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2019年11月

2019年11月29日 (金)

病院の責任について、原審と控訴審で事実認定が異なった事案

大阪高裁H30.9.28    

<主張>
X1らの主張:
①本件ティッシュは、本件病院の医療従事者が、加害の故意をもって本件カニューレに詰めたもの
②本件病院の看護師らには、医用テレメータの緊急アラームが鳴った場合、直ちに本件病室を訪問し、本件カニューレに生じた異常を除去する等の措置をとるべきであったのにこれを怠る等の過失がある

Yに対して損害賠償請求。
 
<原審>
本件病院の医療従事者ではない第三者が、本件行為を行った可能性を否定することはできない⇒本件行為を行った行為者が誰かは証拠上不明。
本件病院には過失なし。

X1らの請求をいずれも棄却。 
 
<控訴審>
X1らは、
「医療従事者は、患者の生命・身体の安全を守るため、気切カニューレを閉塞させないように注意すべき義務を負うところ、P1看護師ないしは他の本件病院の医療従事者のいずれかが、本件カニューレ周辺の汚染を防止する等の目的で、本件行為をした後、漫然とこれを除去することを失念して放置したという過失」があるとの主張に変更。
詳細な事実認定をしたうえで、本件行為は、P1看護師ないしは本件病院の医療従事者により行われたものと判断
Aは、本件カニューレに本件ティッシュが詰められたため、激しく流出し続ける粘性が強い痰本件ティッシュと本件カニューレとの間に付着した結果、本件カニューレが閉塞したkとにより窒息死、これによる低酸素状態に起因して、心肺停止(心停止)となった

X1(Aの妻)に対し1500万円
X2及びX3(Aの子)のそれぞれに750万円
を支払うよう命じた。
判例時報2419

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2019年11月27日 (水)

最高裁判所裁判官国民審査法36条の審査無効訴訟において、公選法9条1項の規定(満18歳及び満19歳の日本国民に選挙権を有すると規定)の違憲を主張することの可否

最高裁H31.3.12     

<事案>
平成29年10月22日に行われた最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査の審査人であるXが、裁判官審査法36条の審査無効訴訟により、Y(中央選挙管理会)に対して本件国民審査を無効とすることを求めた事案。 
 
<判断>
上告理由に該当しない⇒上告棄却。
その理由として、審査無効訴訟においては、審査無効の原因として本件規定の違憲を主張することはできない旨を説示。 
 
<規定>
第79条〔最高裁判所の構成等〕
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
②最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
③前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
・・・
第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
・・・

行訴法 第5条(民衆訴訟)
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。

行訴訟 第42条(訴えの提起) 
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
 
<説明> 
●国民審査制度と審査無効訴訟 
国民審査制度は、憲法79条に基づくものであり、その性質は解職の制度。(最高裁昭和27.2.20)
国民審査制度は、最高裁判所の裁判官について、その任命権を内閣に専属せしめながら、任命後に国民が審査して罷免できるものとすることによって、これを国民のコントロールを及ぼすことを意図したものであり、憲法15条1項の定める公務員の選定・罷免に対する国民固有の権利の1つの現れとされる。

裁判官審査法36条は、審査無効訴訟を規定し、
37条1項は、審査について「この法律又はこれに基づいて発する命令に違反することがあるとき」は、審査の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、裁判所は審査の全部または一部の無効の判決をしなければならないとする。
 
●審査無効訴訟と選挙無効訴訟の異同 
類似の構造。
公選法205条1項は、選挙無効訴訟において、「選挙の規定に違反することがあるとき」は、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、裁判所はその選挙の全部又は一部の無効を判決しなければならないとする。
審査無効訴訟及び選挙無効訴訟はいずれも民衆訴訟(行訴法5条)であり、
「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」(同法42条)

審査又は選挙の各無効原因も、裁判官審査法37条1項又は公選法205条1項所定のものに限られる。
 
●選挙無効訴訟における選挙無効の原因
  選挙無効訴訟における選挙無効の原因である「選挙の規定に違反することがあるとき」の意義については、
主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されているときを指す。(最高裁)

選挙に関する法律等の規定が違憲であることを選挙無効の原因として主張することができるか?
定数配分規定の違憲主張ができるとした最高裁判例や、
受刑者の選挙権を制限する規定等の違憲主張はできないとした最高裁判例。
 
●審査無効訴訟において、審査に関する法律等の規定が違憲であることを審査婿の原因として主張することができるか? 
本決定
「この法律又はこれに基いて発する命令に違反することがあるとき」の意義につき、
「主として審査に関する事務の任にある機関が審査の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが憲法において定められた最高裁判所裁判官の解職の制度である国民審査制度の基本理念が著しく阻害されるときを指す」とした。
年齢満18歳及び満19歳の日本国民につき衆議院議員の選挙権を有するとしている本件規定が違憲であるとの主張が、以上のような審査無効の原因当たることをいうものであるとはいえない。

前記の者に審査権を与えるか否かは、国民審査制度の基本理念に関わるものではないとの判断に基づくもの。
判例時報2419

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2019年11月24日 (日)

重度のうつ病(双極性感情障害)による心身耗弱状態で、二女を頚部圧迫により殺害した事案の量刑が争われた事案

広島高裁H30.3.1  
 
<事案>
重度のうつ病(双極性感情障害)による心身耗弱状態で、二女を頚部圧迫により殺害した事案 
 
<原審>
本件犯行は重度のうつ病による希死念慮、心理的視野狭窄の著しい影響を受けたものであるから、刑事責任は大きく軽減されるべき
but
経緯や犯行状況等を挙げて「心神耗弱の中にあっては、なお厳しい責任非難が妥当する」とし、「本件犯情は、親が子一人を心神耗弱の状態で殺害した事案の中において重い部類に属するものとみるべきであり・・・実刑は免れない」として懲役3年の実刑。 
 
<判断>
本件が同種事案(親が子1人を心神耗弱状態で殺害した事案)の中で重い部類に属すると位置づけた事情のうち、被害者の落ち度や結果の重さは重視すべきではない(この種事案の性質上、被害者に落ち度がある事例がほとんどないこと、死の結果は殺人という事案に共通するものであることによるものと推察)とし、
殺意の強さの点も、この種事案の多くが確定的故意に基づくものであり、他と区別し得るような特徴的な要素であるとはいい難く
犯行態様の点も他と比べて特筆すべき悪質性はない。

原判決が前記の位置づけをした実質的根拠は、
①犯行を思いとどまる力も相当程度残されていたとみられること、
②確かな状況認識を伴う対応をしていること
の2点にあると整理。
 
①について:
鑑定医(起訴前鑑定を行った精神科医)の証言やこれに沿う被告人供述

本件当時の被告人の他行為可能性は相当に限られており、殺害を躊躇したことは責任能力の欠如までには至っていなかったことを推認させる事情にとどまる

②について:
双極性感情障害に罹患しても状況認識やそれに対応した行動をとる能力が損なわれるとは限らないことがうかがわれる⇒必ずしも責任能力の程度が高かったとの評価を導く事情とはいえない。

原判決は本件が同種事案の中で重い部類に属するとしたことに相応の根拠を示しているとはいえず、量刑傾向に照らしても実刑を相当とする事情は見当たらず、従前の量刑傾向から踏み出した判断をすることについて具体的、積極的な根拠が示されているとはいい難い。

量刑不当を理由に原判決を破棄・自判し、保護観察付きの執行猶予を付した。 
 
<解説>
公判前整理手続におういて、心身耗弱に当たることが争われていなかった
but
心神耗弱か否かという責任能力判断は、裁判所の法的判断事項であり、当事者が合意できる性質のものではない。

刑の量定の前段階でこの点の評議が尽くされるべき。
原判決にはその判断理由が示されていない

本判決:
原審で取り調べられた鑑定医の証言に基づいて精神障害(双極性感情障害)の程度(重症であったこと)、その精神症状が犯行に影響を及ぼした機序、程度を検討し、本件犯行が被告人の従前の人格とは異質的であったことなども指摘した上で、原判決が実刑選択の実質的根拠とした点について、責任能力判断における位置づけを示した
判例時報2418

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温泉施設によるゴムマットを敷いたりするなどの転倒防止措置をとるべき安全配慮義務が争われた事例

旭川地裁H30.11.29    
 
<事案>
高齢者が温泉施設の浴場に足を踏み入れた際に足を滑らせて転倒⇒本件施設側に安全配慮義務違反があるのか否かが問題となった事案。
Xらは、Yには、本件浴場の入口部分にある段差の浴場側にゴムマットを敷いたり、本件浴場入口部分にある段差の浴場側の床タイルに切り込みを入れたりする義務があったのにこれを怠ったと主張。
 
<判断>
X:本件浴場の入口部分には相当の段差があり、その段差の浴場側の床タイルがすり減った状態であった
vs.
段差があるからといって、その段差の浴場側にゴムマットを敷いたりする義務があるとはいえず、また、床タイルについてもゴムマットを敷くなどの義務が生じるほど、床タイルがすり減っていいたとは認められない。 

X:他の温泉施設では、浴場入口に滑り止めのゴムマットが敷かれている
vs.
他の温泉施設がゴムマットを敷いているから本件施設もゴムマットを敷く義務があったとはいえない。

X:Yが本件転倒事故後に本件浴場入口部分にある段差の浴場側の床タイルに切り込みを入れた
vs.
本件転倒事故以前から前記のような措置をする義務があったとはいえない。

