ペルー人男性が6名を殺害した事案
さいたま地裁H30.3.9
<争点>
被告人が各犯行当時の記憶を欠いていた⇒強盗殺人の故意を争う
心神喪失
<判断>
●故意
被告人が、各犯行当時、職場関係者やその者が差し向けた者から危害を加えられるとの被害妄想や、危害を加えようとするものが、自分や親族を加害するために追っているという追跡妄想があったことを肯定。
but
①客観的、外形的な事実経過を中心に検討すれば、各犯行現場で、金品物色行為に及び、実際に金品を入手。
②家人殺害は、主として金品入手のための妨害排除に向けられた行動とみられる。
⇒強盗の故意を認め、強盗殺人罪の成立を肯定。
●責任能力
精神鑑定実施:
鑑定人は、被告人が統合失調症に罹患していること、各犯行当時、精神症状として、自分と親族の命が狙われているという被害妄想があった。
これを肯定し、追跡妄想も、追跡者と警察組織がつながっているとの内容まで妄想が広がっていたことも窺われる。
but
完全責任能力を肯定。
(1)妄想自体が現実の出来事に基盤を置いている
(2)被告人の抱いていた妄想がなければ、本件各犯行を決意することもなかったことは認めた上で、他面において、いわゆる「7つの着眼点」を意識。
①犯行の経緯や動機の了解可能性
②行動の合目的的で全体としてまとまりのあること
③違法性の意識を欠いていないこと
④元来の人格傾向と連続性のある正常な精神機能に基づく行動とみて違和感はなく、少なくともかい離したものとはいえないこと
等
⇒
統合失調症という精神障害は、背景的、間接的な影響を与える限度にとどまっており、個々の具体的な犯行の決意、実行場面では、残された正常な精神機能に基づく自己の判断として、他にも選択可能な手段があったのに、犯罪になると分かっていながら各犯行に及んだものと認められる
⇒
完全責任能力を肯定。
<解説>
被害妄想が明らかに認められ、その妄想と犯行との因果関係が認められるといった状況があり、その意味では、統合失調症の顕著な症状の下での犯行とみることも可能⇒その責任能力判断は、相当に難しい事案。
判例時報2416
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