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2019年9月

2019年9月30日 (月)

暴行保護事件で少年を第一種少年院に送致した決定が争われた事案

東京高裁H30.3.23     
 
<事案>
当時15歳(審判時16歳)の少年が、フードコートの女子トイレ内で、後輩女子に対し、その髪の毛をつかみ、平手で顔面を1回殴打する暴行を加えた事案。 
 
<原審>
少年を第1種少年院に送致。 
 
<抗告>
少年及び付添人:
①少年の非行歴は前件のぐ犯と本件のみで、非行性は進んでおらず、中学卒業や保護観察等を通じて落ち着いてきており、感情統制が下手で自分に自信が持てず、同世代の面では虚勢を張るといった面があるが、少年の問題は深刻で根深いものではない。
②少年は、審判や観護措置等を通じて少年なりに内省を深め、原審後にも反省文を作成するなど、要保護性は相当程度減少している。
③就労先は確保されている上、両親や伯母は少年の資質、特徴、性格を把握し、これまでより深い指導が期待できるなど、社会資質が確保されている
⇒処分は著しく不当。 
 
<判断>
①少年は、審判手続や鑑別所での生活においても、感情を統制できずに暴力的な言動に及んでいるところ、このような少年の問題は、少年が、発達上の特質を背景に、生活の乱れや学校等への不適応から、不良交友に居場所を求め、暴力による問題解決や自己の精神の安定を図ろうとする姿勢を身に付ける中で、長年にわたって形成された根深いものであって、単純で、深刻でないものとは言えない
②少年に改善の兆しが窺われることは更生への第1歩として評価することができるが、少年が、原決定について、審判で暴言を吐いたことに引き摺って感情で決定を下しているようにしか見えないと述べているように、自己の問題を十分認識できていないことが窺われる⇒内省は表面的なものにとどまっている
③これまでも十分な監護ができていなかった⇒直ちに実効性のある監護が可能な環境にはなく、少年の再非行を防止するためには、資質面の特性に十分な配慮をしつつ、感情統制や対人関係スキルなどを身につけさせることが不可欠であるが、社会内処遇の枠組みでは、そのような指導やサポートをするだけの資源がなく、保護環境も十分ではない⇒少年院という強固な枠組みの中で、系統的な教育を受けさせる必要があり、その中で、じっくりと信頼関係を構築し、1つ1つ自己の問題を理解するよう指導し、社会適応能力を高めてゆくことが不可欠

抗告を棄却。
 
<解説>
●要保護性:
犯罪的危険
矯正可能性
保護相当性
の3つの要素からなる。
(通説) 

処遇選択の判断においては、これらを検討し、
①在宅処遇
在宅処遇では十分な保護とならない⇒少年院送致
要保護性判断の中心である犯罪危険性の判断においては、
非行事実の態様、結果、原因・動機の分析が不可欠。、

●原審は、当初、在宅で調査を行い、第1回審判期日。
要保護性の心理において少年の資質上の問題点が窺われた⇒期日を続行することとし、少年が不出頭の調査期日を経て、第2回審判期日において、観護措置がとられ、鑑別が実施。 

判例時報2411

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2019年9月29日 (日)

時間外労働等の対価とされていた定額の手当の支払と労基法37条の割増賃金の支払(最高裁)

最高裁H30.7.19      
 
<事案>
Yに雇用され、薬剤師として勤務していたXが、Yに対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金並びに付加金等の支払を求めた。 
 
<争点>
Yは、Xに対し、X・Y間の雇用契約に基づき、基本給とは別に、月額10万1000円の業務手当を支払っていたところ、この業務手当がいわゆる固定残業代に当たるか、業務手当の支払により時間外労働等に対する賃金が支払われたといえるか否か。 
 
<判断>
使用者が労働者に対し、雇用契約に基づいて定額の手当を支払った場合において時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する対価として支払われるものとされていたにもかかわらず、当該手当てを上回る金額の割増賃金請求権が発生した事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組みが備わっていないなどとして、当該手当の支払により労基法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある

原判決を破棄し、Xに支払われるべき賃金の額、付加金の支払を命ずることの当否及びその額等についての審理につき、原審に差し戻した。 
 
<解説> 
労基法37条は、同条所定の算定方法による金額以上の割増賃金の支払を義務付けるにとどまり、同条所定の算定方法を用いることまで義務付ける規定ではない
使用者が同情所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用することにより直ちに違法となるものではない。(通説・判例) 

固定残業代に関し、判例は、使用者が労働者に対し、時間外労働等の対価として支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討することを要する。(最高裁H29.2.28)
~判別要件
本件においては、基本給とは区別されて支払われる定額の業務手当全体が固定残業代に当たるか否かが争われている⇒判別要件は直接には問題とならない。
but
前記の判示は、割増賃金に当たる部分が時間偽労働等に対する対価としての性質を有することが前提となっており、
本件の争点は、固定残業代に該当するか否かが争われている業務手当が、時間外労働等に対する対価としての性質を有するものであるか否かという、実務上、対価性などと呼ばれる点にある。
 
契約に基づいて支払われる金銭がどのような趣旨で支払われたか?

契約の内容すなわち当事者の合意の内容により定まる
⇒雇用契約に基づいて支払われる手当が時間外労働等に対する対価として支払われたか否かも、当該雇用契約においてどのような合意がされたかによって定まる。

裁判例:
時間外労働等の対価以外に合理的な支給根拠があるあるとはいえないなど、実質的にみて時間偽労働の対価としての性格を有していること、

支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること
労基法所定の額が支払われているか否かを判定することができるよう同意の中に明確な指標が存在していること

固定残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること
等を、契約内容とは別の要件としているものがある。

基本給とは別に支払われる手当が、95時間~100時間分の時間外労働に対する賃金に相当する場合に、法令の趣旨に反するなどとして、固定残業代に該当するとは認められないとしたもの。
 
●本判決 
使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、労基法37条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができることを確認した上で、
雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等に勤務状況などの事情を考慮して判断すべきであり、同条や他の労働関係法令が、当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために、原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない。

雇用契約に基づいて支払われる手当が、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、契約の内容によって定まり、その他に何らかの独立の要件を必要とするものではないことを明らかにするとともに、
契約の内容がどのようなものであるかは、契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して総合的に判断すべきことを明らかにしたもの。

本件の事実関係等
本件雇用契約に係る契約書及び採用条件確認書並びにYの賃金規程において、月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載され、YとX以外の各従業員との間で作成された確認書にも、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われるものと位置づけられていたということができる。
Xに支払われた業務手当は、1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり、Xの実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではない

Xに支払われた業務手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められる⇒前記業務手当の支払をもって、Xの時間外労働等に対する賃金の支払とみることができる

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2019年9月28日 (土)

