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2019年12月

2019年12月29日 (日)

死刑確定者に対する拘置所長等のした指導、懲罰等の措置と国賠請求(否定)

最高裁H31.3.18     
 
<事案>
死刑確定者として名古屋拘置所に収容されているXが、名古屋拘置所長が定めた遵守事項に違反⇒所長等から指導、懲罰等を受けた⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。 
 
<原審>
刑事収容法74条2項8号は、物品の加工や書込みに関し、不正と評価し得る行為の禁止のみを容認していることが明らか⇒同項に基づいて定められた本件遵守事項20項及び26項についても、その文言にかかわらず、不正と評価し得る行為のみを禁止しているものと解釈すべき。
Xがした本件各行為は、いずれも、一般社会においても通常行われる態様のものであって、不正なものとはいえない⇒本件各行為について所長等がした指導、懲罰等の措置は国賠法上違法。 
 
<判断>
本件遵守事項20項及び26項につき、一定の行為について、所長による事前かつ個別の許可を受けない限り当該行為をしていはならないものとし、その許可に際して、所長において被収容者がしようとする行為が不正なものか否かを判断することとする趣旨。 
当該遵守事項は、刑事収容法74条2項8号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制として、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的な範囲にとどまり、適法。
本件各行為は、いずれも当該遵守事項を遵守しなかったものであり、これを前提にされた所長等の措置に不合理な点があったともいえない
⇒署長等の措置が国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
 
<規定>
刑事施設収容法 第七三条(刑事施設の規律及び秩序)
刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならない。
2前項の目的を達成するため執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない。

刑事施設収容法 第七四条(遵守事項等)
刑事施設の長は、被収容者が遵守すべき事項(以下この章において「遵守事項」という。)を定める。
2遵守事項は、被収容者としての地位に応じ、次に掲げる事項を具体的に定めるものとする。
八 金品について、不正な使用、所持、授受その他の行為をしてはならないこと。
 
<解説> 
刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならず(刑事収容法73条1項)、その要請は、被収容の権利及び自由を制約する実質的な根拠となる
同条2項は、「前項の目的を達成するため執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない」として、いわゆる比例原則の趣旨を規定

●刑事収容法74条1項は、刑事施設の長は被収容者が遵守すべき事項(遵守事項)を定めるものと規定。
74条2項各号が概括的な事例を列挙するにとどまる⇒同項各号が概括的な事項を具体的にどのように定めるかについては、当該刑事施設内の実情に通じた刑事施設の長の裁量に委ねる趣旨。
but
遵守事項は、その対象となる被収容者の権利及び自由を制約
⇒被収容者の地位に応じて、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的なものにとどまる(=前記の比例原則に適う)範囲で策定。
 
●本判決:
①物品の加工等や便せん等以外の物への書き込みは、不正連絡等に用いられる可能性があり、その性質上、事後的に不正と認められるもののみを規制するのでは、規制の実効性の確保は困難
②これらの行為を許可の対象とすることにより、刑事施設の長が事前かつ個別に判断して、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがない場合に限り許容するものとすることができ、職員においても、長の許可の有無という明確な基準により、被収容者の行為が規制の対象となるか否かを判断できる
③これらの行為は、被収容者において事前に許可を求めることが困難な性質のものではない

本件遵守事項20項及び26項は、死刑確定者を対象とする場合を含めて、刑事収容法74条2項8号に掲げる金品の不正な使用等の禁止のための規制として、刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するため必要かつ合理的な範囲にとどまるということができ、所長の裁量の範囲内で定められた適法なものというべき。
 
●被収容者による不正な行為(刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある行為)の規制の態様
A一定の行為を一律に禁止
B一定の行為を原則として許可した上でそのうち不正と認められるもののみを禁止
C一定の行為につき事前かつ個別の許可を受けない限り禁止 
多種多様な行為のうち禁止すべき態様のものを個別具体的に過不足なく列挙して定めることも不可能又は著しく困難⇒Aの態様は採り難い。

Bの態様:
①規制は主として事後的なものとならざるを得ず、予防的な措置が求められる不正連絡等に用いられる可能性がある行為の規制としては実効的とはいい難い
②不正な行為か否かは必ずしも一見して明らかではない
⇒実際に被収容者の処遇に当たる刑事施設の職員による適時の規制が困難。

Cの態様:
実効的かつ適時適切な規制が期待できるし、
それが被収容者に過度の負担を負わせるものともいえない。

本判決:その文言に即してCの態様の規制を定めたものと解釈。
判例時報2422

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2019年12月25日 (水)

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の再抗告事件

最高裁H29.12.25  
 
<事案>
対象者が医療観察法42条1項1号の入院決定を受けた約半年後に、指定入院医療機関の管理者が同法49条1項の退院許可を申し立てた(対象者自身も同法50条の医療終了の申立てをしていた)。
管理者の意見:対象者については心理社会的な治療による状態改善がこれ以上見込めず、治療可能性が認められない、などというもの。
 
<判断・解説> 
●医療観察法の再抗告事件において同法70条1項所定の理由以外の理由による原決定取り消しの可否
医療観察法70条1項は、再抗告理由を憲法違反、憲法解釈の誤り、判例違反に限定しており、決定に影響を及ぼす法令の違反等の同法64条所定の抗告理由により最高裁判所が原決定を取り消すことができるかについては明文規定なし
but
同法64条所定の抗告理由が認められ、これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは原決定を取り消すことができる旨判示。 

同様に明文規定のない刑訴法の特別抗告:については、
刑訴法411条が準用されることが確立。
医療観察法の再抗告と同様の条文構造にある少年法の再抗告については、少年法35条所定の再抗告事由が認められない場合であっても原決定に同法32条所定の抗告事由があってこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁は、職権により原決定を取り消すことができる。
 
●審理不尽の判断 
医療観察法51条1項1号:
退院許可の申立て等を棄却するための要件として、入院中の対象者について、
「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院を継続させてこの法律による医療を受けさせる必要がある」ことが必要とする。

入院決定や入院継続確認決定のための要件と実質的に同じものであり、対象者の精神障害が治療可能性のあるものであることを含んでいると解されている。
この要件の判断に当たって、裁判所は、「指定入院医療機関の管理者の意見を基礎とし」なければならないと規定(医療観察法51条1項柱書)。

①管理者による意見は、平素から入院患者の病状等を診察している者による医学的見地からの専門的意見であることから、十分に尊重される必要がある。
②仮に裁判所が、その意見の合理性・妥当性に問題があると考える場合には、当該管理者にその意味・内容や判断の根拠等を尋ねることや他の精神保健判定医等に鑑定を命ずることも可能。

本決定:
原々審は医療観察法51条1項の趣旨を踏まえ、管理者の意見が現在の対象者の状態や治療可能性について述べるところの合理性・妥当性を審査すべきであり、適宜の調査を行うべきであったところ、このような調査を行うことなく、また、入院決定時の判断を優先させるべき十分な説明もないままに管理者の意見を排斥したと指摘
各原々決定及びこれを維持した各原決定には審理不尽の違法がある

本決定は、理由中で、原々審が行うべきであった適宜の調査として、カンファレンス、鑑定、審判期日の開催等を指摘しているが、これらは例示にすぎないと考えられ、その他の調査方法が否定されているものではない。
判例時報2421

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2019年12月24日 (火)

お泊り保育中に川の増水⇒園長と法人の損害賠償責任(肯定)

松山地裁西条支部H30.12.19    
 
<事案>
Y1が運営する本件幼稚園で実施された本件お泊り保育において、本件幼稚園の園長であるY2並びに本件幼稚園の教諭であるY3ないしY9が、園児らを川で遊ばせていた(本件活動) ⇒本件増水が生じ、園児らの一部が流され、そのうちAが死亡し、X11が傷害を負った(本件事故)

本件幼稚園の園児又は園児の親であるXらが、Y1ないしY9、Y1の当時の理事長であったY10を相手として、訴訟提起。
 
<主張>
Y2ないしY10に本件事故に関する注意義務違反(安全配慮義務違反)があった⇒同人らに対しては、民法709条に基づき、Y1に対しては、私立学校法29条や民法715条(使用者責任)などに基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<争点>
安全配慮義務違反(結果回避義務違反)の前提として、結果についての予見可能性の有無が争点
 
<主張>
Xら:
本件活動場所において、増水など河川の変化が生じた場合、園児らを安全に退避させることが著しく困難になることが予見可能⇒
①本件活動を計画したこと自体が注意義務違反であり、
②仮に本件活動を計画した事態は許容されるとしても、増水時の対処法についての検討、ライフジャケットなどの救命具の携行の検討など危険発生防止のための準備を怠ったことも注意義務違反 

Y:
①本件事故では、突如鉄砲水が押し寄せ、急激な増水が生じたものであるところ、結果回避義務違反が認められるためには、単なる増水ではなく、晴天時にこのような急激な増水が生じることについての具体的な予見可能性が必要
本件当時の幼稚園教育の実践における標準的な安全対策の水準によれば、Yらに前記のような予見可能性はなかった
 
<判断・解説> 
●予見可能性について
本件活動場所の地理的状況や、本件当時にインターネットなどで一般人が知り得た河川の安全に関する情報

①本件活動場所付近が晴れていても、上流域の降雨によって、本件活動場所付近においても河川の変化が生じ、ある程度の水量や流速の増加(増水等)の危険性があること、及び
②増水等が生じることにより、園児らを安全に退避させることが著しく困難な状況となり、これにより園児らの生命・身体に重大な危険が及び蓋然性が高いこと
が、Y2ないしY9と同様の立場にある一般人において予見可能であったと認めた。

本件活動の計画準備段階において、園児らのライフジャケットを準備し、本件事故の当日、これを園児らに適切に装着させる義務を結果回避義務として負っていたものと認め、
Yらの主張するような鉄砲水による急激な増水か否かは、このような結果回避義務を基礎付ける上で重要なものではなく、予見可能性の対象にはならない。

