料300万円の支払を認めた事例

東京地裁H30.4.26    
 
<事案>
人間ドックで強度の萎縮性胃炎が認められた場合の精密検査の実施又は勧奨義務のほか、ステージⅣの末期胃がんの患者に対して、臨床研究である減量手術を行った後に化学療法を行うべきか、又は化学療法単独の治療を行うべきかが問題となったもの。
 
X1、AとX1の子であるX2及びX3は、Y1及びY2に対し、
Y1には、
①1年目及び2年目の健康診断受診時に精密検査を実施又は勧奨しなかった過失があり、
②健康診断の目的を果たすに足る十分な読影体制を具えなかった過失があり、
Y2らには、
③Aに対して適応がない手術を行った過失があり、
④手術前に説明を尽くさなかった過失がある

債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<判断>
①について:
人間ドックを実施する臨床医に求められる当時の医療水準⇒Aにあった強度の萎縮性胃炎があることを理由として精密検査を実施又は勧奨することをしなかったことが注意義務違反とはいえない

②について:
当時の医療水準に照らし、精密検査を実施又は勧奨すべき所見がない⇒読影体制は問題とはならない。

③について:
現在の医学的知見では、原則として適応を欠くと考えられる
but
平成16年当時では、手術後に化学療法を実施することを予定しつつ、本件手術を実施したことが適応を欠く違法なものであったとはいえない。

④について:
本件手術によっては胃がんの根治は不可能である上、本件手術が臨床研究に位置付けられる減量手術であるにもかかわらず、
㋐手術による根治は不可能であること
㋑「胃癌治療ガイドライン」上は臨床研究に該当すること
㋒本件手術を行ってから化学療法を行う場合と本件手術を行わずに化学療法のみを行う場合との生存期間延長上の効果やQOLへの影響等に関する利害得失について説明しなかった

胃がんの治療方法を選択する上での自己決定権を侵害⇒精神的苦痛に対する慰謝料300万円の支払を認めた。
 
<解説>
本判決:
説明義務違反について、
仮に、本判決が判示する説明義務を尽くしたとしても、Aにおいては、本件手術を受けないという選択をしたという蓋然性があると認めることができないとしながら、
治療方法の選択に関する自己決定権を侵害されたとして、慰謝料を認めた

判例時報2422

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2020年1月 2日 (木)

「交通事故で軽症の外傷性視神経症を発症⇒左眼失明⇒糖尿病増悪で右足膝下切断」について相当因果関係を肯定した事案

東京高裁H30.7.17    
 
<争点>
①本件事故と左眼失明との因果関係・素因減額
②本件事故との左膝下切断の傷害との因果関係・素因減額 
 
<判断>
●争点① 
①亡Aは、本件事故による左頭部又は顔面の打撲によって、左眼外傷性視神経症を発症
②その外傷性視神経症は、非典型例(軽症例)であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかった
③しかし、亡Aは、本件事故前から、増殖性糖尿病網膜症、慢性腎不全、右下肢閉塞性動脈硬化症等の合併症を伴う重篤な糖尿病に罹患しており、視神経内血管にも糖尿病による障害が存在していた、
④そのため、外傷性視神経症によって視神経管内に出現した血管性浮腫の治癒が遅延し、視神経繊維に対する障害が持続した結果、進行性の視覚障害が出現し、最終的に左眼失明にまで至った

本件事故と左眼失明との間には因果関係がある

素因減額について:
①本件事故によって発症した外傷性視神経症は軽症例であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかったところ、
②亡Aが重篤な糖尿病(既往症)に罹患しており、視神経内血管に糖尿病による障害が存在していたために、最終的に左眼失明にまで至った

