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2019年11月 4日 (月)

車両損害保険金は当該交通事故に係る物的損害の全体を補填するものとして「対応の原則」を柔軟に捉えた事案

東京高裁H30.4.25    
 
<事案>
X1の運転車両と、後続して進行してきた、Y2社の所有車両とが接触したという事案において、
Y2社との間で締結した自動車保険契約に基づき保険金を支払った保険会社Y3が、X1に対し、Y2社のX1に対する民法709条に基づく損害賠償請求権の一部を代位取得したとして、損害賠償金の支払を求めた。
 
<争点>
保険会社Y1が代位取得する損害賠償請求権の範囲・額 
 
<原審>
Y2社が被った損害:
車の修理費用87万8850円と
休車損害11万7988円
の合計99万6838円
自動車保険契約においては、免責分として10万円を控除した上、車両損害保険金を支払う旨の特約がある。
保険会社に移転せず、被保険者又は保険金請求権者が引き続き有する債権は、保険会社に移転した債権よりも優先して弁済されるものとする旨の定めがある。
保険会社Y3は、本件事故に係る車両損害保険金として、修理費用87万8850円から免責分10万円を控除した77万8850円を支払った。
X1とY2社との過失割合は、X1側7割、Y2社側3割。
Y2社側が請求できる額は、修理費用のうち損害が填補されていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2582円の合計18万2592円、
保険会社Y3が代位取得するY2社のX1に対する損害賠償請求権の範囲については、修理費用87万8850円に3割の過失相殺をした61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の程度で認められる。
 
<判断>
交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、特段の事情がない限り、交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが当事者の意思に合致し、被害者救済の見地からも相当。
本件では、修理費用87万8850円と休車損害11万7988円の合計99万6838円が車両に関してY2社が被った物的損害
保険会社Y3が支払った保険金はこれらの物的損害の全体を填補するものというべき

自動車保険契約の被保険者であるY2社に事故の発生につき過失がある場合には、車両損害保険条項に基づき被保険者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社Y3は、被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額が保険金請求者に確保されるように、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が過失相殺前の損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当。(最高裁H24.2.20)

本件において保険会社Y3が支払った車両損害保険金77万8850円は、被害者の過失割合である3割に相当する29万9051円にまず充当され、これを控除した残額である47万9799円が加害者の過失割合に相当する部分に充当
⇒保険会社Y3は、X1に対し、47万9799円の支払を求めることができる。
 
<解説>
●争点:
自動車保険の車両損害保険条項に基づき保険金を支払った損害保険会社が請求権代位で取得する権利の範囲をどう捉えるか? 
 
●請求権代位:
保険者の保険給付義務の発生原因と同一の事由に基づき、被保険者が第三者に損害賠償請求権等の権利を取得した場合において、保険給付を行った時に、保険者が、その権利を当然に取得するという制度。 

保険法 第二五条(請求権代位)
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一 当該保険者が行った保険給付の額
二 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
 
●対応の原則:
代位の対象となる権利は、保険契約による損害の填補の対象と対応する損害についての権利に限られるとする原則

最高裁H24.2.20の宮川補足意見:
保険代位の対象となる権利は、保険による損害填補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定される(対応の原則)
⇒原審が本件保険金について・・・損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金に充当するとしたことは、相当ではない。
 
●差額説 
取得する請求権の量的範囲については、
例えば被害者に過失があって、過失相殺がされ、被保険者が加害者に対して有する請求権が損害額より少ないというような場合において、請求権代位がどの範囲で生じるかという問題。

最高裁昭和62.5.29:
損害額の一部について保険給付が行われたときは、保険者は支払った保険金の額の損害額に対する割合に応じた債権を取得するという比例説
but
現行の保険法25条は、
損害額の一部について保険給付が行われたときは、保険給付後も被保険者に損害が残存することになる(未填補損害の存在)⇒被保険者に利得が発生してしまう範囲、すなわち被保険者が加害者に対して有する権利のうち残存する損害(未填補損害)額を超える部分に限って代位するという差額説。

人身傷害条項が定める人身傷害保険においては、
この未填補損害を、保険約款所定の基準により算定された額で捉えていくとうい説と民法上認められるべき裁判基準により算定された損害の額として捉えていくとう2つの考え方があったが、
最高裁H24.2.20は後者の裁判基準による損害の額で捉えていく説を採用
 

原審:
対応の原則に従って、本件で被保険自動車の損害を修理することができる場合に当たる

車両損害保険条項による損害の填補の対象は、修理費用分であり、代位は、修理費用に該当する損害部分に係る権利部分のみを対象とするものであり、休車損害部分は代位の対象にならない。
その上で、被保険者が加害者に対して有する権利のうち未填補損害額を超える部分に限って代位するという差額説。

本判決:
対応の原則を柔軟に捉え、自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、交通事故に係る物的損害の全体を填補するもの、すなわち、休車損害部分にも及ぶと捉えた(それが当事者の意思に合致するとした)。

判例時報2416

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