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2019年10月

2019年10月31日 (木)

みなし勾留に対する不服申し立ての事案

東京家裁H30.8.7     
 
<事案>
少年による逮捕監禁保護事件について、観護措置(少年法17条1項2号) がとられていたところ、少年が20歳以上であることを理由とする検察官送致決定(同法19条2項)に伴って生じたいわゆる「みなし勾留」に関して、弁護人から準抗告の申立て⇒家庭裁判所が観護措置を取り消し、これによってみなし勾留をなくした事例。
 
<解説・判断>
●少年法45条4号は、観護措置中の少年について、同法20条によって事件を検察官に送致したときは、観護措置を裁判官のした勾留とみなす(「みなし勾留」)。
この規定は、年齢超過を理由とする検察官送致決定(同法19条2項、23条3項)にも準用(同法45条の2)。
みなし勾留に先だってなされる監護措置について、少年法の条文上は「審判を行うために必要があるとき」にとることができると規定(同法17条1項柱書)。
but
実務上は、いわゆる「監護措置の必要性」として
①調査・審判及び保護処分の執行を円滑に遂行するための身柄確保の必要(住所不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ)、
②少年の緊急保護のための前提的身柄確保の必要性、
③収容して心身鑑別を行う必要性
のいずれかが認められる場合に観護措置をとることができると整理。
一方で、勾留についてはは、刑訴法60条1項各号の事由が規定されている。
これは上記①で挙げられるものと重なる事由ではあるが、
①観護措置と刑訴法上の起訴前勾留とでは目的や機能が異なる
②前記②や③の事由は少年審判の目的や機能に特有のもの

観護措置がとられていた事件が検察官に送致される場合に当然に勾留の要件が認められるものではない

家裁は、監護措置がとられている少年の事件について検察官送致決定をする場合には、それに先立って、勾留の要件について検討することが求められる。

勾留の要件ありと判断⇒告知手続(少年審判規則24条の2)を経た上で検察官送致決定。
ないと判断⇒同決定に先立って観護措置を取り消しておかなければならない。
 
●みなし勾留に対する不服申立て

実務では、家庭裁判所に対する準抗告という方法でこれを認めている。 
準抗告の対象
A:検察官に送致するに当たり、観護措置を取り消さなかった措置
B:検察官に送致するに当たり、勾留の要件が存在するという裁判官の潜在的判断
C:擬制された結果としてのみなし勾留そのもの

●本決定:
「原裁判の取消しと「みなし勾留請求」の却下を求める弁護人の申立てに対して、
みなし勾留においては勾留請求と勾留の裁判は存在しないことを指摘しつつ、
その趣旨を善解して、観護措置の取消し(それによりみなし勾留をなくすこと)を求めているものとして応答

主文:
「・・・・保護事件を検察官に送致するに当たり、・・・・観護措置を取り消さなかった措置を取り消す。」「上記観護措置を取り消す。」

前記Aの見解に立っている。

判例時報2415

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2019年10月30日 (水)

テスト出勤制度について争われた事例

名古屋高裁H30.6.26     
 
<事案>
被控訴人(Y、日本放送協会)の従業員(職員)であった控訴人(X)が、精神的領域における疾病による傷病休職の期間が満了したことにより解職

(1)同期間満了前に精神的領域における疾病が治癒し、休職の事由が消滅しており、解職が無効であり、Yとの間の労働契約が存続していると主張して、
①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
②休職期間経過後の賃金及び賞与の支払を求めるとともに、

(2)傷病休職中に行ったテスト出渠区により、労働契約上の債務の本旨に従った労務の提供をし、途中でテスト出局が中止され、これにより労務の提供をしなくなったのはYの帰責事由によるものであるとして、
③テスト出局開始から傷病休職満了までの期間について、労働契約に基づき、職員給与規程(職員就業規則)による賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を、

(3)テスト出局の中止や解雇に至ったことに違法性があると主張し、
④不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料)及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、

控訴審において、
前記③の請求につき、
(4)仮にテスト出局中にXの行った作業が労働契約上の本来の債務の本旨に従った労務の提供に該当しないとしても、労基法及び最低賃金法上の労働に該当し、最低賃金額以上の賃金が支払われるべきであるとして、

⑤テスト出局開始から傷病給食満了までの期間について、労働契約に基づき、最低賃金額相当の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるために予備的請求原因を追加。 
 
<原審>
①~④についていずれも棄却 
 
<解説>
テスト出勤制度について
精神的領域における疾病による休職中の労働者が職場復帰するための有効な手段の1つとされ、厚労省の事業場向けマニュアルとして「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表。
①模擬出勤
②通勤訓練
③試し出勤

●問題の所在 
テスト出勤制度は、法定の制度ではなく、その実施の有無や制度設計は事業者ごとに対応が求められ、制度を整備する必要性が高まっている反面、法的性質は明確ではない
試し出勤の開始が復職に該当せず、休職期間の満了による退職扱いを適法とした事案(東京地裁H22.3.18)
 
<判断>

①合理的理由

③テスト出局は休職者によっても復職につながる利益がある⇒就業規則に、休職を命じた職員には業務に従事させないとの定めがあるからといって、必要性・相当性があり、休職者がテスト出局を行うことに同意している場合まで休職者にテスト出局に伴う業務に従事することを禁止するものではない⇒前記就業規則の定めがあることでテスト出局が違法になるとはいえない
④テスト出局が無給で行われたことに問題があると認められるが、健康保険組合から傷病手当等が支給されていることなどに鑑みると、テスト出局が無給であることをもって違法とまではいえない。

本件テスト出局は適法

●テスト出勤の趣旨、目的に照らせば、休職者の提供する作業の内容は、当該求職者の労働契約上の本来の債務の本旨に従った履行の提供であることを要するものではなく、また、求職者の提供する作業の内容がその程度のものにとどまる限り、Yも休職者に対して労働契約上の本来の賃金を支払うことになるものではない。
テスト出局のように求職者のリハビリと職務復帰の判断を目的として実施され、時間及び作業内容が軽減された労務の提供に対する賃金については、就業規則及び職員給与規程の定めがないものと解される⇒職員給与規程による賃金の支払を認めなかった。
but
テスト出局が職場復帰の可否の判断を目的として行われる試し出勤(勤務)の性質を有する⇒休職者は事実上、テスト出局において業務を命じられた場合にそれを拒否することは困難な状況にあるといえる⇒単に本来の業務に比べ軽易な作業であるからといって賃金請求権が発生しないとまではいえず、当該作業が使用者の指示に従って行われ、その作業の成果を使用者が享受しているような場合等には、当該作業は、業務遂行上、使用者の指揮監督下に行われた労基法11条の規定する「労働」に該当するものと解され、無給の合意があっても、最賃法の適用により、テスト出局については最低賃金と同様の定めがされたものとされて、これが契約内容となり(同法4条2項)、賃金請求権が発生するものと解される。

Xの行った作業を労働契約上の本来の債務の本旨に従った労務の提供と認めなかった
but
Xが出局していた時間は使用者であるYの指揮監督下にあったものと認められる

労基法11条の規定する労働に従事していたものであり、無給の合意があっても最賃法の適用により最低賃金相当額の支払義務を負う
 
<解説>
●本件テスト出局の適法性
本判決:
控訴人が従前にテスト出局が中止されたことがある⇒その期間が24週間と長期であること、無給であること、就業規則では休業者が業務に従事できないとの定めがあるからといって違法とはできない。
vs.
テスト出勤は、職場復帰の判断をするために必要な限度で行われるべきであり、本件テスト出勤は、その期間が24週間と長期であるなど、旧業者に相当な負担を負わせるものであるから、一般論として適法といえるかは疑問の余地がある。
 
●テスト出局中の作業と賃金請求権の発生 
A:「労働者」の要件である「賃金を支払われる者」(労基法9条、最賃法2条1号)を充足しない
B:試し出勤の目的がもっぱら復職可能性の判断にある場合には、指揮命令下の業務従事という評価は妥当せず、賃金請求権は発生しない
C:休職中であっても、休職者と使用者との間に労働関係が存在する以上、使用者の指示に従って業務を行なえば、それは原則として労務の提供であり、労基法や最賃法の適用は免れない
D:客観的な就労実態が労務の提供に該当すると判断される場合、合意の内容にかかわらず、強行法規である労基法、最賃法及び労災法等は適用される

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秘密管理性が否定された事例

青森地裁H31.2.25    
 
<事案>
ピアノの調律師Yが、Xとの間の業務委託契約を終了するに当たり、Xのピアノ調律業務の顧客らに対し、その旨を伝える⇒本件委託契約終了後、前記顧客らが、Xではなく、Yに対して直接、ピアノの調律を依頼するようになった。 
 
<主張>
X:Xの保有するピアノ調律業務の顧客の指名、住所、連絡先等の顧客情報(「本件顧客情報」)は不正競争法2条6項の「営業秘密」に該当し、これYに対して示したところ、Yが図利加害目的をもって本件顧客情報を使用して、同条1項7号の「不正競争」をした⇒同法4条に基づき、損害賠償金500万円(逸失利益等)を請求。 

Y:
①XがYら調律師らに調律業務を依頼する際、1か月に1回、その後の約1か月間に調律時期になると予測される顧客の指名、電話番号、住所等が記載されたリスト及び同リスト記載の顧客の氏名、電話番号、住所等が記載された複写式の3枚綴りの「調整完了報告書」を、Xの店舗の事務室にある机の施錠ができない引出しに入れて、調律師らが、同事務所を訪れた際に、その引出しから本件各書類を持ち出して使用していた
②Xが、調律師らに対し、本件各書類の廃棄等、本件各書類を使用した後の取扱いを指示していなかったこと等

本件顧客情報には秘密管理性がなく、不正競争法2条6項の「営業秘密」に該当しない
 
<判断> 
●秘密管理性が営業秘密の要件となっている趣旨:
適切に管理されておらず、容易に競争優位性が失われるような情報に法的保護を与えても、研究や開発のインセンティブにはならない⇒企業が特定の情報を秘密として管理しようとする合理的な自助努力に法的保護を与えるべき
企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が、当該情報に接する従業員等に対して明確化されることによって、当該従業員等の予見可能性、経済活動の安定性を確保することがある

秘密管理性が認められるためには、具体的状況に応じた合理的な秘密管理措置によって、企業の特定の情報を秘密として管理しようとする意思(秘密管理意思)がその情報に合法的に接する従業員等から客観的に認識可能であることを要する。 
 
●具体的な認定
本件顧客情報の性質:
本件顧客情報の一定の有用性を認めつつ、
①ピアノの調律業務は定期的に行われ、顧客と調律師との間の関係が長期的かつ密接なものになりやすい
②ピアノの調律は当該ピアノの設置環境、個性や使用頻度等の情報によって適切に行なうことができ、かかる情報を有する者には一定の優位性がある

ピアノの調律業務においては、氏名、住所、連絡先等の情報があれば容易に顧客を獲得できるものではなく、かかる情報が漏洩すれば直ちに顧客を失うことになるものでもない。

本件顧客情報の価値ないし重要性は限定的であり、厳格な方法による秘密管理措置を要求することは現実的ではないとしても、本件顧客情報に接することができる少数の者にXの秘密管理意思が用意に伝わるような措置がされる必要があった。
 
①本件顧客情報の電子データが管理されているパソコンにはパスワードが設定してあったとしても、パソコンを操作する業務に従事しない調理師らには、かかる措置によって秘密管理意思が用意に伝わるとはいえない
②本件顧客情報の記載された本件各書類につき、Xは、調理師らに対して、回収や廃業などの指示をせず、「マル秘」などの記載もしなかった
③本件各書類は、音楽教室等の講師が自由に出入する事務室にある机の施錠ができない引出しに入れられていた
④調理師らは本件顧客情報の管理に関する研修を受けたこともなく、本件委託契約にも本件顧客情報に明示的に言及した上でその漏洩等を禁止する旨の条項がなかった

Yを含む調律師らに対して秘密管理意思が容易に伝わるような措置がされていたとはいえない⇒秘密管理性を否定

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2019年10月29日 (火)

常居所地国の判断

大阪高裁H29.2.24     
 
<事案>
子の父であるXが、子の母であるYに対し、Yによる子の留置によりXの子に対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、子を常居所地国であるオーストラリア連邦に返還することを求めた。 
④平成26年9月:Yが子とともにオーストラリアに転居し、既に同年6月末にオーストラリアに戻っていたXと同居開始。
⑤平成27年10月:Yが子とともに日本に帰国。
⑥同年12、Xが来日
⑦平成28年1月、Xがオーストラリアに単身帰国。

④のオーストラリアへの転居に際し、XとYとの間で、2年間オーストラリアで居住した後、X、Y及び子は、日本に転居し、子が日本で育ち、日本の教育を受けられるようにする旨が記載された合意書が作成。
 