X:本件浴場入口部分にある段差の浴場側が石鹸水や水あか等で滞留した状態であり、本件通路内のバスマットがびしょびしょに濡れた状態
vs.
これを認めるに足りる証拠はない

本件浴場入口部分にある段差の浴場側にゴムマットを敷いたりする義務があったとはいえない

本件転倒事故以前から、本件浴場入口側のスライドドアの右側ガラス戸に「浴場内は、スベリますので、ご注意願います。」という横書きの掲示板を掲示し、浴場利用者に注意喚起

Yには安全配慮義務違反はない。

判例時報2418

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2019年11月22日 (金)

出会い系サイトの利用料金収納業務の代行をしていた各会社の共同不法行為と代表取締役の会社法429条の責任(肯定)

福岡地裁H31.2.22    
 
<事案>
Xが、出会い系サイトWを利用したところ、本件サイトの運営に密接に関わっていたY1、Y2、Y3において、真実は女性会員との連絡先を交換させるつもりがないにもかかわらず、これを秘し、女性会員との連絡先交換のための費用等としてXから金員を詐取⇒Y会社らには対しては共同不法行為に基づき、Y会社らの代表取締役であるY4、Y5、Y6に対しては会社法429条に基づき、損害賠償請求。 
Y1・Y2:インターネットに関するホームページの作成、運営等を目的とする株式会社
Y3:集金代行業務等を目的とする株式会社
 
<規定>
会社法 第四二九条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
 
<判断>
本サイトの運営者について:
真実は、本件サイト上でサイト利用者と女性会員との間で連絡先の交換をさせるつもりがなかったにもかかわらず、これを秘し、各種費用を支払うことでこれができるかのように装い、Xにおいて費用を支払えば女性会員と連絡先が交換できるものと誤信させ、Xに本件取引をさせ、同金員を詐取したものと認定。 

本件サイト運営者とY会社らに関連共同性があるか?
①本件サイトの運営者は、Xに対して費用の支払を求める際、その都度、本件サイトの会員番号を明示してY会社らの口座に金員を振り込むよう指示
②Xは、本件取引の際、前記指示に基づき、各金員をY会社らに振り込んだ、
③Y会社らは、各口座に振込を受けた金員について、1件を除き、即日同額の金員を引き出している
④本件サイト運営者の不法行為においてY会社らの振込先口座の存在が不可欠
⑤Y会社らのうち2社は、本件サイトの運営者の存否を確認した形跡もない

本件サイト運営者とY会社らは、Y会社らへの各振込に対応する部分において、関連共同性が認められ、不法行為が成立

Y会社らが、他のY会社らとの間で関連共同性を有するか?
本件サイト運営者及びY会社らは、入金先を短期間に変更させることにより違法行為の発覚を遅らせ、口座凍結や仮差押えのリスクを分散させていたものと推認できる⇒Y会社らは、本件取引について、本件サイト運営者や他のY会社らとの間で関連共同性を有するとして、Y会社らの共同不法行為を肯定

Y代表者ら:
前記事実認定を基に、任務懈怠があり、そのことにつき少なくとも重大な過失がある⇒会社法429条の請求を全部認容。
 
<解説>
①運営サイトを開設している者
②運営サイトからの送金先口座名義人
③運営サイトの利用代金の電子マネー決済システムを提供していた電子マネー発行会社
について、責任肯定例・否定例。 

判例時報2418

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2019年11月21日 (木)

茶のしずく石鹸と製造物責任(肯定)

福岡地裁H30.7.18     
 
<事案>
Xは、Y1(販売者)及びY2(Y1から委託を受け製造)に対しては本件石けんの欠陥の存在を、Y3(原材料の小麦グルテン加水分解物を製造)に対しては本件原材料の欠陥の存在をそれぞれ主張して、製造物責任法3条に基づき、損害賠償金の支払を求めた。
 
<争点>
本件石けんの欠陥の有無(争点①)
本件原材料の欠陥の有無(争点②)
開発危険の抗弁(法4条1号)の成否(争点③) 
 
<規定>
製造物責任法 第四条(免責事由)
前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
二 当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。
 
<判断>
●各Yの製造物責任の存在を認め、各Xにつき、慰謝料250万円(一定の重篤な症状を発症した者は300万円)から既払の見舞金等を控除した額及び弁護士費用相当額の合計額の損害賠償金並びに遅延損害金の限度で請求を一部認容。 
 
●争点①について 
化粧品や医薬部外品の含有成分をアレルゲンとするアレルギー症状の発症について、当該医薬部外品等が通常有すべき安全性を欠くといえるかどうかは、アレルギー症状の発症が当該医薬部外品等によって生じ得るアレルギー被害として社会通念上許容される限度を超えるかどうかによって判断すべき。
本件石けんの欠陥の有無については、洗顔石けんとして通常有すべき安全性を飽きているかどうかによって判断すべき。
本件石けんの欠陥を肯定。
 
●争点②について 
医薬部外品等の配合成分である原材料をアレルゲンとするアレルギー症状の発症が当該原材料によって生じ得るアレルギー被害として社会通念上許容される限度を超える場合には、当該原材料は、通常有すべき安全性を欠く
本件石けんにおける本件原材料の使用は、その用途及び用法として通常想定される範囲内のものであったといえる
本件石けんの使用者との関係において本件原材料の通常有すべき安全性の内容及び態度は、洗顔石けんの原材料として通常有すべき安全性
本件原材料の欠陥を肯定。
 
●争点③について
本件石けんの販売よりも前の時点で存在した各知見を総合すれば、本件石けん中の本件原材料により、経皮的又は経粘膜的に感作が生じ、さらに、経口摂取した小麦製品との 交叉反応が起こって、本件アレルギー被害のような被害が惹起されることを認識することができた
⇒本件石けん及び本件原材料のいずれについても、開発危険の抗弁は成立しない。

判例時報2418

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製造物責任による請求で室外機の欠陥による発火を認めた事案

東京地裁H30.9.19      
 
<事案>
Xらが、本件他店ののの2階ベランダに設置していた本件室外機の欠陥によりXが損害を被った⇒Y社に対し、製造物責任法3条による損害賠償請求権に基づき、家屋の立替費用、治療費、慰謝料及び家具類の買替費用などの損害並びに遅延損害金の支払を求めた。 
 
<争点>
(1)本件火災が本件室外機の欠陥によるものであったと認められるか
(2)損害額 
 
<判断>
●争点(1)について 
2回の各居室等の燃焼、焼失等の状況
リビングダイニング、2階子供部屋(長男)及び2階ベランダのうちのいずれかが出火場所である蓋然性が高い
but
それぞれの燃焼状況や発火源となり得るものの有無を検討
リビングダイニング及び2階子供部屋(長男)が出火場所であることを否定

2階ベランダ(特に本件室外機周辺)が出火場所である蓋然性が最も高く、
目撃者の供述内容

本件火災については、2階ベランダの本件室外機周辺が出火場所であるものと高度の蓋然性をもって認められる

2階ベランダ内における発火源につき、本件室外機内部における発火源として冷却用プロペラファン電動機であることを否定できず、
他方、本件室外機と本件エアコンを接続する内外連絡線(Y社の製品ではない。)、放火及びたばこ等による失火の可能性を検討しつつも否定

本件火災の発火源が本件室外機であると認定。

①本件室外機が2階ベランダに設置されてから本件火災が発生するまでの期間が1年10カ月程度にすぎない
②本件における全ての証拠を検討しても、Xら側において本件室外機を通常と異なる方法により使用したような事情は認め難い

本件火災は、本件室外機の欠陥により生じたものと推認することができる

●争点(2)について、
家屋の建替費用や治療費、慰謝料及び休業損害といった損害を認定するとともに、
家具類の一部につき、民訴法248条に従って相当な損害額を算定。 
 
<規定>
製造物責任法 第三条(製造物責任)
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

製造物責任法 第二条(定義)
2この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
 
<解説>
●製造物責任法は、製造物責任につき欠陥を要件とする無過失責任とし、「欠陥及び因果関係についての主張・立証責任は、被害者が負担する」(潮見) 
but
これらの要件に関する具体的な主張立証の対象については、製造物責任法が制定されるより前の裁判例(大阪地裁H6.3.29)において
「製品の性状が、社会通念上製品に要求される合理的安全性を欠き、不相当に危険と評価されれば、その製品には欠陥がある」とするものがあり、
製造物責任法の下においては、製造物責任を追及する側において、製品のうち欠陥のあった部位・部品、欠陥の態様から事故の態様、損害の発生に至るメカニズムを特定して主張立証する必要まではないと解されている。

本判決:
①本件火災の発火源が本件室外機であること、
②本件室外機が設置されてから本件火災が発生するまでの期間が1年10カ月程度にすぎないことや、Xら側において本件室外機を通常と異なる方法により使用したような事情は認め難いこと

本件火災は、本件室外機の欠陥により生じたものと推認することができる

●本件火災によって家具類に係る損害が発生したものと認定した上で、
本来は、購入時の代金額から経年を考慮して減額した残存価格又は同等の代替物の購入費用等をもって損害額とするのが相当であるが、
本件においては立証が極めて困難。
⇒民訴法248条。 

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2019年11月18日 (月)

高度肥満、過体重によりペースメーカー植込み手術等のため都立病院に転院⇒歩行中倒れて心肺停止状態になり、死亡した事例

東京地裁H30.9.20      
 
<事案>
Aの両親であるXは、Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づきそれぞれ4141万円余及び遅延損害金の請求をした。 
 
