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2019年10月 7日 (月)

外科医師の職種限定合意、配転命令等が無効とされた事例

広島高裁岡山支部H31.1.10      
 
<事案>
Xは、Yが運営する病院(A病院)に勤務する外科医。 
Xは、Yから、Xを消化器外科部長及び消化器疾患センター副センター長から解任し、がん治療サポートセンター長に任命する配置転換命令(本件配転命令)及び外来・入院・手術・カンファレンス等、外科の一切の診療に関与することを禁止する命令(本件診療禁止命令)を受けた。

Xは、Yに対する以下の仮処分命令の申立て
がん治療サポートセンター長として勤務する雇用契約上の義務がないことを仮に定める仮処分命令の申立て
本件診療禁止命令に従う義務のないことを仮に定める仮地位仮処分命令の申立て
XがYの求める調査会に出席しなかったことを理由とする懲戒処分の事前差止めを求める仮地位仮処分命令の申立て
 
<原決定>
全部却下 
 
<判断> 
申立て①②を認容し、③を却下。 
 
<解説>  
●配置転換命令(「配転命令」)の意義
配転:従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるもの

長期的な雇用を予定した正規従業員については、職種・職務内容や勤務地を限定せずに採用され、企業組織内での従業員の職業能力・地位の発展や労働力の補充・調整のために系統的で広範囲な配転が行われていくのが普通。
このような長期雇用の労働契約関係においては、使用者の職務内容や勤務地を決定する権限が帰属することが予定されている。(菅野)
 
●職種限定合意の成否
一般に、職種限定合意等に反する配転命令は無効と解されている。
本決定:職種限定合意の成立を認め、これに反する本件配転命令及び本件診療禁止命令を無効とした。
一般に、労働契約の締結のなかで、当該労働者の職種が限定されている場合は、この職種の変更は一方的命令によってはなしえない。(菅野)
Xは外科医師⇒職種限定合意が認められる極めて典型的な事例。
but
原決定はこれを否定

①明示的な合意がない
vs.
黙示の合意を否定する理由とならない。

②就業規則で兼務があり得るとされている
vs.
専門とする診療科での診療を禁止することを根拠づけるものではない。
 
●配転命令権の濫用 
配転命令権が乱用された場合、配転命令は無効(通説・判例)
職種又は勤務場所を限定する合意については、労働契約の内容として個々の配転命令権を制限する合意までは認め得なくても、労働者の期待等を考慮し、・・・命令権の濫用を基礎づける事情(著しい職務上又は生活上の不利益)として考慮されることもある。(西村)

本決定:
職務限定合意があることを理由として、権利濫用の判断に当たり、高度の業務上の必要性を要求し、かつ労働者の被る不利益について検討する中で、職種限定合意を基礎づける事情について考慮
 
労働者が配転命令等の無効を争う訴訟における訴訟物等 
労働者が使用者に対して就労させることを請求する権利(就労請求権)を有するか?

労働契約は義務であって権利ではない(使用者は、賃金を支払うかぎり、提供された労働力を使用するか否かは自由であって、労働受領義務はない)

特約ある場合や特別の技能者である場合を除いては就労請求権を否定。(通説・判例)

配転命令等を無効確認請求事件における訴訟物は、「雇用契約に基づく就労義務の存否」であり、「配転無効であることを前提とする主張を請求の趣旨に構成する仕方は、新部署における労働契約上の就労義務がないことの確認を求めるという方法しかない」
but
労働者が配転命令を争う訴訟において求めるべき請求内容は、配転先における就労義務のない労働契約上の地位の確認
but
労働契約上、職種や勤務地が限定されており、配転命令がその限定に反して無効であるという場合には、配転前の職種ないし勤務地において就労する地位の確認を求めることができるとする見解(菅野)もある
 
●仮処分に特有の問題 
仮の地位を定める仮処分の被保全権利は、本案事件の訴訟物であると解されている。
新職場に勤務する雇用契約上の義務の不存在確認を求める場合の被保全権利:当該義務の不存在確認請求権(申立て①)
申立て②に係る被保全権利:本件診療禁止命令(業務命令)に従う義務の不存在確認請求権。
民事保全法 第23条(仮処分命令の必要性等)
・・・
2仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に保全の必要性が認められる。

仮処分によって債権者が受ける利益と仮処分によって債務者が被る不利益を比較衡量して、被保全権利が疎明の段階であっても、仮処分を発令しないことによって生ずる債権者の不利益が著しく大きいと認められるときに保全の必要性が存在すると解されている。
配置転換の効力停止を求める仮処分については、転居を伴うような転勤の場合、保全の必要性が認められやすいが、部内移動や転居を伴わない転勤の場合、保全の必要性は容易には認められないことになろうが、
技能の低下、精神的苦痛、昇給等への影響、労働組合活動への支障、懲戒処分のおそれ等を理由に保全の必要性をみとめるとの立場も考えられる。

本件は、特段の事情が認められる典型的事案。

判例時報2412

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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