<Yの主張>
①子の常居所地国がオーストラリアではなく日本
②実施法28条1項3号の返還拒否事由(留置への同意)がある 
 
<原審>
常居所地国をオーストラリアと認めた上で、
Xが子の留置に同意したとの返還拒否事由を認定
⇒申立てを却下 
 
<判断>
常居所地国がオーストラリアでない⇒申立てを却下すべきで、抗告を棄却。 
 
<相違>
●原決定:
常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住する場所をいい、
その認定は、居住年数、居住目的、居住常況等を総合的に勘案してすべきである。

①Yの子連れ帰国が合意書で定めた2年間の途中されたこと
②合意書作成当時、子はまだ生後5カ月で日本での居住期間は短い一方、その後約1年1か月間オーストラリアで生活
③留置の開始時は、X及びYがオーストラリアへの帰路航空券の日程としていた平成28年1月15日の翌日

子の常居所地国をオーストラリアであると認める。

●判断:
原決定と同様、常居所の認定に当たり、居住期間、居住目的、居住状況等を総合考慮して判断すべきとしつつ、
子が幼児の場合においては、子の常居所の獲得については、当該居所の定住に向けた両親の意図を踏まえて判断するのが相当

①Yは、Xが日本に居住することを条件に結婚を承諾したものであって、Xにおいても、そのことを十分認識していた⇒子の出生時には、Y及びXのいずれも、子とともに日本に定住する意思があった
その後の子のオーストラリア滞在は、2年間を限度とするという条件で開始された一時的なものであったと判断するのが相当。

留置の直前における子の常居所がオーストラリアとは認められない。 
 
<解説>
諸外国の裁判例:
子の常居所地国の認定に際して考慮すべき事情につき、
①子を監護する権利を有する両親の意思を重視するモデル、
②ハーグ条約の保護対象である子に関する事情を中心とするモデル
子に関する事情を中心としつつも、子と居住地との関係は両親の意思も踏まえて検討すべきとして、両者の統合を試みるハイブリッド・モデル
などがあり、③が優勢になりつつあるとの指摘もある。

本決定:
子に関する客観的な事情を中心としつつ、特に、幼児の場合には、居所地との関係を検討するに当たって両親の意思を重視すべきとするもので、ハイブリッド・モデルに近いもの。

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仲裁判断の有効性の判断

東京高裁H30.8.1     
 
<事案>
X・Y間おける仲裁判断の有効性が争われた事案。
X・Yは、特許クロスライセンスを締結していたところ、Xが契約の一部を履行していない⇒Yが既払ロイヤルティの返還を求めて仲裁事件を申立てた。
本仲裁でYの主張が認められた⇒Xが日本の仲裁法44条1項4号、5号、6号及び8号所定の取消事由があると主張し、本件仲裁判断取消申立事件を提起。
 
<原決定>
本件で問題となった特許クロスライセンス契約の一部の文言について判断していないことが、日本の民訴法338条1項9号所定の再審事由(判決に及ぼすべき重大な事実の判断遺脱)に当たり、法44条1項8号所定の取消事由(公序良俗違反)に該当⇒仲裁判断の大部分を取り消す旨の決定。 
 
<判断>
原決定を取り消し、Xの取消申立てを全部却下。 
仲裁地の国内裁判所は、国内法における仲裁判断の取消事由がある場合でなければ、仲裁判断を取り消すことはできず、仲裁判断の実質的な再審査を行うような審理は許されない。

日本の仲裁機関が準拠法を日本法とする事件について判断を下した本件のような仲裁手続においても、日本の民訴法は、中裁定が行う仲裁手続には適用も準用もされない

旧訴訟物理論や弁論主義に違反する仲裁手続や仲裁判断があったとしても、そのことを理由に仲裁判断を取り消すことはできない。
仲裁法の取消事由を定める規定の解釈については、拡張解釈や類推解釈をすることは好ましくなく、条文の文言の枠に沿って解釈するのが相当。
その解釈にあたっては、日本の民訴法の緻密な解釈論ではなく、仲裁などの民事紛争解決手続において守るべき基本原則の国際標準が基準となる。

仮に、仲裁などの民事紛争解決手続において守るべき基本原則の国際標準を超えて、仲裁地の裁判所が行う国内民事裁判手続に関する法令や判例の緻密な解釈論が仲裁判断の取消事件にも適用されるとすれば、そのような国内裁判所を有する仲裁地は国際契約において避けられるようになるが、このことは、わが国を仲裁地とする国際商事仲裁の発展の支障となり、ひいてはわが国の国民経済の発展を阻害することとなり、わが国の仲裁法の立法趣旨にも反する。
 
<解説>
仲裁判断は、上訴手続に服さない⇒確定判決と同一の効力を有する(法45条1項)。
but
仲裁判断に対して異議のある当事者には、仲裁地の裁判所に対し、各国の仲裁法が定める取消事由に基づき、仲裁判断の取消しを求める権利が与えられている。(法44条) 
この取消事由の判断は各国において異なるが、一般論として、仲裁判断の実質的内容の審査行わないこととされている。

日本における仲裁判断の取消事由:
①仲裁権限の有無
②仲裁手続上の瑕疵
③公序良俗違反
の類型に分けられる。

本決定:
裁判所の審理・判断のあり方について、日本の民訴法における緻密な解釈ではなく、国際的に通用する仲裁法の解釈を尊重すべきであることを明らかにしたもの。

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2019年10月28日 (月)

傷害事件の捜査に関する報告書等の各写しについての文書提出命令申立て

最高裁H31.1.12    
 
<事案>
大阪府警の捜査によって傷害事件の被疑者として逮捕されたXが、違法な捜査により逮捕されたなどと主張して、Y(大阪府)に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を求める訴訟においいて、Yが所持する、本件傷害事件の捜査に関する報告書等の各写し(「本件各文書」)について、民訴法220条1号ないし3号に基づき、文書提出命令の申立てをした。 
 
<規定>
第二二〇条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
・・・
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
・・・
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

刑訴法 第四七条[訴訟書類の公開禁止]
訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。
 
<問題>
刑訴法47条但書の「公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる」か否かの判断、当該書類の保管者において、公にする利益(目的、必要性)とこれによって予想される弊害とを利益考量し、合理的な裁量で決すべきであると解されている。
本件各文書は、刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しであり、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」に該当するもの。
本件各文書及び本件各原本は、本件傷害事件の公判に提出されていなかった⇒いずれも、同条により、原則として公開が禁止
 
<判断>
刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合、
当該文書が民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書に該当し、かつ、
当該文書の保管者によるその提出の拒否が、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる被告人、被疑者等の名誉、プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであるときは、裁判所は、その提出を命じることができる。 

刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しで、それ自体もその原本も公判に提出されなかったものを、その捜査を担当した都道府県警察を置く都道府県が所持し、当該写しについて文書提出命令の申立てがされた場合、
当該原本を検察官が保管しているときであっても、
当該文書が民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書又は同条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し、かつ、
②当該都道府県による当該写しの提出の拒否が、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる被告人、被疑者等の名誉、プライバシーの侵害等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、当該保管者の有する裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであるときは、裁判所は、その提出を命じることができる。 
 
<解説>
刑訴法47条の「訴訟に関する書類」が公開されないことによって保護される利益は、
被告人、被疑者及び関係者の名誉、プライバシー等の利益、すなわち、当該文書を引用する者以外の第三者の利益や、適正な捜査及び刑事裁判の実現等といった公益であり、これらの利益は当該文書を引用する者が放棄できないもの。 

民訴法220条1号の「引用」
の意義については、文書の内容と存在を引用してさえいれば足りると解するのが多数説。
⇒同号に該当する引用行為が認められるとしても、通常、当該文書に記載された内容の全てが公開されているわけではない
 
●本件各文書は、刑事事件の捜査に関して作成された書類の「写し」であって、Yがこれを所持しており、他方、本件各文書の原本(本件各原本)は検察官が保管。

高松高裁決定H11.8.18:
捜査報告書等の捜査に関する書類について文書提出命令の申立てがされた事案において、刑訴法47条の「訴訟に関する書類」について、同条ただし書の規定によってこれを公にするか否かを決定する権限を有するのが当該書類を保管する検察官であり、その捜査を担当した警察を置く県は、当該書類を公にするか否かを判断する立場にはない
⇒当該書類の写しを保有しているとしても民訴法220条所定の「所持者」には当たらず、当該書類の写しについて提出義務を負わない。
vs.
刑訴法その他の法令において、刑事事件の捜査に関して作成された書類の原本を保管する者のみが当該書類の写しについて公にすることが相当か否かを判断することができるとする規定が存在しない。

刑訴法47条の「訴訟に関する書類」の保管者は、検察官、司法警察員といった捜査機関に限られず、裁判所、弁護人、その他の第三者も含まれると解され、これらの全ての保管者が同条本文によって当該書類の公開の禁止を義務付けられており当該書類を公にすることが相当と認められるか否かという同条ただし書該当性の判断は、これらの各保管者が、合理的な裁量によって決すべきであると解されている。

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2019年10月27日 (日)

自殺した娘についての児童相談所が所管する個人情報記録についての開示請求

山口地裁H30.10.17    
 
<事案>
Xが、自殺したA(Xの長女)の個人情報である児童相談所が所管する個人情報記録につきXが開示請求⇒Y(山口県)から非開示決定処分⇒その取消しを求めた。 
 
非開示理由:
(1)本件情報は、Y個人情報保護条例10条1項にいうXにかかる「自己の個人情報」には該当せず、「開示請求者以外の個人(亡A)に関する情報」であり、
(2)開示することにより開示請求者以外の特定の個人を識別できるもので、本件条例16条3号本文に該当し、同号イ、ロ、ハのいずれの非該当事由にもあてはまらず、
(3)開示することにより、関係者、関係機関との信頼関係が損なわれるなど、今後の児童福祉業務の適正な遂行に著しく支障を及ぼすおそれがある

本件条例16条8号に該当することを理由として、本件情報の全部を開示しない旨の個人情報非開示決定処分、 
 
<判断>
(1)について:
死者が未成年者である場合には、相続人たる地位を有する父及び母は、当該未成年者の権利義務を包括的に承継する者として密接な関係を有し、
当該未成年者に係る情報社会通念上相続人たる地位を有する父又は母自身の個人情報と同視し得る余地があると考えられる

Xは本件条例10条に基づき、Aの個人情報を自己の個人情報として、開示請求をする適格を有するものと解する。

(2)について:
本件条例16条3号の趣旨⇒死者の遺族が遺族固有の個人情報であるとして当該死者に関する情報の開示情報をした場合は、当該死者の他の遺族の名誉及びプライバシーを害する目的、態様でなされる等の特段の事情について主張、立証のない本件のにおいては、死者に関する情報が含まれていることを理由として開示をしないことは許されない。

(3)について:
本件条例16条8号の「当該事務若しくは事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれがある」というためには、情報を開示した場合には、県の機関等の事務の円滑な実施に著しい支障がが生じる高度の蓋然性があることが、客観的かつ具体的な根拠に基づいて認められなければならないが、これを認めるに足る的確な証拠はない。

本件情報はXの「自己の個人情報」に該当し、かつ本件条例16条3号及び同条8号に規定する非開示事由はないと認められるとして、Xの請求を認容。

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市議会議員に対する厳重注意処分そのその公表を理由とする国賠請求と司法判断

最高裁H31.2.14     
 
<事案>
上告人(三重県名張市)の市議会議員である被上告人が、上告人に対し、
市議会運営委員会(「議会運営委員会」)が被上告人に対する厳重注意処分の決定をし、市議会議長がこれを公表したこと(「本件措置等」)により、被上告人の名誉が毀損された⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。 
 
<一審>
本件措置等は、被上告人に対する名誉毀損行為に該当するとしつつ、
市議会の自律権の範囲内で決定された事項であって、その真実性又は真実相当性の抗弁については司法審査が及ばない
⇒被上告人の請求を棄却。 
 
<原審>
被上告人の請求は、名誉権とうい私権の侵害を理由とする国家賠償請求
②紛争の実態に照らしても、一般市民法秩序において保障される移動の自由や思想信条の自由という重大な権利侵害を問題とするものであり、一般市民法秩序と直接の関係を有する

本件訴えは、裁判所法3条1項にいう法律上の紛争に当たる。 
本件措置等は、被上告人の市議会議員としての社会的評価の低下をもたらすと認められ、その真実性又は真実相当性の抗弁が認められない
⇒被上告人の請求を慰謝料50万円の支払を求める限度で認容。
 