前記の結果回避義務を尽くしていても、なおも園児らの生命・身体に重大な危険が生じる蓋然性があることについて予見可能性があったものと認めることはできない。
⇒本件活動を中止すべき義務については認めなかった。

解説:

結果回避義務の前提となる予見可能性について、
具体的な予見可能性が必要であることを前提としつつも、
現実に生じた結果全てについて予見可能性を必要とするのではなく、あくまで結果回避義務を基礎付ける上で重要な部分について予見可能性を必要。

ライフジャケットの準備義務との関係では、予見可能性を認める一方
本件活動の中止義務との関係では予見可能性を認めず
いわば、結果回避義務との相関関係において、予見可能性を捉えている。 
 
●安全配慮義務の主体 
本件活動の計画準備段階において、安全配慮面でいかなる措置をとるべきかについては、Y2(園長)の責任において決定されるべきであった⇒Y2につき安全配慮義務違反を認めた

Y5(本件お泊り保育の担当):前年度までの例に倣ってスケジュールの作成等を行うことが想定されていた。
Y3(主任教諭):本件お泊り保育に関し、いかなる事務を行うべき立場にあったかは必ずしも明確ではない

いずれについても例年とは異なる安全配慮面の検討を行うべき立場にあったとは認められない⇒安全配慮義務違反を否定。

Y10(本件当時のY1の理事長):
本件幼稚園の園児らの安全確保のために、教諭らを指導・監督すべき一般的義務を負っていたとしつつも、
Y1が本件幼稚園を含めて8つの幼稚園を運営していたことも踏まえ、理事長であるY10に、本件お泊り保育等の情報を詳細に把握して、安全配慮面での措置を具体的に検討すべき義務があったとまではいえない
⇒安全配慮義務違反を否定。

解説:

一般的な指導監督義務から直ちに安全配慮義務を認めるのではなく、本件活動の計画準備段階での具体的な事実関係を踏まえ、安全配慮面での措置についての具体的な検討を誰が行うべき立場にあったのかを認定
判例時報2421

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事業譲渡の無償行為否認等(肯定)

大阪高裁H30.12.20    
 
<事案>
破産者A社と破産者B社の各破産管財人(Xら)が、両社からその事業の一部を譲り受けたY社に対し、本件事業譲渡及びA社がY社に対し、本件事業譲渡及びA社がY社との一連の取引関係の中で、借入れと返済を繰り返した行為等について、破産法160条3項(無償行為否認)162条1項1号(偏頗行為否認)2号(非義務行為否認)などの否認権を行使し、あるいは、法71条1項2号(相殺禁止)を主張して、
逸失した財産の破産財団への原状回復(法167条1項)や償還請求(法168条4項)を求め、さらに会社法350条、民法709条に基づき、相当額の損害賠償を求めた事案。 
 
<争点>
①本件事業譲渡が無償行為否認(160条3項)の対象となるか
一連の取引関係(弁済、代物弁済)について本来の弁済期は支払不能よりも前に到来するが、これをもって時期に関する非義務行為(期限前弁済)として偏頗行為否認(162条1項2号本文)の対象となるか
 
<判断>
①本件事業譲渡の無償行為否認該当性を認め、
②前記の 期限前弁済につき偏頗行為否認の対象になると判断
事業譲渡(会社法21条以下、467条)も、経済的な対価を得ないでされた場合には、法160条3項の「無償行為」に該当
A社とB社は、Y社に対し、一連の取引に係る事業(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)を経済的な対価を得ることなく譲渡したものと認定し、単に取引先を紹介されたにすぎないというY社の主張を排斥。

本来の弁済期が支払不能よりも前に到来する場合でも、期限前に弁済すれば、時期に関する非義務行為として、偏頗行為否認(162条1項2号本文)の対象となる

 
<解説>
●事業譲渡と無償行為否認
従来は事業譲渡に対する否認は、その詐害行為性(法160条1項)が争点とされていることが多かったが、本件では、無償行為否認(法160条3項)が問題とされ、その事業価値が裁判所の鑑定結果を踏まえて詳細に認定された点に特色がある。 
 
●期限前弁済と偏頗行為否認 
法162条1項2号の趣旨について、
期限前弁済が支払不能前にされた場合でも、弁済期まで待てば支払不能になることが確実であるときは、破産リスクを他の債権者に転嫁し、債権者間の平等を著しく害する行為
⇒期限前弁済を受けた債権者が善意である場合を除き、破産者の義務に属する行為よりも広く否認を認めるところにあるとして、その有害性の観点を強調。

弁済期が支払不能よりも後に到来する場合には、債権者が期限前弁済により、支払不能後の偏頗行為否認(同項1号)を潜脱することを許さないという機能も有する。
本件のように弁済期が支払不能よりも前に到来する場合には、前記の潜脱防止は働かないものの、有害性の観点が否定されるものではない

①支払不能の前段階でも、それまでに債務者の財務状況が徐々に悪化し、支払不法に陥ることが確実であるという状態を観念できる。
②この時期における期限前弁済は、本来の弁済期が支払不法よりも前に到来する場合であっても、やはりこれを受ける債権者のみに優先的な満足を与え、破産リスクを他の債権者に転嫁するもので、債権者間の平等を害するという有害性の程度には変わりがない

①債務者が期限前弁済をした時点で、客観的には弁済期まで待てば支払不能に陥ることが確実である状態にあるため他の債権者を害するという状況にあり、かつ
②債権者がその点について善意とはいえない場合、
後の破産手続において支払不応が弁済期の前後にいずれに定まろうとも、期限前弁済により破産リスクは他の債権者に既に転嫁されたといえる

本件のように弁済期が支払不能よりも前に到来する場合であっても、支払不能から遡って30日以内に期限前弁済がされたときは、法162条1項2号所定の「その時期が破産者の義務に属しない行為」に該当する(積極説)
その場合、同号ただし書にいう「他の破産債権者を害すること」とは、このような期限前弁済についてみると、同号が後遺の時期及びその有害性に着目して、特に否認の対象を拡張した趣旨に鑑み
「本来の弁済期まで待てば、支払不能に陥ることが確実であるという状態」をいうものと解される。

判例時報2421

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2019年12月23日 (月)

地震⇒ガス警報器発報⇒ガス漏えいの有無を点検で問題なし⇒爆発事故⇒都市ガス事業者の責任(否定)

仙台高裁H30.6.7     
 
<事案>
東北地方太平洋沖地震の3日後、Xが経営する百貨店の店舗地下1階で大規模な爆発事故が発生し、テナント従業員が死傷し、建物が大きく損傷。 
Xは、都市ガス業者であるYに対し、
①ガス漏れの通報に対しYが直ちに適切な処置をすべき都市ガス供給契約上の義務を怠った、
②Yが点検担当者に対する適切な指導、教育を怠っていたために点検担当者がガス漏れを発見することができなかった
③都市ガス漏えい部のガス管継手部が本来有すべき強度を欠く瑕疵があった

店舗建物を売却処分せざるをえなかったことなどによる損害額の一部である45億円の損害賠償を請求。
 
<判断>
爆発の原因について、
地震の揺れにより、・・・・ガス管継手部からガス管が抜け出し、漏えいした都市ガスが加工室とその地下ピットに溜まっていたところに、湯沸器の放電火花から発生した火が引火して爆発。
Xの従業員らが現認した加工室内のガス警報器の発報は、前記漏えいガスを検知したもの。

都市ガス流入の具体的な経緯は不明であり、
①加工室内で一応の点検を行ってもガス検知器がガスを検知しなかったこと、
②点検終了時にガス警報器を設置し直してもガスを検知しなかったこと、
③爆発までのガス警報器の発報状況、
④爆発事故後の可燃性ガスの顕出状況、
⑤加工室は旧館の壁面を取り除いて新館と一体化した接合部に位置する地下階であること等
点検時に加工室内に検知可能な程度の都市ガスが残っていたとまでは認められない

点検担当者のガス漏れ点検が不適切であったとは認められない⇒Yの債務不履行責任及び使用者責任を否定。

ガスが漏えいしたガス管継手部に施工上の問題はなく、埋設場所付近の土地の締固めが十分に行われていなかったために地下空洞が生じており、通常の地震では想定できないほどの強い力が継手部に作用
継手部が本来有すべき強度を欠いていた瑕疵があったとはいえない
⇒Yの工作物責任を否定。
判例時報2421

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(養親の)相続財産の包括受遺者による養子縁組の無効の訴えの利益の有無

最高裁H31.3.5    
 
<事案>
Bを養親となる者、Cを養子となる者とする養子縁組届に係る届出が平成22年10月に提出。
Xは、平成25年12月に死亡したBの遺言により、その相続財産の包括遺贈を受けた。
Xは、平成28年1月、Cから遺留分減殺請求訴訟を提起された。
Cが平成29年10月に死亡し、Aは前記訴訟を承継。
本件は、Xが、検察官に対し、本件養子縁組の無効確認を求めた事案。 
 
<一審>
Xが本件訴えにつき法律上の利益を有しない⇒本件訴えを却下。 
 
<原審>
第一審判決を取り消して、本件を一審に差し戻した。 
   
Aが上告受理申立て
 
<最高裁>
養子縁組の無効の訴えを提起する者は、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえない
⇒原判決を破棄し、Xの控訴を棄却。 
 
<規定>
人訴法 第二四条(確定判決の効力が及ぶ者の範囲)
人事訴訟の確定判決は、民事訴訟法第百十五条第一項の規定にかかわらず、第三者に対してもその効力を有する。
 
<解説>
●個々の民事訴訟において養子縁組の無効事由を主張する主張適格には特段の制限がない
but
養子縁組の無効の訴えには人訴法24条1項の定める対世効という強力な効果がある⇒この訴えについての原告適格ないし訴えの利益をどのように考えるかが問題。
 