補正の却下に当たり拒絶理由通知をしなかったことが違法とされた事案

知財高裁H30.9.10      
 
<事案>
原告は、名称を「スロットマシン」とする発明について、特許出願⇒本件拒絶理由通知⇒手続補正⇒本件拒絶査定
⇒本件拒絶査定不服審判請求をして、本件補正⇒特許庁は本件補正を却下した上、請求不成立審決
⇒原審審決の取消しを求めた。 
 
<争点>
①拒絶査定不服審査請求と同時にする補正の却下に当たり拒絶理由通知を行わなかったことによる手続違背の有無(取消事由1)
②独立特許要件違反の判断(新規性・進歩性判断)の誤りの有無(取消事由2) 
 
<規定>
特許法 第五〇条(拒絶理由の通知)
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

特許法 第一五九条
・・・
2第五十条及び第五十条の二の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。この場合において、第五十条ただし書中「第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)」とあるのは、「第十七条の二第一項第一号(拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)、第三号(拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)又は第四号に掲げる場合」と読み替えるものとする。
 
<判断>
●取消事由1について

特許法50条本文は、159条2項により拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由(「新拒絶理由」)を発見した場合に準用されており、出願人に対し意見書の提出及び補正による拒絶理由の解消の機会を与えて、出願人の防御bの機会を保障するという趣旨は、拒絶査定不服審判において新拒絶理由が発見された場合にも及ぶ。
②従前の拒絶理由通知に示されていなかった新たな刊行物(「新規引用文献」)に基づく独立特許要件違反を理由として、拒絶査定不服審判請求時に行われる補正(「審判請求時補正」)が却下され、補正前の特許請求の範囲の記載(「補正前クレーム」)に基づいて拒絶査定不服審判請求不成立審決がされてしまうと、審決取消訴訟において補正後の特許請求の範囲の記載(「補正後クレーム」)に基づく独立特許要件違反の判断の当否や補正前クレームに基づく拒絶理由の判断の当否を争うことはできるものの、審査段階における17条の2第1項3号所定の補正(「3号補正」)の場合とは異なり、新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会が残されていない点において、出願人により過酷。
③平成5年改正は、17条の2第5項2号所定の特許請求の範囲の減縮を目的とする審判請求時補正においては、審査段階における先行技術調査の結果を利用することを想定していたことが明らかであり、これを却下する際に、独立特許要件の判断において、審査段階において提示されていなかった新規引用文献を主たる引用例とするなど、審査段階において全く想定されていなかった判断をすることは、平成5年改正の本来の趣旨に沿わない
④平成5年改正が目的とする審理が繰り返し行われることを回避することにより、審査・審判全体の効率性を図ることは、重要ではあるが、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として審判請求時補正を却下せずに、この新規引用文献に基づく拒絶理由を通知したとしても、限定的減縮である審判請求時補正による補正後クレームについて、17条の2第3項~6項による制限の範囲内で補正することができるにすぎない
審理の対象が大きく変更されることは考え難く、そのような審理の繰返しを避けるべき強い理由があるとはいえない。

159条2項により読み替えて準用される50条ただし書に当たる場合であっても、特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らし、出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、159条2項により準用される50条本文に基づき拒絶理由通知をしなければならず、しないことが違法になる場合もあり得る。
 

①本件拒絶査定の理由は、本件先願を理由とする拡大先願(29条の2)であるのに対し、審決が拒絶査定不服審判請求と同時にした限定的減縮を目的とする本件補正を却下した理由は、刊行物1を理由とする新規性欠如(29条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項)であって、適用法上も引用文献も異なる。
②刊行物1は、本件補正を受けた前置報告書において初めて原告に示されたものであるが、刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会はなかった。

審決時において、原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認められる⇒審判合議体は、159条2項により準用される50条本文に基づき、新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであった。
but
前記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には、159条2項により準用される50条本文所定の手続きを怠った違法がある。 
 
<解説> 
①限定的減縮を目的とする審判請求時補正は、17条の2第6項により準用される126条7項により、補正後クレームにより特定される発明(「補正後発明」)が独立特許要件を充足する必要がある。
②159条2項により読み替えて準用される50条ただし書は、159条1項により読み替えて準用される53条1項による補正却下の決定をするときは、この限りでないとしており、その159条1項により読み替えて準用される53条1項は、審判請求時補正が17条の2第6項に違反するときは、決定をもってその補正を却下しなければならないとしている。

限定的減縮を目的とする審判請求時補正において、新拒絶理由による独立特許要件違反を理由として、これを却下するに当たり、拒絶理由通知をする必要があるかについては、前記の条文構造を理由として不要とする見解が少なくない。

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2019年9月27日 (金)

児童相談所長が、児童福祉法28条1項に基づき、事件本人の児童心理治療施設への入所を承認するよう求めた事案

水戸家裁H30.5.28    
 
<事案>
事件本人Bは、実父Cと実母との間の二男として平成19年に出生。Cは平成29年にDと再婚し、DはBと養子縁組。 
 
A児童相談所長は、平成30年1月9日、Bの一時保護を行った。
A児童相談所長は平成30年3月9日以降も引き続きBの一時保護を行うべく本件申立てを行った。 
 
<判断>
C及びDによる虐待は認められず、学校の通知票からみてもC及びDが著しくBの監護を怠ったともいえない。 
but
①CがBをつねったり長時間正座させたりし、しつけの目的を有するにしても、身体的苦痛を与える者である行為を継続的にするなど、Cの Bに対する接し方が強圧的
Bが自閉症スペクトラムの傾向があるなど感受性が極めて敏感でCに著しい恐怖を抱き、心的外傷を負っている
③C及びDは、Bの家庭裁判所調査官に対する供述(「家にいたら地獄にしかならない、どちらか」)について、家でしたことを怒られることを恐れて、自己防衛のために自らの行動を正当化しているものだという見解に固執しており、Bの恐怖や心的外傷を理解しないままBに対する可能性が極めて高い

現状でC及びDにBを監護させることは著しくBの福祉を害するとして、申立てを認容。
 
<規定>
児童福祉法 第二八条[保護者の児童虐待等の場合の措置]
保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第二十七条第一項第三号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる。
一 保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。
二 保護者が親権を行う者又は未成年後見人でないときは、その児童を親権を行う者又は未成年後見人に引き渡すこと。ただし、その児童を親権を行う者又は未成年後見人に引き渡すことが児童の福祉のため不適当であると認めるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。
・・・・
 
<解説>
児童相談所長が、児福法28条1項の事由があるとして、児童を児童心理治療施設に入所させることの承認を求めている。 
裁判所は、C及びDによるBへの虐待や、C及びDが著しくBの監護を怠った事実は認められないとしたが、現状でC及びDにBを監護させることは著しくBの福祉を害するとして、申立てを認容。

①虐待の事実の認定は難しい場合があり、
裁判所としては、虐待の事実を認定することよりも、結論として法27条1項3号の入所等の措置の承認ができるかどうかを判断することが重要
福祉侵害を認定する場合が多い。