<判断> 

①本件は、被上告人が本件措置等によってその名誉を毀損されたとして国賠法1条1項に基づき損害賠償を求めるもの
②これは、私法上の権利利益の侵害を理由とする国家賠償請求であり、その性質上、法令の適用による終局的な解決に適しないものとはいえない

本件訴えは、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たり、適法。 


普通地方公共団体の議会は、地方自治の本旨に基づき自律的な法規範を有するものであり、議会の議員に対する懲罰その他の措置については、議会の内部規律の問題にとどまる限り、その自律的な判断に委ねるのが相当であり(最高裁昭和35.10.19) 、このことは、前記の措置が司法上の権利利益を侵害することを理由とする国賠請求の当否を判断する場合であっても、異なることはない。

地方議会の議員に対する懲罰その他の措置が当該議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国賠請求の当否を判断するに当たっては、当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、議会の自律的な判断を尊重し、これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当

①本件措置は、被上告人の議員としての行為に対する市議会の措置であり、かつ、
本件要綱(=名張市議会議員政治倫理要綱)に基づくものであって特段の法的効力を有するものではなく
また、
③市議会議長が、相当数の新聞記者のいる議長室において、本件通知書を朗読し、これを被上告人に交付したことについても、殊更に被上告人の社会的評価を低下させるなどの態様、方法によって本件措置を公表したものとはいえない。

本件措置は議会の内部規律の問題にとどまるものであるから、その適否については議会の自律的な判断を尊重すべきであり、本件措置等が違法な公権力の行使に当たるものということはできない

上告人は、被上告人に対し、国賠責任を負わない
 
<解説>  
●地方議会の措置の違法を理由とする国賠請求訴訟と法律上の争訟
 
判例・通説
憲法76条1項の司法権の範囲=裁判所法3条1項の法律上の争訟 

判例は、法律上の争訟につき、
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用によって終局的に解決することができるもの
と定義。
but
裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には、いくつかの例外があり、
国会ないし各議院の自律権に属する行為や団体の内部事項に関する行為など、法律上の係争ではあるが、事柄の性質上裁判所の審査に適しないものは、司法審査の対象外であると解されている。

昭和35年最判:
議院としての行為につき、除名処分のような議員たる身分の得喪に関する処分の適否に関する訴えは司法審査の対象とする一方、
議員の権利行使の一時的制限にすぎない懲罰決議の適否に関する訴えは、内部規律の問題として自治的措置に任せるのを相当とし、
裁判所法3条1項の法律上の争訟に当たらないとして、司法審査の対象外とする。

最高裁H6.6.21は、議員の純然たる私的紛争についての言動を理由とする地方議会の議員辞職勧告決議等が当該議員の名誉毀損に当たるとした国賠請求訴訟について、法律上の争訟に当たるとし、全面的に請求の当否を判断。
but
これは、議員としての行為を対象とする本件のような事案とは異なる。

国賠請求訴訟は、私法上の権利利益の侵害を理由とする給付訴訟として適法であるのが原則。
but
給付訴訟において司法審査の対象となるか否かが問題となった最高裁判例として、宗教上の教義が問題となった寄附金の不当利得返還請求事件(板まんだら事件)があり、最高裁昭和56.4.7は、訴えそのものが法律上の争訟に該当しないとして不適法却下。

錯誤を理由とする寄附金の不当利得該当性を検討する上で法令の適用による終局的な解決が不可能な宗教上の教義を検討することが不可欠⇒紛争全体として司法的解決に適しない事案であったと評価し得るもの。

◎地方議会の内部事項の問題は、裁判所が法令を適用して判断を示すことは可能
but
議会の自律権を尊重して司法審査を差し控えるのが相当であると捉えられるもの。
議会の措置が私法上の権利利益を違法に侵害することを理由とする国賠請求訴訟においては、議会の自律権は請求の当否を判断する上で必ずしも不可欠の要素ではなく、紛争自体が全体として司法的解決に適しないものではない
⇒法律上の争訟であることを否定する合理的理由は見出し難い。

請求の当否の前提問題として団体の内部事項の適否が問題となった最高裁昭和63.12.20も、政党が党員に対してした除名処分を前提として党施設の明渡し等を求めた訴訟において、訴えが司法審査の対象となることを肯定。

訴訟物そのものが具体的な権利義務ないし法律関係をめぐる紛争であり、その前提問題として団体の内部事項の適否が問題となる場合には、
当該前提問題が法令の適用により終局的に解決することができな問題でない限り、法律上の争訟は否定されないと考えるのが相当。
 
●国賠請求訴訟における地方議会の内部事項の適否に関する司法審査 
 
原審:
被上告人の請求が、名誉権という私権の侵害を理由とするものであることや一般市民法秩序において保障される自由の重大な権利侵害を問題とする
⇒司法審査の対象となることを理由に、全面的に請求の当否を審査。
 
憲法:
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定めると規定(92条)
その議事機関として議会を設置する旨を規定(93条1項)

地方議会について団体自治の見地から自律的な法規範を整備することを予定し、これを受けて法が地方議会の組織、権限及び規律等に関する詳細な規定を設けている

地方議会における法律上の係争については、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的問題にとどまる限り、内部規律の問題として自治的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象とはならないものと解するのが相当。
このような地方議会の内部事項の問題について自律的措置に任せるのを適当とした昭和35年最判の法理は、当該措置の違法を理由とする国賠請求の当否を判断するに当たっても同様に妥当

当該措置の適否が請求の当否を判断する前提問題にとどまる場合であっても、議会の自律権を尊重すべき必要性は変わらない

議会による懲罰その他の措置の適否自体を争う場合には、それが一般市民法秩序と直接関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、議会の内部規律の問題として司法審査の対象外として扱われるのに対し、
当該措置の違法を理由とする国賠請求訴訟が提起された場合には、当該措置の適否を含めて全面的に司法審査に服するものと解することとなれば、
議会の自治的措置に委ねるのを適当として司法審査の対象外とした趣旨を没却することになりかねない。

◎本判決:
地方議会の懲罰その他の措置が議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国賠請求の当否を判断するに当たっては、当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、議会の自立的な判断を尊重し、これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当であると判示。
地方議会の懲罰その他の措置が議員としての行為を対象とするものであって議会の内部規律の問題にとどまるものであるかは、事案に応じて個別に検討
 
●本件措置等の適否についての司法審査 
本件措置等:
A:議会運営委員会が被上告人に対し厳重注意処分の決定をし、
B:市議会議長がこれを公表したことを内容とする。

A:本件措置:
被上告人が本件視察旅行を正当な理由なく欠席したことを理由とし、地自法135条1項各号に定められた懲罰ではなく、地方自治の本旨及び本件規則にのっとり、議員としての責務を全うすべきことを定めた本件要綱2条2号に違反するとして、同3条所定のその他必要な措置として行われたもの。

被上告人の議員としての行為に対する上告人の議員としての行為に対する市議会の措置であり、かつ、本件要綱に基づくものであって特段の法的効力を有するものではない
本件措置が、被上告人の議員としての権利に重大な制約をもたらすものと認めることはできない

B:市議会議長による前記の公表行為
①同委員会は、市議会の代表者である市議会議長が、被上告人に対し本件通知書を交付することによって本件措置を通知することとしたものと認めるのが相当
②市議会議長が、相当数の新聞記者のいる議長室において本件通知書を朗読したことについても、それ自体は市議会の措置とはいい難いものの、記者からの取材要請を受けたことによるものであり、殊更に被上告人の社会的評価を低下させるなどの態様、方法によって本件措置を公表したものとは認められない

本件措置は議会の内部規律の問題にとどまるもの⇒その適否については議会の自立的な判断を尊重すべき

本件措置の公表についても公的目的を欠くことにより名誉毀損を肯定すべきものとは認められない
⇒本件措置等が、違法な公権力の行使に当たるものということはできず、国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない。

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2019年10月25日 (金)

公選法205条の選挙無効原因としての「選挙の規定に違反することがあるとき」

最高裁H31.2.28     

<事案>
平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙の選挙人である上告人兼申立人Xが、満18歳、満19歳の日本国民が衆議院議員の選挙権を有するとしている公選法9条1項の規定(「本件規定」)は憲法15条3項に違反⇒被上告人兼相手方(長崎県選挙管理委員会)を相手方として、長崎県第4区の選挙を無効とすることを求めた。 
 
<規定>
憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
憲法 第44条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

公選法 第二〇四条(衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関する訴訟)
衆議院議員又は参議院議員の選挙において、その選挙の効力に関し異議がある選挙人又は公職の候補者(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては候補者又は候補者届出政党、衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては衆議院名簿届出政党等、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては参議院名簿届出政党等又は参議院名簿登載者(第八十六条の三第一項後段の規定により優先的に当選人となるべき候補者としてその氏名及び当選人となるべき順位が参議院名簿に記載されている者を除く。))は、衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院(選挙区選出)議員の選挙にあつては当該選挙に関する事務を管理する都道府県の選挙管理委員会(参議院合同選挙区選挙については、当該選挙に関する事務を管理する参議院合同選挙区選挙管理委員会)を、衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては中央選挙管理会を被告とし、当該選挙の日から三十日以内に、高等裁判所に訴訟を提起することができる。

公選法 第二〇五条(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。

・・・ 
<原審>
公選法の規定が憲法に違反することを選挙無効の原因として主張することも許される。

Xは、選挙権が与えられるべきでない満20歳に達しない満18歳以上の者が選挙人として参加したために選挙の公正が害された旨を主張しているものと解され、
選挙人が自己の選挙権が侵害されたとして訴訟を提起することは考え難い
⇒本件規定の意見を主張することも許される。

本件規定は憲法15条3項に違反しない⇒請求棄却。
   
Xからの上告及び上告受理申立て
 
<判断>
年齢満18歳及び満19歳の日本国民につき衆議院議員の選挙権を有するとしている本件規定が違憲である旨の主張が、選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときに当たることをいうものとはいえず、また、
年齢満18歳及び満19歳の日本国民につき衆議院議員の選挙権を有するとしていることの憲法適合性という事項の性質やその選挙制度における位置付け等に照らし、公選法204条の選挙無効訴訟において本件規定の意見を選挙無効の原因として主張することを許容すべきものということもできない

本件規定の違憲を主張することができない

明らかに適法な上告理由に当たらないとし、また、民訴法318条1項にょり受理すべきものとも認められない。
 
<解説>
●公選法205条の選挙無効原因の意義等 
公選法204条:
客観訴訟(民衆訴訟)である選挙無効訴訟につき、「選挙人又は公職の候補者」のみがこれを提起し得るものと定め

同法205条1項:
その選挙無効原因につき、「選挙の規定に違反することがあるとき」と規定。
「選挙の規定に違反することがあるとき」
主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのよな明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指す。(最高裁昭和27.12.4)

最高裁昭和51.9.30:
「選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき」とは、
①候補者が他からの干渉によってその政見その他の主張を自由に選挙人に訴えることを妨げられ、又は、候補者となろうとする者が候補者となることを妨げられ、その結果、
②選挙人が、候補者の政見その他の主張を正しく理解することができず、又は、他の甲h祖はを選択することができず、投票すべき候補者の自由な意思による選択を妨げられたような場合であって、
③その程度の著しいもの
が主として想定されたと考えられる。
 
●選挙制度の憲法適合性について判断した判例との関係 
最高裁は、
投票価値の格差の憲法適合性が問題となったいわゆる定数訴訟(最高裁昭和51.4.14)において、
選挙無効訴訟が現行法上選挙人が選挙の適否を争うことのできる唯一の訴訟であり、他に是正の機会がないことや、
国民の基本的権利を侵害する国権行為に対してはできるだけ是正の途が開かれるべき
公選法204条に基づき定数訴訟を提起することを許容する旨の判示。

単純に再選挙を行うだけでは違法状態が解消されるものではなく、その是正のためには公選法等の改正を要するものであって、本来公選法205条のが想定していた無効原因と異なる
選挙無効訴訟の特殊な類型として特例的にこれを許容しているものと解することもできる。

公選法204条の選挙無効訴訟において選挙権又は被選挙権を制限する公選法の規定の憲法適合性が主張された事案につき、平成26年最決及び平成29年最決は、
その制限を受ける者が自己の選挙権又は被選挙権の侵害を理由にその救済を求めて争う余地があるとしつつ、同訴訟においてその制限の憲法適合性を主張することを認めなかった。

他に公選法の規定の意見を主張してその是正を求める手段があるか否かという観点も加味して、これを許容すべきか否かを判断。

判例は、公選法204条の選挙無効訴訟において主張し得る同法205条1項所定の選挙無効の原因に当たるか否かについて、
他の是正手段の有無を踏まえつつ、
国民の基本的権利を侵害する国権行為であるか否かやその侵害の程度、また、
「選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるとき」に係る判例法理
を前提として、選挙無効訴訟の特殊な類型として特例的にこれを許容すべきものであるか否か、を考慮して判断しているものと解することができる。
 