● 最高裁昭和63.3.1:
養子縁組の無効の訴えは、縁組当事者以外の第三者でも提起することができる確認の訴え。
but
養子縁組が無効であることにより自己の身分関係が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は、養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有しない。

身分関係に関する権利義務ではなく「身分関係に関する地位」
←推定相続人の地位など被相続人の死亡により具体化する前のものでも対象となる。

「直接影響を受ける」

民法877条2項に定める扶養を命ずる審判等の何らかの手続を経ることなく影響を受けることを指すものと解される。

ここにいう自己の身分に関する地位に直接影響を受けるというのは、可能なものを含め身分に関する実体法規に定める地位又はこれに関する権利の行使若しくは義務の履行に影響を受けることをもって足りる。
ここにいう身分に関する実態法規について、相続又は扶養等についての諸規定をいう。
(調査官解説)
vs.
相続、扶養等に関する法的地位であれば、身分関係を要件としないなど身分と直接関係のないものであったとしても、全て身分関係に関する地位に当たると解しているものとは思われない。

●原審やXの主張のように、養親の相続に関する法的地位を有する者は、直ちに養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有するものに当たる。
vs.
養親の相続債権者や相続債務者であっても、これに当たることになりかねない。
昭和63年最判に反する。 

昭和63年最判(昭和63年3月1日):
養子縁組の無効の訴えは養子縁組の届出に係る身分関係が存在しないことを対世的に確認するもの。
養子縁組の無効により、自己の財産上の権利義務に影響を受けるに過ぎない者は、その権利義務に関する限りでの個別的、相対的解決に利害関係を有するものとして、前記権利義務に関する限りで縁組の無効を主張すれば足り、それを超えて他人間の身分関係の存否を対世的に確認することに利害関係を有するものではない。
判例時報2421

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2019年12月20日 (金)

売買代金の完済まで売主に留保する旨の売買契約の売主と集合動産譲渡担保権者の優先関係

最高裁H30.12.7    
  
<事案>
Yは、Aとの間で、平成22年3月に、YがAに金属スクラップ等を継続的に売却する旨の売買契約を締結。
本件売買契約には、Yは目的物の代金を毎月20日締めでAに請求し、Aは前記代金を翌月10日に支払うこと、目的物の所有権は前記代金の完済をもってYからAに移転することが定められていた。
 
Xは、平成25年3月に、XがAに極度額を1億円として融資する旨の契約を締結。
前記契約によりXがあに対する債権を担保するため、Xを譲渡担保権者、Aを譲渡担保権設定者とし、金属製品の在庫製品等で、Aが所有し、Aの工場等で保管する物全部を目的とする集合動産譲渡担保権を締結
本件譲渡担保権に係る動産の譲渡につき、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(「特例法」)3条1項の登記。 
 
Yは、Aの事業廃止後、本件売買契約によってAに引渡し、Aの工場で保管されていた金属スクラップ等につき、本件条項によって留保していた所有権に基づき、動産引渡断行の仮処分命令を申立て、これを認容する旨の決定を得た。
⇒Yは同決定に基づいて、前記勤続スクラップ等を引き揚げ、第三者に転売。
 
Xが、Yによる前記金属スクラップ等の引揚げ、転売がXの本件譲渡担保権を侵害する不法行為に当たるとして5000万円の損害賠償を請求するとともに同額を不当利得金として請求。 
 
<判断>
本件は、金属スクラップ等を反復継続して売約する本件売買契約において、目的物の所有権が売買代金の完済までYに留保される旨の本件条項が定められている場合であるところ、
①本件契約では毎月21日から翌月20日までを1つの期間として、期間ごとに納品された金属スクラップ等の売買代金の額が算定され、1つの納品期間に納品された金属スクラップ等の所有権は、当該期間の売買代金の完済まで売主に留保されることが定められ、これと異なる期間の売買代金の支払を確保するために売主に留保されるものではないこと、
②売主は買主に金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していたが、これは売主が買主に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨と解されること
等の判示の事情の下では、
売買代金が完済されていない本件動産の所有権はYからAに移転しないものとし、本件動産につき、譲渡担保権者であるXは、Yに対して本件譲渡担保権を主張できない。

上告を棄却。
 
<解説> 
●学説・判例
売買契約において、売主と買主との間で代金が完済されるまで目的物の所有権を売主に留保する旨の合意がされた場合の法的構成:
A:留保構成
B:移転・設定構成 

最高裁H22.6.4:
自動車の売買代金の立替払をした信販会社が、
販売会社が留保していた自動車の所有権の移転を受けたが、購入者に再生手続が開始した時点で前記自動車の登録を受けていない事案について、
信販会社は留保した所有権を別除権として行使することはできないとした。
but
留保構成を採るのか、移転・設定構成を採るのかには判文からは明らかではない。
 
●本件の問題点(留保所有権者と集合動産譲渡担保権者との優劣) 
A:留保構成⇒代金完済までは売主から買主に目的物の所有権は移転しない⇒代金完済未了の目的物には譲渡担保権の効力は及ばず、売主は留保所有権を譲渡担保権者に主張できる
B:移転・設定構成⇒目的物について、買主を起点として、売主への留保所有権の設定という物権変動と譲渡担保権者への集合動産譲渡担保権の設定という2つの物権変動がある。
本件のように集合動産譲渡担保権について特例法上の登記がされている場合には、登記後に集合物に加入した物についても登記がされた年月日に対抗要件が具備されたものと扱われると一般的に理解
⇒集合動産譲渡担保権について前記登記がされた後に、売買契約の目的物が引き渡された場合には、譲渡担保権者が常に優先することになる。
 
●本判決
本件の事情の下では、代金完済まで目的物の所有権は売主から買主に移転しないとして所有権留保について留保構成。
代金完済未了の目的物には譲渡担保権の効力は及ばず、X主張の不法行為は成立しない。

本件で留保所有権者であるYを譲渡担保権者であるXに優先させるとの判断がされた根拠

留保構成は、移転・設定構成に比べて、代金の完済もって買主に所有権が移転する旨の本件条項と整合的
留保所有権の売買代金債権との間には具体的牽連性あり
譲渡担保権者の債権と目的物との牽連性は留保所有権者に比べて具体的とはいえない。

事例判断として示された

売買契約において所有権留保を定める条項は、所有権留保の目的物の範囲や完済を確保する売買代金債権の範囲について様々なものが想定される
⇒その内容を問わず一般的に留保構成を採ると考えるのは相当ではない。
 
◎ 1つの期間に納品された金属スクラップ等の所有権は、当該期間の売買代金の完済まで売主に留保されることが定められ、これと異なる期間の売買代金の支払を確保するために売主に留保されるものではないことが事例判決の事情として挙げられている。

「一納品期間内での売買代金と目的物との対応関係」があり、その限度を超えて支払を確保する売買代金債権の範囲や留保所有権の目的物を拡大するものではないことが考慮。
⇒売主と買主との間の売買代金債権が全て完済されるまで売買契約に基づいて売主が買主に引き渡した全ての目的物の所有権が留保されるとの定め(いわゆる根所有権留保の合意)がされた場合についてまで、留保構成をそのまま採るとはいえないように思われる。
 
売主は買主に金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していたが、これは売主が買主に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨=これをもって移転・設定構成を採ったと解することはできない旨を判示。
判例時報2421

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2019年12月17日 (火)

指名型プロポーザルを経た後に、市が廃棄物処理業者との間で随意契約の方法により締結した一般廃棄物処理運搬業務委託契約が無効とされた事案

奈良地裁H30.12.18     
 
<事案>
Yが市長を務める奈良県香芝市の住民であるXらが、
香芝市が、廃棄物処理業者であるZ(被告補助参加人)との間で一般廃棄物収集運搬業務委託契約(「本件契約」)を締結する前に実施した指名型プロポーザルは、契約の相手方が事前にZに内定

本件契約は、地自法234条2項、同法施行令167条の2第1項2号に規定された随意契約が許される場合に該当せず、私法上無効

Yに対し、本件契約に基づいて香芝市からZに対して支払われた業務委託料について、不当利得(民法703条)に基づき、Zに対して返還を請求するうよう求めるとともに、
本件契約の履行行為としての業務委託料の支払を差し止めるよう求めた
住民訴訟。
 
<争点>
香芝市による一般廃棄物収集運搬業務委託先事業者の選定手段としてのプロポーザルの実施時点で、既にZが契約の相手方として内定していたか
仮に事前内定の事実が認められるとした場合に、
①本件契約の締結に地自法234条が適用されるか
②本件契約の締結が地自法234条2項、同法施行令167条の2第1項2号に違反しているといえるか
③仮に違反しているとして、本件契約が私法上無効となり、香芝市がZに対する不当利得返還請求権の行使を怠っているか 
 
<判断>  
請求認容
 
●争点① 
地自法234条の規制の対象となる「売買、賃貸、請負その他の契約」は、普通地方公共団体が私人と同等の立場に立って行う契約をいい、いわゆる公法上の契約はこれに含まれない。
but
本件契約は、
料金を支払い、一般廃棄物の収集運搬業務という対価を受けるもの
⇒請負ないし準委任契約に類する業務委託契約と見ることができ、
その意味で、香芝市が私人と同等の立場で行った契約であるということができる

地自法234条の規制にかからしめた。
 
●争点② 
①事前に契約の相手方がZに内定していた
②本件契約意向に、本件契約と類似の業務委託契約における相手方を選定する際、指名競争入札の方法によって業者を選定していた事実等

本件契約の締結が地自法234条2項、同法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」には当たらない
 
●争点
最高裁昭和62.5.19が示した規範を適用し、
①プロポーザルの通知以前から契約の相手方としてZが内定してたという事実が認定⇒地自法施行令167条の2第1項各号に列挙された、随意契約が許される場合に該当しないことが何人の目にも明らかである場合に当たる
②契約の相手方であるZも、内定の事実を知った上で車両の発注等の行動をしているということになる⇒これが許されないことは社会通念に照らし、十分知り得た。

