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2019年10月 8日 (火)

ビルから落下させて殺害での起訴について無罪となった事案

大阪高裁H30.7.5      
 
<事案>
殺人、脅迫、暴行の公訴事実。
殺人については、被告人が、交際相手であるVを、ビルの5階から路上に落下させて殺害したというもの。
被告人は、Vは、自ら落下、すなわち自殺と主張。 
 
<原審>
殺人について無罪。 
 
<判断>
Vの落下状況から、自殺の可能性を否定することや、他殺と自殺の可能性の大小を論じることはできないし、そのほか現場や遺体の客観的状況からも、Vが自殺したことがあり得ないとはいえない⇒殺人について無罪。 
 
<規定>
刑訴法 第三八二条の二[量刑不当・事実誤認に関する特則]
やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。

刑訴法 第三九三条[事実の取調べ]
控訴裁判所は、前条の調査をするについて必要があるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる。但し、第三百八十二条の二の疎明があつたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取り調べなければならない。

刑訴法 第三九二条[調査の範囲]
控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。
②控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。
 
<解説> 
●本判決では、検察官の事実の取調べ請求を全て却下しているが、検察官が請求した証拠は、追加の落下実験に関するものであり、それ自体は科学性、客観性を相当程度肯定することができるものであった。
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刑訴法382条の2第1項の「やむを得ない事由」を否定した上、
同法393条1項本文によって取り調べる必要性も否定。

「やむを得ない事由」:
原審における争点整理の経過や内容、証拠関係について検討⇒検察官は原審の公判前整理手続終了前、遅くとも原審公判中に行っておくべきであった立証準備を怠っていた⇒否定。

「必要性」:当該証拠の位置付けを、原判決の説示と対比させ、原判決の当否を左右し得るものかを検討した上で、これを否定。
~控訴審が事後審であることが強く意識されている。

控訴審裁判所が事実取調べ請求に係る証拠の位置付けを把握するのは、立証趣旨や、やむを得ない事由及び必要性に関する検察官の主張を通じてであることが通常であろうが、
提示命令を出して、証拠の内容を確認した上でこれを把握することも許されよう。
 
●本判決:
殺人⇒控訴棄却
脅迫⇒無罪とした原判決には法令適用の誤りひいては事実誤認がある⇒破棄自判
原判決も有罪としていた暴行についても破棄 

暴行については、被告人からの控訴はなく、
検察官からの公訴はあったものの、およそ控訴理由を主張しておらず、
暴行につき原判決は可分
⇒控訴は不適法(いわゆる不成立)
but
脅迫につき懲役刑を科すのであれば、脅迫の部分に加えて、暴行の部分についても原判決を破棄し、脅迫と暴行ににつき併合罪処理をして1つの刑を科さなければならないと解されており、
これは、本件のように、一方の罪において控訴はあるが控訴理由の主張がなく、それだけをみれば控訴が不適法となる場合でも同様と解されている。(最高裁昭和38.11.12)

判例時報2412

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