●選挙無効訴訟における本件規定の違憲主張の可否 
①満18歳以上の日本国民は、選挙権の制限を受けることがない⇒自己の選挙権が直接的に侵害されたことを理由とすることは想定されない
②Xの主張する満18歳、満19歳の日本国民に選挙権を付与したという本件規定の違憲事由については本件訴訟以外の形でその合憲性を問う手段がない
⇒選挙無効訴訟において本件規定に係る前記の違憲事由を主張することが許容されるべきかが問題。

憲法15条3項は成年者による普通選挙を保障すると規定するにとどまり憲法44条が選挙人の資格は法律で定めるものと規定
満18歳、満19歳の日本国民に選挙権を認めたとしても、既存の選挙人の選挙権の行使に影響を与えるものではなく、投票価値の稀釈化が若干生じるにとどまる程度

本件規定の違憲主張によっても、国民の基本的権利を侵害する国権行為であると認めることは困難

判例時報2415

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2019年10月23日 (水)

違法薬物の未必的認識の有無の判断が分かれた事例

大阪高裁H30.5.25      
 
<一審>
①高額報酬(4万香港ドル)
②通常のルートでは日本に持ち込めないもの
③スーツケースに入る程度の大きさ(量)
④持ち込みに成功した場合に大きなメリットがあるもの

⑤本件前に「豚肉を身体に縛って日本に持ち込む仕事」を紹介されていた
⑥税関での言動
⑦取調べにおいても金塊だと思っていたとは供述していない

それぞれ違法薬物であるとの認識をある程度うかがわせる事情であるし、これらを総合すると強くうかがわせるが、いずれも金塊だと思っていいたとしても説明が付く事情
⑧被告人供述には一部信用できない部分はあるが、金塊を運ぶ指示を受けたことはトークアプリ上のやり取りによって裏付けられている
違法薬物の未必的認識は認められない
 
<判断>
①~④

特段の事情がない限り、違法薬物の未必的認識を有していたとの一応の推定が働く
特に本件では税関を通過できない物であることを認識⇒より強い推認が働く⇒これを覆す特段の事情がない限り、少なくとも未必的認識が肯定される。

一審判決は、これらを違法薬物の認識を推認させる一事情としてしか評価しておらず、推認法則に従った判断をしていない。
推認を覆す特段の事情があるかにつき、①~⑧を検討しても、被告人が金塊と信じ込んだといえるような事情はなく、かえって金塊との認識自体に疑問を生じさせる事情がある。

金塊の認識が未必的にとどまる場合には、違法薬物との認識と排斥し合うものではなく、併存し得ることは論理上明らかであるのに、排除するかのように扱って検討を進めているようにもみえ、論理則に反している疑いがある。
一審判決の事実認定は、経験則に反し、論理則に反している疑いがある
 
<解説>
最高裁H24.2.13:
控訴審が一審判決に事実誤認があるというためには、その事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。 

個々の間接事実が故意を推認させる力は具体的事情によって種々である。
経験則についてもどのような場合にどのような経験則が認められるかについては慎重に検討しなければならない。

判例時報2413

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2019年10月22日 (火)

実際と異なる賃金算定方式を定めた就業規則の適用等

福岡地裁H30.9.14       
 
<事案>
被告会社に雇用されて長距離トラック運転手として稼働していた原告が、
①被告会社に対して未払割増賃金及び控除された賃金等の支払を求め
②被告会社の代表取締役である被告Y2及びその夫であり事実上の取締役とされる被告Y3に対し、それぞれ会社法429条又は民法709条に基づく損害賠償の支払を求め、
③被告Y1及び被告会社に対し、被告Y3が原告に対してパワーハラスメントを行ったと主張し、
被告Y3については民法709条
被告会社については会社法350条により
損害賠償の支払を求めた。 

反訴:
被告会社が、原告に対し、業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したことについて、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償の支払を求めた。
 
<規定>
労働契約法 第七条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法 第一二条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
 
<判断>
●実態と異なる賃金算定方法を定めた就業規則の適用の可否
本件就業規則には「会社に勤務するすべての従業員に適用する。」との定めとなっており、文言上長距離トラック運転手にも適用されるものとなっており、その他の労働条件の定めも長距離トラック運転手に不利益をもたらすものではない
労契法7条により、原告にも本件就業規則の日給月給制の定めが適用される

仮に出来高払制の合意があったとしても、最低基準効に反し、同法12条により無効

被告:本件就業規則は土木工事業を対象としており、長距離トラック運転手の労働実態と合わず、「合理的な労働条件を定めている」とはいえない。
vs.
個別の合意によることなく労働者の労働条件を規律すべく就業規則を定めた使用者においてその拘束力を否定することは、禁反言の法理に反して許されない。
 
●深夜割増賃金を基本給に含めるとの合意の成否 
基本給に深夜労働等の割増賃金が含まれていると認めるには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と深夜等の割増賃金に当たる部分とが判別できることが必要(最高裁H6.6.13)
原告の給与明細には判別に足る記載はなく、賃金算定の基となる路線単価を定めるに当たっても深夜労働の有無や長さは厳密に検討されていない。

基本給に深夜労働に対する割増賃金を含むとの合意が成立していたとは認められない
 
●賃金控除の適法性 
賃金控除の合意が賃金全額払の原則(労基法24条)の例外として有効と認められるためには、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要(最高裁)
本件では、そのような合意は認められない⇒控除は違法。
 
会社の賃金未払について代表取締役等の損害賠償責任の有無 
①被告会社は、原告に対し、賃金全額を支払う義務や、本件就業規則に従って原告の時間外労働等を正確に把握してこれに応じた割増賃金を支払う義務を負っているにもかかわらず、これを怠っている。
②被告Y2は代表取締役として、違法な賃金控除がなされないように監督する任務や、従業員の時間外労働等を正確に把握できるよう体制を整えた上で、その労働時間数に応じた割増賃金が確実に支払われるよう会社内部の制度を構築し実施する任務を負っていたにもかかわらず、これらを懈怠。
⇒任務懈怠は認められる。
but
被告Y2には任務懈怠について重大な過失があったとまではいえず、また、不法行為法上の過失といえるほどに高い注意義務違反があったとはいえない。
 
●事実上の取締役とされるY3について 
①被告Y3は、妻である被告Y2に命じて代表取締役に就任させたが、被告Y2は被告会社の業務決定に関与していなかった
②被告Y3は、従業員の採用や賃金決定に関与し、他の役員からの相談を受け、対外的には被告会社グループのCEOの肩書を用い、役員や従業員からも「オーナー」と呼ばれていた。

事実上の取締役と認められる。
but
上記Y2と同様の理由で、損害賠償責任は認められない。
 
●パワハラの有無及び被告会社の責任 
原告が、丸刈りにされて洗車用の高圧洗浄機を噴射されたり、ロケット花火を発射されて川に飛び込まされたり、社屋の入口前で土下座をさせられたりしたことについて、これらの事実のについての記載が写真と共に被告会社のブログに掲載
⇒被告Y3の指示があった。

パワハラに該当し、被告Y3は不法行為責任を負い、被告会社は、被告Y3が事実上の取締役であることから、会社法350条の類推適用により責任を負う。

会社法 第三五〇条(代表者の行為についての損害賠償責任)
株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う
 
●業務の無断放棄による損害賠償責任の有無及び損害額 
原告が被告会社から運送業務の具体的指示を受けた後にこれを無断放棄したことについて、労働者は具体的に指示された業務を履行しないことによって使用者に生じる損害を回避ないし減少させる措置をとる義務を負う。

被告会社が宅配業者から受注していた業務を中止したことにより得られなくなった売上の限度で、原告の不法行為責任を肯定。

判例時報2413

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2019年10月21日 (月)

特許法102条2項の損害額の推定と共有者等

知財高裁H30.11.20      
 
<事案>
発明の名称を「下肢用衣料」とする本件特許の特許権を有する一審原告が、被告製品を製造販売等する一審被告らに対し、被告製品の製造販売等の差止め等を求めるとともに、
民法709条に基づく損害賠償請求をした。 
 
<原判決>
被告製品につき本件発明の技術的範囲に属する。
無効の抗弁を排斥。

被告製品の製造販売等の差止め等及び損害賠償請求の一部を認容。 
 
<規定>
特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)

2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
3特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

民訴法 第一五七条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

特許法 第一〇四条の三(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
 
<判断> 
特許法102条2項の損害額の推定を受けるに当たり、共有者は、原則としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定されると解するのが相当であり、持分権の割合を基準とすることは合理的でない。
but
同項に基づく損害額の推定は、不実施に係る他の共有者の持分割合による同条3項に基づく実施料相当額の限度で一部覆滅されるとするのが合理的。

本件における特別の事情として、訴外会社の一審被告らに対する損害賠償請求権が一審原告に債権譲渡されているが、
①当該請求権は一審原告固有の損害賠償請求権とその発生原因を異にし、債権譲渡の結果、一審原告の下に両立していると考えられる
②一審原告が、債権譲渡を受けた損害賠償請求権を行使しないで、固有の損害賠償請求権のみの行使を主張する旨明言

本件においては、結果として同一人に帰属しているからといって、結論的に異にすべき事情ということはできない。
 
●本件訴訟の経緯(控訴理由提出期限経過後に提出した書面において、少なくとも6項目に及ぶ無効理由に基づく無効の抗弁等の追加を主張)

①一審被告らの控訴審における無効の抗弁等の主張の追加が時機に後れたものであること、
②一審被告らにその点につき少なくとも過失が認められることは明らか

民訴法157条1項に基づき時機に後れた攻撃防御方法として却下。 
一審被告らは、原審において北条単位で4個もの無効理由を主張しているところ、控訴審において追加しようとする無効理由は少なくとも6項目に及ぶ。

控訴審におけるこれほど多数の無効理由による無効の抗弁の追加は、審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものといわざるをえない。

無効の抗弁の追加主張については、特許法104条の3第2項によっても、却下されるべき。

判例時報2413

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2019年10月19日 (土)

大飯原発運転差止請求訴訟(控訴審)

名古屋高裁金沢支部H30.7.4      
 
<事案>
一審被告が設置した原子力発電所である大飯発電所3号機及び4号機について、その稼働によって一審原告らの声明、身体が重大な危険にさらされるおそれがある⇒一審被告に対し、人格権又は環境権に基づく妨害予防請求として運転差止を求めた
 
<原審>
原子力発電所に求められる安全性や信頼性は極めて高度なものでなければならず、
①声明を守り生活を維持する利益は人格権の中でも根幹をなす根源的な権利
②東日本震災に伴う福島第一原発の事故を通じて明らかになった原子力発電の危険性及びそのもたらす被害の大きさ

本件発電所において、このような事態を招く具体的危険性が万が一にもあるのかが判断の対象とされるべき。 

本件発電所は、一審被告の算定した基準地震動やクリフェッジとされたレベルを超える地震動に襲われる危険があり、その場合、冷却機能が喪失し炉心損傷を経てメルトダウンが発生し、大量の放射性物質が施設外に拡散する危険性が極めて高く、しかも堅固な設備によって閉じ込められていない使用済核燃料の放射性物質が外部に放出される危険があって、このように地震の際の冷やす機能をとじ込んめる構造に欠陥がある。

本件発電所の運転によってその人格権が侵害される具体的な危険があるのは本件発電所から250㎞圏内に居住する者に限られる。

一審原告らのうち、前記圏内に居住する一審原告らの関係でその請求を認容し、
前記圏外に居住する一審原告らの請求を棄却。
 
<判断・解説> 
●伊方原発の設置許可処分の取消しが争われた行政訴訟:

最高裁H4.10.29:
原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、
原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、
現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、
あるいは 当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、
被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべき

被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきもの。
but
当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持

被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、
被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるというべき。

行政訴訟における判断の枠組みを示したもの。
but
民事訴訟においても、同最判と同様の枠組みを採用する下級審裁判例が大勢を占めている。
 
●本判決:
新規制基準の内容に不合理な点があるか、又は、地震、津波、火山、竜巻等の自然災害への対策、水蒸気爆発又は水素爆発その他重大事故への対策、テロリズム対策及び使用済み核燃料プールの安全性等に関して、新規制基準への適合性を認めた原子力規制委員会の判断に不合理な点があるかについて詳細に検討の上、同委員会の判断に不合理な点はなく、本件発電所の危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理統制されている。
⇒一審被告の敗訴部分を取り消し、人格権に基づく運転差止めを求める一審原告らの請求を棄却。 