私法上の契約を無効とする場合を制限的に解した上記最高裁判決に照らしても、本件契約を無効と判断。
同判例は、契約が無効といえない場合には、地自法242条の2第1項1号に基づいて契約の履行行為の差止めを請求することはできないと判示
but
本件では、契約を私法上無効と判断⇒同判例に照らしても、履行行為の差止めを認めることができる事案であると判断。

判例時報2421

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2019年12月16日 (月)

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の合憲性

最高裁H31.1.23    
 
<事案>
生物学的には女性であるXが、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき、男性への性別の取扱いの変更の審判の申立てをした事案。 
Xは、自らが本件規定の要件を満たしていないことを前提としつつ、本件規定は憲法13条に違反して無効であるとして、特例法3条1項に基づく性別の取扱いの変更の審判の申立てをした。
 
<規定>
特例法 第三条(性別の取扱いの変更の審判)
家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる
一 十八歳以上であること。〔本号の施行は、平三四・四・一〕
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

憲法 第13条〔個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重〕
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
 
<解説>
性同一性障害:生物学的な性と性の自己認識が一致しない状態のことをいう 
 
<判断・解説>
●性同一性障害者の「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」に言及し、本件規定が、これを制約する面もある旨を判示。 

憲法13条は、生命に対する国民の権利を明文で規定しており、意思に反して身体への侵襲を受けない事由もこれに次ぐ基本的な法益として同条の保障に含まれることと解することに異論はない。

特例法は、性同一性障害であって、一定の要件を満たしているものにつき、その任意の申立てにより、法的な性別の取扱いの変更を認めるとしたものであって、本件規定は、性同一性障害者にその意思に反して生殖腺除去手術を受けさせることを目的とするものではなく、性同一性障害者に対して当該手術を受けることを法的に求める規定ではない

本決定:「本件規定は、性同一性障害者一般に対して上記手術を受けること自体を強制するものではない
but
直接的な制約とはいえない場合であっても、国が法制度を制定し、国民にこれに基づく法的利益を選択する権利を付与するものとしつつ、当該利益付与の要件として当該国民に憲法上保障される別の自由を事実上制約することを余儀なくさせるというような場合には、当該自由を間接的にではあれ制約する面があることは否定できないと思われる。

本決定:性同一性障害者によっては、生殖腺除去手術まで望まないのに、性別の取扱いの変更の審判を受けるためにやむなく同手術を受けることもあり得るとして、本件規定がそのような者についてその意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることを肯定

●特例法は、性同一性障害者に対して、法律上の性別の取扱いの変更という法的利益を付与するために生殖腺除去手術を受けていることを求めるもの

本件規定が当該手術を望まない者の自由に対して及ぼす事実上の制約の有無及びその程度は、
当該利益の権利性(憲法上保障される権利か、尊重されるべき利益か等)、
必要性の程度(社会的状況の下で当事者が現実に受ける不利益の程度)、
不利益を解消するために他に代替的な手段があるのか
等を考慮する必要がある。
また、これらに加えて、性同一性障害者が任意に当該手術を選択する現実的可能性の程度も影響しよう。

従来から、基本的人権を規制する規定等の合憲性に係る最高裁判例の多くは、
一定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要とされる程度と、
制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等
を具体的に比較衡量するという利益衡量論の判断枠組みを採用。
その際の判断指標として、規制される人権の性質規制措置の内容及び態様等の具体的な事案に応じて、その処理に適する基準を適宜選択して適用したり、当該基準の内容を変容させ又はその精神を反映させる限度にとどめるなどして柔軟な対処

具体的に憲法13条により保障される権利の制限が問題となった最高裁判例をみても、概ね、
制限する目的の正当性
制限の必要性と合理性(制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様とを衡量して、制限が必要かつ合理的なものであるかどうか)を考慮して判断。
本決定も、これらと同様の判断枠組みを前提としつつ、本件では間接的な態様による制約が問題となっていることを踏まえて、総合的な較量により合憲性を判断したものと理解。

●下の性別の生殖機能により子が生まれることによる「様々な混乱や問題」

①「女である父」「男である母」が存在することになる
②特に法的に男である者が懐胎、出産するという、長きにわたり法制度(民法733条、772条)や社会が予定していない事態が生じることは、わが国の家族制度や社会制度の基盤に関わり、これを受け入れる社会において混乱が生じるという考え方
③現行の親子関係に関する法制度を前提とすると、元の性別の生殖機能により生まれた子の父母が誰になるのかが不明確な場合が生じる(例えば、女から男へと性別の取扱いを変更した者が婚姻した後に、当該者が出産した場合の当該者及び妻と子との各関係)、子の身分関係に伴う法的安定性が損なわれる。 

●本決定:本件規定の目的や制約の態様に加え、現在の社会的状況等にも言及して、現時点では、憲法13条に違反しない旨を判示。

平成15年に本件規定が定められた後、性同一性障害についての医学的知見は急速に進展し、性同一性障害者をめぐる環境や性自認の多様性等についての国民の意識も変わってきていることがうかがわれ、今後も変化しているものと予測されるところ、本件規定の性同一性障害者に対する制約の強さの程度や、目的の正当性、規制の必要性と合理性は、いずれもこのような変化する事情と大きく関わっていることを踏まえて、本決定が慎重な判断をしたものであることを示す意味合いを含む。 
判例時報2421

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2019年12月14日 (土)

不当労働行為が認定された事案

大阪高裁H30.9.7      
 
<事案>
X(高槻市)の設置する市立小学校の外国人英語指導助手らはY(大阪府)の補助参加人である労働組合(「Y補助参加人」)の支部を結成して、市庁舎前等においてビラを配布するなどの組合活動をし、また別件の救済申立てを大阪府労働委員会に行った。
Y補助参加人の組合員である英語指導助手が市立小学校卒業式への出席を希望⇒市立小学校の校長は、市教育委員会に問い合わせたうえ卒業式への出席を認めなかった。
市教委の教育指導部長は、市議会本会議において、質問を受け、英語指導助手が保護者に署名やビラ配布を依頼したこと、別件の救済申立てがなされていること等をあげて、卒業式に出席を認めると混乱を生じる可能性を排除できない旨の答弁(「本件答弁」)をした。

Y補助参加人:
Xが、本件組合員が組合活動を行ったことから卒業式に出席することを認めなかったこと及び本件答弁においてY補助参加人の組合活動を中傷したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会に救済を申し立てた。

大阪府労働委員会は、Y補助参加人の申立てについていずれも不当労働行為に当たるとして、Xに謝罪文手交を命じる救済命令(「本件救済命令」)をした。

Xが本件救済命令の取消しを求めた。

原審:Xの請求を認めて本件救済命令を取り消した、
本判決:原判決を取り消し、Xの請求を棄却
最高裁:Xの上告受理申立てを不受理。
 
<規定>
労組法 第七条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
・・・
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
 
<判断>
●本件組合員が卒業式の出席を認められなかったことがXによる労組法7条1項本文前段、3号及び4号の不当労働行為に該当するか。 
本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことは「不利益な取扱い」に該当する。

◎Xが、本件組合員が労働組合の組合員であることの故をもって、あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたといえるか。 
①市教委が各校長らから問い合わせを受けた日は、別件救済申立てがされたことをXが知った後であると認めることができる
②これを前提に、市教委が各校長らに本件組合員の卒業式への出席について慎重に対応するようにと指導・助言し、各校長らがこれに従い本件組合員に対しそれぞれの卒業式への出席を認めなかった

Xは、本件組合員に対し、別件の救済申立てをしたことを理由として、卒業式への出席を認めないとの「不利益な取扱い」をしたものであるということができる。
本件組合員が卒業式に参加すると卒業式が混乱するとのXの懸念も具体的なものであったとはいえない

Xが本件組合員を卒業式に出席させなかったことは、労働組合の組合員であることの故をもって、あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたもの

◎本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことがXによる労働組合への支配介入に当たるか? 
本件組合員の卒業式への出席を認めなかった取扱いは、本件組合員にとっても他の労働者にとっても、その組合活動意思を萎縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶおそれのあるものといえる。

本件組合員が卒業式への出席を認めなかったことは、XによるY補助参加人の運営に対する支配介入にも当たる

本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことが、Xによる労組法7条1号本文前段、3号及び4号の不当労働行為に該当する。 
 
●本件答弁が労働組合への支配介入に当たるか
①本件答弁は、市教委の教育指導部長がXを代表して発言したもので、Y補助参加人だけでなく、社会全体に向けて発進されたもの
②本件組合員の卒業式への出席を認めない理由として、Y補助参加人のこれまでの組合活動からみて、組合員が卒業式に参加すると卒業式が混乱する懸念があることを公然と述べたものであるが、これは、Y補助参加人の組合活動は卒業式を混乱させるおそれがあると批判し中傷したことになる。
③これは、労働者らの組合活動意思を萎縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶおそれがある

本件答弁は、労組法7条3号に該当する不当労働行為である
判例時報2420

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弁護士会の総会決議の取消請求・無効確認請求

京都地裁H31.3.26    
 
<争点>
①本件決議取消請求に係る訴えの適法性
②本件決議無効確認請求に係る訴えにおける確認の利益
③本件決議における手続違反(特別の利害関係の解釈) 
 
<判断>
争点①について:
決議取消請求に係る訴えは、形成の訴えであるところ、弁護士会の総会決議については、取消請求の主体や要件を定める規程は存在しない
本件決議取消請求に係る訴えは不適法

争点②について:
本件決議の有効、無効が対象外の会員であるXの法律上の地位ないし利益に直接影響を及ぼすものではなく、本件決議は、弁護士会の適正な運営の根幹にかかわる重要な事項であるとまではいえない
本件決議無効確認請求に係る訴えは、確認の利益がない
 
