野焼作業で地元住民である作業員3名が焼死⇒同野焼作業の企画・立案を狙っていた被告人両名が過失責任を問われた事案。
東京高裁H31.1.23
<事案>
野焼作業で地元住民である作業員3名が焼死⇒同野焼作業の企画・立案を狙っていた被告人両名が過失責任を問われた。
<原判決>
被告人両名は本件事故を予見できたし、また予見すべきであった⇒結果回避義務の懈怠があった⇒業務上過失致死罪の成立を認めた。
<判断>
被害者ら3人等による本件着火行為は、「野焼き作業の鉄則」(緊急時の避難場所となり得る安全地帯を背にして、その外縁部に着火し焼け跡を広げていく方法で作業を進めること)に反する、原野内で着火するのに等しい危険な作業手順であった。
①野焼き作業においては、具体的な着火場所の選定は現場の状況等を1番よく知り得る立場にある現場の作業員らの判断に委ねられている
②被害者3名を含む現場の作業員らは、経験も豊富で、野焼作業の安全性のための手順を充分にわきまえた者達であった
③現場の作業員らの判断で進められてきたこれまでの野焼作業では、作業員の大きな死傷事故につながるような事故が発生していなかった
④被告人両名は、本件野焼作業の企画・立案を担っていた者はあるが、本件実施計画書は、作業担当責任者らが参加する会議での了承も経て確定しているところ、その過程で事故の危険性について具体的な指摘も受けていない
⇒
被告人両名の立場からすれば、経験豊富な現場の作業員らが、「野焼作業」の鉄則」に反して、原野内で着火するのに等しい危険な行為を行うようなことは、通常は想定し得ないというべきであり、これを、計画の企画・立案の際に、具体的に予見できた又は予見すべきであったとは認められず、結果を回避すべき義務があったとも認められない。
<解説>
被告人に過失責任を問えるか否かを検討するに当たっては、
①発生した事故が具体的にどのような原因によって生じたのかを認定し、
②その原因に即して、被告人の立場において、これに対する予見可能性があるかどうかを検討し、
③予見可能性がある場合に結果回避措置の内容を検討するのが通常。
東京高裁H29.9.20:
天竜川下りの事故で、乗船場に勤務する船頭主任で運行管理補助者である被告人の業務上過失責任を認めた一審判決を事実誤認で破棄し、
被告人には、船頭らに対し危険回避のため適切な操船や状況判断等により安全な運行を確保するための指導・訓練を実施させるよう運行会社側に進言し、自らもそうした指導・訓練を実施するべき注意義務があったとは認め難く、事故発生の現実的危険を認識し得たとは考え難く、転覆についての現実的な危険性を認識し得なかったなどとして、無罪。
判例時報2412
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