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2019年10月14日 (月)

地方公共団体の職員によるセクハラ⇒停職6月の懲戒処分の事案

最高裁H30.11.6      
 
<事案>
Y(兵庫県加古川市)の男性職員である自動車運転士のXが、勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員に対してわいせつな行為等をした⇒停職6月の懲戒処分⇒Yを相手に取消しを求めた。

本件処分の処分理由:
Xが、
勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて、そこで働く女性従業員の手を握って店内を歩行し、当該従業員の手を自らの下半身に接触させようとする行動をとったこと(行為1)
以前より当該コンビニエンスストアの店内において、そこで働く従業員らを不快に思わせる不適切な言動を行っていたこと(行為2)
 
<原判決>
停職6月とした本件処分が、重きに失するものとして社会通念上著しく妥当を欠くものであり、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであって違法
⇒Xの請求を認容 
 
<判断>
原判決がその判断の根拠とした事情に関し、
本件従業員が終始笑顔で行動し、Xによる身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは、客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある
➁本件従業員及び本件店舗のオーナーがXの処罰を望まないとしても、それは、事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものと解される
Xは以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2)これを理由の1つとして退職した女性従業員もいた
行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上、複数の新聞で報道されるなどしており、行為1が社会に与えた影響は決して小さいものということはできない

これらの事情につき、原判決とは異なる評価をすることができる。

本件処分が相当に重い処分であることは否定できない
but
行為1が、客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であって、Yの公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり、
Xが以前から本件店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情

本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず、本件処分をした市長の判断が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない

Xの請求を棄却。
 
<解説> 
公務員に対する懲戒処分について、
懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、
その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となる
(最高裁昭和52.12.20) 

同最高裁判決は、
懲戒権者の裁量判断の適否に関する司法審査の方法について、
裁判所が「懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではな」いものと指摘。

裁判所が懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分の適否を判断するような、いわゆる判断代置型の判断の仕方は誤り

懲戒処分のうち免職処分は、職員としての地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるから、その選択に当たっては特に慎重な配慮を要するものと解される。(最高裁昭和49.2.28)

免職処分以外の懲戒処分の裁量権の範囲は、免職処分と比較すると相対的に広いものと解される。
 
●同じ外形的な事実を前提としても、異なる評価がされ得る。
(原審の評価は表層的)
同種行為の常習性や、公務員の立場にある者の非違行為が社会に与える影響に関しても、どの範囲の事情に着目するかによって異なる評価がされる。 
懲戒事由に該当する行為の評価に関わる社会観念又は社会通念を適切に捉える必要がある。

ex.
セクシャル・ハラスメントやわいせつ行為に対する社会の意識の変化。

判例時報2413

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