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2019年11月27日 (水)

最高裁判所裁判官国民審査法36条の審査無効訴訟において、公選法9条1項の規定(満18歳及び満19歳の日本国民に選挙権を有すると規定)の違憲を主張することの可否

最高裁H31.3.12     

<事案>
平成29年10月22日に行われた最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査の審査人であるXが、裁判官審査法36条の審査無効訴訟により、Y(中央選挙管理会)に対して本件国民審査を無効とすることを求めた事案。 
 
<判断>
上告理由に該当しない⇒上告棄却。
その理由として、審査無効訴訟においては、審査無効の原因として本件規定の違憲を主張することはできない旨を説示。 
 
<規定>
第79条〔最高裁判所の構成等〕
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
②最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
③前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
・・・
第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
・・・

行訴法 第5条(民衆訴訟)
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。

行訴訟 第42条(訴えの提起) 
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
 
<説明> 
●国民審査制度と審査無効訴訟 
国民審査制度は、憲法79条に基づくものであり、その性質は解職の制度。(最高裁昭和27.2.20)
国民審査制度は、最高裁判所の裁判官について、その任命権を内閣に専属せしめながら、任命後に国民が審査して罷免できるものとすることによって、これを国民のコントロールを及ぼすことを意図したものであり、憲法15条1項の定める公務員の選定・罷免に対する国民固有の権利の1つの現れとされる。

裁判官審査法36条は、審査無効訴訟を規定し、
37条1項は、審査について「この法律又はこれに基づいて発する命令に違反することがあるとき」は、審査の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、裁判所は審査の全部または一部の無効の判決をしなければならないとする。
 
●審査無効訴訟と選挙無効訴訟の異同 
類似の構造。
公選法205条1項は、選挙無効訴訟において、「選挙の規定に違反することがあるとき」は、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、裁判所はその選挙の全部又は一部の無効を判決しなければならないとする。
審査無効訴訟及び選挙無効訴訟はいずれも民衆訴訟(行訴法5条)であり、
「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」(同法42条)

審査又は選挙の各無効原因も、裁判官審査法37条1項又は公選法205条1項所定のものに限られる。
 
●選挙無効訴訟における選挙無効の原因
  選挙無効訴訟における選挙無効の原因である「選挙の規定に違反することがあるとき」の意義については、
主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されているときを指す。(最高裁)

選挙に関する法律等の規定が違憲であることを選挙無効の原因として主張することができるか?
定数配分規定の違憲主張ができるとした最高裁判例や、
受刑者の選挙権を制限する規定等の違憲主張はできないとした最高裁判例。
 
●審査無効訴訟において、審査に関する法律等の規定が違憲であることを審査婿の原因として主張することができるか? 
本決定
「この法律又はこれに基いて発する命令に違反することがあるとき」の意義につき、
「主として審査に関する事務の任にある機関が審査の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが憲法において定められた最高裁判所裁判官の解職の制度である国民審査制度の基本理念が著しく阻害されるときを指す」とした。
年齢満18歳及び満19歳の日本国民につき衆議院議員の選挙権を有するとしている本件規定が違憲であるとの主張が、以上のような審査無効の原因当たることをいうものであるとはいえない。

前記の者に審査権を与えるか否かは、国民審査制度の基本理念に関わるものではないとの判断に基づくもの。
判例時報2419

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