<争点>
本件病院の意思には、
①Aに致死性不整脈が発症することを予見し、AをHCUまで移動させるに当たっては、HCUを移動用ベッド等を利用し、やむを得ず歩行させる場合でも、十分な酸素登用を行い、移動用モニターを装着するなどして、容態を注意深く観察すべきであったとにこれを怠った注意義務があるか。
②遅くとも、HCUへの移動中にAが息切れをし何度も苦しいと申告した時点で、歩行による移動を直ちに中止して、Aに酸素を投与し、移動用モニターを装着して、Aに酸素を投与し、移動用モニターを装着して、容態を注意深く観察しながら、HCUのベッド等で移動させるべきであったのにこれを怠った注意義務違反ないし過失があるか。
 
<判断>
(転院前の)B医療センター作成の診療情報提供書の記載内容を検討し、
Aが重篤な心不全であると診断していることや重篤な心不全の患者であることを前提に、歩行等の運動を禁止して治療をしていたとの趣旨をその文面自体から読み取ることはできない

争点①について:
①前記診療情報提供書等の記載内容
②Aの救急搬送中及び本件病院到着後のバイタルサイン、本件病院到着後、本件病院の意らの診察(聴診)において得られた心音や呼吸音、胸部X線検査や問診等の結果、心不全に陥っていることを示す所見も確認されなかったこと等

本件病院の医師らにはAを歩行させたことに注意義務違反はない

争点②について:
①Aが歩行によって致死性不整脈を発症することを予見できる状況になかった
②診療等を行った処置室からHCUまでは約70ないし80メートルであるところ、Aのペースに合わせて途中休憩を挟みながら歩行をさせるなどAに強度の負荷を与えていたものとはいえないこと等

本件病院の医師らが、歩行を継続すればAが致死性不整脈に至ると予見することはできない

Aの責任を否定

判例時報2418

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2019年11月17日 (日)

ツイッター上のいわゆる「なりすましアカウント」作成者の特定のために、経由プロバイダに対して発信者情報の開示を求めた請求が認められた事例

東京高裁H30.6.13  
  
<事案>
ツイッター上におけるいわゆる「なりすましアカウント」作成者に対して、損害賠償請求を行うにあたり、当該作成者の特定のために経由プロバイダに対して発信者情報の開示を求めた事案。
Xは、ツイッター上において、氏名不詳者がXになりすましてアカウントを開設して使用⇒氏名権および肖像権を侵害されたことを理由に、氏名不詳者に対して損害賠償請求権を行うために、ツイッターの運営会社から開示されたIPアドレスの保有者である経由プロバイダYに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(「法」)4条1項に基づき、氏名不詳者の氏名又は名称及び住所の開示を求めた。

本件ツイッターのアカウントを氏名不詳者が開示し、本件プロフィール等の侵害情報を送信したと考えられるのは平成27年12月であるが、ツイッターの運営会社から開示された本件のIPアドレスおよびタイムスタンプは、当該アカウント開設時から1年以上が経過した平成29年1月から3月にかけてのもの。
 
<原審>
法における「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(海事関係役務提供者)を厳格に解し、Yはこれに当たらない。 
 
<判断>
原判決を取り消し、Xの請求を認めた。 
 
<解説>
本件IPアドレス等は、氏名不詳者が本件アカウントにログインした際に割り当てられたものであり、本件プロフィール等の侵害情報そのものと現実に送信した際に割り当てられたものではない。
but
①ツイッターの仕組みは、設定されたアカウントにログインし、ログインされた状態で投稿するというもの⇒侵害情報の送信にあたりログイン情報の送信が不可欠になる。
②法4条1項は「侵害情報の発信者情報」と規定するのではなく、「権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもって規定している。

侵害情報そのものから把握される発信者情報だけでなく、侵害情報について把握される発信者情報であれば、これを開示することも許容される。 

加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るという法4条の趣旨に照らすと、侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、当該侵害情報の発信者のものと認められるのであれば、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得る。

本件IPアドレスから把握される発信者情報が、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認められるか?
一般に、同一人が複数のプロバイダからのIPアドレスを割当てられながら1年以上同じアカウントにログインを続けることは珍しいことではないこと等⇒時的な先後関係にかかわらずログイン者と投稿者は同一である蓋然性が高い⇒本件IPアドレスを割当てられた者は、本件プロフィール等を投降した者と推認される。

本件は、侵害情報の投稿そのものとは直接の関係がないものでログインした際に把握される発信者情報についても開示が認められる場合があるとの判断を示した点に意義がある。

判例時報2418

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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2019年11月16日 (土)

原決定は第一種少年院送致決定をしたが、抗告審で取り消された事例

東京高裁H30.10.2   
 
<事案>
少年(審判時18歳)が、
①共同危険行為
②前記①の処罰を免れる目的で、警察官に、虚偽の普通自動二輪車の窃盗被害を申し出たという軽犯罪法違反
③普通自動二輪車の無免許運転をした
という事案。

路上強盗等を行い保護観察に付された処分歴がある。 
 
<原決定>
①全体として、交通法規等を著しく軽視した悪質なものと評価
②短絡的な判断に至りやすい等の少年の問題点は、少年の資質や家庭環境に根差したもので、前件の非行による試験観察や保護観察を経ても改善されずに本件に結び付いており、少年の問題性が深刻
③実父の指導力は不十分で保護環境が整っているとはいえない

社会内処遇による更生は困難かつ不相当

少年を第一種少年院に送致。

鑑別結果は在宅保護(保護観察)相当としていた。
 
<抗告審>
①本件は事本的に交通法規違反に限定され、原決定の指摘するほど悪質なものとは評価できない
②少年は、前件の保護観察を良好解除され、その後、本件に及んでしまったものの、前件よりも非行の悪質性が低下しその範囲が限定されるなど、少年が更生しつつあるにもかかわらず、一度試験観察や保護観察を経たのに非行に及んだからという理由で、少年の問題性を深刻だと判断するのは形式的に過ぎて、妥当ではない。
③保護観察についても、前件以降、少年が実父の監督下でも一定の更生をしつつあったといえる⇒社会内処遇の可能性を十分に検討するべき

原決定は、少年の要保護性及び社会内処遇の可能性に関する評価を誤っているといわざるを得ず、少年を第一種少年院送致とすることは、処分の相当性を欠いており、著しく不当
⇒原決定を取り消し、事件を原審に差し戻した。
 
<解説>
非行事実は要保護性の顕在化と捉えられる⇒非行事実については、要保護性を判断する前提として、動機、経緯のほか、態様や結果も含め、その内容を丁寧に検討する意識が必要。 
社会内処遇を受け再非行に及んだ少年については、段階処遇として、収容保護処分が検討されることが多い中、本件は、非行事実の内容を丁寧に検討し、これを踏まえると要保護性が高いとはいえないと判断して、再度、社会内処遇を選択した事例。

判例時報2417

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2019年11月15日 (金)

労契法20条での「その他の事情」が認められた事例

福岡高裁H30.11.29    
 
<事案>
労働契約に係る基本給の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって、労契法20条及び公序良俗に違反するかが争われた事案。 
 
<規定> 
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
労契法 第二〇条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
<原審>
Xが、Xとほぼ同じ勤務年数でXと同じ内容の業務を行っていると主張する5名の正規職員との比較において、業務内容やその範囲、業務量等において同等のものと評価できるだけの立証に乏しく、経歴や責任の程度においても異なり、Xと同様の業務を取り扱っているとの単純な比較をすることは困難

XとYの労働契約における賃金の定め方が労契法20条に違反すると認めることはできず、また、公序良俗にも反しないとして、Xの請求を棄却。
 
<判断>
Xが挙げる5名の正規職員の業務等と比較して、業務の内容やその範囲、業務量等がXと同等のものと認めるに足る証拠はない。
but
①臨時職員は、1月以上1年以内と期間を限定して雇用する職員で、Yにおいては、人員不足を一時的に補う目的で臨時職員の採用を開始し、臨時職員を長期間雇用することを採用当事者予定していなかったが、Xは、30年以上も臨時職員として雇用されたもので、この採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労契法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。
②Xが比較対象として挙げる5名の正規職員のうち3名は、いずれも当初は、Xと類似した業務に携わり業務に対する習熟度を挙げるなどして採用から6年ないし10年で主任に昇格したが、30年以上の長期にわたり稼働を続け業務に対する習熟度を上げたXに対しては、人事院勧告に従った賃金の引き上げのみで、Xと学歴が同じ正規職員が、管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら充たさず、現在では、同じ頃作用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る限度において不合理であって、労契法20条に違反。

Xは、月額賃金の差額各3万円及びこれに対応する賞与に相当する損害を被ったとして、113万4000円及び遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容。
 
<解説>
労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、
「職務の内容、職務内容と配慮の変更範囲、その他の事情」に照らして不合理と認められるものであってはならない旨規定し、
不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものをいう(最高裁H30.6.1)。 

労働者側としては、自分が同じ労働条件を享受すべきであると考える無期契約労働者を選び出して、労働条件の相違が不合理であるとして、同条違反を主張するという形で争うのが一般的。

本判決:
Xが抽出した正規職員がXと業務の内容やその範囲、業務量等がXと同等のものと認めるに足る証拠はないなどとしながらも、
臨時職員を長期間雇用することは採用当事者予定していなかったもので、それに沿った賃金体系であったが、そのまま30年以上も雇用を継続し、著しい賃金格差が生じたことを「その他の事情」として評価したもの。

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2019年11月14日 (木)