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2019年9月23日 (月)

カーナビと製造物責任・不法行為責任(否定)

福島地裁H30.12.4    
 
<事案>
X所有得の車両に搭載されていたY2社が製造し、Y1社が作成した地図データを収録したカーナビゲーションシステムが表示したルート案内に従って本件車両を運転⇒本件カーナビがルート案内した道路が狭い上に草木がせり出していたことから本件車両に損傷が生じ等⇒Yらに対して、製造物責任法3条又は民法709条に基づき、損傷の修理費用等の損害賠償を請求。 
 
<判断>
Xの請求の前提となっている本件カーナビのルート案内と本件車両に生じた損傷との間に相当因果関係が認められない⇒Xの請求を棄却。 
 
●カーナビ製造者等において、全国各地の道路の正確な状況をリアルタイムで情報提供するのは不可能もしくは著しく困難であり、カーナビにおいて表示する道路の安全性まで保障できるものではなく、カーナビの画面表示等においてもカーナビの表示に安易に従うことのないよう警告している。

カーナビは、一定の地図情報等に戻浮き車両の走行が可能と考えられる道路を表示することで、運転者の判断を補助するものにすぎず、ルート案内された道路を走行するか否かは、車両の運転者が実際の道路状況や車両の車種・形態等の事情を踏まえて自ら判断すべきものであり、カーナビの表示したルート案内は運転者の判断資料の1つにすぎないと考えるのが相当。 

本件では・・・・認識してたといえ、Xにおいては、・・・自らは本件道路の具体的状況と本件車両の車種・形態を考慮して道路を選択するのが相当であったといえる。
①本件カーナビが本件道路を含むルートを表示すること自体が必ずしも不合理でない
②Xは本件カーナビのルート案内に依存せず、自らの判断に基づき本件道路を走行しなければならないところ、あえて本件道路を走行しなければならないところ、あえて本件道路の走行を選択した

仮にその際に本件車両に損傷が生じたとしても、それは本件カーナビのルート案内によって生じたものと認めることはできない

本件カーナビによるルート案内と本件車両に生じた損傷との間に相当因果関係は認められない

判例時報2411

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2019年9月17日 (火)

いわゆる借上復興住宅の建物明渡請求事件

神戸地裁H30.10.17       
 
<事案>
地方公共団体である原告が、借上公営住宅の入居者である被告に対し、当該借上公営住宅の借上げ期間満了に伴い公営住宅法32条1項6号に基づく明渡請求をすることができるかが争われた、いわゆる借上復興住宅の建物明渡請求事件。 
被告は、借上げ期間満了時に明渡をしなければならない旨の公営住宅法25条2項所定の通知を受けなかった。
 
<争点>
①公営住宅法15条2項所定の通知が、同法32条1項6号に基づく借上公営住宅の明渡請求の要件か
②同号の適用について限定解釈をすべきか
③同号に基づく明渡請求が認められない場合に、原賃貸借契約のの終了を理由とする転貸借契約の終了に基づく明渡請求が認められるか。
④同号に基づく明渡請求が認められない場合に、解約申入れによる転貸借契約の終了に基づく明渡請求が認められるか。
⑤本件請求が、禁反言の法理に反し、又は権利濫用に当たり、許されないか。
⑥本件請求が社会権規約に反しているか。
⑦本件請求が、憲法13条、25条1項に反しているか。
 
<判断>
●全て否定⇒原告の請求を認容。 
 
●争点① 
転貸借契約の一般法理及び借上公営住宅の性格

賃貸人は、転借人に対し、原賃貸借契約の期間満了及び賃借人(転貸人)による更新拒絶による原賃貸借契約の終了を主張できる

公営住宅法32条1項6号の趣旨が、「事業主体が借上後衛住宅の所有者に代わり、入居者に対する明渡請求を行うことによって、当該公営住宅が所有者に対し確実かつ円滑に返還されるようにし、ひいては他の建物所有者が公営住宅の借上げに参画することを躊躇しないよう配慮し、公営住宅の円滑な供給を図ること」にあり、
「もともと期間満了により転借人に対して明渡しを求める地位にある借上公営住宅の所有者の保護を図る趣旨の規定であると解するのが相当」。

同法25条2項所定の通知は、
「入居者保護の規定として置かれたものと考えられる」ものの、
「転借人が借上げ期間満了時に退去しなければならないことについて、心積もりを持っておけるよう、事業主体に通知を義務付けた規定であると解され」、「両規定がそれぞれ別個の趣旨から設けられた規定であ」り、
「原賃貸借契約に係る賃貸人は、本来、転借人に対し、原賃貸借契約の期間満了による終了を主張することができ」これは同法25条2項所定の通知の有無に左右されるものではない

同法32条1項6号に基づく明渡請求の要件ではない
 
●争点②:
公営住宅法32条1項6号の適用について、本来型と転用型に区別し、転貸人たる事業主体の更新拒絶による原賃貸借契約の終了を転用型として、この場合には、入居者保護の観点から対象となる入居者が高額所得者であり、かつ、転貸借契約の更新を拒絶する正当事由が必要であるとの限定解釈をすべきか? 
①公営住宅法の規定上、本来型と転用型は区別されていない
②転貸人が原賃貸借蹴薬から離脱しようとする場合に原則としてこれを制限する理由がない
③公営住宅法上、転居先の確保や転居準備期間の確保等入居者保護の規定を設けている

本来型と転用型に区別し、後者の要件を加重し、限定解釈する必要はない

判例時報2411

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2019年9月14日 (土)

ハンセン病元患者の子による国賠請求

広島高松松江支部H30.7.24       
 
<事案>
国立療養所に入所しなかったハンセン病元患者であるAの子であるXが、
国会議員、内閣、厚生大臣及び鳥取県知事が平成8年まで非入所者とその家族に対する偏見差別を除去するのに必要な行為をせず、また、非入所者とその家族を援助する制度を創設整備するのに必要な行為をしなかったことは、国賠法上の違法行為に当たると主張⇒国賠請求。 
 
<判断>
厚生大臣が、遅くとも昭和35年以降、非入所者に対し、隔離政策の転換、その一環としての必要な在宅医療制度の構築等の相当な措置を採るべき義務を負っていたのに、これを怠ったことにつき違法性があり、過失がある。

らい予防法の文言⇒
患者が一律に隔離等の対象とはされず、非入所者の権利利益が同法により当然に制約されず、また、同法が隔離政策の継続を義務付けておらず、隔離政策転換の余地が同法の解釈上は残されていた

非入所者に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠で、それが明白とはいえないし、同法の規定が違憲であることが明白とはいえない

同法を廃止しなかったことが非入所者との関係で国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえない。

・・・国の隔離政策継続が非入所者との関係でも違法であると判断するに足りる事実につき同事件控訴審判決の宣告された平成16年7月27日には認識していた⇒本訴提起時にAの国に対する国家賠償請求権の消滅時効期間が経過