<解説> 
●決議取消請求に係る訴えについて
決議取消請求に係る訴えの却下は、形成の訴えが、法律関係の変動を判決により対世的かつ画一的に生じさせる必要があるとしてその主体や要件を個別に定める規定がある場合に限って認められるという、一般的な考え方。 
日弁連には、一定の取消事由がある場合に弁護士会の総会決議を取り消す権限が与えられている(弁護士法40条)。
 
●決議無効確認請求に係る訴えにおける確認の利益について 
最高裁昭和47.11.9:
学校法人の理事会又は評議員会の決議が無効であることの確認を求める訴えは、現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切かつ必要と認められる場合には、許容される
商法の準用規定のない法人についても、決議の無効確認の訴えに確認の利益が認められる場合がある。
判例時報2420

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2019年12月13日 (金)

連帯保証にからの一方的意思表示による連帯保証契約の解除を認め、また支払請求が権利濫用とされた事案

横浜地裁相模原支部H31.1.30    
 
<事案>
X(神奈川県相模原市)は、市営住宅をAに賃貸し、その賃貸借契約において、Aの母であるYが連帯保証。 
Y:
Aが賃料支払を継続して滞納し、将来支払う見込みもないにもかかわらず、Xが契約解除明渡しの措置を講じなかったことから保証債務が累積

一定の時期にYによる契約解除の黙示の意思表示がなされ、契約が解除され、以降の保証債務は負担しない、あるいは、
一定の時期以降に生じた滞納分の請求は、権利の濫用として許されない。 
 
<判断>
Yの主張①について:
Aが賃料の支払を怠り、将来も支払う見込みがないことが明らかで、Aともまったく接触・連絡もとれず、Yが保証責任の拡大を防止するため、再三、Aを退去させてほしいとの意向を示していたにもかかわらず、Xは、賃貸借契約の解除及び明渡しの措置を行わず、そのまま使用を継続させ滞納賃料等を累積させていた

Xには、連帯保証契約上の信義則違反が認められ、保証人であるYからの一方的意思表示による解除が許容される。
契約締結から12年以上が経過してYがAの退去を求めた時点で、黙示的な解除の意思表示がなされたと認定し、以後の保証債務の履行を免れる。

Yの主張②について:
前記時点での解除の有無にかかわらず、前記時点以降の保証債務の支払を請求することは、権利の濫用として許されない。
 
<解説>
期間の定めのない建物賃貸借契約の保証人からの一方的意思表示による保証契約の解除を認めた裁判例(大判昭8.4.6)(①)
賃貸人の保証人に対する請求が一定の場合に信義則により制限されることがあり得る(最高裁H9.11.13) (②)

適用場面について:
①について:
解除の要件が備わった段階で一方的能動的に解除して、以後の債務が累積することを防止し、早期に法律関係を安定させることができる利点(メリット)がある反面、
法律の素人である保証人が黙示的にでも解除の意思表示を行うことが期待できない場面(デメリット)も多く、仮に口頭で意思表示をしても訴訟での的確な証拠が提出できない事態も考えられる。

②について:
前記のような限界はないものの、既に多くの滞納賃料が累積している場合も多く、
制限される、賃貸人側も損害を被る。 
判例時報2420

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2019年12月12日 (木)

後遺障害逸失利益について定期金賠償の方法による支払が命じられた事案

札幌高裁H30.6.29
 
<事案>
X1(事故当時4歳の男性)が、道路を横断中にY1の運転する大型貨物自動車に衝突される事故により脳挫傷等の傷害を負い、自賠法施行令別表第2第3級相当の高次脳機能障害等の後遺障害が残存し、後遺障害逸失利益等の損害を被り、
X1の両親であるX2及びX3が、本件事故によりX1に重篤な後遺障害が残ったために多大な精神的苦痛を被った

Y1に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、
本件車両の保有者であるY2に対しては自賠法3条に基づき、
連帯して後遺障害逸失利益等の損害の賠償を求め、
Y2との間で本件車両を被保険自動車とする対人賠償責任保険契約を締結していたY3に対しては、保険契約に基づき、Y1又はY2に対する判決の確定を条件とする同額の損害の賠償を求めた。

X1:
①Xら側には過失がないとした上で、
②後遺障害逸失利益について定期金賠償の方法による支払を求めたのに対し、

Yら:
①Xら側にも過失があるとした上で、
②定期金賠償の方法による支払を争った。
 
<原審>
X1が本件事故当時4歳の幼児⇒母親であるX3は、その保護者として、X1が道路に飛び出すことがないように看視、監督すべきであったのに、本件事故が起きるまでX1の挙動について把握していなかった⇒被害者側であるXら側に2割の過失があるとする過失相殺
後遺障害逸失利益について定期金賠償の方法による支払を命じた
 
<判断>
●過失相殺について
①被害者本人が過失相殺能力のない幼児である場合には、前記被害者側の過失については、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいう
②本件のように、発生した事故が死亡事故でなく、被害者本人自身が損害賠償金を得るような場合であっても、これを被害者側の過失として考慮するのが、公平の理念に照らして相当
③本件において、X3は、被害者であるX1との間に身分上ないし生活関係上一体をなすとみられる関係にあるというべきであり、また、X3にあっては、当時の状況から危険が存することは否定できないところ、本件事故直前にX1の挙動について確認していなかったことが認められ、これらの点については、被害者側の過失として考慮するのが相当。

被害者側であるXら側に2割の過失があるとする過失相殺をした原審の判断は相当
 
●定期金賠償について 
(定期金賠償の方法が問題なく認められる)将来介護費用と後遺障害逸失利益とを比較した場合、両者は、
事故発生時にその損害が一定の内容のものとして発生しているという点に加え、
請求権の具体化が将来の時間的経過に依存している関係にあるような損害であるという点においても共通(この点において慰謝料などとは本質的に異なっている。)
後遺障害逸失利益についても定期金賠償の対象となり得る

定期金賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えについて規定する民訴法117条も、その立法趣旨及び立法経緯などに照らして、後遺障害逸失利益について定期金賠償が命じられる可能性があることを当然の前提としているものと解すべき。

後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めることに理論的な問題があるわけではない

平成8年最判(最高裁H8.4.25)は、交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、公平の理念に反する結果になることなどを考慮して、かかる実質的な不都合を回避するためにその限度でいわゆる継続説を採用したもの。

このことにより後遺障害逸失利益についての定期金賠償を否定したものではないと理解でき、後遺障害逸失利益につき定期金賠償を認めることが平成8年最判と整合しないとはいえない。

平成8年最判の後に言い渡された最高裁H8.5.31は、被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の「一部を喪失した後に死亡した場合、自己と死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合は死亡後の生活費を控除することができる旨を判示
~事故発生後に発生した損害がその後の事情によって変更することに他ならない
⇒後遺障害逸失利益が定期金賠償の対象となると理解することも可能。

①X1の年齢や後遺障害の性質や程度、介護状況など⇒本件におけるX1の後遺障害逸失利益については、将来の事情変更の可能性が比較的高いものと考えられる
②被害者側であるXにおいて定期金賠償によることを強く求めており、これは後遺障害や賃金水準への変化への対応可能性といった定期金賠償の特質を踏まえた正当な理由によるものであると理解することができる
③将来介護費用についても長期にわたる定期金賠償が認められており、本件において後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めても、Yらの損害賠償債務の支払管理等において特に過重な負担にはならないと考えられる。

本件においては、後遺障害逸失利益について定期金賠償を認める合理性があり、これを認めるのが相当
判例時報2420

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2019年12月11日 (水)

児童福祉法33条2項の解釈

大阪高裁H30.7.30    
 
<事案>
児童相談所長が、家裁に対し、児福法33条5項に基づき一時保護を開始した児童について2か月を超えて引き続き一時保護を行うことの承認を求めた。 
 
<解説> 
●児童の一時保護:
①終局的な処遇を行うまでの短期的なもの
②虐待の場合など、児童の福祉を最優先した迅速な対応を要する場合が負い
⇒都道府県知事又は児童相談所長に認められる権限。 

一時保護:
必要があると認めるときに、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため(保護目的)、又は
児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため(状況把握目的)
に行うことができる。(児福法33条1項2項)

児童の一時保護は、開始した日から2か月を超えて行うことはできないが(33条3項)、必要があると認めるときは、家裁の承認を得て、引き続き一時保護を行うことができる。(4項、5項)
~平成30年4月2日施行。
 
<規定> 
児童福祉法 第三三条[一時保護]
児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。
②都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十七条第一項又は第二項の措置(第二十八条第四項の規定による勧告を受けて採る指導措置を除く。)を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童相談所長をして、児童の一時保護を行わせ、又は適当な者に当該一時保護を行うことを委託させることができる。
・・・・
児童福祉法 第二七条[都道府県のとるべき措置]
都道府県は、前条第一項第一号の規定による報告又は少年法第十八条第二項の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一 児童又はその保護者に訓戒を加え、又は誓約書を提出させること。
二 児童又はその保護者を児童相談所その他の関係機関若しくは関係団体の事業所若しくは事務所に通わせ当該事業所若しくは事務所において、又は当該児童若しくはその保護者の住所若しくは居所において、児童福祉司、知的障害者福祉司、社会福祉主事、児童委員若しくは当該都道府県の設置する児童家庭支援センター若しくは当該都道府県が行う障害者等相談支援事業に係る職員に指導させ、又は市町村、当該都道府県以外の者の設置する児童家庭支援センター、当該都道府県以外の障害者等相談支援事業を行う者若しくは前条第一項第二号に規定する厚生労働省令で定める者に委託して指導させること。
三 児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。
四 家庭裁判所の審判に付することが適当であると認める児童は、これを家庭裁判所に送致すること。
②都道府県は、肢体不自由のある児童又は重症心身障害児については、前項第三号の措置に代えて、指定発達支援医療機関に対し、これらの児童を入院させて障害児入所施設(第四十二条第二号に規定する医療型障害児入所施設に限る。)におけると同様な治療等を行うことを委託することができる。
 
