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2019年9月 1日 (日)

消費者金融業者の破産⇒過払金確定⇒過年度の決算を遡って減額修正

大阪高裁H30.10.19      
 
<事案>
破産管財人であるXが、債権調査を経て確定した破産債権(総額555億円余の過払金返還請求権、本件過払金返還債権1)が確定⇒かつての確定申告には誤りがあり、益金が過大であった⇒税通法23条2項1号に基づき、過年度の法人税に係る課税標準等又は税額等につき各更正すべき旨(法人税額は合計66億5526万3845円の減額更正)の請求⇒更正をすべき理由がない旨の各通知処分⇒
主位的に同各通知処分の一部取消し(法人税相当額5億円の範囲での取消し)を、
予備的に不当利得の一部返還(法人税相当額5億円及び遅延損害金の支払)
をそれぞれ求めた。 
 
<原審>
①本件過払金返還債権1が破産債権者表に記載されることにより、当該債権に係る不当利得返還義務が確定判決と同一の効力により確定したとしても、企業会計原則における前記損益修正によって、同義務に係る損失が生じた日の属する事業年度において当該損失を損金の額に算入する方法によって処理するのが公正処理基準に従ったもの
前記のような処理をしないで本件各事業年度の益金の額を減算すべきではない

本件各事業年度の益金の税務申告(本件申告)に誤りはなく、税通法23条1項1号所定の要件に該当しない⇒本件各通知処分は適法
Y(国)が本件各事業年度の法人税額を保持することに法律上の原因がないと認めることはできない。
   
控訴したが、控訴審において不服の範囲を限定し、
法人税額合計2億5000万円の範囲で本件各通知処分の取消しを求め、
予備的に同額(遅延損害金も含む。)の不当利得返還を求めた。
 
<判断>
①Xが本件破産会社についてした本件会計処理(確定した本件過払金返還債権1に係る制限超過利息のうち、当該事業年度に関するものを貸借対照表の負債の部に計上し、貸借対照表の資本の部を同額減少させること等を内容とする会計処理)は、公正処理基準に合致するものであり是認されるべきであった⇒結果的に、本件申告に係る納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定(法人税法22条4項)に従っておらず、同納税申告書の提出により納付すべき全額が過大であったことになり、税通法23条1項1号に該当
②本件破産手続において本件破産会社が本件過払金返還債権1に係る不当利得返還義務を負うことが確定判決と同一の効力を有する破産債権者表への記載により確定し、その結果、本件破産会社に生じていた経済的成果が失われたか又はこれと同視できる状態に至ったと解されることにより、本件申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なることが確定したというべき(税通法23条2項1号)

本件各更正の請求は理由があり、これに理由がないとした本件各通知部分はいずれも違法

原判決を取り消し、主位的請求を認容。
 
<解説> 
●主位的請求の関係で、租税手続法である税通法23条1項1号が、更正の要件として、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことなどを定めている。 
国税に関する法律(租税実体法)である法人税法は、法人税の課税標準を各事業年度の所得の金額とした上(21条)、同所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額であり(22条1項)、益金及び損金の額の算定要素となる収益の額並びに原価、費用及び損失の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って計算されるものとする」旨を定めている(同条4項)。

本件破産会社における過年度の益金の計算上、後年度に過払金債務が確定したとして、本件会計処理をした上で、過年度の益金の算定要素となる収益の額を遡及して減らすことが、公正処理基準に合致するかが問題

制限超過利息が無効であってもこれを現実に収受した場合には益金となり、課税の対象となる(最高裁昭和46.11.9)。
従来、法人税の実務では、契約の解除等いわゆる後発的な事由により発生した損失等について、「ひとり民事上の契約関係その他法的基準のみに依拠するものではなく、むしろ経済的観測に重点を置いて当期で発生した損益の測定を行う」という理解を前提に、前記損益修正の処理が行われてきたとされている。
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税務上は、前記損益修正の場合であっても、内容次第では当初に遡って課税を修正することもあるとして、事業廃止、解散等により事業の継続性が失われた場合には、既往に遡って課税を訂正し、税額を還付するなどの措置が認められる余地がある

本判決:
前記損益修正による処理を行うことが更生処理基準に合致すると考える余地は十分にあると考えられるとした上で、
収益・費用等の帰属年度をめぐり、公正処理基準に適合する会計処理は必ずしも単一ではないと考えられ、本件のような場合のの収益・費用等の帰属年度に関し、前期損益修正により処理又は過年度遡及会計基準による遡及処理のみが更生処理基準に合致する唯一の会計処理としなければならないと解するのは相当ではないとした。

公正処理基準に合致する会計処理は、唯一の基準によってしなければならないというものではなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる基準の中から当該法人が特定の基準を選択していたような場合には、法人税法上も同会計処理を正当なものとして是認すべきとした判例(最高裁H5.11.25)を踏まえたもの。

本判決:
破産手続の特質
(①裁判所の監督の下で、利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とする手続であること、②国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする税徴法においても、破産手続は強制換価手続に、破産管財人は執行機関にそれぞれ位置づけられていること)を考慮し、
本件の場合における収益・費用等の帰属年度に関する会計処理については、破産管財人において、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行と矛盾せず、かつ、破産手続の目的に照らして合理的なものとみられる会計処理を行っている場合には、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものではない。

本件破産会社の場合、
①企業会計基準が全面的に適用されるべき理由はなく、
②会社法上も前期損益修正の処理等に係る計算書類関係諸規定は適用されない上、
③過去の確定決算を修正しても、通常の株式会社の場合のような弊害が生じることもない、
④Xが本件会計処理を行うことは、本件破産手続の目的に照らして合理的なものである

遡及的な会計処理が公正処理基準に合致するものとして是認すべき
 
●法人が一旦収受した制限超過利息は、制限超過利息に係る合意の私法上の効力いかんにかかわらず課税の対象となり得るところ、これは制限超過利息を現実に収受することにより当該法人に経済的成果が生じていることによるものと考えられる。
⇒逆に、更正の対象とするには、経済的成果が消失していなければならないとされている。
破産管財人であるXは、制限超過利息相当額の一部を各破産債権者に配当⇒少なくともその額の限度では経済的成果が失われたことが明らか。
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それを超える経済的成果は失われていないのではないか?

本判決:
破産手続の特質に着目し、
①納付された法人税の還付の可否をめぐる問題に本件破産会社自身は利害関係を有しているということはできない、
当該法人について破産手続開始決定がされ、本件破産会社自身が利害関係を有さず、専ら顧客ら(破産債権者)の損失の上に、Yが利得を保持し続けることについての利害の調整が問題となる局面において、破産管財人が破産債権者に債権の全部又は一部を現実に弁済(配当)していることを求めるという意味での「経済的成果が失われること」を要求する理由に乏しい

破産債権者に対する現実の配当を要することなく、破産債権者表への記載がされたことをもって経済的成果が失われるか又はこれを同視できる状態に至ったと解するのが相当

判例時報2410

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