隔離政策の下で隔離され、治療機会が極めて制限されるなどの損害を被ったのは患者であってその家族ではなく、また、Xが、Xの主張する具体的な差別偏見を受け、その生活が困窮し、仕事の選択肢等が制約されたとは認められない
厚生大臣はXに対し隔離政策を転換する義務を負わず・・・Xに対し偏見差別除去の義務を負わない⇒Xとの関係で厚生大臣の職務行為につき国賠法上の違法性があったといえない。
・・・・・。
 
<解説> 
●最高裁:
国賠法1条1項は、公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の義務に違反し当該国民に損害を加えたときに、国等がこれを賠償する責任を負う旨規定していると解され、
同項の適用上違法といえるためには、公務員の職務上の義務に対する違反であることだけでなく、その義務が当該被害者個人に対して負うものであることが必要。

本判決:
以上を前提に、厚生大臣の職務上の義務違反につき、
Aを含む非入所者に対するものと
非入所者の子たるXに対するものに分け、
前者に対する義務違反を肯定しつつ、後者に対する義務違反を否定。 
 
●最高裁:
国会議員の立法行為又は立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となるかについて、違憲性の問題と違法性の問題を区別した上で、
国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するため所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるのに、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合や、
法律の規定が憲法上保障されている権利利益を合理的な理由なく制約し違憲であることが明白であるのに、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などには、
例外的に、その立法不作為が同項の適用上違法となると解している。 

本判決:
以上を前提に、隔離政策転換の余地がらい予防法の解釈上は残されていたなどを指摘し、当該立法不作為が非入所者又はその家族との関係において同項の適用上違法となることを否定。
 
●最高裁:
「損害及び加害者を知った時」(民法724条)とは、被害者において、加害者への賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味する。 

本判決:
同条項前段の時効起算点に関し、これを前提に、国の隔離政策継続が被入所者との関係でも違法と判断するに足りる事実につき遅くとも前記刑事事件控訴審判決の宣告された平成16年7月26日にはXが認識していた旨判示。

判例時報2411

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2019年9月13日 (金)

除斥期間の経過が問題となった事案

大阪高裁H30.12.20      
 
<事案>
第二次大戦中に朝鮮半島から日本に強制連行され、広島に投下された原子爆弾に被爆したと主張する者の相続人らが、当該在外被爆者らが国に対して有する損害賠償請求権を相続したと主張⇒国に対して履行を求めた 
 
<判断>
在外被爆者らに対する国の不法行為は当該在外被爆者らが死亡した時点で終了し、その翌日から本訴提起まで20年以上が経過したところ、
除斥期間の経過による権利消滅の効果が制限されるのは、時効停止事由に相当する事由がある場合のように、権利者が除斥期間の経過前に権利を行使することに障害があり、かつ、除斥期間の経過をもって権利が消滅するという効果を発生させることが著しく正義・公平に反する場合に限られる。 

本件に係る在外被爆者4名のうち最も早く死亡した者につき除斥期間20年が経過したのは平成7年12月29日であり、平成19年最判(402号通達及びこれに基づく取り扱いは国賠法上違法であり、担当職員に過失があったとして、在外被爆者又はその相続人は、国に対して損害賠償請求をすることができると判断)に係る提訴は平成7年末までにされている⇒除斥期間が経過するまでに本訴を提起することが不可能であったとはいえない。

国が、除斥期間経過社との間でも和解を成立させていたのに、突如、和解を拒絶するような態度を取ったからといって、権利消滅の効果を発生させることが著しく正義・公正に反することはならない
 
<解説>
●民法724条後段の規定は、不法行為に基づく損害賠償請求権についての除斥期間を定めたもの(判例)。
除斥期間の起算点は、不法行為の時(民法724条後段)。
加害行為が行われたときに損害が発生する不法行為⇒加害行為の時が起算点
加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生⇒当該損害が発生したときが除斥期間の起算点

(判例)
例外を認めた判例:
・20年以上前の不法行為の被害者が不法行為により心神喪失の常況にあったのに法定代理人を有しなかった場合において、当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人が6か月以内に権利行使した事案において、民法158条の法意に照らし、除斥期間の経過による権利消滅の効果は生じないとしたもの。

・殺人事件の被害者の死体が加害者の自宅敷地に埋められ、20年以上が経過して初めて説人被害が発覚した場合において、相続人が6か月以内に権利行使した事案において、民法160条の法意に照らし、除斥期間の経過による権利消滅の効果は生じないとしたもの。


除斥期間の経過による権利消滅の効果について例外が認められるのは、時効停止その他の根拠となる規定があり、かつ、除斥期間の経過による権利消滅の効果を認めることが著しく正義・公平に反する場合に限定
 
民法 第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。

民法 第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
 
●本件:
在外被爆者らが生存中は不法行為が継続していたとみることができたとしても、同人に対する不法行為は終了したとみるのが自然。

在外被爆者ら及びその相続人らにとって提訴が困難な事情があったとはいえ、このような事情は時効の停止に準じるような事由とはいい難い。

除斥期間の経過による権利消滅の効果を否定することは困難と判断。

判例時報2411

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2019年9月11日 (水)

近畿財務局長等が、森友学園について不開示情報と判断⇒国賠法上違法とされた事案

大阪地裁H31.3.14      
 
<事案>
原告は、近畿財務局長に対し、行政情報公開法に基づき、国が学校法人森友学園に賃貸し、その後、売り払った土地に関する「賃貸契約時までに提出された小学校の設立趣意書」等の開示請求近畿財務局長は、同法5条2号イ所定の不開示情報が記録されていることを理由に一部不開示決定⇒それが国賠法上違法であると主張し、同法1条1項に基づき損害賠償金等の支払を求めた。 
 
<判断>
①本件設置趣意書の本文部分記載の情報は、学校法人としての経営戦略に関する情報としては概括的かつ抽象的なものにとどまり、小学校の運営・経営上のノウハウというべきものではない上、既に、実質的に公にされていたと認められる
⇒利益侵害情報に該当するとはいえない
②小学校名も、これを知った他の学校法人等が先んじてそれを使用し、又は商標登録するなどして、森友学園による前記名称の使用が妨げられるといった事態に至ったとしても、そのことによって、森友学園の競争上の地位が害されることになるとは考えられない⇒利益侵害情報に該当するとはいえない。

近畿財務局長等は、小学校をめぐる一般的な社会の状況や、新聞報道等によって知り得る森友学園に関する諸事情、公知の事実等を踏まえ、健全な社会通念に照らして合理的に判断しさえすれば、本件不開示部分を開示したとしても、森友学園の権利、競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性がないとの判断に至ることができたというべき
職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件不開示決定をしたものであり、国賠法1条1項の違法があった
⇒一部認容。
 