既往症が左眼失明に寄与した割合は5割
 
●争点② 
亡Aの右足膝下切断は、本件事故後、糖尿病の合併症である右下肢閉塞性動脈硬化症の増悪によって、右足の人差し指に壊疽を発症したことによるもの。
右下肢閉塞性動脈硬化症の重症度は、本件事故当時、「壊疽」までには重症化しておらず、本件事故の約半年後においても特別に重症化していなかった
②しかし、左眼を失明したことから、単独歩行が困難になり、歩行機会を喪失したことが間接的な要因となり、また、心不全を発症して入院し、極端な運動低下に陥ったことが直接的な要因となって、閉そく性動脈硬化症の危険因子である糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、右足人差し指に壊疽を発症

本件事故と右足膝下切断との間には因果関係がある

素因減額について:
①右足膝下切断は、糖尿病(既往症)の合併症である閉塞性動脈硬化症の増悪を原因とする上、
②本件事故によって、外傷性視神経症を発症し、左眼を失明したために、糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、右足の人差し指に壊疽を発症

既往症が右足膝下切断に寄与した割合は8割とするのが相当。
 
<解説>
●因果関係 
本件は、
頭部等を打撲⇒外傷性視神経症の発症⇒左眼失明⇒歩行機会の喪失・運動低下⇒糖尿病(既往症)の増悪⇒下肢血行の重症化⇒右足膝下切断
という因果の連鎖・流れがある事案。
糖尿病増悪には心不全による入院による極端な運動低下とうい要因もあった。

相当因果関係まで認められるか、微妙な事案。

亡Aには、外見上左頭部や顔面に明らかな外傷がなかった⇒外傷性指針軽症の発症と本件事故との因果関係も争点。
but
①亡Aが乗車していたタクシーが大破していること
②亡Aが負った障害の程度、本件事故直後の意識障害の状態など
⇒因果関係を肯定。

相当因果関係が認められた事例
①事故前から肝性脳症に罹患しており、事故により腹部打撲内出血等を負った者が53日後に肝硬変で死亡した事例
②糖尿病の罹患していた者が、事故により左大腿骨・左肋骨骨折等のストレスからくる糖尿病性視力障害となり、右視力障害と事故との相当因果関係が認められた事例
③多発性空洞性脳梗塞を患っていた者が、バス降車中に扉に挟まれ左肘打撲症から、右脚関節症を発症し、脳梗塞・右片麻痺となった事案について因果関係を認めた事例
④糖尿病の既往症がある者が、玉突き事故により頸椎捻挫等の傷害を負い神経因性膀胱を発症した事例
 
●素因減額 
当該被害者が有していた身体的特徴が損害の発生又は拡大に影響している場合には、賠償額を決定するに当たり、当該身体的特徴を考慮することができるかという素因減額の問題。

判例:
損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念⇒民法722条2項の規定を類推適用して一定の限度で身体的特徴を考慮することができる。

素因減額が認められる身体的特徴
は、
原則として身体的特徴が「疾患」に該当する場合であり、
「疾患」に当たらない身体的特徴の場合は、当該身体的特徴が疾患に比肩すべきものであり、かつ、被害者が負傷しないように慎重な行動を求められるような特段の事情が存在するような極めて例外的な場合に限られる。

素因減額の割合について:
あくまで裁判所が具体的な事案につき公平の観念に基づき諸般の事情を考慮して、自由な裁量に基づき決定⇒具体的な基準を立てることは難しい。
but
①疾患の種類、態様、程度(当該病的状態が平均値からどれほど離れているか、その病態除去のためにどの程度の医学的処置が必要か、事故前の健康状態(通院状況等))
②事故の態様、程度及び傷害の部位、態様、程度と結果との均衡等を個別具体的に検討して、
損害の公平な分担という損害賠償法の基本理念の観点からその割合を算定

本判決:
被害者の既往症は重篤なものである一方、
本件事故によって発症した外傷性視神経症は軽症例であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らず、ましてや右足膝下切断に至ることもなかった

素因減額が高い割合で判断された。
判例時報2422

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2020年1月 1日 (水)

