公選法205条の選挙無効原因としての「選挙の規定に違反することがあるとき」
最高裁H31.2.28
<事案>
平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙の選挙人である上告人兼申立人Xが、満18歳、満19歳の日本国民が衆議院議員の選挙権を有するとしている公選法9条1項の規定(「本件規定」)は憲法15条3項に違反⇒被上告人兼相手方(長崎県選挙管理委員会)を相手方として、長崎県第4区の選挙を無効とすることを求めた。
<規定>
憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
憲法 第44条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
公選法 第二〇四条(衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関する訴訟)
衆議院議員又は参議院議員の選挙において、その選挙の効力に関し異議がある選挙人又は公職の候補者(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては候補者又は候補者届出政党、衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては衆議院名簿届出政党等、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては参議院名簿届出政党等又は参議院名簿登載者(第八十六条の三第一項後段の規定により優先的に当選人となるべき候補者としてその氏名及び当選人となるべき順位が参議院名簿に記載されている者を除く。))は、衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院(選挙区選出)議員の選挙にあつては当該選挙に関する事務を管理する都道府県の選挙管理委員会(参議院合同選挙区選挙については、当該選挙に関する事務を管理する参議院合同選挙区選挙管理委員会)を、衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては中央選挙管理会を被告とし、当該選挙の日から三十日以内に、高等裁判所に訴訟を提起することができる。
公選法 第二〇五条(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
・・・
<原審>
公選法の規定が憲法に違反することを選挙無効の原因として主張することも許される。
Xは、選挙権が与えられるべきでない満20歳に達しない満18歳以上の者が選挙人として参加したために選挙の公正が害された旨を主張しているものと解され、
選挙人が自己の選挙権が侵害されたとして訴訟を提起することは考え難い
⇒本件規定の意見を主張することも許される。
本件規定は憲法15条3項に違反しない⇒請求棄却。
Xからの上告及び上告受理申立て
<判断>
年齢満18歳及び満19歳の日本国民につき衆議院議員の選挙権を有するとしている本件規定が違憲である旨の主張が、選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときに当たることをいうものとはいえず、また、
年齢満18歳及び満19歳の日本国民につき衆議院議員の選挙権を有するとしていることの憲法適合性という事項の性質やその選挙制度における位置付け等に照らし、公選法204条の選挙無効訴訟において本件規定の意見を選挙無効の原因として主張することを許容すべきものということもできない。
⇒
本件規定の違憲を主張することができない。
⇒
明らかに適法な上告理由に当たらないとし、また、民訴法318条1項にょり受理すべきものとも認められない。
<解説>
●公選法205条の選挙無効原因の意義等
公選法204条:
客観訴訟(民衆訴訟)である選挙無効訴訟につき、「選挙人又は公職の候補者」のみがこれを提起し得るものと定め
同法205条1項:
その選挙無効原因につき、「選挙の規定に違反することがあるとき」と規定。
「選挙の規定に違反することがあるとき」:
主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのよな明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指す。(最高裁昭和27.12.4)
最高裁昭和51.9.30:
「選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき」とは、
①候補者が他からの干渉によってその政見その他の主張を自由に選挙人に訴えることを妨げられ、又は、候補者となろうとする者が候補者となることを妨げられ、その結果、
②選挙人が、候補者の政見その他の主張を正しく理解することができず、又は、他の甲h祖はを選択することができず、投票すべき候補者の自由な意思による選択を妨げられたような場合であって、
③その程度の著しいもの
が主として想定されたと考えられる。
●選挙制度の憲法適合性について判断した判例との関係
最高裁は、
投票価値の格差の憲法適合性が問題となったいわゆる定数訴訟(最高裁昭和51.4.14)において、
①選挙無効訴訟が現行法上選挙人が選挙の適否を争うことのできる唯一の訴訟であり、他に是正の機会がないことや、
②国民の基本的権利を侵害する国権行為に対してはできるだけ是正の途が開かれるべき
⇒公選法204条に基づき定数訴訟を提起することを許容する旨の判示。
~
単純に再選挙を行うだけでは違法状態が解消されるものではなく、その是正のためには公選法等の改正を要するものであって、本来公選法205条のが想定していた無効原因と異なる
⇒選挙無効訴訟の特殊な類型として特例的にこれを許容しているものと解することもできる。
公選法204条の選挙無効訴訟において選挙権又は被選挙権を制限する公選法の規定の憲法適合性が主張された事案につき、平成26年最決及び平成29年最決は、
その制限を受ける者が自己の選挙権又は被選挙権の侵害を理由にその救済を求めて争う余地があるとしつつ、同訴訟においてその制限の憲法適合性を主張することを認めなかった。
~
他に公選法の規定の意見を主張してその是正を求める手段があるか否かという観点も加味して、これを許容すべきか否かを判断。
~
判例は、公選法204条の選挙無効訴訟において主張し得る同法205条1項所定の選挙無効の原因に当たるか否かについて、
他の是正手段の有無を踏まえつつ、
①国民の基本的権利を侵害する国権行為であるか否かやその侵害の程度、また、
②「選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき」に係る判例法理
を前提として、選挙無効訴訟の特殊な類型として特例的にこれを許容すべきものであるか否か、を考慮して判断しているものと解することができる。
●選挙無効訴訟における本件規定の違憲主張の可否
①満18歳以上の日本国民は、選挙権の制限を受けることがない⇒自己の選挙権が直接的に侵害されたことを理由とすることは想定されない
②Xの主張する満18歳、満19歳の日本国民に選挙権を付与したという本件規定の違憲事由については本件訴訟以外の形でその合憲性を問う手段がない
⇒選挙無効訴訟において本件規定に係る前記の違憲事由を主張することが許容されるべきかが問題。
①憲法15条3項は成年者による普通選挙を保障すると規定するにとどまり、憲法44条が選挙人の資格は法律で定めるものと規定
②満18歳、満19歳の日本国民に選挙権を認めたとしても、既存の選挙人の選挙権の行使に影響を与えるものではなく、投票価値の稀釈化が若干生じるにとどまる程度
⇒
本件規定の違憲主張によっても、国民の基本的権利を侵害する国権行為であると認めることは困難。
判例時報2415
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