<規定>
行政情報公開法 第五条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない

二 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。

イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
 
<説明> 
●行政情報公開法5条2号イ所定の「競争上の地位」とは、法人等又は事業を営む個人の公正な競争関係における地位を指し、
「その他正当な利益」とは、ノウハウ、信用等法人又は事業を営む個人の運営上の地位を広く含むものとされ、
「害するおそれ」の判断に当たっては、単なる確率的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性が求められるとされている。
 
●行政情報公開法に基づく公文書の不開示決定に取消し得べき瑕疵があるとしても、そのことから直ちに国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と前記決定をしたと認め得るような事情がある場合に限り、前記評価を受けるものと考えられている(最高裁H18.4.20)。 

本判決は、本件不開示部分の情報の内容、当該情報に係る法人を巡る諸事情⇒本件不開示部分が利益侵害情報に該当しないことは明らか⇒近畿財務局長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件不開示決定をしたと認め得るような事情がある場合に該当すると判断。

判例時報2411

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2019年9月10日 (火)

通常使用権者が「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」⇒商標法53条1項に基づき、当該許諾を受けた商用を取り消した審決が是認された事例

知財高裁H30.9.26      
 
<事案>
Y:「TOP-SIDER」グランドのデッキシューズ等を展開する米国法人
X:指定商品を第25類「洋服」等とする「TOP-SIDER」の文字から成る商標(「本件商標」)を、Yの前身となる会社から平成12年5月に譲り受けた者。 
Xは、A社に対し、本件商標を使用許諾。
A社が本件商標に雲を想起させる図形とヨットの図形を付加した構成の商標(「本件使用商標」)を作成し、それをシャツに付して販売
Yは、同販売行為が、、商標法53条1項本文の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」に該当すると主張して、本件商標登録の取消審判⇒特許庁がこれを認めた⇒Xが審決の取消しを求めて本件訴訟を提起。
 
<規定>
商標法 第五三条
専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし、当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において、相当の注意をしていたときは、この限りでない。
 
<主張>
Xは、混同のおそれを否定する事情として、
①指定商品を第25類「履物、運動用特殊靴」とする商標(「引用商標」)に周知性がない
②本件使用商品である「シャツ」と「靴(デッキシューズ)」との関連性は高くない
③旧会社が自らXに本件商標を譲渡していて、旧会社としては、本件商標をその指定商品に使用しても出所の混同が生じるとは認識していなかった。
 
<判断>  
審決の判断を是認。
 
●引用商標の周知性 
①Yの靴が、昭和46年頃から本件使用行為がされた塀絵師25年1月28日までの間に、日本において「スペリー・トップサイダー」や「トップサイダー」等のブランド名で継続的に相当数が販売されてきた
②雑誌や小説等での露出、引用商標の独創性の高さや本件使用商品に第三者が付していた紹介文の内容

引用商標は、同日頃には、Yの靴(デッキシューズ)の取引者及びその需要者である一般消費者の間で、広く知られていた。
 
●本件使用商品である「シャツ」と「靴(デッキシューズ)」との関連性について 
本件使用商品(シャツ)と引用商標が使用されていた靴(デッキシューズ)が、いずれも身に着けて使用するアパレル製品で、同じブランドで統一されてコーディネイトの対象となったり、同一の店舗内で販売されたりする一般消費者向けの商品

本件使用商品と引用商標が付された靴は高い関連性を有する。
 
●旧会社が本件商標を自らXに譲渡していたことについて 
旧会社としては、本件商標を被服等の本件商標の指定商品に使用しても出所混同は生じないとして容認していたものと推認できるが、本件商標に雲を想起させる図形とヨットの図形を付加し、印象商標に極めて類似する構成で使用することについてまで容認していたとはいえない。
 
<解説>   
法53条1項は、使用権者が指定商品(役務)又はこれに類似する商品(役務)について、登録商標又はこれに類似する商標を使用して、需要者に品質又は役務の質の誤認若しくは他人の業務に係る商品(役務)と混同を生ずるものをしたときに、当該商標取り消すことを定めた制裁規定

商標権者が使用許諾に当たって自己の信用保全のため十分な注意をしない場合、取消しをもって、そのような無責任な商標権者及び専用使用権者又は通常使用権者に対する制裁を課すこととして、現行法の下では自由になし得る使用許諾制度の濫用による需要者への弊害を防止することにある。 

「混同を生ずるものをした」というためには、
使用権者が使用する商標と引用商標との類似性、引用商標の周知性、各商標の付された商品(役務)の類似性等の諸事情を考慮する必要があり、現に混同が生じている必要はなく、混同のおそれで足りるとされている。
 
●法51条1項についての事案であるが、
最高裁昭和61.4.22は、前訴で和解金を受領して商標の使用を認めた者が、その後、当該商標について取消審決を請求したという事案で、
そのような従前の経緯や和解において使用を認められた商標と実際の使用に係る商標との間の差異等を勘案すると、取消審判の請求が信義則に反するものと許されないものとなる可能性があるとして原判決を破棄。 
 
●法53条1項については、法51条1項や法52条の2の第1項とは異なり、「故意」や「不正競争の目的」が要件とされていない上、文理上、登録商標を指定商品(役務)に用いた場合でも適用され得るものとなっており、従来からその適用を限定的に考えるべきであるとの説が唱えられており、
実際に「不正使用行為」や「不正競争の目的」といった概念を用いて法53条1項を明示的に限定解釈し、その適用を制限した裁判例もある。

判例時報2410

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2019年9月 9日 (月)

伊方原発3号機につき、巨大噴火に起因する事故による人格権侵害のおそれを根拠とする運転差止めを求めた仮処分命令申立事件

広島地裁H30.10.26      
 
<事案>
四国電力伊方原発3号機(本件原子炉)のおよそ100キロメートル圏内(広島市、松山市)に居住する住民(Xら)が、四国電力(Y)に対して、阿蘇等で巨大噴火に起因する事故が起これば、放射性物質が放出されてXらの生命、身体、精神及び生活の平穏等に重大かつ深刻な被害が発生するおそれがある
人格権に基づく妨害予防請求権に基づき、Yに対して平成30年10月1日以降、本件原子炉の運転差止めを命ずる仮処分命令を求めた。 

先行する仮処分命令申立事件の抗告審で広島高裁が阿蘇の破局的噴火の危機を根拠として、同年9月30日までの運転差止めを認めた(後に保全異議の広島高裁決定で取り消された)⇒その後の期間について、先行事件とは異なり、地震等の問題を除外して火山事象の影響に絞って、運転差止めを求めたもの。
 
<判断>
(ア)本件原子炉の運用期間中に巨大噴火による事故が現実に発生してXらの生命、身体、財産及び生活の平穏等が害される蓋然性があるということはできない、
but
前記事故が起きた場合には極めて甚大な被害が発生するおそれがある