所持品検査及び自宅への立ち入りについての国賠請求事案

東京高裁H30.4.26    
 
<事案>
警職法に基づきXに対して行われた千葉県警の警察官による保護、所持品検査及びX宅への立入が違法⇒Xが千葉県に対して損害賠償を求めた。
 
<原審>
所持品検査について:
①自傷他害を防止するためであればXのかばんを保護室の外に持ち出せば足りる
②警察官はレンタカーの左サイドミラーのミラー部分がなくなっていることを確認し、そのためXが事故に遭った可能性が高く、凶器を使用して殺人を犯した疑いが深まっていたとはいえない

かばんの中身を1つずつ取り出して確認することは相当性を欠き違法な行為。 

X宅の立入り:
①Xが事故に遭った可能性が高く殺人を犯した疑いが深まっていない状況にあり、
②元妻等も無事であることが確認できていた

殺人の嫌疑は相当程度軽減していたというべきで、危害が切迫していたとはいえず、違法な行為。
 
<規定>
警職法 第三条(保護)
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
一 精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者
二 迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)

警職法 第四条(避難等の措置)
警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる。
2前項の規定により警察官がとつた処置については、順序を経て所属の公安委員会にこれを報告しなければならない。この場合において、公安委員会は他の公の機関に対し、その後の処置について必要と認める協力を求めるため適当な措置をとらなければならない。
 
<判断> 
●所持品検査: 
警職法3条による保護が一時的かつ応急的な措置
被保護者の身元や引取方を確認するため、具体的状況の下で必要とされる限度において相当と認められる方法によることは、被保護者が精神錯乱の状態にあるため有効に承諾が得られない場合であっても、保護の目的にかなう限り許容される
①Xが保護されたのは、X自ら110番通報をして「人を殺した」と述べたことを契機としている
②Xは終始異常に興奮して精神錯乱の状態にあり、激しく抵抗して暴れていた

自傷他害の危険を防止するため所持品中の危険物の有無等を確認する必要がある
かばんの中を一瞥するだけでは危険物の有無を確認することは困難⇒中身を1つずつ取り出して確認する方法は相当
 
●X宅への立入り: 
警職法4条1項に規定する「危険な事態」があるか否かの判断は、警察官が現場で認めた事実のほか、その職業的な専門知識や経験に基づいて行うことができる。

この判断は客観的に合理性が認められるものでなければならない。
but
①Xのそれまでの言動やXが精神錯乱状態にあること、過去の警察相談から、重大犯罪に巻き込まれるなどした被害者等がX宅にいる可能性は否定できなかった
②X宅は施錠されておらず室内の電気が点灯して扇風機が回っていたことから、警察官は重大事件等に巻き込まれた被害者等がいる可能性があると考えた
③靴を脱いで室内に上がり、救助を要する被害者等がいないことを目視により確認して短時間で退室するなどしている

被害者等の救助という目的を達成するためにやむを得ない相当な方法で行われたもので、違法性があるとは認められない
 
<解説>
最高裁昭和53.6.20:
職務質問に伴う所持品検査について「所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的事情のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるもの」 

警職法3条による保護に伴う所持品検査においても、前記と同様の趣旨から、被保護者を保護するに至った事情などを考慮の上、許されるであろう。
警察官は、危険な事情がある場合においては、危険防止のため通常必要と認められる措置を講ずることができるが(職質法4条1項)、「危険な事態」の判断は、客観的に合理性の認められるものでなければならない。
判例時報2422

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銀行に対する被相続人の保有個人データの開示請求

最高裁H31.3.18     
 
<事案>
Xが、銀行であるYに対し、個人情報保護法28条1項に定める保有個人データの開示請求権に基づき、Xの死亡した母が生前にYに提出していた印鑑届出書の写しの交付を求めたもの。 
 