ミキシングを行った者のレコード製作者性(否定)、外国映画配給会社の注意義務(通知⇒特段の事情⇒肯定)

大阪地裁H30.4.19     
 
<事案>
レコード会社であるXが、自己が販売する音楽CDに収録されている楽曲がBGMとして使用されている映画を複製した、外国映画の配給会社であるYに対し、レコード制作者の権利(複製権)侵害を理由として、損害賠償等の支払を求めた事案。 
 
<争点>
①Xが本件音源につきレコード製作者の権利を有するか
②本件音源を複製したことに関するYの過失の有無
③損害額 
 
<規定>
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。
六 レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。
 
<判断>
争点①について:
本件音源についてのレコード製作者、すなわち本件音源の音を最初に固定した者は、レコーディングの工程で演奏を録音した者というべき⇒Xがミキシング等を行ったことによりそのレコード製作者の権利を原資取得したとは認められない。
but
承継取得を肯定

争点②について:
Xからの通知書が送付⇒本件音源の権利処理が完了していないのではないかということを合理的に疑わせる事情が存在⇒Yには過失あり

争点③について:
上映地域が日本国内のみ
本件音源の使用期間がごく短期間

2万円を相当。
 
<解説>  
●レコード製作者:
レコード(著作法2条1項5号) に入っている音を初めて蓄音機用音盤、録音テープその他の物に固定した者、すなわち、レコードの原盤の製作者を指すものと解される。そして、レコード製作者であるためには、いかなる方式の履行も要しないものであるが(同法89条5項)、物理的な録音行為の従事者ではないく、自己の計算と責任において録音する者、通常は、原盤制作時における費用の負担者がこれに該当する」(東京地裁H19.1.19、同旨知財高裁H26.4.18)
より以前の裁判例には、起草担当者の見解に依拠しつつ、「音の最初の固定行為が創作的行為による正当化を行うものもある」

学説
A:伝統的には、起草担当者の見解をはじめ、固定行為者ないしは準創作的行為の保護であるとする見解
B:費用負担者ないしは投資の保護(近時多数説)
レコード製作者は投下資本の所在を基準に決せられることになり、事実行為としての物理的な固定行為や、その成果物としてのレコードの質的評価は、基本的に無関係であると解される

●実務上はレコーディングからミキシングまでが原盤制作と称されるところ、レコーディングとミキシングの主体が異なることは稀
but
両者が異なる場合となるリミックス盤の制作においては、加工部分の音源と制作においては、加工部分の音源の権利がエンジニアに新たに発生するという前提に立って契約実務がなされており、本判決は実務との甚だしい乖離を生じるとの指摘もある。 
 
●従来の裁判例:
著作権者を侵害して複製物を作成した者から発行の依頼等を受けてそのまま複製・頒布を行った他の者の過失については、諸般の事情を考慮して判断。
出版社、放送事業者等に関する事例が多く、一般的注意義務が肯定された例が多数みられる。 
学説においても、著作物利用者の過失は基本的に諸般の事情を考慮して判断すべきものとされるが、

A:出版社等に厳格責任を負わせるべき

①その者の行為による著作権侵害の拡大・拡散
②経済的利益の存在
③補償条項を設けることによって侵害物作成者に求償できる
④原告にとって被告側の内部関係を知ることは困難⇒事実上の過失推定を負わせるべき。
vs.
(1)現場において個別にチェックを行うことや、制作に関与していない発注元が調査を行うことは実際上極めて困難であり過重な負担
(2)民法における注意義務の一般的基準としては、一般に①危険が生じる蓋然性、②危険が生じた場合の重大性、③予防措置を取ることに対するコストの3つを勘案するのに対して、著作権法では、メディアの責任のような大上段な前提から出発する傾向にあり、十分な予防措置をとることに対する負担が考慮されていない。

B:これを消極に解する立場

本判決:
外国映画配給会社に映画に利用されている著作物等の権利処理有無の確認の注意義務を一般的に認めることは妥当でない。

①映画が多数の著作物等を総合して成り立つことから、権利処理が映画制作会社においてなされるのが通常
②外国映画配給会社の場合は、許諾の有無の確認に要するコストが膨大
③外国性が配給業界における実務慣行

その上で、
本国の映画製作会社等の権利処理が適切に行われていないことを合理的に疑わせる特段の事情が存在する場合には、侵害が予見可能⇒調査確認義務を負う上、調査確認を尽くしても前記疑いを払拭できないのであれば、当該音源を使用した当該映画の複製を差し控えるべき注意義務を負う。

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2019年11月13日 (水)

てんかん発作を起こし死傷事故を起こした運転者の家族等の賠償責任

京都地裁H30.9.14    
 
<事案>
被害者D、E、Fの親族であるXらが、運転者A(運転中に、持病のてんかんの発作を起こし意識を喪失)の父であるY1、Aの母であるBの地位を相続したY1(Aの父)及びY2(Aの姉)、加害自動車所有者で、本件事故当時、事故の業務の執行としてAに自動車を運転させていた法人Y3の代表者であるY4に対し、本件事故による損害賠償を請求し、
被害者Dの相続人であるX1が、破産手続中であるY1との間で破産債権として自賠法3条又は民法715条に基づく損害賠償金の確定を求めた事案。 
E及びFの相続人Y1との間では、加害自動車に付保された保険の給付を原資として示談が成立しており、E及びFの親族であるX2~X4がY1、Y2、Y4に請求していたのは、近親者としての固有の慰謝料。
Y1及びBは、Aの相続人であったが、Aの地位につき相続放棄をしていた。
 
<主張> 
●Y1及びY2の責任原因:
Aと同居していたあの父母であるY1及びBは、Aが自動車の運転をするとてんかん発作により車の制御ができなくなり他人に危害を加えるおそれがあること、及び、勤務先のY3でAが自動車を運転することがあることを知っていた⇒同居している親の監督義務として、本件事故の前までに、勤務先Y3の関係者に対しAの前記危険な病状を通報し、Aに「よる自動車の運転を制止すべき義務があるのに、通報・制止することなく本件事故を発生させた過失がある
⇒民法709条又は民法714条類推適用による損害賠償責任がある。

Y4の責任原因:
Y4は、Aから、前記てんかんの病状を伝えられていた⇒Aに自動車の運転をさせない義務があったのに、Aに常務のため自動車を運転させ、本件事故を発生させた過失がある⇒民法709条による損害賠償責任がある。
 
●Y1及びY2:
Aが勤務先で自動車を運転していた事実を知らなかった
Aに対しては自動車の運転をしないよう常々注意をし、Aはこれを受け入れていた
Aは30歳の責任能力を有する成人⇒両親が勤務先に通報すべき法的義務はない
  Y4:Aの病状は知らなかった
 
<判断>
●Aの父母の責任について 
①Y1及びBは、Aが自動車を運転するとてんかん発作の意識障害により自動車を制御できない状態になり他人の生命身体等に損害を与える危険のある病状であることを認識。
②Bは、AがY1に就職して間もなく、AがY1の業務として自動車を運転していることを知り、Aに対し運転をしないよう注意していたが、Aは注意を聞き入れる様子を見せなかった。
③Aは、本件事故の約1か月前、Bの制止を振り切って運転免許を更新手続をしていた。
⇒Y1及びBは、Aが、勤務先から指示されれば自動車の運転を行うつもりであることを認識できた。
but
①Aが免許の更新手続をした直後、BがAに対し、「Aが勤務先に対して自動車の運転を記事られていることを伝えないのであれば、Bが直接勤務先へ伝える」旨述べ、これを受けて、その翌日、Aが、Bに対し、「勤務先の代表者Y4に対し、自分のてんかん発作の病状を伝え、自動車の運転をしなくてより内勤に替えてもらった」旨述べた。
②Y1及びBとしては、このAの言葉を疑うべき事情はなかった

この時点で、Aがてんかん発作んのために自動車の運転ができないことが勤務先に伝達され、Aは自動車を運転する業務から外れたと認識していた。

Y1及びBにおいて、会社勤めができる程度の判断力を有する30歳であったAを差し置いて、Aに自動車の運転をさせると棄権であることを直接勤務先に通報しなければならない法的義務があるとはいえない。
 
●Y4の責任について、
Y4がAがてんかんであることを知っていた事実は認め難い⇒Y4には、Aに自動車を運転させない義務があったとはいえない。 
 
<解説>
正常な運転ができない可能性がある病状の運転者(成人)と同居していた両親や勤務先代表者の運転制止義務を一般的に否定するものではなく、事例的判断を示したもの。 

てんかん発作による交通事故に関し、同居の母親の運転回避措置義務違反を認めた裁判例として、宇都宮地裁H25.4.24:
抗てんかん薬を服用しないとてんかんの発作を起こす病状にあった26歳の運転者と同居していた母親について、
①運転者が前夜に抗てんかん薬を服用していないこと、
②出勤して自動車の運転に従事することを認識しいたとの事情の下で、
勤め先に対し、運転者がてんかんに罹患していること、抗てんかん薬を服用していないから発作を起こしやすい状態にあることを通報する義務があり、
通報を怠って事故を発生させたことにつき不法行為が成立すると判断。

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2019年11月12日 (火)