そのリスクの程度によっては、リスクの下で原子力発電所を運転することが人格権を侵害するものとして、運転の差止請求の根拠となる場合があり得る。
but
本件は、本案判決が確定するまでの間の暫定的な救済として仮処分命令を求めるもの⇒Xらは、本件原子炉の運用期間に比べて相当短期間の本案判決が確定するまでの間の巨大噴火による事故のリスクが、そのリスクの下で本件原子炉を運転することが著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものであることを疎明する責任がある。

もっとも、Yもその立場等から本件原子炉の安全性について積極的に疎明する必要があり、裁判所は、当事者双方の主張疎明を総合的に判断して、前記要件が疎明されたかを判断する。

(イ)低頻度の巨大噴火の問題につき、火山ガイドを充足しないことをもって、直ちに人格権侵害であるといえるかは問題であり、少なくとも本案判決が確定するまでの間に巨大噴火が発生することによる事故のリスクが著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものであることを基礎付ける事情を直ちに推認させるものではない

巨大噴火に係る火山ガイドの解釈は、行政訴訟とは異なり、本件仮処分命令申立事件の帰趨に直結する問題とはいえないから、必ずしもこれを判断する必要はない。

・・・・行政訴訟と比較してこの点についての判断資料が揃いにくい本件仮処分申立事件において、火山ガイドの解釈を示すのが相当かどうかという問題もある。


本件では、火山ガイドの趣旨を確定した上でこれを充足するか否かを判断し、その判断結果を著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害の有無の判断において重視するという判断手法ではなく、前記(ア)の判断手法によるのが相当。
巨大噴火は極めて低頻度な事象⇒本案判決が確定するまでの間に、巨大噴火が阿蘇で発生する可能性は、一般的に非常に低いと考えられるところ、
阿蘇の火山噴出物、活動態様の変化、前兆現象の有無、マグマ溜まりの状況、地殻変動等の各種調査結果を踏まえてその可能性が低いとするYの主張は、相応の合理性を有する。

巨大噴火の時期、規模を的確に予測することが困難であるとしても、巨大噴火の火砕流が本件原子炉敷地に到達することによる事故のリスクがXらに著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものとはいえない

降下火砕流(火山灰)が本件原子炉敷地に降下して事故が起こるリスクについても、各種知見やYが講じている対策等によれば、Xらに著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものとはいえない。
 
<規定>
民事保全法 第二三条(仮処分命令の必要性等)
2仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
 
<解説>
本案訴訟では人格権侵害による運転差止めが認められるか否か(被保全権利の有無)というレベルで判断。
but
本決定は、民保法23条2項の保全の必要性の要件を踏まえ、本案訴訟の判決が確定するまでの間のリスクに照らして著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害があるかどうかというレベルで判断

判例時報2410

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2019年9月 8日 (日)

訴訟能力を欠く⇒有効な訴訟委任を受けることなく提起した不適法な訴えとされた事案

さいたま地裁越谷支部H30.7.31      
 
<事案>
Xは昭和7年生まれの男性であり、
YはXの二男。 
Xは、平成23年8月に、本件土地のXの持分全部をYに相続させる旨の公正証書遺言を作成したものであるが、相続の効力が発生する前に、本件土地について、権利者をYとして贈与を原因とする持分一部ないし全部移転登記がされた。
Xは、本件各登記は、Yが贈与証書等を偽造して行ったものであるから無効であると主張して、Yに対して本件各移転登記の抹消登記手続を求めて本件訴訟を提起。
 
<主張>
Y:本件訴訟は、Xが訴訟代理人弁護士に本件訴訟について委任した当時、既に重度の認知症にり患していて、そもそもXには訴訟能力がなかったとして、訴え却下を求めた。 
 
<判断>
①本件訴訟提起時及びこれに先立つ訴訟委任時にXは84歳であり、訴訟委任状の署名部分の筆跡はかなり乱れていること
②埼玉県春日部市の介護認定審査会の調査結果や、Xが平成28年3月から入所している施設の担当者に対する調査結果、その件訴訟提起直後の平成29年2月に作成された成年後見用診断書の記載内容等によれば、Xは本件訴訟提起時には既に中程度から重度の認知症であった
本件訴訟提起後役1年5か月後に実施した施設でのX本人尋問において、Xが本件訴訟の内容やXの訴訟代理人弁護士のことについて何ら記憶を喚起することができず、自ら訴訟を提起したことすら理解できていないことが認められる

本件訴訟委任状作成された当時、Xには訴訟提起・遂行を委任し得る判断能力はなかったといえる⇒本件訴えは訴訟代理人がXから有効な訴訟委任を得ることなく提起した不適法な訴えであると判示して、これを却下。
 
<解説> 
●訴訟能力を欠く者のした訴訟行為は無効(民訴法34条)
ここにいう訴訟行為には、訴訟委任も含まれる。 
訴訟代理人として訴えを提起した者が、その訴訟行為をするのに必要な授権があることを証明することができず、かつ、追認を得ることができなかった場合において、裁判所が訴えを不適法として却下⇒訴訟費用は、代理人として訴訟行為をした者の負担とされている(民訴法69条1項、2項、70条)。
 
●訴訟委任のために必要な能力
A:単に日常会話や日常生活に支障がない程度の理解力・判断力を有していればいい
B:それだけでは足りず、訴訟の内容を理解し、当事者として訴えを提起し、遂行することを判断するに足りる能力まで必要 

本件:
Xは、本件訴訟提起時には既にまともに会話ができるような状態ではなかったものと認められる事案⇒いずれの見解にたつにせよ、Xには必要な能力がなかったものといえる。

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2019年9月 6日 (金)

偽造した運転免許証を用いての印鑑登録廃止・申請と国賠請求(肯定)

さいたま地裁H30.9.28      
 
<事案>
偽造した運転免許証を用いてXになりすました者(「A」)による印鑑登録の廃止及び印鑑登録の申請に基づきY市職員が本人確認をせずに廃止及び登録を行った行為につき同職員に過失があり、登録された印鑑の印鑑登録証明書を用いて無断でX所有土地の所有権移転登記手続等がされ、Xは抹消登記手続請求訴訟を提起して弁護士費用等を負担。
これらの手続やY市職員の対応により精神的苦痛を被った⇒XがYに対し、国賠法1条1項に基づき、抹消登記手続請求訴訟等に要した弁護士費用986万8213円、慰謝料200万円及び本訴に要した弁護士費用128万1767円の合計1314万9980円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>
印鑑登録の申請があった場合、本人が自ら登録の申請をし、本人の意思に基づくものであることを確認できるときに印鑑を登録することができると規定するY市印鑑条例Y市職員は職務上、印鑑登録の申請者がX本人であるかどうかを確認する注意義務を負う
①AがY市職員に提示したX名義の運転免許証の住所とAが作成した印鑑登録申請書の住所欄記載の住所が一部異なっていた
②免許証識別装置に提示を受けた免許証を挿入したところ「不可」との判定を受けた
Y市職員は免許証が偽造された可能性があることを疑うことができる状況にあった

