心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の再抗告事件
最高裁H29.12.25
<事案>
対象者が医療観察法42条1項1号の入院決定を受けた約半年後に、指定入院医療機関の管理者が同法49条1項の退院許可を申し立てた(対象者自身も同法50条の医療終了の申立てをしていた)。
管理者の意見:対象者については心理社会的な治療による状態改善がこれ以上見込めず、治療可能性が認められない、などというもの。
<判断・解説>
●医療観察法の再抗告事件において同法70条1項所定の理由以外の理由による原決定取り消しの可否
<事案>
対象者が医療観察法42条1項1号の入院決定を受けた約半年後に、指定入院医療機関の管理者が同法49条1項の退院許可を申し立てた(対象者自身も同法50条の医療終了の申立てをしていた)。
管理者の意見:対象者については心理社会的な治療による状態改善がこれ以上見込めず、治療可能性が認められない、などというもの。
<判断・解説>
●医療観察法の再抗告事件において同法70条1項所定の理由以外の理由による原決定取り消しの可否
医療観察法70条1項は、再抗告理由を憲法違反、憲法解釈の誤り、判例違反に限定しており、決定に影響を及ぼす法令の違反等の同法64条所定の抗告理由により最高裁判所が原決定を取り消すことができるかについては明文規定なし。
but
同法64条所定の抗告理由が認められ、これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは原決定を取り消すことができる旨判示。
同様に明文規定のない刑訴法の特別抗告:については、
刑訴法411条が準用されることが確立。
医療観察法の再抗告と同様の条文構造にある少年法の再抗告については、少年法35条所定の再抗告事由が認められない場合であっても原決定に同法32条所定の抗告事由があってこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁は、職権により原決定を取り消すことができる。
●審理不尽の判断
医療観察法51条1項1号:
退院許可の申立て等を棄却するための要件として、入院中の対象者について、
「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院を継続させてこの法律による医療を受けさせる必要がある」ことが必要とする。
~
入院決定や入院継続確認決定のための要件と実質的に同じものであり、対象者の精神障害が治療可能性のあるものであることを含んでいると解されている。
この要件の判断に当たって、裁判所は、「指定入院医療機関の管理者の意見を基礎とし」なければならないと規定(医療観察法51条1項柱書)。
←
①管理者による意見は、平素から入院患者の病状等を診察している者による医学的見地からの専門的意見であることから、十分に尊重される必要がある。
②仮に裁判所が、その意見の合理性・妥当性に問題があると考える場合には、当該管理者にその意味・内容や判断の根拠等を尋ねることや他の精神保健判定医等に鑑定を命ずることも可能。
本決定:
原々審は医療観察法51条1項の趣旨を踏まえ、管理者の意見が現在の対象者の状態や治療可能性について述べるところの合理性・妥当性を審査すべきであり、適宜の調査を行うべきであったところ、このような調査を行うことなく、また、入院決定時の判断を優先させるべき十分な説明もないままに管理者の意見を排斥したと指摘
⇒各原々決定及びこれを維持した各原決定には審理不尽の違法がある。
本決定は、理由中で、原々審が行うべきであった適宜の調査として、カンファレンス、鑑定、審判期日の開催等を指摘しているが、これらは例示にすぎないと考えられ、その他の調査方法が否定されているものではない。
but
同法64条所定の抗告理由が認められ、これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは原決定を取り消すことができる旨判示。
同様に明文規定のない刑訴法の特別抗告:については、
刑訴法411条が準用されることが確立。
医療観察法の再抗告と同様の条文構造にある少年法の再抗告については、少年法35条所定の再抗告事由が認められない場合であっても原決定に同法32条所定の抗告事由があってこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁は、職権により原決定を取り消すことができる。
●審理不尽の判断
医療観察法51条1項1号:
退院許可の申立て等を棄却するための要件として、入院中の対象者について、
「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院を継続させてこの法律による医療を受けさせる必要がある」ことが必要とする。
~
入院決定や入院継続確認決定のための要件と実質的に同じものであり、対象者の精神障害が治療可能性のあるものであることを含んでいると解されている。
この要件の判断に当たって、裁判所は、「指定入院医療機関の管理者の意見を基礎とし」なければならないと規定(医療観察法51条1項柱書)。
←
①管理者による意見は、平素から入院患者の病状等を診察している者による医学的見地からの専門的意見であることから、十分に尊重される必要がある。
②仮に裁判所が、その意見の合理性・妥当性に問題があると考える場合には、当該管理者にその意味・内容や判断の根拠等を尋ねることや他の精神保健判定医等に鑑定を命ずることも可能。
本決定:
原々審は医療観察法51条1項の趣旨を踏まえ、管理者の意見が現在の対象者の状態や治療可能性について述べるところの合理性・妥当性を審査すべきであり、適宜の調査を行うべきであったところ、このような調査を行うことなく、また、入院決定時の判断を優先させるべき十分な説明もないままに管理者の意見を排斥したと指摘
⇒各原々決定及びこれを維持した各原決定には審理不尽の違法がある。
本決定は、理由中で、原々審が行うべきであった適宜の調査として、カンファレンス、鑑定、審判期日の開催等を指摘しているが、これらは例示にすぎないと考えられ、その他の調査方法が否定されているものではない。
判例時報2421
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