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2019年9月29日 (日)

時間外労働等の対価とされていた定額の手当の支払と労基法37条の割増賃金の支払(最高裁)

最高裁H30.7.19      
 
<事案>
Yに雇用され、薬剤師として勤務していたXが、Yに対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金並びに付加金等の支払を求めた。 
 
<争点>
Yは、Xに対し、X・Y間の雇用契約に基づき、基本給とは別に、月額10万1000円の業務手当を支払っていたところ、この業務手当がいわゆる固定残業代に当たるか、業務手当の支払により時間外労働等に対する賃金が支払われたといえるか否か。 
 
<判断>
使用者が労働者に対し、雇用契約に基づいて定額の手当を支払った場合において時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する対価として支払われるものとされていたにもかかわらず、当該手当てを上回る金額の割増賃金請求権が発生した事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組みが備わっていないなどとして、当該手当の支払により労基法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある

原判決を破棄し、Xに支払われるべき賃金の額、付加金の支払を命ずることの当否及びその額等についての審理につき、原審に差し戻した。 
 
<解説> 
労基法37条は、同条所定の算定方法による金額以上の割増賃金の支払を義務付けるにとどまり、同条所定の算定方法を用いることまで義務付ける規定ではない
使用者が同情所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用することにより直ちに違法となるものではない。(通説・判例) 

固定残業代に関し、判例は、使用者が労働者に対し、時間外労働等の対価として支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討することを要する。(最高裁H29.2.28)
~判別要件
本件においては、基本給とは区別されて支払われる定額の業務手当全体が固定残業代に当たるか否かが争われている⇒判別要件は直接には問題とならない。
but
前記の判示は、割増賃金に当たる部分が時間偽労働等に対する対価としての性質を有することが前提となっており、
本件の争点は、固定残業代に該当するか否かが争われている業務手当が、時間外労働等に対する対価としての性質を有するものであるか否かという、実務上、対価性などと呼ばれる点にある。
 
契約に基づいて支払われる金銭がどのような趣旨で支払われたか?

契約の内容すなわち当事者の合意の内容により定まる
⇒雇用契約に基づいて支払われる手当が時間外労働等に対する対価として支払われたか否かも、当該雇用契約においてどのような合意がされたかによって定まる。

裁判例:
時間外労働等の対価以外に合理的な支給根拠があるあるとはいえないなど、実質的にみて時間偽労働の対価としての性格を有していること、

支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること
労基法所定の額が支払われているか否かを判定することができるよう同意の中に明確な指標が存在していること

固定残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること
等を、契約内容とは別の要件としているものがある。

基本給とは別に支払われる手当が、95時間~100時間分の時間外労働に対する賃金に相当する場合に、法令の趣旨に反するなどとして、固定残業代に該当するとは認められないとしたもの。
 
●本判決 
使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、労基法37条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができることを確認した上で、
雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等に勤務状況などの事情を考慮して判断すべきであり、同条や他の労働関係法令が、当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために、原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない。

雇用契約に基づいて支払われる手当が、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、契約の内容によって定まり、その他に何らかの独立の要件を必要とするものではないことを明らかにするとともに、
契約の内容がどのようなものであるかは、契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して総合的に判断すべきことを明らかにしたもの。

本件の事実関係等
本件雇用契約に係る契約書及び採用条件確認書並びにYの賃金規程において、月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載され、YとX以外の各従業員との間で作成された確認書にも、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われるものと位置づけられていたということができる。
Xに支払われた業務手当は、1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり、Xの実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではない

Xに支払われた業務手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められる⇒前記業務手当の支払をもって、Xの時間外労働等に対する賃金の支払とみることができる

判例時報2411

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