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2019年9月28日 (土)

補正の却下に当たり拒絶理由通知をしなかったことが違法とされた事案

知財高裁H30.9.10      
 
<事案>
原告は、名称を「スロットマシン」とする発明について、特許出願⇒本件拒絶理由通知⇒手続補正⇒本件拒絶査定
⇒本件拒絶査定不服審判請求をして、本件補正⇒特許庁は本件補正を却下した上、請求不成立審決
⇒原審審決の取消しを求めた。 
 
<争点>
①拒絶査定不服審査請求と同時にする補正の却下に当たり拒絶理由通知を行わなかったことによる手続違背の有無(取消事由1)
②独立特許要件違反の判断(新規性・進歩性判断)の誤りの有無(取消事由2) 
 
<規定>
特許法 第五〇条(拒絶理由の通知)
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

特許法 第一五九条
・・・
2第五十条及び第五十条の二の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。この場合において、第五十条ただし書中「第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)」とあるのは、「第十七条の二第一項第一号(拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)、第三号(拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)又は第四号に掲げる場合」と読み替えるものとする。
 
<判断>
●取消事由1について

特許法50条本文は、159条2項により拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由(「新拒絶理由」)を発見した場合に準用されており、出願人に対し意見書の提出及び補正による拒絶理由の解消の機会を与えて、出願人の防御bの機会を保障するという趣旨は、拒絶査定不服審判において新拒絶理由が発見された場合にも及ぶ。
②従前の拒絶理由通知に示されていなかった新たな刊行物(「新規引用文献」)に基づく独立特許要件違反を理由として、拒絶査定不服審判請求時に行われる補正(「審判請求時補正」)が却下され、補正前の特許請求の範囲の記載(「補正前クレーム」)に基づいて拒絶査定不服審判請求不成立審決がされてしまうと、審決取消訴訟において補正後の特許請求の範囲の記載(「補正後クレーム」)に基づく独立特許要件違反の判断の当否や補正前クレームに基づく拒絶理由の判断の当否を争うことはできるものの、審査段階における17条の2第1項3号所定の補正(「3号補正」)の場合とは異なり、新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会が残されていない点において、出願人により過酷。
③平成5年改正は、17条の2第5項2号所定の特許請求の範囲の減縮を目的とする審判請求時補正においては、審査段階における先行技術調査の結果を利用することを想定していたことが明らかであり、これを却下する際に、独立特許要件の判断において、審査段階において提示されていなかった新規引用文献を主たる引用例とするなど、審査段階において全く想定されていなかった判断をすることは、平成5年改正の本来の趣旨に沿わない
④平成5年改正が目的とする審理が繰り返し行われることを回避することにより、審査・審判全体の効率性を図ることは、重要ではあるが、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として審判請求時補正を却下せずに、この新規引用文献に基づく拒絶理由を通知したとしても、限定的減縮である審判請求時補正による補正後クレームについて、17条の2第3項~6項による制限の範囲内で補正することができるにすぎない
審理の対象が大きく変更されることは考え難く、そのような審理の繰返しを避けるべき強い理由があるとはいえない。

159条2項により読み替えて準用される50条ただし書に当たる場合であっても、特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らし、出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、159条2項により準用される50条本文に基づき拒絶理由通知をしなければならず、しないことが違法になる場合もあり得る。
 

①本件拒絶査定の理由は、本件先願を理由とする拡大先願(29条の2)であるのに対し、審決が拒絶査定不服審判請求と同時にした限定的減縮を目的とする本件補正を却下した理由は、刊行物1を理由とする新規性欠如(29条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項)であって、適用法上も引用文献も異なる。
②刊行物1は、本件補正を受けた前置報告書において初めて原告に示されたものであるが、刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会はなかった。

審決時において、原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認められる⇒審判合議体は、159条2項により準用される50条本文に基づき、新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであった。
but
前記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には、159条2項により準用される50条本文所定の手続きを怠った違法がある。 
 
<解説> 
①限定的減縮を目的とする審判請求時補正は、17条の2第6項により準用される126条7項により、補正後クレームにより特定される発明(「補正後発明」)が独立特許要件を充足する必要がある。
②159条2項により読み替えて準用される50条ただし書は、159条1項により読み替えて準用される53条1項による補正却下の決定をするときは、この限りでないとしており、その159条1項により読み替えて準用される53条1項は、審判請求時補正が17条の2第6項に違反するときは、決定をもってその補正を却下しなければならないとしている。

限定的減縮を目的とする審判請求時補正において、新拒絶理由による独立特許要件違反を理由として、これを却下するに当たり、拒絶理由通知をする必要があるかについては、前記の条文構造を理由として不要とする見解が少なくない。

判例時報2411

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