<論点>
①児童相談所が、児童通告(少年法6条2項、児福法25条1項 又は触法少年送致(少年法6条の6第1項2号)を受けて一時保護を開始した児童についての一時保護の時間的終期(児福法33条2項の「第27条1項又は2項の措置・・・を採るに至るまで」の解釈)は、自福法27条1項4号による家裁送致をするまでと考えるべきか、それとも、他の同条1項の措置(例えば同項2号(指導等)、3号(施設入所))をする可能性がある場合には、家裁送致後もそれらの措置を採るに至るまで一時保護をすることが認められるか。
②児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握すため、2か月を超えて引き続き一時保護を行うことが必要であるか。
 
<原審>
①児福法33条2項の一時保護は、同法27条1項又は2項の措置を採るに至るまで行うことができる暫定的措置
②本件においては、児童を触法少年として家庭裁判所に送致した(同条1項4号)後、別途、同条1項1号ないし3号の措置を採ることは想定されていない⇒少年審判で保護処分が決定されるまで一時保護を継続する必要性は認められず、本件申立てには理由がない。

本件申立てを却下。
 
<判断>
児福法33条2項の解釈について
そうすると、都道府県知事が、児福法33条2項に基づき、一時保護の目的を達成するために必要があると認めて児童相談所長をして児童の一時保護を行なわせた場合において、児福法27条1項又は2項の措置を1つでも採ればそれ以降一時保護を継続することができないと解することは相当ではなく、一時保護の目的を達成するために一時保護を継続する必要があるのであれば、同条1項又は2項のいずれかの措置が採られた後も、同条1項又は2項の別個の措置を採るに至るまで、引き続き一時保護を継続することができるものというべき
but
一時保護は、児童や保護者の権利に対する重大な制約を伴うもの
一時保護の目的を達成するために一時保護を継続する必要性があるか否かは厳格に解すべきであるし、同条1項又は2項の措置を採った後、当該事案の性質上、一時保護の目的を達成するため、これとは別個の措置を採る必要があるとしても、特段の事情のない限り、当該措置を採るのに社会通念上必要とされる期間が経過した後は、もはや一時保護を継続することは許されないと解するのが相当。
本件では一時保護継続の必要性を肯定。

①一時保護継続の必要性の判断基準時は、2か月を超える時点。
②抗告審の決定前に一時保護が解除されていても2か月を超えて引き続き一時保護を行う要件があったか否かについて抗告審の裁判所が判断を示す利益が失われていない。
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不貞行為者に対する離婚に伴う慰謝料請求が否定された事案

最高裁H31.2.19    

<事案>
Xが、Yに対し、YがXの妻であったAと不貞行為に及び、これにより離婚をやむなくされ精神的苦痛を被った⇒不法行為に基づき、離婚に伴う慰謝料等の支払を求めた。 
 
<原審>
本件不貞行為と離婚との間の相当因果関係の有無等が争点。
本件不貞行為によりXとAとの婚姻関係が破綻して離婚⇒Yは、両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い、Xは、Yに対し、離婚慰謝料を請求することができる⇒Xの請求を一部認容。
 
<判断>
夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、当該第三者が、単に不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。 
本件では、特段の事情があったことがうかがわれない⇒離婚慰謝料を請求することができない。
 
<解説>
●判例:
不貞相手の不法行為責任を認める。
その被侵害利益について「他方の配偶者の夫又は妻としての権利」であると判示(最高裁昭和54.3.30)
~一種の人格権的利益であると捉えている。

不貞慰謝料の短期消滅時効
最高裁H6.1.20:不貞行為が継続したものであっても、夫婦の一方が他方と第三者との不貞行為を知った時からそれまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行

他方で、離婚慰謝料の短期j消滅時効の起算点は離婚時(最高裁昭和46.7.23)

本件:
不貞慰謝料が時効によるり消滅⇒離婚慰謝料を請求。
 
●離婚慰謝料 
最高裁昭和31.2.21:
財産分与と離婚慰謝料とは本質的に異なる⇒配偶者に対する離婚慰謝料の請求を認める。
離婚するの止むなきに至ったことにつき、相手方に対して損害賠償を請求する得ことを目的とするもの」と判示。

戦前からの表現をほぼ踏襲し、不法行為に基づくものとしつつも
「身体、自由、名誉を害された場合のみ」に限られないと判示⇒離婚原因となった個別の行為自体が独立の不法行為を構成することまでは必要ではないと解している。

離婚慰謝料の中身:
A:離婚原因となった有責行為それ自体による精神的苦痛に対する慰謝料(「離婚原因慰謝料」)
B:離婚という結果そのものから生ずる精神的苦痛に対する慰謝料(「離婚自体慰謝料」)
C:一体説(実務上の通説):
相手方の有責行為から離婚までの一連の経過を1個の不法行為として捉え、離婚慰謝料には、離婚自体慰謝料だけではなく、離婚原因慰謝料の全体として含まれる。

夫婦間における暴行・虐待、あるいは不貞などといった不法行為は、当該行為自体による通常の精神的苦痛(いわゆる個別慰謝料)と、離婚へと発展する契機となる精神的苦痛(離婚原因慰謝料)という双方の側面を有しており、後者の侵害が蓄積され離婚に至ったときに「配偶者たる地位の喪失」という新たな精神的苦痛(離婚自体慰謝料)が発生。
 
●第三者に対する請求 
第三者が、婚姻の解消について不法行為責任を負うか否かについては、権利侵害ないし違法性の要件との関係で問題。
最終的に離婚を決するのは夫婦自身であること」など⇒「第三者が婚姻を破綻させることを意図し、かつ社会観念上不当と思われる程度の干渉行為を行った場合に限り違法性をおび、その不法行為責任を問い得るとみるべきであ」るなどとして限定する見解が有力。
 
●関連問題 
不貞慰謝料額の算定において、これまで下級審の裁判例では、不貞行為の結果、婚姻関係が破綻し、離婚するに至った場合においては、そのことを考慮することが多かった。
but
本判決の考え方⇒単純に損害として離婚自体慰謝料を上乗せすることは許されない。
but
不貞行為の結果、婚姻が破綻し、離婚するに至った場合には、不貞慰謝料の被侵害利益である「夫又は妻としての権利」という人格権的利益に対する侵害も大きかったと評価することができる
⇒前記のような事情について、慰謝料の増額要素として考慮すること自体は許される。

不貞相手に対して請求された不貞慰謝料に係る債務
と、配偶者が負っていた離婚慰謝料に係る債務は、不真正連帯債務になると解されている。(最高裁H6.11.24)
but
両者は、被侵害利益が異なり、慰謝料の中味が異なるこのことを考慮して損害額を算定する必要があり、通常は、損害額が異なる

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2019年12月 9日 (月)

海上自衛官に対する懲戒免職処分が争われた事案

東京地裁H30.10.25    
 
<事案>
海上自衛官であったXに対して防衛大臣がした懲戒免職処分が、裁量権を逸脱又は濫用してされたもので、処分を科す手続にも重大な瑕疵があるとして取り消された事案。 
 
<判断・解説>  
●公務員に対する懲戒処分
公務員に対する懲戒処分は、懲戒権者である行政庁に裁量が認められるが、
処分の前提となった事実あるは処分要件に関わる重要な事実の存否の認定については、行政庁の裁量の観念を入れる余地はなく、裁判所が証拠に基づき判断代置的に認定することができるものと解されている。 
裁量行為については、被告行政庁が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したことについて、原告が主張立証責任を負うが、
判断の基礎とした具体的事実については、被告行政庁が主張立証すべきであるとの考えが通説的。
 
●懲戒事由該当性
本判決:
本件処分の基礎とした本件違反事実の存否について、防犯ビデオの映像から、Xが2日間にわたって各1本の栄養ドリンクを窃取したことは認められる
but
その余の本件違反事実に係る窃盗行為については、本件全証拠によっても認めることはできない。

これらの窃盗行為の懲戒事由相当性:
Xが窃盗行為時に若年性認知症又は軽度認知障害等の精神疾患にり患していたことを認定。
but
当該精神疾患が窃盗行為に与えた影響について、
窃盗行為時の行為態様及びその前後のXの様子、当時のXの生活状況等
当該精神疾患がXの事理弁識能力又は行動制御能力に影響を与えていたことを否定することはできないが、
少なくともこれらの能力の減退が著しい程度に至っていたとは認めることができない。

Xの窃盗行為が懲戒事由に該当しないとのXの主張を排斥
 
●裁量権の逸脱又は濫用 
公務員の懲戒処分は、「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法である」という判断枠組み。
海上自衛隊における懲戒処分等の処分基準へのあてはめを詳細に検討し、
懲戒権者は懲戒処分を行う場合、原則として、当該処分基準に従って懲戒処分を選択すべき。
当該処分基準に従うと、Xの窃盗行為は、重くとも停職処分に相当する事案⇒本件処分は裁量権を逸脱し又は濫用したものとして違法
判例時報2420

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沖縄県の国に対する本件水域内における岩礁破砕等行為の差止め請求等

福岡高裁那覇支部H30.12.5    
 
<事案>
本件水域に係る漁業権を管轄する行政庁である沖縄県知事が属する行政主体であるX(沖縄県)が、本件水域を含む沖縄県名護市辺野古沿岸域において普天間飛行場代替施設等の建設を進めるY(国)に対し、
本件水域は漁業権の設定されている漁場に該当⇒本件水域内において岩礁破砕等行為を行う場合には沖縄県知事の許可が必要となるにもかかわらず、Yがかかる許可を得ずに本件水域内において岩礁破砕等行為を施行するおそれがある

主位的に、沖縄県漁業調整規則(本件規則)39条1項に基づく公法上の不作為義務の履行請求として本件水域内における岩礁破砕等行為の差止めを求め(本件差止請求)
予備的に、かかる不作為義務の存在の確認(本件確認請求)
事案。
 