請求時に成年に達している長男と婚姻費用分担請求

大阪高裁H30.6.21    
 
<事案>
婚姻費用分担審判
 
<原審>
長男は既に成人に達している⇒自ら扶養料の請求をすべき
二男(中学生)の学習塾費用の分担についてもAの明示の承諾がない⇒採用できない。

月額14万円の婚姻費用の分担を命じた。
 
<判断>
長男が二浪して大学に進学したのは成人に達した後
but
Aは長男の大学進学を積極的に支援していた

Aは長男を15歳以上の未成年の子と同等に扱うのが相当。 
二男の学習塾費用についても、Aが学習塾に通わせていた
⇒A・B双方の収入較差に照らしAが8割ないし9割を負担するのが相当
⇒原審を変更して、月額18万円の「婚姻費用の分担を命じた。
 
<解説> 
●父母間で未成熟子の養育費が問題となる場合、
実務では、
父母の婚姻中は婚姻費用分担請求(民法760条)の中で、
離婚後等には子の監護に関する処分(民法766条)の形で問題とされる。
いずれも扶養料の請求(民法877条)とは機能を同じくし、選択的に行使することができると解されている。 

●成年年齢に達した子が大学に進学したり、なお監護親に扶養されていたりするケースにおいて、これを未成熟子として取り扱うことができるのはどのような場合か?
実務では、現に経済的に自立していないというだけでは足りず、非監護親の進学への同意や承諾の有無、両親の学歴や経済状況等を総合考慮して決せられる
 
●その場合、婚費・養育費の支払の終期(未成熟状態の終焉)との関係で、子自身からの扶養料請求との棲み分けをどう考えるのか? 
成年年齢に達すれば本来自らの生活の糧を稼ぐのが原則であり(同意がある場合は別として)、いつまでも親に扶養義務、教育義務があるというのには疑問があり、子に稼働能力がない場合でも、ある程度の年齢以上になれば、婚費・養育費の問題ではなく、扶養の問題として処理するのが妥当な場合もあろうとする見解。

審判例でも、
前審判時点では高校在学中であた未成熟子について、その後、高校を退学し、25歳になって今も無職無収入の子について、その扶養義務を誰がどの程度負担するかは親族間の扶養義務として検討・考慮されるべき問題
当事者の一方が事実上そのような子を扶養している事実のみをもって、婚姻費用分担の一部として考慮することは相当でないとした事例
(大阪家裁H26.7.18)
but
本件は事案を異にする。
 
成年年齢の18歳への引下げ(令和4年4月1日)
but
改正法は、未成熟子の保護を現状から後退させる趣旨のものではなく、成年年齢が18歳に引き下げられても、なお20歳未満の者についてはその未成熟性に配慮し、保護の対象とすべきであるという説明。 

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2019年11月11日 (月)

地区合同運動会での競技(リングリレー)中の事故と賠償責任

東京高裁H30.7.19    
 
<一審>
本件競技の競技者には、自己のレーンを保持すべき注意義務やスピードのコントロール義務も、さらには他の競技者との接触を回避すべき義務もあったとは認められない。

本件競技はスポーツの一類型というべきであって、Xは本件狭義の性質やルールを熟知していたものと推認される⇒その危険を引き受けていた
⇒仮に接触回避義務違反が認められるにしても、違法性は阻却される。
 
<判断>
Yの接触義務違反を認め、違法性は阻却されないとして、Yの責任を肯定。 
①本件競技は、チームごとのリレー方式であって、次走者にリングとスティックを手渡すことが想定されていた
②信仰レーンは明示されていないが1チームあたり約5メートルの幅が確保されていた
③進行方向が外れた場合、やり直しをせずに斜めに進むことができたものの、ルール上はその場で止めてやり直すこともできた
④高齢者や女性も含めて参加しており、ヘルメットや防具等の着用もない

競技者相互のボディコンタクトを全く予定していなかった
本件競技の参加者には、他の競技者との衝突を回避するように注意すべき一般的な注意義務が存在し、幅広い参加者が親睦目的で気軽に参加するという本件競技の性質⇒本件競技に内在している危険として違法性が阻却されるのは、ごく軽度の危険や衝突に限られる。
損害については、休業損害につき本件事故との因果関係を認めず、通院慰謝料につき10万円。
 
<解説>
スポーツ競技中の事故に関しては、競技ごとに競技性の高さや身体接触の程度などに差がある
⇒スポーツということだけで注意義務の存否や内容を一様に決することはできない。 
競技者は、競技への参加によって危険の引受けを行っている⇒競技中の加害行為であっても、違法性が阻却される場合がある。
but
いずれの事項についても、個別具体的に検討することを要する。

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退去強制対象者に該当するとの認定に係る異議の申出には理由がない旨の裁決が違法とされた事例

東京地裁H29.11.29     
 
<事案>
ウガンダ共和国の国籍を有するX1が、入管法24条4号ロ(不法在留)に該当すること等を理由としてなされた、入管法所定の退去強制対象者に該当するとの認定に係る異議の申出には理由がない旨の裁決及びこれを前提とする退去強制令書を発付する処分を受けた⇒X1及びその妻X2(日本人)が、X1の在留を特別に許可しなかった本件裁決及び本件退去令発付処分はいずれも違法と主張して、これらの各取消しを求めるとともに、
X2がY(国)に対し、本件裁決によってX1が在留特別許可を受けられず、本件退令発付処分によって送還される立場に置かれたことで、精神的苦痛を受けた⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償(慰謝料)の支払を求めた。 
 
<判断>
●Xらの婚姻関係は、婚姻の届出から本件裁決までの約8か月の期間にとどまり、Xらの間に子がいないとしても、本件裁決の時点において既に真摯で安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったものと認められる。
それにもかかわらず、東京入管局長は、X1の在留を特別に許可するか否かの判断に当たり、これを適切に評価せず、X1が在留資格取得目的でX2と婚姻したにとどまると誤認し、かつ、Xらが真摯な交際関係に至った経緯についての十分な評価をしなかった。

不法残留等に及んだX1の入国及び在留の状況は、在留特別許可の許否の判断に当たって消極要素として評価されたとしても不合理ということはできない、
but
①不法残留の状態になった後本件裁決に至るまで約8年1か月の間本邦において特段の違法行為を行ったことはないこと
②X1自ら東京入管に出頭して不法残留の事実を申告していること
など、その消極的評価を減殺する事情も存在。

東京入管局長が、本件裁決に際し、X1の在留を特別に許可しないとした判断は、
①その基礎とされた重要な事実に誤認があることにより全く事実の基礎を欠き、又は
事実に対する評価が明白に合理性を欠くことにより、
社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものであることが明らか
⇒本件裁決には、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法がある。

X1による本件裁決及び本件裁決を受けてされた本件退去令発付処分の各取消し請求を認容。

●X2の請求のうち本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求める部分は、X2は原告適格がない⇒訴え却下。
損害賠償請求は理由なしとして棄却。 
 
<解説>
短期滞在の在留資格で本邦に入国した外国人が、その後本件裁決に至るまで約8年間、在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく本邦に在留。
本件裁決の時点において、既に、日本人女性との間で真摯で安定かつ成熟した婚姻関係を築いていたと評価すべき素地が十分にあった⇒この事情を十分に評価することなく、在留を特別に許可せずになされた本件裁決は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があり、また、本件裁決を受けてされた本件退令発付処分も違法であるとして、両処分が取り消された事例。 

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2019年11月10日 (日)

申請型義務付け訴訟の違法判断の基準時について

東京高裁H30.5.24     
 
<背景>
平成12年改正道路運送法は、タクシー事業を免許制から許可制に変更し、いわゆる需給調整規制を廃止
but
その後タクシーの供給過剰が社会問題化
⇒供給過剰の状況にある特定の地域における供給過剰状況の解消に向けた取組みを法制化した特定地域における一般常用旅客自動車運送事業の適正化及び得活性化に関する特別措置法が制定
⇒指定された特定地域における個人タクシー営業の新規許可については、同法を根拠に地方運送局長が定めた収支計画要件に基づき許可の審査。
平成21年特措法は平成25年に改正・・・・⇒地方運輸局長は、当該地域に係る供給輸送力と輸送需要量が不均衡とならないものであることが必要であるとの許可基準。 
 
<事案>
被控訴人が、平成21年特措法の下で特定地域と指定された営業区域において個人タクシー事業の営業許可申請(本件申請)をしたところ、処分行政庁から、本件申請が道路運送法6条2号(事業計画の適切性)に適合しないとして却下

本件却下処分の取消しを求めるとともに、
本件申請に係る個人タクシー事業許可の義務付けを求めた
 
<原審>
収支計画要件は道路運送法6条に違反し違法であり、また、本件申請に事業計画上の問題があって安易な供給拡大にすぎないとも認められない
本件却下処分は違法であるとして、これを取り消した上で、
義務付けの訴えにも理由がある⇒処分行政庁に本件申請に係る事業許可を命じた
 
<判断>
●取消訴訟については、原審と同旨。 

義務付けの訴えについて
義務付けの訴えに関する行訴法37条の3第5項の本案要件(一義的明白性)の存否:
当事者間の信義・衡平に照らし、原判決同様、本件却下処分後に改正された法令(平成25年特措法)ではなく、本件却下処分時の法令(平成21年特措法)に基づき判断すべき
but
本件申請に関して被控訴人が提出した事業計画が道路運送法6条の許可基準に適合するかどうかを当裁判所が判断する上で必要かつ十分な資料は調っておらず、義務付けの訴えは本案要件を満たさない
⇒これを認容した原判決を取り消して被控訴人の請求を棄却。
 