①Y市職員は前記の情況にあったにもかかわらず、Aが本人であるか(例えば、生年月日、干支、家族構成等)の確認を行わず、免許証を加工したかどうかの質問しかしなかったこと、
②申請書の住所は単なる誤記であるとしてY市職員自ら訂正したこと

Y市職員に課される職務上の注意義務違反を認めた

●XがAにより移転されたX所有土地の所有権移転登記の抹消等のために出捐した弁護士費用については、(旧)日弁連報酬基準に基づいて算出された金額であったとしても、あくまで代理人契約における約定の額であって、Y市職員の過失との間に弁護士とXとの間で定められた報酬額の全額について相当因果関係があるとはいえない
その一部についてのみ相当因果関係を認めた。

慰謝料の支払を求める部分はこれを排斥。

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2019年9月 5日 (木)

韓国籍を有する被相続人の相続の事案で、相続分の放棄・無効行為の転換が問題となった事案

東京地裁H28.12.21      
 
<事案>
韓国籍を有している被相続人Aは、平成10年に死亡。
Aには相続人として、妻Bのほか、原告X、被告Y1,Y2、訴外Cら4名の子がいる。
法適用通則法36条は、相続に被相続人の本国法によるとしている。

韓国民法は、被相続人に子が数人ある場合、その相続分は平等であり、被相続人の配偶者の相続分はこの相続分に5割を加算した割合
⇒原告及び被告らの相続分は11分の2となる。

被告Y2は、平成22年3月30日、
「私、Y2は、D家の相続人関して、D家の三男としての一切の権利を放棄することをここに確約いたします。」と記載した、同日付けの原告宛ての確約書と題する書面(本件確約書)を作成して、原告に差し入れた。

原告:被告Y2は本件確約書によって、相続分の放棄をし、あるいは原告に相続分を譲渡し、相続分を失ったと主張

被告ら:韓国法上、相続分の放棄は認められず、また、本件確約書の文言は原告に相続分を譲渡する趣旨ではないと主張

原告及び被告ら以外の相続人であるB及びCは、本件訴訟に先立つ、平成26年7月25日申立ての被相続人Aの遺産分割調停手続において、同年9月24日、原告に対し、各自の相続分を無償で譲渡し、同手続から排除された。
 
<判断>  

①本件確約は、韓国民法上、相続分の放棄とは認められず、
②相続分の譲渡とも認められず、
③無効な相続分の放棄を、無効行為の転換として、相続分の譲渡と認めることもできない。 
 
●前記①について 
①韓国民法には、相続の放棄を認める規程はあるのに対し、そ族分の放棄を認める規定はなく、相続分の放棄が認められることを前提としている規定も見いだせない。
②原告の、日本の家庭裁判所の家事事件実務の取扱いに関連する主張についても、統一的な見解が確立しているとは認められず、このことから韓国法における相続分の放棄を認める根拠としては十分ではない。
③日本の家庭裁判所の家事事件実務において、相続分の放棄をした当事者を遺産分割の手続から排除している扱いをしているのは、相続人全員を当事者とする遺産分割事件の係属する家庭裁判所でなされるものであって、実質的には、相続分の放棄をする相続人からその共同相続人らへの相続分の譲渡と理解する余地もあるが、原告のと本件被告Y2との二者間で執り行われた本件確約を同様に解することができない。
 
●前記②について、本件確約書は、文理上、原告への相続分の譲渡をする趣旨とは解し難い。 
 
●前記③について
無効行為の転換は、転換の前後の行為を比較したときに、法技術的な観点からは若干の差異があるとしても、当事者の意識する基本的な部分に共通することがあるときに認められるのが通常であり、また、
無効行為の転換は、これを認めないと、当事者の想定外の事態を招き、正義に反することとなるときに認められるのが通常。

本件では無効行為の転換を認めることは困難。
 
<解説>
●相続分の放棄と可否 
遺産の取得を望まず、かとって、あえて自己の相続分を特定の相続人に譲渡しないものがある。これを相続分の放棄として認めることができるか?
A:相続の放棄のほかに相続分の放棄を認める見解:
①遺産に対する共有持分を放棄する意思表示、あるいは
②自己の取得分をゼロとする事実上の意思表示
とみる見解。
B:相続分の放棄を遺産に対する共有持分を放棄する意思表示と解することに疑問を呈する見解

①遺産に対する共有持分を放棄する意思表示と解した場合には、相続人以外の共有者がいる場合には同人の共有持分も増加することになるが、これは放棄者の意思に反することにならないか
②遺産が債権であった場合、債権の放棄は債務者に対する免除の意思表示によることになるが、そのような意思表示がなされているか

相続分の放棄そのものの存在を否定し、相続分の譲渡に引き直して考えるべき
 
●無効行為の転換 
本件確約書には、譲渡文言はなく、譲渡人の表示もない。
but
被告Y2は、原告に金員の提供を依頼したところ、原告はこの依頼に応じる旨を示し、併せて、被告Y2が本件相続することに消極的な発言をし、その後、被告Y2は原告から150万円を受領するとともに、原告に本件確約書を差し入れた経緯

本件確約書の文言はともかく、一般論としては、その時点において、対価を得て原告へ相続分の譲渡をしたと解して、無効行為の転換を認める余地がないわけではなかったように思われる。

判例時報2410

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2019年9月 4日 (水)

報道機関の報道による名誉毀損の事案(否定)

東京高裁H30.9.26      
 
<事案>
宗教法人Xが、警察から施設等の捜索差押を受けたことに関し、Yを含む複数の報道機関の報道によって名誉を毀損されたと主張⇒不法行為に基づき、各報道機関に対し、名誉権侵害による無形損害及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた
 
<一審>
Yに対する請求の一部である20万円及びこれに対する遅延損害金を認容。
Yの報道番組に出演した専門家が、番組の中のコメントで、Xへの入会をめぐり、
「しつこくつけ回されるといった強固な勧誘をされた事例」や「口約束をしただけで勝手に入会届を書かされてしまった事例」があったことを断定的に述べたことで、Xの社会的評価を低下させたが、
その真実性又は真実と信じるにつき相当な理由があったことの立証はない。
 
<判断>
①発言者は、その経歴や活動内容等から、Xの問題に詳しい専門家であり、Yは、同人のコメントに信頼性があると認識
②Xの会員が違法な勧誘をした容疑で送検等をされた事実が、平成15年から平成21年までに何度も報道されていた
③Xの会員が入会書類書類の記入や提出をめぐり強要等の容疑で逮捕された事実が、平成20年等に複数報道されたこと、
④Xの勧誘トラブルの相談が警視庁に多数来ているとの情報を得ていたこと、
⑤本件捜索差押えの被疑事実も勧誘が強要等に当たるものであったことが認定でき

