違法薬物の未必的認識の有無の判断が分かれた事例
大阪高裁H30.5.25
<一審>
①高額報酬(4万香港ドル)
②通常のルートでは日本に持ち込めないもの
③スーツケースに入る程度の大きさ(量)
④持ち込みに成功した場合に大きなメリットがあるもの
⑤本件前に「豚肉を身体に縛って日本に持ち込む仕事」を紹介されていた
⑥税関での言動
⑦取調べにおいても金塊だと思っていたとは供述していない
~
それぞれ違法薬物であるとの認識をある程度うかがわせる事情であるし、これらを総合すると強くうかがわせるが、いずれも金塊だと思っていいたとしても説明が付く事情。
⑧被告人供述には一部信用できない部分はあるが、金塊を運ぶ指示を受けたことはトークアプリ上のやり取りによって裏付けられている。
⇒違法薬物の未必的認識は認められない。
<判断>
①~④
⇒
特段の事情がない限り、違法薬物の未必的認識を有していたとの一応の推定が働く。
特に本件では税関を通過できない物であることを認識⇒より強い推認が働く⇒これを覆す特段の事情がない限り、少なくとも未必的認識が肯定される。
一審判決は、これらを違法薬物の認識を推認させる一事情としてしか評価しておらず、推認法則に従った判断をしていない。
推認を覆す特段の事情があるかにつき、①~⑧を検討しても、被告人が金塊と信じ込んだといえるような事情はなく、かえって金塊との認識自体に疑問を生じさせる事情がある。
金塊の認識が未必的にとどまる場合には、違法薬物との認識と排斥し合うものではなく、併存し得ることは論理上明らかであるのに、排除するかのように扱って検討を進めているようにもみえ、論理則に反している疑いがある。
⇒一審判決の事実認定は、経験則に反し、論理則に反している疑いがある。
<解説>
最高裁H24.2.13:
控訴審が一審判決に事実誤認があるというためには、その事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。
個々の間接事実が故意を推認させる力は具体的事情によって種々である。
経験則についてもどのような場合にどのような経験則が認められるかについては慎重に検討しなければならない。
判例時報2413
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