●本件発電所において特に大きく取り上げられたのは、基準地震動の策定の不合理性について。
一審原告ら:
本件発電所の近傍には、FO-A~FO-B~熊川断層という活断層があるところ、地震動の面積と地震モーメントとの関係を表す経験式である入倉・三宅式を用いると、その断層面積が過小評価されれてしまい、結果として地震動が過小評価されるおそれがある。

本判決:
前記のおそれがあることを踏まえても、本件発電所周辺の地域特性に加え、一審被告が本件発電所周辺において詳細な各種調査を行い、その結果に種々の不確かさを考慮して、対象となる断層の長さや幅を保守的に大きく設定
過少評価のおそれがあるとはいえない。 

判例時報2413

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2019年10月17日 (木)

支援措置申出と損害賠償請求

名古屋高裁H31.1.31      
 
<事案>
Yに対する請求:
YがAに係る確定した面会交流審判に基づいて、Xに対してAの学校行事への参加やAに対する手紙や贈り物の送付を許す義務を負っていたにもかかわらず、これを免れるために虚偽の事実を申告して、住民基本台帳事務における支援措置値の申出(本件支援措置申出)を行い、Xに住民票等の閲覧等を困難にっせた上で転居し、XとAとの面会交流を妨害するとともに、Xの職場における名誉・信用を毀損したことが、Xに対する不法行為及び債務不履行に当たる⇒損害賠償請求

愛知県に対する請求:
Yの本件支援措置申出について、愛知県K警察署長が支援措置の要件を満たしていないことを認識し得たにもかかわらず、Yが支援措置の要件を満たす旨の「相談機関等の意見」(本件意見)を付し、その後も撤回しなかったことが国賠法上違法であるとする損害賠償請求。
 
<一審>  
●Yに対する請求:
Yが本件支援措置申出をするに当たり、支援措置の要件のうち、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)1条2項に規定された被害者であることの要件(被害者要件)を欠いていたとはいえないが、
暴力によりその生命または身体に危害を受けるおそれがあることの要件(危険性要件)を欠いており、Yがそのことを認識していたにもかかわらず、
専らXとAとの面会交流を阻止する目的で本件支援措置申出を行うという目的外利用をした⇒Yが同申出を行ったことは不法行為に当たる。 
 
●愛知県に対する請求:
愛知県K警察署員は、本件支援措置申出が危険性要件を満たしているかどうかについて、目的外使用の可能性を疑うべき端緒も十分にあり、更なる事実確認が必要な状態であったにもかかわらず、これを行わず、確認をしていれば、支援措置の要件があるとの心証を得られないことは明白
K署員の前記調査義務懈怠を見過して本件意見を付記した注意義務違反がある。
⇒被告らに連帯して慰謝料55万円の支払を求める限度で認容。
 
<判断>
●Yが行った本件支援措置申出が違法なものとは認められず、愛知県が本件支援措置申出について本件意見を付したことも国賠法上違法なものとは認められない
⇒Xの請求はいずれも理由がない。
 
●Yに対する請求 
被害者要件について
①Yが平成25年7月4日に警察署を訪れた際、3年前から2日に1回の被害頻度であると申告
➁平成23年春頃、Xから右大腿部を蹴られた
③同年夏頃、銀行の駐車場において金銭を引き出すよう怒鳴り散らされたこと
④直近の被害は平成24年10月にXが無理やり開けたドアに腕を挟まれて怪我をしたことを申告し、怪我の写真を提出

他方Xも、平成23年頃、Yの態度に立腹しYの尻を足で押したとして有形力を行使したことを認めている。

要件を満たす。

危険性要件について
①X・Y間には離婚訴訟のほか面会交流、その間接矯正、子の監護者指定、子の引渡し等の紛争が長期化し、
Xが長女Aの授業参観に参加した後にAが錯乱状態に陥って以降ほとんど学校に通うことができなくなった等一連の経過

XとYは平成28年3月31日にされた本件支援措置申出の当時、Aの監護権及び面会交流を巡って激しい紛争状態にあった。
その結果としてXの行動によりAの当時の心身の状況が不安定となり、入院を要する等心身の状況が不安定となり、入院を要する等心身に有害な影響を及ぼし、
Yもまたこれにより心労が重なり心身が不調でこのままでは限界であると感じていた。

本件支援措置申出の当時において、Xからの身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動により、Yがその生命または身体に危害を受けるおそれがなかったとまでは認めることができない⇒本件支援措置申出当時、Yが危険性要件を欠く状態であったとは認められない。

XはYがXとAとの面会交流を妨害する目的で本件支援措置申出をした旨主張。
but
そもそも面会交流は子の利益を最も優先して考慮して定められなければならない監護親において面会交流が子の福祉を害すると考えて、その実現を妨げる行為を行った場合、当該行為が直ちに不当なものになると認めることはできず
この点前記のとおり本件支援措置が要件を欠くものであるとは認められない上、
判示事情の諸点に照らせば、YがXとAとの面会交流を妨害する目的で本件支援措置の申出をしたものとは認められない
 
●愛知県に対する請求
職務上の注意義務についてのXの主張:
K署長が本件意見を付するに当たり、Yの申告内容について加害者とされるXやその関係者から事情聴取を行い、司法判断の有無等の時jちう確認を行う職務上の注意義務がある。

本判決:
支援措置を定めた住民基本台帳法及び住民基本台帳事務処理要領の内容を詳細に検討した上、
これらの趣旨は、DV防止法1条1項に規定する配偶者からの暴力及びこれにより準ずる行為の被害者の保護のため、加害者が住民基本台帳の閲覧等の制度を不当に利用してそれらの行為の被害者の住所を探索することを防止し、もって被害者の保護を図ることにあり専ら被害者に対する関係での関係諸機関や警察署等の行為規範を定めたものであり、
加害者とされている他方配偶者に対して、関係機関や警察署等が職務上の法的義務を負うことは想定していないというべきであり、加害者とされる他方配偶者の権利又は法的利益を侵害することになるものではない

支援措置の必要性の判断は当初受付市町村の長が行うもの

警察署長等が支援措置の意見を付するに当たり、加害者とされる者に対してい、何らかの職務上の法的義務を負担するとは考え難い等として、
Xの主張を排斥。
 
<解説>
●真逆の結論となった理由
第1審も、
「本件証拠を精査しても、被告Yの申告が虚偽であると積極的に認定できるほどの証拠は提出されていない。したがって、被害者要件に関する虚偽申告を理由として損害賠償請求を認めることはできない」とする。

住民基本台帳事務における支援措置の申出制度に関する理解ではほとんど差がない。
but
異なる結論。 
 
●暴力の有無・程度に関する認識の差異 
第1審:
「原告と既に別居状態にある被告Yについて、平成28年3月31日時点において、Xの「暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれ」があったとは認められない」と判断。
「被告Yは、その主張する暴力被害について医師の診察等を受けておらず、Xがドアを開けたために、ドアと壁の間に挟まれて・・・被告Yの腕の皮がめくれたという点も、Xが被告Yに対し暴力を振るったと評価できるような性質のものであるかは判然としない」

控訴審:
4つの暴力の存在を認定。
 
●面会交流の意義に関する認識の差異 
一審:
Yは、支援措置の危険性要件を認識していたにもかかわらず、
「専ら、XとAが面会することを阻止する目的で(支援措置制度本来の利用趣旨に反した目的で)、本件支援措置を行なった」と判断

面会交流阻止という目的が全て違法であるとの前提に立った面会交流における非監護親重視の発想。

控訴審:
面会交流は子の利益を最も優先して考慮して定められなければならない⇒「監護親において、面会交流が子の福祉を害すると考えて、その実現を妨げる行為を行なった場合、当該行為が直ちに不当なものになると認めることはできない」としている。

面会交流における監護親重視の発想。 

判例時報2413

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2019年10月16日 (水)

年払保険金(年金)支払請求権の差押命令の申立について、民執法152条1項1号該当性を否定した事例

東京高裁H30.6.5      
 
<事案>
X(債権者・抗告人)は、債務弁済契約に係る執行力のある債務名義の正本に基づき、Y(債務者・相手方)に対する損害賠償請求権等を請求債権とし、Yが保険契約に基づく第三債務者に対して有する年金保険金(年金)支払請求権あるいはこれが解約された場合の解約返戻金請求権を差押債権として、債権差押命令を申し立てた。 
XはYの母。
本件保険契約は、Yの祖母がYを被保険者として第三債務者との間で締結した積立利率金利連動型年金保険契約。
 
<規定>
民執法 第一五二条(差押禁止債権)
次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権

民執法 第一五三条(差押禁止債権の範囲の変更)
執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる
 
<争点>
本件債権が民執法152条1項1号の差押禁止債権に該当するか。 
 
<原審>
本件債権は民執法152条1項1号に該当し、その4分の3に相当する部分は差押禁止債権⇒同部分についての申立てを却下。
 
<判断>
本件債権全額の差押えを認めた。

①本件保険契約は、Yの祖母が相続対策のために年金保険の形式で生前贈与したもの。
②Yは保険金支払開始時には両親と同居しており、生計の維持のために保険金の受給が必要な状況にはなかった
③その後Yは家族と別居してアルバイトをするなどしているが、以前にXが年金保険料全額を回収した際にも特段異議を述べたり、振込口座を変更したりするなどしておらず、Yは、本件保険契約に係る保険金を受給しなくとも、生活に困窮するような状況にあるとは思われない
本件債権が差押禁止債権に該当するとは認められない。 
 
<解説>
差押禁止債権について規定する民執法152条1項は、債務者の最低生活を保障するとの社会政策的配慮を趣旨とする。

私的年金契約による継続的収入も同項1号に規定する差押禁止債権に該当。
but
継続的収入であっても生計維持に必要か否かについては、債務者の生活状況その他の事情を考慮して、個別具体的な判断を要する

判例時報2413

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桜の会の討論会(10月13日)のレジュメ

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2019年10月15日 (火)

中学教諭の非違行為⇒懲戒免職の事例

東京高裁H30.9.20      
 
<事案>
中学校の教諭に採用されたばかりのXが、非違行為の存在を理由に、地公法29条1項1号及び3号の規定により懲戒免職処分⇒本件処分は、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとして、その取消しを求めた。 
 
<一審>
本件非違行為の内容
⇒Xは、中学校教諭の「職を信用を傷つけ」、「全体の奉仕者たるにふさわしくない」非行をおこなった⇒地公法33条に違反し、法29条1項1号及び3号の懲戒事由に該当。 

裁判所が公務員に対する懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべき。

①XがAにキスをした行為は「わいせつな行為」に該当する
but
②XとAの交際はAが積極的に望んでいたもので、XとAが将来を見据えて真剣に交際をしていた⇒Xが本件非違行為に及んだ動機が強い非難に値するとはいえない。
③わいせつ性の程度は低い⇒本件非違行為の態様が著しく悪質であるとはいえない。
④本件非違行為による結果や他の職員及び社会に与える影響が重大であったとはいえない。
⑤Xは本件非違行為を真摯に反省している。

県教育委がXに対して懲戒免職処分を選択したことは、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められ、違法。
 
<判断>
①本件非違行為は、単発的・偶発的な行為ではなく、多数回にわたり継続的に行われたものであるし、埼玉県青少年健全育成条例の刑事罰の規定に抵触する行為も含み外形的に見ると、本件女子生徒との間で性的関係を持ったものと受け取られかねないものその程度としても深刻、重大
②Aは、Xが従前勤務していた塾の教え子で、勤務先の中学校の生徒ではないものの、ほぼ同年代の高校1年⇒自校の女子生徒と交際する場合と同視し得るものというべきであり、自校の生徒との関係でないことを重視することは正当ではない
③Aの同意があるとはいえ、15歳でいまだ婚姻適齢にすら達しておらず、その判断能力等も必ずしも十分とはいえない状況の下で、Xは、保護者に対して一切話をすることもなく、本件非違行為に及んでいる⇒将来を見据えて真剣に交際していたなどと軽々に評価できるものではないし、教育者としての社会的責任を持ち出すまでもなく、その行為は許されるべきものではない
本件非違行為の態様、動機及び結果、故意又は過失の程度、職員の職責、他の職員及び社会に与える影響、過去の非違行為の有無、日頃の勤務態度並びに非違行為後の対応等の各要素のいずれの点から見ても本件非違行為の責任は重大であり、処分は重い量定を行う方向で検討することにならざるを得ない

本件処分において停職より重い処分である免職が選択されたことが不合理であるとは到底言えず、処分権者である県教委の裁量の範囲内の処分量定

他の事例と比較しても、停職ない減給の事例は、おおむね、態様等が本件非違行為と異なるものであり、これら以外のわいせつ関連事案は大部分が免職となっている。

他の処分事例を比較して、処分が不当に重いということはできず、公平性の観点から見ても合理性を欠くものということはできない

判例時報2413

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2019年10月14日 (月)