<原審>
本件印鑑届出書について、Xの母の生前において同人の預金口座についての「個人に関する情報」(「個人情報」)であった⇒同預金の相続人等であるXの個人情報にあたる⇒Xの請求を認容。 

<判断>
相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に個人情報保護法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人又は受遺者に関するものとして前記「個人に関する情報」に当たるということはできない
 
 
<解説>
個人情報保護法は、事業者における個人情報の適正な取扱いを確保するためには個人本人が自己の情報をチェックすることができるようにすることが重要⇒保有個人データについての開示請求権(同法28条1項)訂正請求権(同法29条1項)利用停止請求権(同法30条1項)を規定。 
個人情報保護法は、保護の対象を生存する個人に関する情報に限っており(同法2条1項)、開示請求権についても、自己に関する保有個人データのみが対象となっている⇒死者に関する情報についてその遺族が開示を求めることは本来予定されていない
but
死者に関する情報であっても、それが同時に遺族等の生存する個人の個人情報に当たる場合には、当該個人の個人情報として開示請求の対象となり得る。
ある情報がある個人の個人情報に当たるか否かは、当該個人との関係を離れて判断することはできず、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべき。

判例時報2422

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政務調査費からの支出が一部違法とされた事案

金沢地裁 H31.1.21    
 
<事案>
金沢市議会議員17名が、平成26年度に金沢市から交付を受けた政務活動費について使途規準に違反する違法な支出を行った⇒本件各議員は同市に対して支出額に相当する金員を不当利得として返還すべきであるのに、同市の執行機関(市長)であるYはその返還請求を違法に怠っている
⇒同市の住民であるXが、地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、本件各議員に対して不当利得の返還請求すべきことを求めた。 
 
<判断>
議員が、金沢市議会政務活動費の交付に関する条例(「本件条例」)において政務活動費を充てることができるとされる経費の範囲に含まれない経費に同政務活動費を支出⇒当該議員は、金沢市に対し、当該支出に相当する不当利得の返還義務を負うことになる。 

本件各支出が使途基準に合致しないことについては、不当利得返還請求権の存在を主張するXにおいて主張立証すべき。
but
Xにおいて本件各議員による具体的な政務活動費の支出が使途規準に合致しない違法な支出であることを推認させる一般的・外形的事実を主張立証した場合には、Y又は本件各議員の側において当該支出が適法な支出であることについて反証を行わない限り、使途規準に合致しない支出であるとの立証があったと解するのが相当

本件各議員のうち3名の議員の市政報告書の作成及び発送に係る費用の支出(政務活動費を充てることができる経費として収支報告書等に計上した経費)の一部が使途基準に合致しない
⇒当該支出から、同各議員が、政務活動に要する経費に充てている政務活動費以外の資金(自己資金等)を控除した残額について、同各議員の不当利得返還義務を肯定。
 
<解説>
政務活動費の支出が使途基準に合致したものであるか否かに関する、主張立証責任の所在については、 これを直接判示した最高裁判例は見当たらない。
but
本件と同様の多くの裁判例。

広報費の支出、
議員が行う活動が、全体としては条例等で定める広報に関する活動に該当する場合であっても、その広報の具体的な内容な形式において、議員自身の宣伝を主たる目的とするとみられる部分が含まれている場合
その部分の全体に占める割合に応じて、使途基準に合致しない支出であることを推認させる一般的・外形的事実の立証があったものといえる。

最高裁H30.11.16:
神奈川県における政務活動費等の支出に係る住民訴訟において、同県の条例の定めの下においては、政務活動費等の収支報告書に実際には存在しない支出が計上されていたとしても、当該年度において、使途基準に適合する収支報告書上の支出の総額が交付額を下回ることとならない限り、政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が、政務活動費等を法律上の原因なく利得したということはできない。
⇒具体的な条例の定めを踏まえて収支報告書に計上された違法支出の額と不当利得が成立する範囲との関係について判示。
判例時報2422

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