重度のうつ病(双極性感情障害)による心身耗弱状態で、二女を頚部圧迫により殺害した事案の量刑が争われた事案
広島高裁H30.3.1
<事案>
重度のうつ病(双極性感情障害)による心身耗弱状態で、二女を頚部圧迫により殺害した事案
<原審>
本件犯行は重度のうつ病による希死念慮、心理的視野狭窄の著しい影響を受けたものであるから、刑事責任は大きく軽減されるべき
but
経緯や犯行状況等を挙げて「心神耗弱の中にあっては、なお厳しい責任非難が妥当する」とし、「本件犯情は、親が子一人を心神耗弱の状態で殺害した事案の中において重い部類に属するものとみるべきであり・・・実刑は免れない」として懲役3年の実刑。
<判断>
本件が同種事案(親が子1人を心神耗弱状態で殺害した事案)の中で重い部類に属すると位置づけた事情のうち、被害者の落ち度や結果の重さは重視すべきではない(この種事案の性質上、被害者に落ち度がある事例がほとんどないこと、死の結果は殺人という事案に共通するものであることによるものと推察)とし、
殺意の強さの点も、この種事案の多くが確定的故意に基づくものであり、他と区別し得るような特徴的な要素であるとはいい難く、
<事案>
重度のうつ病(双極性感情障害)による心身耗弱状態で、二女を頚部圧迫により殺害した事案
<原審>
本件犯行は重度のうつ病による希死念慮、心理的視野狭窄の著しい影響を受けたものであるから、刑事責任は大きく軽減されるべき
but
経緯や犯行状況等を挙げて「心神耗弱の中にあっては、なお厳しい責任非難が妥当する」とし、「本件犯情は、親が子一人を心神耗弱の状態で殺害した事案の中において重い部類に属するものとみるべきであり・・・実刑は免れない」として懲役3年の実刑。
<判断>
本件が同種事案(親が子1人を心神耗弱状態で殺害した事案)の中で重い部類に属すると位置づけた事情のうち、被害者の落ち度や結果の重さは重視すべきではない(この種事案の性質上、被害者に落ち度がある事例がほとんどないこと、死の結果は殺人という事案に共通するものであることによるものと推察)とし、
殺意の強さの点も、この種事案の多くが確定的故意に基づくものであり、他と区別し得るような特徴的な要素であるとはいい難く、
犯行態様の点も他と比べて特筆すべき悪質性はない。
原判決が前記の位置づけをした実質的根拠は、
①犯行を思いとどまる力も相当程度残されていたとみられること、
②確かな状況認識を伴う対応をしていること
の2点にあると整理。
①について:
鑑定医(起訴前鑑定を行った精神科医)の証言やこれに沿う被告人供述
⇒
本件当時の被告人の他行為可能性は相当に限られており、殺害を躊躇したことは責任能力の欠如までには至っていなかったことを推認させる事情にとどまる
原判決が前記の位置づけをした実質的根拠は、
①犯行を思いとどまる力も相当程度残されていたとみられること、
②確かな状況認識を伴う対応をしていること
の2点にあると整理。
①について:
鑑定医(起訴前鑑定を行った精神科医)の証言やこれに沿う被告人供述
⇒
本件当時の被告人の他行為可能性は相当に限られており、殺害を躊躇したことは責任能力の欠如までには至っていなかったことを推認させる事情にとどまる
②について:
双極性感情障害に罹患しても状況認識やそれに対応した行動をとる能力が損なわれるとは限らないことがうかがわれる⇒必ずしも責任能力の程度が高かったとの評価を導く事情とはいえない。
⇒
原判決は本件が同種事案の中で重い部類に属するとしたことに相応の根拠を示しているとはいえず、量刑傾向に照らしても実刑を相当とする事情は見当たらず、従前の量刑傾向から踏み出した判断をすることについて具体的、積極的な根拠が示されているとはいい難い。
⇒
量刑不当を理由に原判決を破棄・自判し、保護観察付きの執行猶予を付した。
<解説>
公判前整理手続におういて、心身耗弱に当たることが争われていなかった
but
心神耗弱か否かという責任能力判断は、裁判所の法的判断事項であり、当事者が合意できる性質のものではない。
⇒
刑の量定の前段階でこの点の評議が尽くされるべき。
原判決にはその判断理由が示されていない
⇒
本判決:
原審で取り調べられた鑑定医の証言に基づいて精神障害(双極性感情障害)の程度(重症であったこと)、その精神症状が犯行に影響を及ぼした機序、程度を検討し、本件犯行が被告人の従前の人格とは異質的であったことなども指摘した上で、原判決が実刑選択の実質的根拠とした点について、責任能力判断における位置づけを示した。
双極性感情障害に罹患しても状況認識やそれに対応した行動をとる能力が損なわれるとは限らないことがうかがわれる⇒必ずしも責任能力の程度が高かったとの評価を導く事情とはいえない。
⇒
原判決は本件が同種事案の中で重い部類に属するとしたことに相応の根拠を示しているとはいえず、量刑傾向に照らしても実刑を相当とする事情は見当たらず、従前の量刑傾向から踏み出した判断をすることについて具体的、積極的な根拠が示されているとはいい難い。
⇒
量刑不当を理由に原判決を破棄・自判し、保護観察付きの執行猶予を付した。
<解説>
公判前整理手続におういて、心身耗弱に当たることが争われていなかった
but
心神耗弱か否かという責任能力判断は、裁判所の法的判断事項であり、当事者が合意できる性質のものではない。
⇒
刑の量定の前段階でこの点の評議が尽くされるべき。
原判決にはその判断理由が示されていない
⇒
本判決:
原審で取り調べられた鑑定医の証言に基づいて精神障害(双極性感情障害)の程度(重症であったこと)、その精神症状が犯行に影響を及ぼした機序、程度を検討し、本件犯行が被告人の従前の人格とは異質的であったことなども指摘した上で、原判決が実刑選択の実質的根拠とした点について、責任能力判断における位置づけを示した。
判例時報2418
| 固定リンク
« 温泉施設によるゴムマットを敷いたりするなどの転倒防止措置をとるべき安全配慮義務が争われた事例 | トップページ | 最高裁判所裁判官国民審査法36条の審査無効訴訟において、公選法9条1項の規定(満18歳及び満19歳の日本国民に選挙権を有すると規定)の違憲を主張することの可否 »
「判例」カテゴリの記事
- (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)(2023.06.04)
- いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案(2023.06.04)
- 破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)(2023.06.01)
- 土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)(2023.06.01)
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
「刑事」カテゴリの記事
- 詐欺未遂ほう助保護事件で少年を第一種少年院に送致・収容期間2年の事案(2023.05.07)
- 不正競争防止法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味(2023.05.01)
- 保釈保証金の全額没収の事案(2023.04.02)
- 管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)(2023.04.02)
- いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例(2023.03.23)
コメント