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2019年11月 9日 (土)

パワハラ否定、安全配慮義務肯定の事案

徳島地裁H30.7.9    
 
<事案>
Y(ゆうちょ銀行)の従業員であったP2の相続人であるXが、Yに対し、P2が上司2名からパワハラを受けて自殺したと主張して、P2のYに対する使用者責任又は雇用契約上の義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償金合計8185万2175円及びこれに対するP2の死亡の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
①Yの使用者責任(Yの従業員によりP2に対するハラスメントの有無及びY2の従業員の前記ハラスメント防止措置の懈怠)及び債務不履行責任(Yの従業員による職場環境配慮義務違反)の有無
②P2の損害 
 
<判断>
争点①のうち、Yの使用者責任につき、
Xが主張するパワーハラスメントについて、P6及びP7のP2に対する一連の叱責が、業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとまでは認められない⇒P6及びP7がP2に対して不法行為責任を負うものではなく、Yも使用者責任を負うものではない。 

争点①のうち、Yの債務不履行責任について、
P2の上司のうちP3及びP5は、P2の体調不良や自殺願望の原因がYの従業員との人間関係に起因するものであることを容易に想定でき、
P3及びP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動をも含めその対応を検討すべきであった
②P2の上司は、一時期、P2の担当業務を軽減したのみで、その他にはなんらの対応もしなかった

Yには、P2に対する安全配慮義務違反があった
 
<解説> 
●パワーハラスメント:
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、
精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為をいい、
その行為類型としては、
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過少な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
があるとされている。
(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」厚労省HP) 

上司の部下に対する指導等がパワーハラスメントに該当し違法といえるか否かの判断枠組みとしては、
当該行為が業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものと評価できるかという観点から、違法性を判断している裁判例が見受けられる。
 
●本判決:
①P6及びP7が日常的にP2に対し強い口調の叱責を繰り返し、その際、P2を呼び捨てにするなどしていた。
②前記P6及びP7のP2に対する言動は、部下に対する指導としてはその相当性には疑問があるといわざるをえない。
but
③部下の書類作成のミスを指摘しその改善を求めることは、Yにおける社内ルール
④P2の上司であるP6及びP7の業務である、P2に対する叱責が日常的に継続したのは、P2が頻繁に書類作成上のミスを発生させたことによるものであって、証拠上、P6及びP7が何ら理由なくP2を叱責していたというような事情は認められず、P6及びP7のP2に対する具体的な発言内容はP2の人格的非難に及びものとまではいえない

P6及びP7のP2に対する指導自体は業務上相当な指導の範囲内であり、P6及びP7のP2に対する指導はP2に対するパワーハラスメントには該当せず、違法なものとはいえない
 

使用者の従業員に対する安全配慮義務につき、
判例(最高裁H12.3.24)は、
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」と判示。 

本判決も、P2の上司であるP3及びP5は、P2に対する安全配慮義務を負うとする。
①P3及びP5は、P2がP6及びP7から日常的に厳しい叱責を受け続ける状況を十分に認識していた
②P2が所属する職場の上司の部下に対する対応に問題がある旨の投書がなされただけでなく、P5は、P6やP7がP2に対する不満を述べていることも現に知っていた
③P2は、死亡時にいたC2センターに赴任後わずか数カ月で、別の部署への異動を希望し、その後も継続的に異動を続けていたが、同センターに赴任後の2年間で体重が約15kgも減少するなどP5が気に掛けるほどP2が体調不良の状態であることは明らかであった
④平成27年3月には、P5は別の社員からP2が死にたがっているなどと知らされていた

P2の上司であるP3やP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動も含めその対応を検討すべきであった

P3及びP5がその義務を怠ったとして、Yの安全配慮義務違反を認めた

判例時報2416

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