<原審>
本件訴えは法律上の争訟に該当せず不適法⇒Xの請求を却下。 
 
<判断>
最高裁H14.7.9(平成14年最高裁判決)に依拠し、国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべき。
but
国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできない

法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許される

①本件差止請求に係る訴えは、Xが財産権の主体として自己の財産上の件利益の保護救済を求める場合に当たらず、Xが専ら行政権の主体としてYに対して行政上の義務の履行を求める、本件規則39条1項の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とした訴訟。
⇒法律上の争訟に当たらない。
②本件確認請求に係る訴えは、本件差止請求に係る訴えと同様、本件規則39条1項の適用の適正ないし一般公益の保護を目的として、Xが専ら行政の主体として提起⇒平成14年最高裁判決が妥当⇒法律上の争訟に当たらない。
 
<解説>
平成14年最高裁判決:
国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として相手方に対して行政上の義務の履行を求める訴訟につき、法規の適用ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護を目的とするものということはできない
法律上の争訟に該当しない
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2019年12月 8日 (日)

平成29年在外邦人国民審査権行使制限憲法適合性訴訟1審判決

東京地裁R1.5.28    
 
<事案>
①日本国外に住所を有する日本国民(「在外国民」)である第1事件原告らが、
主位的に、憲法15条1項、79条2項及び3項等により最高裁判所の裁判官の任命に関する国民審査(「国民審査」)における審査権が保障されているにもかかわらず、被告がその行使の機会を与えなかった

第1事件原告らが次回の国民審査において審査権を行使することができる地位にあることの確認を求め、
予備的に、被告が第1事件原告らに対し、日本国外に住所を有することをもって、次回の国民審査において審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を求め
②第1事件原告ら及び第2事件原告(「原告ら」)が、平成29年10月22日執行の国民審査(「前回国民審査」)について、原告らが現実に審査権を行使するための立法を国会がしなかったことなどの結果、審査権を行使することができず、精神的苦痛を受けたとして、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた事案。
 
<争点>
①本件地位確認の訴えが適法か否か
②本件違法確認の訴えが適法か否か
③在外国民に対する国民審査権の行使制限が違憲、違法であるか
④原告らの国家賠償請求の成否 
 
<規定>
憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

憲法 第44条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法 第79条〔最高裁判所の構成等〕
②最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
③前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
 
<判断> 
●争点①について 
①「次回の国民審査において審査権を行使することができる地位」は、現行の法令によって導き出すことのできるものではなく、国会において、在外国民について審査権の行使を可能とする立法を新たに行わなければ、具体的に認めることのできない法的地位⇒本件地位確認の訴えに係る紛争は、法令の適用により終局的に解決できるものではなく、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらない⇒本件地位確認の訴えは不適法。
 
●争点②について 
本件違法確認の訴えは、具体的な紛争を離れ、裁判官審査法が在外国民に国民審査権の行使を認めていない点が違法であることについて抽象的に確認を求めるもの⇒当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否を対象とするものとはいえない⇒本件違法確認の訴えに係る紛争は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらない。
 
●争点③について 
国民審査権は憲法15条1項の定める国民固有の権利である公務員の選定及び罷免の権利のうちの1つ⇒公務員の選挙についての成年者による普通選挙の保障(同条3項)、両議院の議員の選挙人の資格についての差別の禁止(憲法44条ただし書)及び投票の機会の平等の要請(憲法14条1項)の趣旨は、国民審査(憲法79条2項、3項)についても及ぶ。
憲法は、国民に対し、国民審査において審査権を行使する機会、すなわち投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当。

国民審査権又はその行使の制限についての憲法適合性の審査基準:
国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず、これを制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない
そのような制限をすることなしには国民審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の審査権の行使を制限することは、憲法14条1項。15条3項及び44条ただし書きの趣旨に反することとなり、審査権を認めた憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反することになる。
このことは、国が審査権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が審査権を行使することができない場合についても同様

・・・・やむを得ない事由があったとは到底いうことができない⇒裁判官審査法が、前回国民審査当時、在外国民であった原告らの審査権の行使を認めていなかったことは、国民に対して審査権を認めた憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反するものであった。
 
●争点④について 
立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となる場合の判断枠組みについて、
法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制限するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その立法不作為は、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるというべき。
・・・国会において、在外審査制度の創設について何らの措置も執らないまま、平成23年東京地裁判決(在外日本国民最高裁判所裁判官国民審査権訴訟)から約6年半、平成17年大法廷判決(在外邦人選挙制限違憲訴訟)からは約12年もの期間が経過する状況の下で、前回国民審査を迎えた

原告らが国民審査権を行使することができない事態に至っているところ、そのことについて正当な理由があるとはうかがわれない。

このような長期間にわたる立法不作為は、前記のような例外的な場合に当たり、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるというべきであり、また、この立法不作為について、過失があったことも明らか。

原告の国賠請求を一部認容
 
<解説>
平成23年東京地裁判決:違憲状態となってから合理的是正期間が経過して初めて違憲となるという判断枠組み。
本判決:違憲状態であれば、期間の経過にかかわらず違憲であるとした上で、違憲であることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠る場合などに当該立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となるとする平成27年最高裁大法廷判決の枠組みによっており、平成23年東京地裁判決は枠組みが異なっている。 
判例時報2420

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2019年12月 4日 (水)

第一種少年院送致⇒抗告棄却but処遇勧告を付さないことが相当とされた事案

大阪高裁H31.3.15    
 
<事案>
少年が、共犯少年らと共謀の上、10日間の間に、連続的に、事務所や店舗緒等から、現金等を摂取したという建造物侵入・窃盗13件(うち5件は窃盗未遂、うち1件は建造物侵入を伴っていない)の事案。 
 
<原審>
少年を第1種少年院に送致する保護処分に付し、相当長期の処遇勧告を付した。
 
<判断>

①本件各非行は、計画的かつ職業的で、態様も大胆で手荒なもので、被害額も多額
②少年は他の共犯少年に比して主導的な役割を果たしている
③少年の過去の保護処分歴にも触れて、少年の非行性は相当深まっている
④少年鑑別所の鑑別結果や家裁調査官の調査結果等に照らして少年の資質上の問題性を指摘
⑤両親に少年に対する十分な監護を期待することはできず、少年に対しては、規律ある姓アk津の中で、専門家による強力な働き掛けによって、自己の課題に十分に向き合わせ、健全な社会生活を送ることができるための価値観や規範意識等を身に付けさせる必要がある

原審が第一種少年院に送致したことは相当。

but
原審が相当長期の処遇勧告を付したことについては、理由中において、それを相当とするだけの十分な根拠が必要であるが、原決定はそのような根拠を示していない。 

①原決定が少年に対して求められる矯正教育として挙げる
「他者に対する共感性や思いやりを涵養すると共に規範意識を養って非行に対する抵抗感を高め、併せて、将来的な展望を持って生活するための行動様式を身につけさせる」指導は、少年が今回初めて少年院に送致されることや、少年の非行性や問題性の程度に照らし、一般的には1年程度で足りると考えられ
②本件各非行が常習的、職業的なものであることを考慮しても、2年以上の期間を要すると考えるべき特別な事情は見いだせない
理由中で、少年に対しては、処遇勧告を付さない(一般的な長期処遇となる。)こととするのが相当であると説示。
 
<解説> 
少年院送致決定に当たっての処遇勧告が処分不当の抗告理由に当たるか? 
①家庭裁判所が付す処遇勧告(少年規則38条2項)には執行機関を法的に拘束する効力はない
②少年院に入所した少年の処遇期間は、少年に指定される矯正教育課程(少年院法33条1項)、少年につき定められる個人別矯正教育計画(同法34条1項)により定まるところ、これら矯正教育課程の内容・期間等は訓令や通達により定められているにすぎないこと等

一般に消極に解されている

処遇勧告に対する不服のみをいう抗告趣意は不適法。
but
実務上は、抗告申立書に処遇勧告に対する不服のみが記載されている場合であっても、そのような処遇勧告を付した(付さなかった)上で少年を少年院に送致した原決定の処分の不当を主張しているものと解して、抗告趣意を適法と取り扱うことが多い。
抗告審は、処遇勧告に対する不服が主張されている場合には、処遇不当の抗告趣意の審査の中で処遇勧告の当否についても審査し、その結果、少年院送致は相当であるが、処遇勧告を付した、あるいは付さなかったことは不当であるという判断に達した場合には、抗告は棄却するものの、理由中でその旨を指摘するのが通例。
 
●抗告審決定が、理由中で処遇勧告が不当である旨を指摘⇒それを少年の処遇にどのように反映させるか? 
①抗告棄却の抗告審決定は、矯正機関に対するものではない、
②少年規則38条2項は抗告審に準用されない⇒抗告審において処遇得勧告を発することもできない
③原審において抗告審決定の理由中の判断を踏まえて再度処遇勧告を行ってもらうことも、棄却決定である抗告審決定に下級審に対する拘束力を認める余地がない以上困難。

実務では、抗告審において、別途矯正機関に対して通知書等を送付する取扱い(=具体的には、少年院の長に宛てて抗告審決定の写しを送付する取扱い)。
判例時報2419

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労災事案で時間外労働時間数が争われた事案

福岡地裁H30.11.30    
 
<事案>
脳梗塞を発症し、右下肢麻痺等の後遺障害が残存
労災認定がされている
 
<主張>
Xは、Y1及びその代表取締役であるY2に対し、本件疾病の発症はY1における過重な業務に起因⇒
Y1に対しては安全配慮義務違反(民法415条)に
Y2に対しては善管注意義務違反(会社法429条1項)に
それぞれ基づき、
損害賠償を請求。 
 
<争点>
①本件疾病発症の業務起因性(Xの業務の量的及び質的過重性の有無)
②Y2の安全配慮義務及びその違反の有無
③Y2の善管注意義務違反及び悪意・重過失の有無
④Xの損害の有無及び額
⑤過失相殺又は素因減額の可否及び程度 
 
