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2019年10月30日 (水)

秘密管理性が否定された事例

青森地裁H31.2.25    
 
<事案>
ピアノの調律師Yが、Xとの間の業務委託契約を終了するに当たり、Xのピアノ調律業務の顧客らに対し、その旨を伝える⇒本件委託契約終了後、前記顧客らが、Xではなく、Yに対して直接、ピアノの調律を依頼するようになった。 
 
<主張>
X:Xの保有するピアノ調律業務の顧客の指名、住所、連絡先等の顧客情報(「本件顧客情報」)は不正競争法2条6項の「営業秘密」に該当し、これYに対して示したところ、Yが図利加害目的をもって本件顧客情報を使用して、同条1項7号の「不正競争」をした⇒同法4条に基づき、損害賠償金500万円(逸失利益等)を請求。 

Y:
①XがYら調律師らに調律業務を依頼する際、1か月に1回、その後の約1か月間に調律時期になると予測される顧客の指名、電話番号、住所等が記載されたリスト及び同リスト記載の顧客の氏名、電話番号、住所等が記載された複写式の3枚綴りの「調整完了報告書」を、Xの店舗の事務室にある机の施錠ができない引出しに入れて、調律師らが、同事務所を訪れた際に、その引出しから本件各書類を持ち出して使用していた
②Xが、調律師らに対し、本件各書類の廃棄等、本件各書類を使用した後の取扱いを指示していなかったこと等

本件顧客情報には秘密管理性がなく、不正競争法2条6項の「営業秘密」に該当しない
 
<判断> 
●秘密管理性が営業秘密の要件となっている趣旨:
適切に管理されておらず、容易に競争優位性が失われるような情報に法的保護を与えても、研究や開発のインセンティブにはならない⇒企業が特定の情報を秘密として管理しようとする合理的な自助努力に法的保護を与えるべき
企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が、当該情報に接する従業員等に対して明確化されることによって、当該従業員等の予見可能性、経済活動の安定性を確保することがある

秘密管理性が認められるためには、具体的状況に応じた合理的な秘密管理措置によって、企業の特定の情報を秘密として管理しようとする意思(秘密管理意思)がその情報に合法的に接する従業員等から客観的に認識可能であることを要する。 
 
●具体的な認定
本件顧客情報の性質:
本件顧客情報の一定の有用性を認めつつ、
①ピアノの調律業務は定期的に行われ、顧客と調律師との間の関係が長期的かつ密接なものになりやすい
②ピアノの調律は当該ピアノの設置環境、個性や使用頻度等の情報によって適切に行なうことができ、かかる情報を有する者には一定の優位性がある

ピアノの調律業務においては、氏名、住所、連絡先等の情報があれば容易に顧客を獲得できるものではなく、かかる情報が漏洩すれば直ちに顧客を失うことになるものでもない。

本件顧客情報の価値ないし重要性は限定的であり、厳格な方法による秘密管理措置を要求することは現実的ではないとしても、本件顧客情報に接することができる少数の者にXの秘密管理意思が用意に伝わるような措置がされる必要があった。
 
①本件顧客情報の電子データが管理されているパソコンにはパスワードが設定してあったとしても、パソコンを操作する業務に従事しない調理師らには、かかる措置によって秘密管理意思が用意に伝わるとはいえない
②本件顧客情報の記載された本件各書類につき、Xは、調理師らに対して、回収や廃業などの指示をせず、「マル秘」などの記載もしなかった
③本件各書類は、音楽教室等の講師が自由に出入する事務室にある机の施錠ができない引出しに入れられていた
④調理師らは本件顧客情報の管理に関する研修を受けたこともなく、本件委託契約にも本件顧客情報に明示的に言及した上でその漏洩等を禁止する旨の条項がなかった

Yを含む調律師らに対して秘密管理意思が容易に伝わるような措置がされていたとはいえない⇒秘密管理性を否定

判例時報2415

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