<解説>
申請型義務付け訴訟の違法判断の基準時 
A:本案要件の存否の判断の基準時は、口頭弁論終結時

本案要件は判決の要件⇒遅くとも事実審の口頭弁論終結の時点において本案要件を満たしている必要がある
②義務付けの訴えは、新たな処分を義務付けるもの⇒本案要件の存否の判断の基準時は、口頭弁論終結時
vs.
本件のような申請型義務付けの訴えと拒否処分の取消訴訟が併合提起されている場合には、取消訴訟では処分時を基準とすることとの関係で判断基準時に違いが生じることとなり、
処分時には本案要件が認められるのに口頭弁論終結時にはこれを欠くに至ることも考えられる

B:取消訴訟の場合と同様に処分時を基準に判断すべき

本判決:
判断の基準時は原則として口頭弁論終結時
but
併合審理された取消訴訟において処分取消しの理由となった収支計画要件が、処分後の法令改正により条文に取り込まれ、口頭弁論終結時の法令を手経すると取消訴訟と結論を異にする可能性が高い
信義・衡平に照らし処分時の法令を前提に本案要件の存否を判断すべきである。
but
処分時の法律である平成21年特措法を前提としても、事案に照らして本案要件を満たすとはいえない
⇒原審と異なり義務付けの訴えに係る被控訴人の請求を棄却

判例時報2417

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2019年11月 9日 (土)

ペルー人男性が6名を殺害した事案

さいたま地裁H30.3.9      
 
<争点>
被告人が各犯行当時の記憶を欠いていた⇒強盗殺人の故意を争う
心神喪失
 
<判断>
●故意
被告人が、各犯行当時、職場関係者やその者が差し向けた者から危害を加えられるとの被害妄想や、危害を加えようとするものが、自分や親族を加害するために追っているという追跡妄想があったことを肯定。
but
客観的、外形的な事実経過を中心に検討すれば、各犯行現場で、金品物色行為に及び、実際に金品を入手
家人殺害は、主として金品入手のための妨害排除に向けられた行動とみられる。
強盗の故意を認め、強盗殺人罪の成立を肯定

●責任能力
精神鑑定実施:
鑑定人は、被告人が統合失調症に罹患していること、各犯行当時、精神症状として、自分と親族の命が狙われているという被害妄想があった。
これを肯定し、追跡妄想も、追跡者と警察組織がつながっているとの内容まで妄想が広がっていたことも窺われる。
but
完全責任能力を肯定。
(1)妄想自体が現実の出来事に基盤を置いている
(2)被告人の抱いていた妄想がなければ、本件各犯行を決意することもなかったことは認めた上で、他面において、いわゆる「7つの着眼点」を意識。
①犯行の経緯や動機の了解可能性
②行動の合目的的で全体としてまとまりのあること
③違法性の意識を欠いていないこと
④元来の人格傾向と連続性のある正常な精神機能に基づく行動とみて違和感はなく、少なくともかい離したものとはいえないこと


統合失調症という精神障害は、背景的、間接的な影響を与える限度にとどまっており、個々の具体的な犯行の決意、実行場面では、残された正常な精神機能に基づく自己の判断として、他にも選択可能な手段があったのに、犯罪になると分かっていながら各犯行に及んだものと認められる

完全責任能力を肯定。
 
<解説>
被害妄想が明らかに認められ、その妄想と犯行との因果関係が認められるといった状況があり、その意味では、統合失調症の顕著な症状の下での犯行とみることも可能⇒その責任能力判断は、相当に難しい事案。

判例時報2416

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パワハラ否定、安全配慮義務肯定の事案

徳島地裁H30.7.9    
 
<事案>
Y(ゆうちょ銀行)の従業員であったP2の相続人であるXが、Yに対し、P2が上司2名からパワハラを受けて自殺したと主張して、P2のYに対する使用者責任又は雇用契約上の義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償金合計8185万2175円及びこれに対するP2の死亡の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
①Yの使用者責任(Yの従業員によりP2に対するハラスメントの有無及びY2の従業員の前記ハラスメント防止措置の懈怠)及び債務不履行責任(Yの従業員による職場環境配慮義務違反)の有無
②P2の損害 
 
<判断>
争点①のうち、Yの使用者責任につき、
Xが主張するパワーハラスメントについて、P6及びP7のP2に対する一連の叱責が、業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとまでは認められない⇒P6及びP7がP2に対して不法行為責任を負うものではなく、Yも使用者責任を負うものではない。 

争点①のうち、Yの債務不履行責任について、
P2の上司のうちP3及びP5は、P2の体調不良や自殺願望の原因がYの従業員との人間関係に起因するものであることを容易に想定でき、
P3及びP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動をも含めその対応を検討すべきであった
②P2の上司は、一時期、P2の担当業務を軽減したのみで、その他にはなんらの対応もしなかった

Yには、P2に対する安全配慮義務違反があった
 
<解説> 
●パワーハラスメント:
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、
精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為をいい、
その行為類型としては、
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過少な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
があるとされている。
(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」厚労省HP) 

上司の部下に対する指導等がパワーハラスメントに該当し違法といえるか否かの判断枠組みとしては、
当該行為が業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものと評価できるかという観点から、違法性を判断している裁判例が見受けられる。
 
●本判決:
①P6及びP7が日常的にP2に対し強い口調の叱責を繰り返し、その際、P2を呼び捨てにするなどしていた。
②前記P6及びP7のP2に対する言動は、部下に対する指導としてはその相当性には疑問があるといわざるをえない。
but
③部下の書類作成のミスを指摘しその改善を求めることは、Yにおける社内ルール
④P2の上司であるP6及びP7の業務である、P2に対する叱責が日常的に継続したのは、P2が頻繁に書類作成上のミスを発生させたことによるものであって、証拠上、P6及びP7が何ら理由なくP2を叱責していたというような事情は認められず、P6及びP7のP2に対する具体的な発言内容はP2の人格的非難に及びものとまではいえない

P6及びP7のP2に対する指導自体は業務上相当な指導の範囲内であり、P6及びP7のP2に対する指導はP2に対するパワーハラスメントには該当せず、違法なものとはいえない
 

使用者の従業員に対する安全配慮義務につき、
判例(最高裁H12.3.24)は、
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」と判示。 

本判決も、P2の上司であるP3及びP5は、P2に対する安全配慮義務を負うとする。
①P3及びP5は、P2がP6及びP7から日常的に厳しい叱責を受け続ける状況を十分に認識していた
②P2が所属する職場の上司の部下に対する対応に問題がある旨の投書がなされただけでなく、P5は、P6やP7がP2に対する不満を述べていることも現に知っていた
③P2は、死亡時にいたC2センターに赴任後わずか数カ月で、別の部署への異動を希望し、その後も継続的に異動を続けていたが、同センターに赴任後の2年間で体重が約15kgも減少するなどP5が気に掛けるほどP2が体調不良の状態であることは明らかであった
④平成27年3月には、P5は別の社員からP2が死にたがっているなどと知らされていた

P2の上司であるP3やP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動も含めその対応を検討すべきであった

P3及びP5がその義務を怠ったとして、Yの安全配慮義務違反を認めた

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2019年11月 6日 (水)

フラダンスの著作権性

大阪地裁H30.9.20    
 
<事案>
X(ハワイ在住のクムフラ(ハワイ在住のフラダンスの指導者)・Y間の契約関係解消

Yに対し、
①フラダンスの振りつけ(本件各振付け)につき著作権侵害に基づく上演の差止め
②フラダンスと同時に演奏される楽曲(本件各楽曲)につき著作権侵害に基づく演奏の差止め
③①②について著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求
④平成26年秋に予定されていたワークショップ等においてXがYないしKHAの会員に対してフラダンス等の指導を行うことを内容とする準委任契約(本件準委任契約)がYにより解除されたことに伴う民法656条、651条2項本文に基づく損害賠償を請求 
 
<判断> 
●ハンドモーションについて 
フラダンスの上演時に演奏さえる楽曲中の歌詞の解釈を示すもの

①当該歌詞から想定されるハンドモーション
②当該歌詞と同内容の歌詞について他に例があるハンドモーション
③前記①②に当たらないハンドモーションであっても、それらのものとの差異がわずか
~いずれも作者の個性の表れは認められない。 
個々のハンドモーションが前記①②③に当たる場合、
仮に踊り全体をみたときに個々のハンドモーションにおける振付けの選択が累積され、その組合せが他に類例のみられないものになっていたとしても、
それら個々のハンドモーションが限られた類例から選択されたにすぎない場合には、踊り全体としても作者の個性の表れは認められない。
あるハンドモーションにつき、その歌詞の解釈に独自性があったとしても、表現結果である振付けが前記①②③に当たるような場合には作者の個性の表れが認められない。
but
歌詞の解釈が独自のものであって、それによって振付けの動作が他と異なるものとなる場合には、作者の個性の表れが認められる


①ステップについては、典型的なものの組合せによって構成される
②歌詞を表現するものでもない

これに作者の個性が認められるためには既存のものと顕著に異なる新規なものであることが求められる。 


仮に特定の歌詞部分における短い振付け動作に作者の個性が表れているとしても、それは舞踏の一部分にすぎない
⇒当該部分に著作物性を認めることはできず、作者の個性が表れている部分とそうでない部分が相まったひとまとまりの動作の表れという単位で著作物性が判断されるべき。 
侵害の成否の判断に際しても、一連の動作たる舞踏としての特徴が感得されることを要する


