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2019年12月29日 (日)

死刑確定者に対する拘置所長等のした指導、懲罰等の措置と国賠請求(否定)

最高裁H31.3.18     
 
<事案>
死刑確定者として名古屋拘置所に収容されているXが、名古屋拘置所長が定めた遵守事項に違反⇒所長等から指導、懲罰等を受けた⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。 
 
<原審>
刑事収容法74条2項8号は、物品の加工や書込みに関し、不正と評価し得る行為の禁止のみを容認していることが明らか⇒同項に基づいて定められた本件遵守事項20項及び26項についても、その文言にかかわらず、不正と評価し得る行為のみを禁止しているものと解釈すべき。
Xがした本件各行為は、いずれも、一般社会においても通常行われる態様のものであって、不正なものとはいえない⇒本件各行為について所長等がした指導、懲罰等の措置は国賠法上違法。 
 
<判断>
本件遵守事項20項及び26項につき、一定の行為について、所長による事前かつ個別の許可を受けない限り当該行為をしていはならないものとし、その許可に際して、所長において被収容者がしようとする行為が不正なものか否かを判断することとする趣旨。 
当該遵守事項は、刑事収容法74条2項8号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制として、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的な範囲にとどまり、適法。
本件各行為は、いずれも当該遵守事項を遵守しなかったものであり、これを前提にされた所長等の措置に不合理な点があったともいえない
⇒署長等の措置が国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
 
<規定>
刑事施設収容法 第七三条(刑事施設の規律及び秩序)
刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならない。
2前項の目的を達成するため執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない。

刑事施設収容法 第七四条(遵守事項等)
刑事施設の長は、被収容者が遵守すべき事項(以下この章において「遵守事項」という。)を定める。
2遵守事項は、被収容者としての地位に応じ、次に掲げる事項を具体的に定めるものとする。
八 金品について、不正な使用、所持、授受その他の行為をしてはならないこと。
 
<解説> 
刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならず(刑事収容法73条1項)、その要請は、被収容の権利及び自由を制約する実質的な根拠となる
同条2項は、「前項の目的を達成するため執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない」として、いわゆる比例原則の趣旨を規定

●刑事収容法74条1項は、刑事施設の長は被収容者が遵守すべき事項(遵守事項)を定めるものと規定。
74条2項各号が概括的な事例を列挙するにとどまる⇒同項各号が概括的な事項を具体的にどのように定めるかについては、当該刑事施設内の実情に通じた刑事施設の長の裁量に委ねる趣旨。
but
遵守事項は、その対象となる被収容者の権利及び自由を制約
⇒被収容者の地位に応じて、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的なものにとどまる(=前記の比例原則に適う)範囲で策定。
 
●本判決:
①物品の加工等や便せん等以外の物への書き込みは、不正連絡等に用いられる可能性があり、その性質上、事後的に不正と認められるもののみを規制するのでは、規制の実効性の確保は困難
②これらの行為を許可の対象とすることにより、刑事施設の長が事前かつ個別に判断して、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがない場合に限り許容するものとすることができ、職員においても、長の許可の有無という明確な基準により、被収容者の行為が規制の対象となるか否かを判断できる
③これらの行為は、被収容者において事前に許可を求めることが困難な性質のものではない

本件遵守事項20項及び26項は、死刑確定者を対象とする場合を含めて、刑事収容法74条2項8号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制として、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的な範囲にとどまるということができ、所長の裁量の範囲内で定められた適法なものというべき。
 
●被収容者による不正な行為(刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある行為)の規制の態様
A一定の行為を一律に禁止
B一定の行為を原則として許可した上でそのうち不正と認められるもののみを禁止
C一定の行為につき事前かつ個別の許可を受けない限り禁止 
多種多様な行為のうち禁止すべき態様のものを個別具体的に過不足なく列挙して定めることも不可能又は著しく困難⇒Aの態様は採り難い。

Bの態様:
①規制は主として事後的なものとならざるを得ず、予防的な措置が求められる不正連絡等に用いられる可能性がある行為の規制としては実効的とはいい難い
②不正な行為か否かは必ずしも一見して明らかではない
⇒実際に被収容者の処遇に当たる刑事施設の職員による適時の規制が困難。

Cの態様:
実効的かつ適時適切な規制が期待できるし、
それが被収容者に過度の負担を負わせるものともいえない。

本判決:その文言に即してCの態様の規制を定めたものと解釈。
判例時報2422

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