地方公共団体の職員によるセクハラ⇒停職6月の懲戒処分の事案

最高裁H30.11.6      
 
<事案>
Y(兵庫県加古川市)の男性職員である自動車運転士のXが、勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員に対してわいせつな行為等をした⇒停職6月の懲戒処分⇒Yを相手に取消しを求めた。

本件処分の処分理由:
Xが、
勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて、そこで働く女性従業員の手を握って店内を歩行し、当該従業員の手を自らの下半身に接触させようとする行動をとったこと(行為1)
以前より当該コンビニエンスストアの店内において、そこで働く従業員らを不快に思わせる不適切な言動を行っていたこと(行為2)
 
<原判決>
停職6月とした本件処分が、重きに失するものとして社会通念上著しく妥当を欠くものであり、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであって違法
⇒Xの請求を認容 
 
<判断>
原判決がその判断の根拠とした事情に関し、
本件従業員が終始笑顔で行動し、Xによる身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは、客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある
➁本件従業員及び本件店舗のオーナーがXの処罰を望まないとしても、それは、事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものと解される
Xは以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2)これを理由の1つとして退職した女性従業員もいた
行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上、複数の新聞で報道されるなどしており、行為1が社会に与えた影響は決して小さいものということはできない

これらの事情につき、原判決とは異なる評価をすることができる。

本件処分が相当に重い処分であることは否定できない
but
行為1が、客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であって、Yの公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり、
Xが以前から本件店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情

本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず、本件処分をした市長の判断が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない

Xの請求を棄却。
 
<解説> 
公務員に対する懲戒処分について、
懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、
その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となる
(最高裁昭和52.12.20) 

同最高裁判決は、
懲戒権者の裁量判断の適否に関する司法審査の方法について、
裁判所が「懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではな」いものと指摘。

裁判所が懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分の適否を判断するような、いわゆる判断代置型の判断の仕方は誤り

懲戒処分のうち免職処分は、職員としての地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるから、その選択に当たっては特に慎重な配慮を要するものと解される。(最高裁昭和49.2.28)

免職処分以外の懲戒処分の裁量権の範囲は、免職処分と比較すると相対的に広いものと解される。
 
●同じ外形的な事実を前提としても、異なる評価がされ得る。
(原審の評価は表層的)
同種行為の常習性や、公務員の立場にある者の非違行為が社会に与える影響に関しても、どの範囲の事情に着目するかによって異なる評価がされる。 
懲戒事由に該当する行為の評価に関わる社会観念又は社会通念を適切に捉える必要がある。

ex.
セクシャル・ハラスメントやわいせつ行為に対する社会の意識の変化。

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2019年10月12日 (土)

旧優生保護法判決

仙台地裁R1.5.28      
 
<事案>
原告らが、平成8年法律第105号による改正前の優生保護法に基づき不妊手術を受けた⇒旧優生保護法第2章、第4章及び第5章の各規定(「本件規定」)は違憲無効であり子を産み育てるかどうかを意思決定する権利を一方的に侵害されて損害を被った
被告に対し、
主位的に、国会が当該損害を賠償する立法措置を執らなかった立法不作為又は厚生労働大臣が当該損害を賠償する立法等の施策を執らなかった行為の各違法を理由に、
予備的に、国賠法4条により適用される民法724条後段の除斥期間の規定を本件に適用することが違憲となると主張して、
当時の厚生大臣が本件優生手術を防止することを怠った行為の違法を理由に、国賠法1条1項に基づき損害賠償を求めた事案。
 
<争点>
①本件立法不作為又は本件施策不作為に基づく損害賠償請求権の成否
②本件防止懈怠行為に基づく損害賠償請求権の成否
③民法724条後段(除斥期間)の適用の可否
④損害額
 
<判断>
争点①③については判断を示し、
争点②④については判断をすることなく、原告らの請求をいずれも棄却。 
 
<判断・解説>
●リプロダクティブ権侵害の成否 
子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)は、いわゆる自己決定権の一類型であると位置づけられる。

◎ 自己決定権:
最高裁H12.2.29(「最高裁平成12年判決」)が、輸血を伴う医療行為を受けるか否かについて意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならないとして、前記権利を正面から認めている。

◎ 本判決:
最高裁平成12年判決が説示するところを踏まえ、リプロダクティブ権についても、子を産み育てることを希望する者にとって幸福の源泉となり得る⇒人格的生存に関わるものとして、人格権の一内容を構成する権利であると判断。
旧優生保護法が子を産み育てる意思を有していた者にとってその幸福の可能性を一方的に奪い去り、個人の尊厳を踏みにじるものであって、旧優生保護法の規定に合理性があるというのは困難⇒旧優生保護法の規定が憲法13条に違反し無効
本件優生手術がリプロダクティブ権を違法に侵害する行為であると認定

本判決は原告らの請求を棄却しつつも、前記の侵害行為を認定。

①本件立法不作為の違法性を判断するに当たっては、憲法17条の違憲審査喜寿を示した最高裁H14.9.11(「最高裁平成14年判決」)を踏まえ、侵害される法的利益の種類及び侵害の程度が検討要素として考慮されるべきことになる。
②本判決は争点①を判断するために、リプロダクティブ権侵害の成否及びその前提問題となる旧優生保護法の違憲性についても判断。

◎ 本判決:
リプロダクティブ権のほか、プライバシー権についても言及。 
リプロダクティブン権
「人格権の一内容を構成する権利」として法的権利性を認めている。

プライバシー権
「人格権に由来する権利」として法的権利性を認めており、
本判決中において表現振りを書き分けている。

リプロダクティブ権は、人格的生存の根源にかかわるものであって、生命、身体とともに極めて重大な保護法益
最高裁昭和61.6.11(北方ジャーナル事件)にいう「人格権としての名誉権」と同様に、リプロダクティブ権を損なう行為は直ちに違法となり、これを適法とするには、前記行為を行った者が違法性を阻却する事由を主張立証すべき

「人格権に由来する権利」としてのプライバシー権については、プライバシーを損なう行為が直ちに違法となるものではなく、当該行為を受けた者が違法性を裏づける事由を主張して初めて違法となると解した。

●立法不作為の違法性について 
◎ 立法不作為の違法性について、 
最高裁の基準(平成17年基準):
法律の規定が憲法上保護され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合
国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合。
という2つの類型を示す。

<規定>
憲法 第17条〔国及び公共団体の賠償責任〕
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

◎ 本判決:
前記②の類型を適用し、
①所要の立法措置を執ることが必要不可欠であるかどうか(「必要不可欠要件」)、
②必要不可欠性が明白であるかどうか(「明白性要件」)
を区別して判断。 

〇①必要不可欠要件
当該存賠償請求権を行使する法律としては、公務員の不法行為に対する損害賠償制度として、憲法17条に基づき国賠法が既に制定

本件で問題となる必要不可欠要件とは、国賠法の制定にとどまらず、同法4条の規定により適用される除斥期間の規定により消滅した損害賠償請求権につき、少なくともその一部については除斥期間がの規定の効果が生じないとして損害を補償する立法措置を制定することが必要不可欠かどうか?

憲法17条に違反しない場合には救済法の制定は国会の立法政策に委ねられている⇒救済法を制定することは必要不可欠であるということはできない
but
本判決:
本判決に掲げる特別の事情の下においては、本件優生手術を受けた者が、本件優生手術の時から20年経過する前にリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することは現実的に困難
⇒国賠法の制定にとどまる救済法を制定することが必要不可欠

〇②明白性要件
我が国におおいてはリプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく、本件規定及び立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかった事情⇒明白性を否定

〇最高裁平成27年大法廷判決:
前夫との離婚後、6か月の再婚禁止規定を定める民法733条1項の規定(「再婚禁止規定」)があるために後夫との婚姻(再婚)が遅れ、これによって精神的苦痛を被った⇒国賠法1条1項にもtづき損害賠償を求めた事案:

再婚禁止規定を改廃する立法措置をとらなかったことについて、再婚禁止規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分が違憲であることが国会にとって明白であったというのは困難⇒同項の適用上違法の評価を受けないと判断

立法不作為の違法性評価の当てはめにおける具体的な検討要素
①再婚禁止規定の不合理性ないし違法性が国会にとって容易に理解可能であったか否か
②再婚禁止規定をめぐっては、100日超過部分を撤廃する趣旨の平成8年民法要綱が公表され、また、諸外国が再婚禁止期間を廃止する傾向にあった
③再婚禁止規定については、憲法判断を示することがなく立法不作為の違法性を否定した最高裁(平成7年12月5日)の先例
④再婚禁止規定の違憲性に言及する司法判断は今回初めて

違憲の明白性を否定。

〇 本判決:
本判決で提出された証拠関係

①救済法を制定しないことが憲法17条に違反することまで議論がなされていた事情は認められず、
②諸外国の傾向もそれぞれの国が採用する損害賠償制度が同一でない

最高裁平成27年大法廷判決と同様に、これらの事情をもって直ちに違法性の明白性につながる要素とはいえない


×A:旧優生保護法が違憲無効であることは明らか⇒直ちに明白性要件を充足するとの見解
vs.
本件における違憲性の明白性は、
憲法17条に基づき既に国賠法が制定⇒国賠法の制定にとどまらず救済法を制定しないことが憲法17条に違反することが国会にとって明白であったことを意味。 

〇 本判決:
明白性要件と否定する判断を示したものの、飽くまで本件口頭弁論終結時点における判断。
本判決が、旧優生保護法の本件規定が違憲無効であり救済法の制定が必要不可欠であると判断
⇒最高裁平成27年大法廷判決にいう検討要素①及び④に係る事情が本判決によって変更

本件口頭弁論終結日以降においては、憲法17条の法意を斟酌した救済法の制定が必要不可欠であり、
それにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって救済法の制定を怠る場合には、その立法不作為は、将来的に国賠法1条1項適用上違法の評価を受ける余地を残す。 
救済法とは、
除斥期間の経過により消滅した損害賠償請求権につき、少なくともその一部については除斥期間の規定の効果が生じないとして損害を補償する立法措置。
but
除斥期間が経過して権利が消滅したにもかかわらず、その後に除斥期間の規定の効果を生じないとする法的構成については、最高裁平成21年判決における田原裁判官が、理論的に極めて困難な解釈をしていると指摘。

●民法724条後段(除斥期間)の適用の可否 
◎ 最高裁平成14年大法廷判決:
国又は公共団体は公務員の行為により不法行為責任を負うのが原則であり、立法府に無制限の裁量権を付与したり、白紙委任を認めたものではない

公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し又は制限する法律が、立法府の裁量権を逸脱するものであるときは、憲法17条に違反し、無効となる。

本判決:
国賠法4条が適用する除斥期間の規定が損害賠償請求権を消滅させるもの
⇒同規定は最高裁平成14年大法廷判決にいう責任制限規定の1つ。
but
除斥期間の規定の目的の正当性並びに責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮
⇒除斥期間の規定を適用することが憲法17条違反となるものではない

◎ 除斥期間が経過したものの、その適用の効果を否定した最高裁判例が2つ。
除斥期間の効果を否定する場合として
時効の停止等その根拠となる規定があり(「第1要件」)、かつ
除斥期間の規定を適用することが著しく正義・公平に反する事案(「第2要件」)
に限定して、一定の例外を認めつつも、その要件に厳格に絞りをかける

〇最高裁平成10年判決
被害者が予防接種を原因として重い障害を負い、心神喪失の常況にあるという事案において、不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6か月内において不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産者宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6か月以内に当該損害賠償請求権を行使

民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないと判断。
時効停止の規定である民法158条を「類推適用」そのではなく、その「法意」に照らして除斥期間の適用を適用を制限するもの。

法律関係の速やかな確定のために期間の経過により画一的に権利が消滅するという除斥期間の性質に照らして、その例外を認めるのは相当ではない
⇒単に時効停止事由に相当する自由があるというだけで時効停止の規定を除斥期間に類推適用するのではなく、条理や正義・公平の理念を根拠とし、心神喪失の常況が加害者の不法行為に起因することを要件に加えることにより、除斥期間の例外に一層の絞りをかけた趣旨⇒最高裁平成10年判決の射程範囲は極めて短いものと解されている。

〇最高裁平成21年判決 
被害者が殺害されその死体が隠匿されたため長期間にわたって行方不明とされていたが、その約26年後に加害者が自首して死体が発見

被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま前記殺害の時から20年が経過した場合において、その後相続人が確定した時から6か月以内に相続人が前記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなどの特段の事情があるときは、
民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。

