暴行保護事件で少年を第一種少年院に送致した決定が争われた事案
東京高裁H30.3.23
<事案>
当時15歳(審判時16歳)の少年が、フードコートの女子トイレ内で、後輩女子に対し、その髪の毛をつかみ、平手で顔面を1回殴打する暴行を加えた事案。
<原審>
少年を第1種少年院に送致。
<抗告>
少年及び付添人:
①少年の非行歴は前件のぐ犯と本件のみで、非行性は進んでおらず、中学卒業や保護観察等を通じて落ち着いてきており、感情統制が下手で自分に自信が持てず、同世代の面では虚勢を張るといった面があるが、少年の問題は深刻で根深いものではない。
②少年は、審判や観護措置等を通じて少年なりに内省を深め、原審後にも反省文を作成するなど、要保護性は相当程度減少している。
③就労先は確保されている上、両親や伯母は少年の資質、特徴、性格を把握し、これまでより深い指導が期待できるなど、社会資質が確保されている
⇒処分は著しく不当。
<判断>
①少年は、審判手続や鑑別所での生活においても、感情を統制できずに暴力的な言動に及んでいるところ、このような少年の問題は、少年が、発達上の特質を背景に、生活の乱れや学校等への不適応から、不良交友に居場所を求め、暴力による問題解決や自己の精神の安定を図ろうとする姿勢を身に付ける中で、長年にわたって形成された根深いものであって、単純で、深刻でないものとは言えない。
②少年に改善の兆しが窺われることは更生への第1歩として評価することができるが、少年が、原決定について、審判で暴言を吐いたことに引き摺って感情で決定を下しているようにしか見えないと述べているように、自己の問題を十分認識できていないことが窺われる⇒内省は表面的なものにとどまっている。
③これまでも十分な監護ができていなかった⇒直ちに実効性のある監護が可能な環境にはなく、少年の再非行を防止するためには、資質面の特性に十分な配慮をしつつ、感情統制や対人関係スキルなどを身につけさせることが不可欠であるが、社会内処遇の枠組みでは、そのような指導やサポートをするだけの資源がなく、保護環境も十分ではない⇒少年院という強固な枠組みの中で、系統的な教育を受けさせる必要があり、その中で、じっくりと信頼関係を構築し、1つ1つ自己の問題を理解するよう指導し、社会適応能力を高めてゆくことが不可欠。
⇒
抗告を棄却。
<解説>
●要保護性:
①犯罪的危険性
②矯正可能性
③保護相当性
の3つの要素からなる。
(通説)
処遇選択の判断においては、これらを検討し、
①在宅処遇
②在宅処遇では十分な保護とならない⇒少年院送致
要保護性判断の中心である犯罪危険性の判断においては、
非行事実の態様、結果、原因・動機の分析が不可欠。、
●原審は、当初、在宅で調査を行い、第1回審判期日。
要保護性の心理において少年の資質上の問題点が窺われた⇒期日を続行することとし、少年が不出頭の調査期日を経て、第2回審判期日において、観護措置がとられ、鑑別が実施。
判例時報2411
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