各振付けに含まれる歌詞の一節ごとに当該歌詞に対応するハンドモーションを摘示し、主としてこれと同様のハンドモーションが他に存在するか、存在するとしてもこれとどのような差異があるかという観点から振付けの当該部分にXの個性が表れているか否かを検討した上で、改めて各振付けにつき全体として著作物性の判断を行い、結論として本件振付け6等のすべてについて著作権性を肯定
 

<解説>
舞踏の著作物の振付けにつき著作物性が実質的な争点となった事例として、
東京地裁h24.2.28のShall we ダンス?事件。

社交ダンスの振付けの著作物性を判断するに当たって「顕著な特徴を有する独創性」という高い基準が設定された。
but
本件では、「個性の表れ」という一般的な基準によって、著作物性の判断がなされている。 
 
<判断>
Yによる本件準委任契約の解除が「不利な時期」(民法651条2項)になされたことを認めたうえで、
本件準委任契約に基づきワークショップを開催することによってKHAからの脱会者がさらに増える見込みであった⇒「やむを得ない事由」(同項ただし書)があったことを認めている。

判例時報2416

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2019年11月 4日 (月)

車両損害保険金は当該交通事故に係る物的損害の全体を補填するものとして「対応の原則」を柔軟に捉えた事案

東京高裁H30.4.25    
 
<事案>
X1の運転車両と、後続して進行してきた、Y2社の所有車両とが接触したという事案において、
Y2社との間で締結した自動車保険契約に基づき保険金を支払った保険会社Y3が、X1に対し、Y2社のX1に対する民法709条に基づく損害賠償請求権の一部を代位取得したとして、損害賠償金の支払を求めた。
 
<争点>
保険会社Y1が代位取得する損害賠償請求権の範囲・額 
 
<原審>
Y2社が被った損害:
車の修理費用87万8850円と
休車損害11万7988円
の合計99万6838円
自動車保険契約においては、免責分として10万円を控除した上、車両損害保険金を支払う旨の特約がある。
保険会社に移転せず、被保険者又は保険金請求権者が引き続き有する債権は、保険会社に移転した債権よりも優先して弁済されるものとする旨の定めがある。
保険会社Y3は、本件事故に係る車両損害保険金として、修理費用87万8850円から免責分10万円を控除した77万8850円を支払った。
X1とY2社との過失割合は、X1側7割、Y2社側3割。
Y2社側が請求できる額は、修理費用のうち損害が填補されていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2582円の合計18万2592円、
保険会社Y3が代位取得するY2社のX1に対する損害賠償請求権の範囲については、修理費用87万8850円に3割の過失相殺をした61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の程度で認められる。
 
<判断>
交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、特段の事情がない限り、交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが当事者の意思に合致し、被害者救済の見地からも相当。
本件では、修理費用87万8850円と休車損害11万7988円の合計99万6838円が車両に関してY2社が被った物的損害
保険会社Y3が支払った保険金はこれらの物的損害の全体を填補するものというべき

自動車保険契約の被保険者であるY2社に事故の発生につき過失がある場合には、車両損害保険条項に基づき被保険者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社Y3は、被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額が保険金請求者に確保されるように、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が過失相殺前の損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当。(最高裁H24.2.20)

本件において保険会社Y3が支払った車両損害保険金77万8850円は、被害者の過失割合である3割に相当する29万9051円にまず充当され、これを控除した残額である47万9799円が加害者の過失割合に相当する部分に充当
⇒保険会社Y3は、X1に対し、47万9799円の支払を求めることができる。
 
<解説>
●争点:
自動車保険の車両損害保険条項に基づき保険金を支払った損害保険会社が請求権代位で取得する権利の範囲をどう捉えるか? 
 
●請求権代位:
保険者の保険給付義務の発生原因と同一の事由に基づき、被保険者が第三者に損害賠償請求権等の権利を取得した場合において、保険給付を行った時に、保険者が、その権利を当然に取得するという制度。 

保険法 第二五条(請求権代位)
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一 当該保険者が行った保険給付の額
二 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
 
●対応の原則:
代位の対象となる権利は、保険契約による損害の填補の対象と対応する損害についての権利に限られるとする原則

最高裁H24.2.20の宮川補足意見:
保険代位の対象となる権利は、保険による損害填補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定される(対応の原則)
⇒原審が本件保険金について・・・損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金に充当するとしたことは、相当ではない。
 
●差額説 
取得する請求権の量的範囲については、
例えば被害者に過失があって、過失相殺がされ、被保険者が加害者に対して有する請求権が損害額より少ないというような場合において、請求権代位がどの範囲で生じるかという問題。

最高裁昭和62.5.29:
損害額の一部について保険給付が行われたときは、保険者は支払った保険金の額の損害額に対する割合に応じた債権を取得するという比例説
but
現行の保険法25条は、
損害額の一部について保険給付が行われたときは、保険給付後も被保険者に損害が残存することになる(未填補損害の存在)⇒被保険者に利得が発生してしまう範囲、すなわち被保険者が加害者に対して有する権利のうち残存する損害(未填補損害)額を超える部分に限って代位するという差額説。

人身傷害条項が定める人身傷害保険においては、
この未填補損害を、保険約款所定の基準により算定された額で捉えていくとうい説と民法上認められるべき裁判基準により算定された損害の額として捉えていくとう2つの考え方があったが、
最高裁H24.2.20は後者の裁判基準による損害の額で捉えていく説を採用
 

原審:
対応の原則に従って、本件で被保険自動車の損害を修理することができる場合に当たる

車両損害保険条項による損害の填補の対象は、修理費用分であり、代位は、修理費用に該当する損害部分に係る権利部分のみを対象とするものであり、休車損害部分は代位の対象にならない。
その上で、被保険者が加害者に対して有する権利のうち未填補損害額を超える部分に限って代位するという差額説。

本判決:
対応の原則を柔軟に捉え、自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、交通事故に係る物的損害の全体を填補するもの、すなわち、休車損害部分にも及ぶと捉えた(それが当事者の意思に合致するとした)。

判例時報2416

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2019年11月 3日 (日)

タクシー会社の統括運転管理者に対する危険性帯有者(道交法103条1項8号)であることを理由とする運転免許停止処分が違法とされ、国賠請求が認められた事例

神戸地裁H30.11.30    
 
<事案>
タクシー会社の運転手数人が速度超過運転を繰り返していた⇒Y(兵庫)県県警本部長がタクシー会社の統括運行管理者であるXに対し、
道交法103条1項8号、同法施行令38条5項2号ハに該当する事実(危険性帯有者 下命・容認(速度超過))があるとして30日間の運転免許停止処分
⇒XがY県に対し、国賠法1条1項に基づき110万円の損害賠償を求めた。 
 
<規定>
道交法 第一〇三条(免許の取消し、停止等)
免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が前条の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
八 前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき
 
<解説>
Y県公安委員会は、免許の効力の停止に関する事務をY県警本部長に委任。
警察庁交通局長は、平成26年5月23日付け通達で、各都道府県警察の長に対し、道交法に関する行手法に基づく審査基準、標準処理期間及び処分基準のモデルの改定を通知。 
前記通達においては、危険性帯有者に関する具体的な判断基準として、
「自動車の使用者(・・・・その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む。)」が、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、違反行為・・・を命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認し」、その者が「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」は、危険性帯有者に当たるとして、免許の効力を所定の期間・・・停止する旨が処分基準のモデル(「本件モデル」)とされている。
Y県警本部長は、道交法施行令38条5項2号ハによる免許の効力を停止する場合の処分基準として、本件モデルと同様の処分基準(「本件処分基準」)を設定し公表。
 
<争点>
本件運転免許停止処分が国賠法1条1項に反し、違法か。 
 
<判断> 

X:本件処分基準の設定自体が違法であると主張。
vs.
Y県警本部長が本件モデルに準じて本件処分基準を設けたことは、十分に合理的で相当である⇒Xの主張に理由なし。 


X:Xを危険性帯有者と認定した点は誤りであると主張。
危険性帯有者の判断基準として、
Xにおいて、
本件速度超過運転を容認していること、
自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせると評価すべき事情の存在
が必要。 

統括運行管理者であったXは、本件事業所の運転者が速度超過等の違法行為をたびたび犯していたことを認識し、これを放置すれば同様の違反行為が繰り返される蓋然性があると容易に予見することができた
⇒①の要件は満たしている。

Xは、約5kmの通勤及び統括運行管理者ついて側乗等をする場合はあるが、自らタクシー乗務員として自動車を運転することはない⇒Xが前記容認行為をしたことをもって、直ちにX自身がタクシー乗務員として運転することについての心理的適性が欠けていると評価することは困難⇒②の要件は具備していない。

Xに対する本件免許運転停止処分は違法⇒22万円の損害賠償を認めた

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2019年11月 2日 (土)

人格権(名誉権)に基づきされた、批判的評価の口コミ投稿についての、仮の削除請求

東京高裁H30.6.18    
 
<事案>
歯科医院を経営する医療法人Xが「Google マップ」という地図情報サービスの地図上の店舗・施設について感想・評価等のいわゆる口コミを投稿するウェブサイトを管理・運営するYに対し、当該歯科医院に関する批判的評価が記載された口コミ投稿について、人格権に基づく妨害排除請求としての仮の削除を求めた。 
 
<原審>
1件につき、仮の削除請求が認められた。

他の1件について:
担当医師の当日の治療及び翌日以降の対応に関する批判的意見等を記載したものではあるが、
受忍限度を超えてXの社会的評価を低下させるものではない
違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないとの疎明がない
⇒申立てを却下。 
 