最高裁平成10年判決の判断枠組みを踏襲し、
第1要件については、民法160条の趣旨に言及しつつ、相続人が被相続人の死亡の事実を知らない場合は同法915条1項所定のいわゆる熟慮期間が経過しないため、相続人は確定しないことそ指摘するとともに、
第2要件については、加害者が相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出したためであること指摘し、
両要件のいずれも充足。

平成21年判決の射程範囲も短い。
田原反対意見:
除斥期間と解する場合には具体的妥当な解決を図ることは法論理的に極めて難しい。

◎ 本事案:
各適用除外判決がいずれも指摘した民法158条又は同法160条に沿うとするような法的根拠はない⇒第1要件を欠く。
国賠法の制定に加えて救済法を制定することが必要不可欠であると説示するもの⇒救済法の制定が前提とされていない各適用除外判決の事案とは、事案を異にする⇒第2要件も欠く。

本判決:
除斥期間の規定を前提としても、被害の回復を全面的に否定することは、憲法13条憲法17条の法意に照らし是認されるべきものではない旨説示
~前記の第2要件を欠く趣旨をいう。

判例時報2413

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2019年10月 9日 (水)

野焼作業で地元住民である作業員3名が焼死⇒同野焼作業の企画・立案を狙っていた被告人両名が過失責任を問われた事案。

東京高裁H31.1.23    
 
<事案>
野焼作業で地元住民である作業員3名が焼死⇒同野焼作業の企画・立案を狙っていた被告人両名が過失責任を問われた。 
 
<原判決> 
被告人両名は本件事故を予見できたし、また予見すべきであった⇒結果回避義務の懈怠があった⇒業務上過失致死罪の成立を認めた。 
 
<判断>
被害者ら3人等による本件着火行為は、「野焼き作業の鉄則」(緊急時の避難場所となり得る安全地帯を背にして、その外縁部に着火し焼け跡を広げていく方法で作業を進めること)に反する、原野内で着火するのに等しい危険な作業手順であった。 

①野焼き作業においては、具体的な着火場所の選定は現場の状況等を1番よく知り得る立場にある現場の作業員らの判断に委ねられている
被害者3名を含む現場の作業員らは、経験も豊富で、野焼作業の安全性のための手順を充分にわきまえた者達であった
現場の作業員らの判断で進められてきたこれまでの野焼作業では、作業員の大きな死傷事故につながるような事故が発生していなかった
④被告人両名は、本件野焼作業の企画・立案を担っていた者はあるが、本件実施計画書は、作業担当責任者らが参加する会議での了承も経て確定しているところ、その過程で事故の危険性について具体的な指摘も受けていない

被告人両名の立場からすれば、経験豊富な現場の作業員らが、「野焼作業」の鉄則」に反して、原野内で着火するのに等しい危険な行為を行うようなことは、通常は想定し得ないというべきであり、これを、計画の企画・立案の際に、具体的に予見できた又は予見すべきであったとは認められず、結果を回避すべき義務があったとも認められない。
 
<解説>
被告人に過失責任を問えるか否かを検討するに当たっては、
①発生した事故が具体的にどのような原因によって生じたのかを認定し、
その原因に即して、被告人の立場において、これに対する予見可能性があるかどうかを検討し、
③予見可能性がある場合に結果回避措置の内容を検討するのが通常。 

東京高裁H29.9.20:
天竜川下りの事故で、乗船場に勤務する船頭主任で運行管理補助者である被告人の業務上過失責任を認めた一審判決を事実誤認で破棄し、
被告人には、船頭らに対し危険回避のため適切な操船や状況判断等により安全な運行を確保するための指導・訓練を実施させるよう運行会社側に進言し、自らもそうした指導・訓練を実施するべき注意義務があったとは認め難く事故発生の現実的危険を認識し得たとは考え難く、転覆についての現実的な危険性を認識し得なかったなどとして、無罪。

判例時報2412

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2019年10月 8日 (火)

ビルから落下させて殺害での起訴について無罪となった事案

大阪高裁H30.7.5      
 
<事案>
殺人、脅迫、暴行の公訴事実。
殺人については、被告人が、交際相手であるVを、ビルの5階から路上に落下させて殺害したというもの。
被告人は、Vは、自ら落下、すなわち自殺と主張。 
 
<原審>
殺人について無罪。 
 
<判断>
Vの落下状況から、自殺の可能性を否定することや、他殺と自殺の可能性の大小を論じることはできないし、そのほか現場や遺体の客観的状況からも、Vが自殺したことがあり得ないとはいえない⇒殺人について無罪。 
 
<規定>
刑訴法 第三八二条の二[量刑不当・事実誤認に関する特則]
やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。

刑訴法 第三九三条[事実の取調べ]
控訴裁判所は、前条の調査をするについて必要があるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる。但し、第三百八十二条の二の疎明があつたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取り調べなければならない。

刑訴法 第三九二条[調査の範囲]
控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。
②控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。
 
<解説> 
●本判決では、検察官の事実の取調べ請求を全て却下しているが、検察官が請求した証拠は、追加の落下実験に関するものであり、それ自体は科学性、客観性を相当程度肯定することができるものであった。
but
刑訴法382条の2第1項の「やむを得ない事由」を否定した上、
同法393条1項本文によって取り調べる必要性も否定。

「やむを得ない事由」:
原審における争点整理の経過や内容、証拠関係について検討⇒検察官は原審の公判前整理手続終了前、遅くとも原審公判中に行っておくべきであった立証準備を怠っていた⇒否定。

「必要性」:当該証拠の位置付けを、原判決の説示と対比させ、原判決の当否を左右し得るものかを検討した上で、これを否定。
~控訴審が事後審であることが強く意識されている。

控訴審裁判所が事実取調べ請求に係る証拠の位置付けを把握するのは、立証趣旨や、やむを得ない事由及び必要性に関する検察官の主張を通じてであることが通常であろうが、
提示命令を出して、証拠の内容を確認した上でこれを把握することも許されよう。
 
●本判決:
殺人⇒控訴棄却
脅迫⇒無罪とした原判決には法令適用の誤りひいては事実誤認がある⇒破棄自判
原判決も有罪としていた暴行についても破棄 

暴行については、被告人からの控訴はなく、
検察官からの公訴はあったものの、およそ控訴理由を主張しておらず、
暴行につき原判決は可分
⇒控訴は不適法(いわゆる不成立)
but
脅迫につき懲役刑を科すのであれば、脅迫の部分に加えて、暴行の部分についても原判決を破棄し、脅迫と暴行ににつき併合罪処理をして1つの刑を科さなければならないと解されており、
これは、本件のように、一方の罪において控訴はあるが控訴理由の主張がなく、それだけをみれば控訴が不適法となる場合でも同様と解されている。(最高裁昭和38.11.12)

判例時報2412

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2019年10月 7日 (月)

外科医師の職種限定合意、配転命令等が無効とされた事例

広島高裁岡山支部H31.1.10      
 
<事案>
Xは、Yが運営する病院(A病院)に勤務する外科医。 
Xは、Yから、Xを消化器外科部長及び消化器疾患センター副センター長から解任し、がん治療サポートセンター長に任命する配置転換命令(本件配転命令)及び外来・入院・手術・カンファレンス等、外科の一切の診療に関与することを禁止する命令(本件診療禁止命令)を受けた。

Xは、Yに対する以下の仮処分命令の申立て
がん治療サポートセンター長として勤務する雇用契約上の義務がないことを仮に定める仮処分命令の申立て
本件診療禁止命令に従う義務のないことを仮に定める仮地位仮処分命令の申立て
XがYの求める調査会に出席しなかったことを理由とする懲戒処分の事前差止めを求める仮地位仮処分命令の申立て
 
<原決定>
全部却下 
 
<判断> 
申立て①②を認容し、③を却下。 
 
<解説>  
●配置転換命令(「配転命令」)の意義
配転:従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるもの

長期的な雇用を予定した正規従業員については、職種・職務内容や勤務地を限定せずに採用され、企業組織内での従業員の職業能力・地位の発展や労働力の補充・調整のために系統的で広範囲な配転が行われていくのが普通。
このような長期雇用の労働契約関係においては、使用者の職務内容や勤務地を決定する権限が帰属することが予定されている。(菅野)
 
●職種限定合意の成否
一般に、職種限定合意等に反する配転命令は無効と解されている。
本決定:職種限定合意の成立を認め、これに反する本件配転命令及び本件診療禁止命令を無効とした。
一般に、労働契約の締結のなかで、当該労働者の職種が限定されている場合は、この職種の変更は一方的命令によってはなしえない。(菅野)
Xは外科医師⇒職種限定合意が認められる極めて典型的な事例。
but
原決定はこれを否定

①明示的な合意がない
vs.
黙示の合意を否定する理由とならない。

②就業規則で兼務があり得るとされている
vs.
専門とする診療科での診療を禁止することを根拠づけるものではない。
 
●配転命令権の濫用 
配転命令権が乱用された場合、配転命令は無効(通説・判例)
職種又は勤務場所を限定する合意については、労働契約の内容として個々の配転命令権を制限する合意までは認め得なくても、労働者の期待等を考慮し、・・・命令権の濫用を基礎づける事情(著しい職務上又は生活上の不利益)として考慮されることもある。(西村)

本決定:
職務限定合意があることを理由として、権利濫用の判断に当たり、高度の業務上の必要性を要求し、かつ労働者の被る不利益について検討する中で、職種限定合意を基礎づける事情について考慮
 
労働者が配転命令等の無効を争う訴訟における訴訟物等 
労働者が使用者に対して就労させることを請求する権利(就労請求権)を有するか?

労働契約は義務であって権利ではない(使用者は、賃金を支払うかぎり、提供された労働力を使用するか否かは自由であって、労働受領義務はない)

特約ある場合や特別の技能者である場合を除いては就労請求権を否定。(通説・判例)

配転命令等を無効確認請求事件における訴訟物は、「雇用契約に基づく就労義務の存否」であり、「配転無効であることを前提とする主張を請求の趣旨に構成する仕方は、新部署における労働契約上の就労義務がないことの確認を求めるという方法しかない」
but
労働者が配転命令を争う訴訟において求めるべき請求内容は、配転先における就労義務のない労働契約上の地位の確認
but
労働契約上、職種や勤務地が限定されており、配転命令がその限定に反して無効であるという場合には、配転前の職種ないし勤務地において就労する地位の確認を求めることができるとする見解(菅野)もある
 
●仮処分に特有の問題 
仮の地位を定める仮処分の被保全権利は、本案事件の訴訟物であると解されている。
新職場に勤務する雇用契約上の義務の不存在確認を求める場合の被保全権利:当該義務の不存在確認請求権(申立て①)
申立て②に係る被保全権利:本件診療禁止命令(業務命令)に従う義務の不存在確認請求権。
民事保全法 第23条(仮処分命令の必要性等)
・・・
2仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に保全の必要性が認められる。

仮処分によって債権者が受ける利益と仮処分によって債務者が被る不利益を比較衡量して、被保全権利が疎明の段階であっても、仮処分を発令しないことによって生ずる債権者の不利益が著しく大きいと認められるときに保全の必要性が存在すると解されている。
配置転換の効力停止を求める仮処分については、転居を伴うような転勤の場合、保全の必要性が認められやすいが、部内移動や転居を伴わない転勤の場合、保全の必要性は容易には認められないことになろうが、
技能の低下、精神的苦痛、昇給等への影響、労働組合活動への支障、懲戒処分のおそれ等を理由に保全の必要性をみとめるとの立場も考えられる。

本件は、特段の事情が認められる典型的事案。

判例時報2412

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2019年10月 6日 (日)

共同での特許無効審判請求に係る無効審決⇒特許権者が、共同審判請求人の一部のみを被告として取消訴訟、共同審判請求人との関係で出訴期間経過⇒審決取消訴訟は訴えの利益を欠く不適法なものとして却下

知財高裁H30.12.18      
 
<事案>
Y及びAが共同でした無効審判請求に係る取消訴訟。
特許権者Xらは、共同審判請求人Y及びAのうちYのみを被告として本件訴訟を提起し、Aとの関係では、審決取消訴訟が提起されないまま出訴期間を経過。 
 
<規定>
特許法 第132条(共同審判)
同一の特許権について特許無効審判又は延長登録無効審判を請求する者が二人以上あるときは、これらの者は、共同して審判を請求することができる。
 
<判断>
● 訴えの利益を欠く不適法なものとして、却下。 
本件審決は、Aとの関係においては、出訴期間の経過により既に確定⇒本件特許の特許権は初めから存在しなかったものとみなされる⇒本件訴えは訴えの利益を欠く不適法なもの。
● 特許法132条1項は、本来、各請求人は単独で特許無効審判請求をし得るところ、同一の目的を達成するために共同での審判請求を行い得ることとし、審判手続及び判断の統一を図ったもの。
but
この場合の審決を不服として提起される審決取消訴訟につき固有必要的共同訴訟とする規定も、審決の画一的確定を図るとする規定もない。

同一特許について複数人が同時期に特許無効審判請求をしようとする場合の特許無効審判手続の態様:
①共同審判請求
②別居独立に請求された審判手続が併合
③別個独立に請求された審判手続が併合されないまま進行
の3つが考えられる。
③の場合に無効審決がされたときは、その取消訴訟をもって必要的共同訴訟と解する余地がない

事実及び証拠と同一であるか異なるかに関わりなく、複数の特許無効審判請求につき、請求不成立審決と無効審決とがいずれも確定するという事態は、特許法上当然想定されている。
①の場合に、被請求人(特許権者)の共同審判請求人に対する対応が異なった結果として前記と同様の事態が生じることも、特許法上想定されないこととはいえない。


共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは、法文上の根拠がなく、その必要性も認められない
⇒その請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合に、被告とされなかった請求人との関係で審決の確定が妨げられることもない。
共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは法文上の根拠がなく、その必然性も認められない
⇒当該審決に対する取消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない。
 
<解説> 
同一の特許権については、2人以上の者が共同して特許無効審判を請求することができる。(特許法132条1項)
特許を無効にすべき旨の審決が確定⇒特許権は、初めから存在しなかったものとみなされる。(同法125条本文) 

共同で特許無効審判が請求され、無効審決がされたのに対し、被請求人(特許権者)が共同審判請求人の一部の者のみを被告として審決取消訴訟を提起し、他の請求人との関係ではこれを提起しないまま出訴期間を経過した場合の規律は? 