<判断> 

①Xの本件疾病発症前6か月間の月平均の時間外労働時間数は174時間50分と認定。
②Xが、自己及び店舗の営業目標を達成するために相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたといえる。
③一定期間、寒冷な環境で継続的に業務を行なうことを強いられたことも考慮。

本件疾病発症の業務起因性を肯定

Y:Xが主張の裏付けとして提出したXの元同僚の業務日誌(労災認定における労働時間算定の根拠とされたもの)は事後的に作成されたもので信用性がないと主張
vs.
その当時の業務日誌と使用状況やその記載内容等から前記業務日誌の信用性を肯定
⇒Xの業務内容を認定。

Xの生活習慣及び基礎疾患
vs.
本件疾病の発症に一定程度寄与したといえるものの、
そららの状況に鑑みると、本件疾病は、Xの基礎疾患が、前記のとおりの過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化して発症したものとみるのが相当。

前記基礎疾患等は本件疾病発症の業務起因性を否定する事情とはいえない
 

Y1がXを前記のような過重な業務に従事させたことについて、
Y1の安全配慮義務違反及び
Y2の悪意又は重過失による善管注意義務違反
をいずれも肯定。 
 

Xの損害について:
Xの基礎収入には1か月当たり4、5時間分の割増賃金を含めるのが相当。
休業損害、逸失利益等の損害額を認定
Xの基礎疾患の存在を考慮して2割の素因減額
判例時報2419

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2019年12月 3日 (火)

樹木の伐採作業に従事中の事故⇒雇用関係肯定⇒安全配慮義務違反(肯定)

岡山地裁倉敷支部H30.10.31    
 
<事案>
X1が地方公共団体であるYとの間の労務参加契約に基づき、樹木の伐採作業に従事。
同じく本件労務参加契約に基づき作業に従事していたZが伐倒した伐木が衝突し、X1が重度の後遺障害を負い、X1の妻であるX2及び子であるX3が多大な精神的苦痛を受けた

①X1が、Yに対し、安全配慮義務違反ないし使用者責任に基づき、損害賠償の支払を求めるとともに、
②X2及びX3が、Yに対し、近親者固有慰謝料の支払を求めた。 
 
<争点>
①Yの安全配慮義務違反の有無
②使用者責任の成否
③過失相殺の成否
④損害額
 
<判断・解説>
●雇用契約と請負契約の区別について 
◎ 安全配慮義務:ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務
必ずしも、直接の労働契約関係がある場合に限られるものではない。
but
請負契約の注文者が請負人に対して安全配慮義務を負うのは、特別な社会的接触の関係、すなわち雇用契約に準ずるような関係が認められる必要がある。

本件においては、本件労務参加契約(の実質)が、雇用契約に当たるか、請負契約に当たるかが議論された。

◎ 雇用契約と請負契約の区別:
労基法の「労働者」の判断基準を示した昭和60年の労働基準法研究会報告。
同基準:
労働者性の判断に当たっては、形式的な契約形式のいかんにかかわらず、
実質的な使用従属性を総合的に判断すべき。
①仕事の依頼への諾否の自由
②業務遂行上の指揮監督の有無
③時間的・場所的拘束性の有無
④代替性の有無
⑤報酬の労務対価性の有無
等を主要な判断要素とし、
⑥機械、器具の負担関係
⑦報酬の額
等を補足的な判断要素。
 
◎本件でのあてはめ 
本件労務参加契約には、雇用契約であることを基礎付ける事情として、
①Yが、実施作業日や作業時間の変更を指示、連絡⇒作業場所や作業時間の拘束性の程度はそれなりに高かった
②作業員らが業務を自由に断ることができたとは考えがたい
③作業員らは、適宜、Yの非常勤職員である公園の管理人から、作業場所や作業内容につき、おおまかな指示を受けており、これに従った作業に従事することが義務付けられていた
④作業時間と1日当たりの対価が定められており、報酬が出来高ではなく、時間に対する対価とされている
⑤原則的には作業に必要な道具は、Yが用意するものとされている

本件労務参加契約の法的性質は、雇用契約と解するのが相当
but
本判決では、むしろ請負契約であることと整合的な事情として、
①Yが、公園の整備にあたり、地元と協議する中で、地元地区が推薦した作業員に清掃や草刈、伐採等の作業を依頼するようになったという経緯
②Yの職員は、作業員らやYの非常勤職員である公園の管理人に、具体的な指示等をすることはなかった
③公演の管理人も、作業員らに、細かい指示を出すことはなかった
④天候の関係が作業ができない場合、作業員らの判断で、作業日が変更されることがあった
⑤X1は、事故当時、私物のチェーンソーを使用していた
等を指摘。
このような事情を重視すると、逆の結論をとる余地もあり得たとも解される。
 
●安全配慮義務違反について 
労働契約における安全配慮義務の内容:
一般に、
物的環境を整備する義務
人的環境に関する義務
と整理。

本判決:
Yは、作業員らに対してヘルメットなどを用意しておらず、作業員らがヘルメットを被らずに作業を行うことが常態化しているにもかかわらず、何ら必要な指示、指導を行っていない。
⇒①の物的環境を整備する義務違反を認めた。
Yは、本件労務参加契約は請負契約という見解に立脚⇒作業員らに一度講習を受けさせた以上のことを行っていない⇒本件労務参加契約が雇用契約に該当した場合に安全配慮義務違反が認められるか否かは大きな争点とはされていない

判例時報2419

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2019年12月 2日 (月)

短期入所生活介護サービス利用者の転倒事故の事案

さいたま地裁H30.6.27     
 
<事案>
要介護状態にあったAの、Yの設置する短期入所生活介護サービス利用中の転倒⇒右大腿骨頸部骨折⇒約半年後に誤嚥性肺炎により死亡
 
<争点>
①Yの安全配慮義務違反の有無
②本件事故とAの死亡との相当因果関係の有無
③本件事故によるAの後遺障害の有無及び程度
④損害額
 
<判断> 
●争点① 
①Yは、Aとの間で締結した本件利用契約に基づき、介護事業者として、具体的に予見し得る危険についてAの生命・身体等を保護するべく配慮する義務を負っていた
Aが右上肢の機能全廃及び右下肢の著しい障害を有していたこと、本件利用契約を締結する際、Yは、XからAが自宅で転倒していることを知らされ、Aが転倒しないよう配慮する旨を表明していた
XからYの職員に対し、従前よりも転倒の危険が増しており注意して欲しい旨の具体的な注意喚起があったこと等

本件事故当時、Yは、本件施設内でのAの転倒に注意し、転倒の防止に配慮する義務を負っており、本件事故現場である洗面所の構造やAが口腔ケアをする際の姿勢や動作等を踏まえると、Aの口腔ケアに付き添うか洗面所内に椅子を設置するなど、転倒を防止するための措置を講じる義務を負っていた

Aの安全配慮義務違反を肯定。 
 
●争点② 
Aの直接死因である誤嚥性肺炎の発症に全身状態の悪化が影響したことは否定し難い
but
Aの全身状態の悪化は主に認知機能の急激な低下によるものであり、Aの認知機能が急激に低下した機序は明らかではない。

本件事故とAの死亡との相当因果関係を認めることは困難
 

争点③について、
Aに本件事故前に有していた障害以上の障害が後遺したとは認めるに足りない。 

争点④について、
転倒して右大腿骨頸部骨折を負い手術やリハビリを要する事態に陥ったことに関し、治療費等のほかに慰謝料250万円を認める判断。
 
<解説>
転倒事故と死亡等との相当因果関係の判断に関しては、
本件事故後、死亡までの間に相当期間が経過し、しかも、手術とリハビリにより一旦はAの身体機能に相応の回復がみられたにもかかわらず、その後急激に全身状態が悪化したという経過が特徴的。 

判例時報2419

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ERCPの施術⇒空腸穿孔による汎発性腹膜炎を発症し死亡⇒大腸内視鏡等の選択及び手技等についての過失が問題とされた事案(過失否定)

東京地裁H30.10.11    
 
<争点>
本件病院の意志には、
①事前の検査結果等からAに総胆管結石がないことは明らかであったにもかかわらず、ERCPを実施した注意義務違反があるか
②上部消化管への使用が禁忌である大腸内視鏡を用いてERCPを実施した注意義務違反があるか
③ERCP実施時の大腸内視鏡の乱暴な操作により、空腸穿孔の原因となる損傷を生じさせた注意義務違反があるか
④ERCP実施時に空腸の裂傷等を確認することなく、これを見落とした注意義務違反があるか
⑤遅くとも6月19日午前中にはAの腹膜炎を認識し、手術適応であることを把握できたにもかかわらず、同月20日まで開腹手術を実施しなかった注意義務違反があるか
⑥ERCPのリスク等について十分な説明をしなかった注意義務違反があるか
 
<判断>
①~⑥の注意義務違反を全て否定。 

③の手技上の注意義務違反:
後方視的にみると、本件ERCPにおいて使用された本件大腸内視鏡により、Aの空腸に何らかの損傷が生じ、それが原因となって空腸穿孔が発生したと認められる
but
かかる空腸穿孔が本件病院の医師の手技上の注意義務違反によって生じたものと的確に認めるに足りる証拠がない
⇒注意義務違反を否定。

④の注意義務違反:
①本件ERCP施術中に、ファーター乳頭付近の十二指腸壁に裂傷を確認したものの、それ以外に腸管を損傷するような施術は確認されていない
②空腸その他のERCP施行にあたって難所といえる箇所についても裂傷又は穿孔の有無縫いついて、確認する義務があったとまではいえない
⇒注意義務を否定
 
<解説>
Xはおよそ考えられる主張を全てしている感があるが、本件病院の医師は、ERCP施術の際空腸穿孔を引き起こし、その結果Aは汎発性腹膜炎を発症

③の手技上の過失の存否、
④の空腸穿孔を確認することなくこれを見落としたか否か
が真の争点。 

判例時報2419

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