<判断>
抗告棄却
傍論として、次の通り示した。
①事業者側は、不満を述べる口コミについても、ある程度受忍していくことが社会的に求められる
ウェブサイトへの書込みは、国民の表現の自由や知る権利の保障に関係する事柄社会的評価の低下や違法性阻却事由を窺わせる事情の不存在についての疎明があったと判断するには、基本的人権との兼ね合いにも配慮して慎重でなければならない
書込みをした者が当事者にならない本件においては、Xの疎明に対してYが実質的に反証していくことは、事実上不可能に近いことに配慮し、非常に慎重でなければならない。

<解説>
インターネットの検索事業者が生成した検察結果に対するプライバシー侵害に基づく削除請求については、最高裁H29.1.31がある。 

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離婚訴訟被告からの、原告の不貞行為の相手方に対する損害賠償請求訴訟と家裁の管轄

最高裁H31.2.12     
 
<事案>
配偶者から離婚訴訟を提起された被告Yが、同訴訟において、配偶者Aは第三者Xと不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚訴訟の棄却を求める一方で、前記不貞行為を理由とするXに対する損害賠償請求訴訟を横浜地裁に提起

Xが、人訴法8条1項に基づき、前記損害賠償請求訴訟を離婚訴訟の係属する横浜家庭裁判所へ移送するよう申し立てた。 
 
<規定>
人訴法 第八条(関連請求に係る訴訟の移送)
家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2前項の規定により移送を受けた家庭裁判所は、同項の人事訴訟に係る事件及びその移送に係る損害の賠償に関する請求に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない。
 
<原々審>
前記損害賠償請求訴訟を横浜家庭裁判所に移送するとの決定。 
 
<判断>
離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、前記被告が前記第三者を相手方として提起した前記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は、人訴法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」に当たる
 
<解説> 
●損害賠償請求訴訟については、地裁又は簡裁に管轄がある。(裁判所法24条1項、33条1項1号)。
but
人訴法は「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」(「関連損害賠償請求」)について家裁に管轄を認める

人訴法17条1項は、人訴の請求と関連損害賠償請求は1の訴えですることができる旨を規定
②同条2項は、関連損害賠償請求の訴えは人事訴訟が係属している家裁に対して提起することができる旨を定め、
③人訴法8条1項は、人事訴訟が係属している場合において、関連損害賠償請求の訴えが第一審裁判所に提起されたときは、その第一審裁判所は関連損害賠償請求訴訟を前記人事訴訟が係属する家庭裁判所に移送することができる旨を規定。

関連損害賠償請求が人事訴訟の請求原因事実を基礎とするものであり、
両者の審理判断において主張立証の観点から緊密な牽連関係があり、
③関連損害賠償請求を人事訴訟の請求を併合し、又は反訴の提起をすることを許すことについては、当事者の立証の便宜及び訴訟経済に合致し、
④しかも人事訴訟の審理に別段の錯そう遅延を生ずるおそれはない

関連損害賠償請求を人事訴訟に併合して審理できるようにした

● 関連損害賠償請求も人事訴訟の当事者の一方から他方に対する請求に限られず、第三者に対する請求であってもよい。(最高裁昭和33.1.23)
国際裁判管轄の場面では、関連損害賠償請求は人事訴訟における当事者の一方から他方に対する請求に限定されている(人訴法3錠の3)。
 
● 離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、前記第三者を相手方とする損害賠償請求訴訟を離婚訴訟の係属する家庭裁判所に提起することができるか?

東京家庭裁判所においてはそのような訴訟については、受理して地方裁判所への移送をしないとの取扱い。

本件決定の考え方に沿う。

判例時報2416

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2019年11月 1日 (金)

住民訴訟の控訴審係属中に、市議会が、不当利得返還請求権を放棄する旨の議決を行ったことの適法性が問題となった事例

最高裁H30.10.23    

<事案>
鳴門市(「市」)は、市が経営する競艇事業に関し、競艇場に近接する水面に漁業権の設定を受けている2つの漁業協同組合に対し、公有水面使用協力費を支出。
この本件協力費の支出が違法であるとして地自法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟が提起され、その控訴審係属中に、その請求に係る当該支出を行った市公営企業管理者企業局長に対する不当利得返還請求権を放棄する旨の市議会の議決

その権利放棄議決の適法性が争点。
 
<原審> 
本件協力費は漁業補償としての性格を喪失し、協力金という趣旨であるとしても高額ににすぎる⇒本件支出は合理性、必要性を欠くとして違法。
①Yは、その合理性、必要性の基礎となる事情について調査し、検討すべき義務を負っていたにもかかわらず、漫然と従前の経緯を踏襲して支出を行った
②2漁協も、支出の違法性を基礎付ける事実関係を認識した上で、多額の利益を得た
⇒いずれも帰責性は大きい。

本件議決の提案理由等についても的確な説明責任が果たされているとはいえず、漁業協同組合の財政的基盤がぜい弱であることは公知の事実であるが、不当利得返還請求権を行使することによる2漁協の経営への打撃について的確な立証はなく、2漁協に真に救済が必要であるならば別途支援策を講ずべき。

本件議決は、地自法の趣旨等に照らして不合理であって裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるもので違法であり、各請求権の放棄は無効
 
<判断> 
●住民訴訟係属中にされたその請求に係る請求権の放棄議決の適法性の判断枠組みに関する最高裁H24.4.20、H24.4.23を参照し、
普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって、その適否の実体的判断は、議会の裁量権に基本的に委ねられているものというべきであるところ、
住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議決がされた場合には、個々の事案ごとに、当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して、
これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地自法の趣旨等に照らして不合理であって前記の裁量権の範囲を逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となるものと解するのが相当。 

神戸事件最判等:
裁量権の逸脱又はその濫用を審査する際の考慮要素として、
①当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、
②当該議決の趣旨及び経緯、
③当該請求権の放棄又は行使の影響、
④住民訴訟の係属の有無及び経緯、
⑤事後の状況その他の諸般の事情。
財務会計行為等の性質、内容等については、その違法事由の性格や当該職員又は公金の支出等を受けた者の帰責性等が考慮の対象とされるべき。

本件の諸事情を総合考慮⇒本件議決が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるということはできず、Y及び2漁協に対する請求権の放棄は有効にされた

● 考慮された諸事情 
◎ 支出が行われた当時、競艇場に近接する水面において2漁業の組合員らが漁業を営んでいたこと等⇒競艇事業の円滑な遂行のために本件協力費を支出する必要があると判断することが致命的観点を踏まえた判断として誤りであることが明らかであったとはいえない
本件協力費の支出が数十年にわたって継続され、年度ごとに協定書が作成され、市議会において決算の認定も受けていた等所要の手続が実践されていたこと等
本件協力費の支出が合理的、必要性を欠くものであったことが明らかな状況であったとはいい難い

◎ 本件協力費の支出に関し、2漁協から不当な働きかけが行われたなどの事情はうかがわれず、Yが私利を図るために支出をしたものでもない。 

◎ 本件議決は、本件協力費の支出が違法であるとの前件訴訟の第一審判決等の判断を前提とし、不当利得返還請求権を行使した場合の2漁協への影響が大きいことやYの帰責性が大きいとはいえないこと等を考慮してされたもの
⇒Yや2漁協の支払義務を不当な目的で免れさせたものということはできない。

◎ Yの損害賠償責任は本件協力費の支出によって何らの利得も得ていない個人にとっては相当重い負担となり、また、2漁協に対する不当利得返還請求権の行使により、その財政運営に相当の悪影響を及んでいるおそれがある一方、
これらの請求権の放棄によって市の財政に多大な影響が及ぶとはうかがわれない。 

◎ 前件訴訟において本件協力費の支出を違法とした判決を契機に、本件協力費の支出は取りやめられ、Yに対する減給処分が行われるなどの措置が既にとられている。
 
<解説>
請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容等について考慮される違法事由の性格や帰責性の程度。
原審:Yが合理性、必要性の基礎となる事情について調査、検討を行わずに漫然と従前の経緯を踏襲して支出⇒帰責性大。
vs.
個別の具体的な法令の規定に違反する場合であれば、調査を行うことによって違法性が判明する場合も多いと思われるが、
本件のように関係者の協力を得るための政策的観点からの支出が諸事情に鑑みて高額に過ぎるかどうかという場合には、様々な事情を多角的、総合的に判断してされるという前記支出の性質上、これを違法とする判決が既に出ていたなどの事情があれば格別、通常は、その違法性について調査すれば容易に判明するというものではない

原審:2漁協も違法性を基礎付ける事実は認識していた⇒帰責性大。
vs.
①前記のとおり支出を行う市側でさえその違法性の判断が容易ではなかった
2漁協は本件協力費の支出の適否について判断する立場にはなく、毎年度協定が締結され、それに基づいて支出を受けるという手続が履践されていた
2漁協の帰責性が大きいとする原審の判断には異論の余地もあろう。
本判決:
本件協力費が、競艇事業の円滑な運営のために関係者の理解、協力を得るべく行われたものであり、このように地方公営企業の目的を遂行するための政策的観点からの支出の適否については、支出の時点において、その違法性、すなわち高額に過ぎて合理性や必要性を欠くものであったことを認識することが容易であったのかという視点から検討し、
本件の事実関係の下においては、本件協力費の支出が合理性、必要性を欠くものであったことが明らかな状況であったとはいい難い
その支出が違法であることを容易に認識し得る状況にあったとはいえないから、その帰責性が大きいと言うことはできないとした。

判例時報2416

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