共同で特許無効審判請求に対し不成立審決がされた場合における請求人の一部の者のみが提起する審決取消訴訟の許否について

最高裁H12.2.18:
各請求人が個別に審決取消訴訟を提起し、又は提起しないことができる。

別個独立に請求された特許無効審判手続が併合され、不成立審決がされた場合、請求人の一部の者のみが提起した審決取消訴訟の適法について、
最高裁H12.1.27:
ある特許につき請求不成立審決が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録後に新たに当該無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものであり、
それを超えて、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではない。

審決取消訴訟を提起しなかった請求人との関係では不成立審決が確定することを前提とする。

判例時報2412

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2019年10月 5日 (土)

一部の相続人による、被相続人名義の貯金全額の引出しと不当利得(肯定)

徳島地裁H30.10.18      
 
<事案>
亡Aの相続人である原告が、共同相続人である被告に対し、
Aの死後に同人名義の本件貯金1618万円余について原告の同意を得て払戻しを受けたがそのまま被告が全額を領得したため、原告に被告に対し、
第1に主位的に、準共有持分侵害の不法行為に基づき自己の法的相続分2分の1に当たる809万円及び弁護士費用80万円等の支払を、
第2に予備的に、不当利得に基づき自己の法廷相続分に当たる809万円余等の支払を求めた。 
 
<争点>
①本件貯金は亡Aの遺産か、それとも被告に帰属するのか
➁不法行為・不当利得は成立しているか
③不当利得額は原告の法廷相続分相当額か、それとも具体的相続分相当額か
 
<判断>
争点①について、Aに帰属 

争点②について:
原告が本件貯金の払戻しに同意していた⇒不法行為は成立しない
被告は遺産分割協議を経ることなく全額を出金して原告に交付することなく独占⇒本件貯金に対する原告の準共有持分を不当に利得

争点③について:
①具体的相続分はそれ自体を実体法上の権利関係であるとはいえない
②Aの遺産に係る遺産分割が未了
③被告において遺産分割協議や審判を経るなどして、具体的相続分を前提に本件貯金の準共有関係の解消を図ること(被告の主張によれば、そもそも原告が本件貯金の準共有持分を有しない旨を確認すること)が可能であるにもかかわらずそのような手続をとることなく、本件貯金の解約についてのみ原告の同意を取り付けてこれを全額領得しており、このため本件訴訟が提起されていることなどの経緯

本件訴訟において侵害の有無を判断する基準となるべき相続分は、具体的相続分ではなく法定相続分であると解すべき

不当利得返還請求を認容
 
<解説>
●最高裁H28.12.19:
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。 

上記最判は、最高裁H16.4.20を変更したが、同判決中変更されたのは、
前半部分の「相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではない」とされた部分だけで、
後半の「したがって、共同相続人の1人が、相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる」という部分まで変更したものとは解されない。

本件の判決が不当利得返還請求を認容したことがこれらの判例と相反するものではない。

損害額あるいは利得額の算定基準を法定相続分とするか、具体的相続分とするか?
最高裁H12.2.24:
具体的相続分は遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできない

法定相続分とする本判決の判断はこれまでの判例の線に沿ったもの。

●本件のような場合における不当利得返還請求や損害賠償請求については、最高裁H28.12.19の射程外であり、遺産分割を要するものではない。

判例時報2412

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2019年10月 3日 (木)

携帯電話のレンタル業者に詐欺行為の幇助を認め損害賠償請求を認めた事案

仙台高裁H30.11.22      
 
<事案>
Xは、Y(携帯電話のレンタル業者)らに対し詐欺の実行行為者Bとの共謀ないし故意・過失による幇助の不法行為に基づき損害賠償(詐欺による被害金、慰謝料、弁護士費用)を求めて提訴。 
 
<原審>
携帯電話の貸与業者が一般的に犯罪行為への加担を認識認容しているとは認められず、その貸与行為から直ちに携帯電話が犯罪に使用されることにつき認識認容があったとはいえない⇒Yらの故意を認めない。
Y2は対面により本人確認を行い、運転免許証の提示を求めており過失も認められない。

請求棄却。 
 
<判断>
原判決を変更し、Xの請求を一部認容(被害金、弁護士費用を認め、慰謝料は認めず)

①Y2(代表取締役)は、転送電話サービス付きの携帯電話が、電話を利用した詐欺等の犯罪に悪用される事例が多くあり、犯罪防止の観点から、法規制により貸与時本人確認等の悪用防止策が講じられていることを十分に認識しながら、Y1社を設立して携帯電話のレンタル業を始めた
②Y2は、Y1社がレンタルした携帯電話が実際に犯罪に悪用されていることを警察からの指摘を受けて知りながら、契約の態様としては、Y1社の事務所ではなく、公園でBと会い、支払履歴などの物的証拠が残りにくい現金払い、かつ領収証は交付しないこととした上、具体的な使用目的も確認しないで、約4か月の間に合計10台もの電話転送サービス付き携帯電話を貸与

Y2は、Bに貸与した携帯電話が、Xが被害を受けた電話勧誘によるデート商法詐欺を含む詐欺等の犯罪行為に悪用される可能性が極めて高いことを具体的に認識しながら、そのような犯罪行為を助ける結果が生じてもやむを得ないものと少なくとも未必的に認識したうえで、Y1社からBに貸与したものと認めるのが相当であり、Yらには、Xが被害を受けた本件詐欺被害について、詐欺行為を助け、詐欺による被害が生ずることについて、包括的かつ未必的な故意があった
仮に、故意がなかったとしても、Yらには、前記詐欺被害が生ずることについて具体的な予見可能性があった⇒それにもかかわらず携帯電話を貸与したことには過失がある。
 
<解説>
犯罪行為に利用させる事務所や携帯電話を貸与することが幇助に当たるかという問題が争点となるケースについては、主観的要件の認定が難しい。
←携帯電話の貸与業者が一般的に犯罪行為に加担しているという経験則は認められない。
but
本判決は、事案の個別的事情を子細に検討し間接事実を積み重ねていくことにより、携帯電話の貸与につき貸与したレンタル業者の詐欺行為幇助の故意・過失を認定。 

違法な投資法品勧誘行為を行っていた事業者に事務所を使用させた行為は不法行為の幇助に当たるとした事例(東京高裁H29.12.20)。

違法行為をする者に便宜を供与する者については、その相互の関係と主観的要件いかんにより、
共同不法行為者、幇助者、法的責任とは無関係の者に分かれる。
その認定判断においては、関連事実をきめ細かく主張立証し、論証していくことが必要となる。

判例時報2412

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2019年10月 2日 (水)

妻(再婚)の夫に対する婚姻費用請求

大阪高裁H30.10.11      
 
<事案>
B(妻)とA(夫)は、平成24年に婚姻し、Aは、Bと前夫間の長女D(平成9年生)と養子縁組
Bは、平成28年、Dを連れて自宅を出た。 
 
<原審>
Aの収入を年額1958万円余ないし1566万円Bの収入をパートタイム労働者の半分(年額60万円)と認定、

Dを大学の卒業年次までは未成熟子として取り扱うが、標準的算定方式を超える教育費については、Aの同意がなく、前夫から養育費が支給されていることに鑑み加算しない。 
Aから支払われた既払いの婚姻費用約340万円を控除し、未払い婚姻費用344万円余と月額28万円(平成32年3月まで)ないし21万円(同年4月以降)の支払を命じた。
 
<判断>
Bは教員免許を有し、平成28年までは高校講師として勤務
⇒稼働能力を基に平成27年の年収250万円をその収入と認定

Dの教育費:
①Aの年収が標準的算定方式の予定する年収の2倍強に上る
②前夫から養育費とは別途受験費用等が支給されている
⇒原審同様加算しない。

婚姻費用の分担額を、
未払い婚姻費用720万円と月額32万円(平成30年1月まで)、26万円(平成32年3月まで)ないし16万円(同年4月以降)と試算。
未払い婚姻費用(Dの生活費を含む720万円)とDの生活費を含まない(DがBと同居していない場合の)未払い婚姻費用(480万円)との差額240万円は、
前夫から支払われたDに対する養育費(合計378万円)によって既に賄われており、その間、Dの要扶養状態は解消⇒前記未払い婚姻費用の額は480万円に止まる。
そこから既払い婚姻費用約340万円を控除して、原審決変更した上、未払い婚姻費用140万円余と月額26万円(平成32年3月まで)ないし16万円(同年4月以降)の支払を命じた。
 
<解説>
権利者が再婚し、監護する未成年者が再婚相手と養子縁組:
養子制度の目的
未成熟子との養子縁組には、子の養育を全面的に引き受けるという暗黙の合意が含まれている

養親が実親に優先して扶養義務を負う

通常は、養親の扶養義務が実親に優先し、
養親が無資力その他の理由で十分に扶養義務を履行できないときに、実親がその義務を負担

判例時報2412

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2019年10月 1日 (火)

難民不認定処分の取消⇒事情変更を理由に再度難民不認定処分の事案

東京高裁H30.12.5       
 
<事案>
Xが、前訴判決により本件前不認定処分当時における難民該当性が認められた以上、法務大臣が再度の難民不認定処分をするには、難民条約1条C(「終止条項」)(5)にいう「難民であると認められる根拠となった事由が消滅したため、国籍国の保護を受けることを拒むことができなくなった場合」に該当することを要するところ、Xについて終止条項に該当するとは認められない
⇒本件再不認定処分の取消し、本件異議棄却決定の無効確認及び難民認定の義務付けを求めた。 
 
<一審>
Xの請求のうち、
本件再不認定処分の取消し及び難民認定の義務付けを求める部分を認容し、
本件異議棄却決定の無効確認請求に係る訴えを却下 
 
<判断> 
一審維持でYの控訴を棄却
我が国の法制度において、難民に該当することを理由に、難民不認定処分の取消決定が確定している外国人は、法務大臣による難民認定を要件とすることなく、前記処分時において難民条約の適用を受ける難民であることが公権的に確認されていることとなり、法務大臣もこれに拘束される。
その後の事情の変更を理由として法務大臣が難民認定をしない旨の処分をしようとする場合には、終止条項の規定により難民条約の適用が終止するか否かを判断する必要
・・・・本件再不認定処分当時、終止条項に該当すると認めることはできず、なお難民に該当⇒本件再不認定処分の取消しを求めるXの請求は理由がある。
・・・スリランカ当局等からLTTEの協力者であるとの疑いをもたれている具体的な可能性があるXについて、終止条項該当性を認めることはできない。

Xは現時点においても難民に該当し、難民認定の義務付けを求めるXの請求も理由がある。
 
<解説>
本判決は、終止条項を含む難民条約1条の規定等から、終止条項の適用対象を法務大臣による難民認定を受けた者に限定しない立場を採った上で、
難民に該当することを理由に難民不認定処分の取消判決が確定している外国人について、取消判決の拘束力(行訴法33条)を理由として、法務大臣がその後の事情の変更を理由に難民認定をしない旨の処分をしようとする場合には終止条項の規定により難民条約の適用が終止するか否かを判断すべきことを明らかにしたもの。 

判例時報2412

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