Yにおいて、専門家の発言を真実と信じるにつき相当の理由があった。 

控訴審で争われたジャーナリストの発言については、意見ないし論評の域を逸脱したとはいえない。
 
<解説>
最高裁昭和41.6.23:
民事上の不法行為責任たる名誉毀損については、
その行為が公共の利害に関する事実に係り、
専ら公益を図る目的に出た場合には、
摘示された事実が真実であれば、当該行為には違法性がなく、また、
真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるにつき相当の理由があるときには、当該行為には故意又は過失がなく、
不法行為は成立しない。 
相当の理由が肯定されるためには、
報道機関が詳細な裏付け取材を行ったことを要するとするのが判例の傾向。

最高裁H9.9.9:
特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損について、
その行為が衡量の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合には、
意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であれば、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、当該行為は違法性を欠き、また、真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるにつき相当の理由があるときは、当該行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しない

判例時報2410

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2019年9月 3日 (火)

23条照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴え

最高裁H30.12.21      
 
<事案>
弁護士会であるXが、弁護士法23条の2第2項に基づくXの照会に対する報告をAが拒絶したことがXに対する不法行為に当たると主張し、損害賠償等を求める事案。
Xは、控訴した上、第一次第二審において、Yに当該照会についての報告義務があることの確認を求める訴えを予備的に追加。 
第一次第二審がXの主位的請求である損害賠償請求を一部認容(予備的請求については判断せず。)

Yが上告受理申立て

最高裁は、これを受理し、
Xの主位的請求である損害賠償請求を棄却した上、
予備的請求である前記確認請求に関する部分を高裁に差し戻した。
 
<原審>
前記確認請求に係る訴えに確認の利益が認められるとした上、前記確認請求の一部を認容し、その余を棄却。
確認の利益を肯定

ア:前記確認請求が認容されればYが報告義務を任意に履行することが期待できる
イ:Yは、認容判決に従って報告をすれば、第三者から当該報告が違法であるとして損害賠償を請求されたとしても、違法性がないことを理由にこれを拒むことができる
ウ:Xは、本件確認請求が棄却されれば本件照会と同一事項について再度の照会をしないと明言していることからすれば、Yの報告義務の存否に関する紛争は、判決によって収束する可能性が高いと認められる
 
<判断>
弁護士法23条の2第2項に基づく照会をした弁護士会が、その相手方に対し、当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法

原判決を全部破棄し、前記訴えを却下。 
 
<解説> 
●平成28年最判:
弁護士法23条の2第2項に基づく照会の制度は弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものであり、23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと解されるとした。
その上で、公務所等が23条照会に対する報告を拒絶する行為が、当該照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないと判示。 
 
●23条照会について報告義務があることの確認を求める訴え 
23条照会の制度が、基本的人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の使命(弁護士法1条1項)の公共性を基礎とする
⇒一般的に、23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、当該照会をした弁護士会に対し、これにより報告を求められた事項について報告をする法的な義務を負い、正当な理由がある場合に限ってその報告を拒絶することができると解されている。
弁護士会に23条照会の申出をした弁護士又は同弁護士に事件を依頼した者が紹介先に対して報告義務があることの確認を求めた事案。
裁判例では確認の利益を否定。

照会先の報告義務が弁護士会に対する義務であって原告に対する義務ではない

A:確認の利益を認めることに積極的な見解(伊藤眞)
←報告義務の存在が明確になれば照会先は報告による守秘義務違反についての懸念がなくなる
B:消極
←弁護士会が報告事項について直接の利害関係を有するわけではない
 
●確認の利益に関する学説及び判例 
民事訴訟は、具体的権利義務をめぐる紛争を解決するためのもの

紛争の対象が権利関係として認められない場合や、
本案判決によって紛争を解決することが期待できない場合には、
裁判所が本案判決をする要件に欠ける

訴えの利益。

確認の訴えにおいては、
確認の対象となり得るものが形式的には無限定

判決による解決を必要とする紛争があるかという観点、及び、
紛争解決手段としての確認判決の効率という観点から、
確認の利益の有無を個別の訴えごとに吟味する必要

この確認の利益の内容として、原告と被告との間の具体的紛争の解決にとって、確認判決という手段が有効かつ適切であることが必要とされている。

◎ 確認の利益が認められたもの
①法人の会議体における決議の効力の有無についての確認訴訟
←法人の会議体における決議は、法人の内外における様々な法律関係の基礎となるから、その決議から派生する各種の法律関についての紛争を解決するため、確認判決により当該決議自体の効力を既判力をもって確定することが有効適切な手段である場合があり得る。

②法人の役員や労働者としての地位の有無についての確認訴訟

③遺産確認訴訟
←特定の財産

④相続人の地位不存在確認訴訟

⑤敷金の差し入れの有無を争う賃貸人に対して賃貸借契約の継続中に賃借人が提起した敷金返還請求権の存在確認を求める訴え

敷金返還請求権の存在が確認されれば、当事者がこれに従って行動することが期待でき、再度の訴訟などが起こらない可能性も相当ある

仮に敷金返還請求権の額をめぐって再度訴訟になったとしても、争点は被担保債権の範囲及び金額の点に絞られ、確認判決の判断は無駄にならない旨の指摘。

確認判決の既判力によって後の訴訟における争点が絞られ得ることが確認の利益を認めるべき根拠になっている。

⑥遺留分減殺請求を受けた受遺者による価額弁償額の確定を求める訴え

当該額についての確認判決が確定すれば通常は速やかに価額弁償がされることが期待できる。
価額弁償がされずに遺留分権利者が改めて訴訟を提起することになったとしても、当該訴訟における価額弁償の額の判断は前記確定判決の既判力による拘束を受ける旨の指摘。

◎確認の利益が否定されたもの
合資会社の社員が他の社員を相手方として同社から利益分配を受ける権利等の確認を求める訴え
確認判決の既判力が同社に及ばないため、紛争を抜本的に解決できない
 
●本判決の判断 
確認の利益は確認判決を求める法律上の利益であるとした上、
23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力が報告義務に関する法律上の紛争の紛争の解決に資するとはいえない。
23条照会をした弁護士会に前記判決を求める法律上の利益がないと判示。

確認の利益があるというためには原被告間のの紛争解決にとって確認判決という手段が有効かつ適切であることが必要とされるところ、
訴訟要件としての訴えの利益の必要性が具体的権利義務をめぐる紛争を解決するという民事訴訟制度の目的から導かれるものであることに照らし、当事者間の紛争が確認判決に制度上認められた法的な効力によって解決され得るものであることを要する趣旨。

①23条照会が弁護士会に私法上の権利を付与したものでない
②23条照会についての報告を拒絶した場合にも、弁護士会に対する不法行為を構成することはなく、制裁の定めもないこと等を指摘し、
原審の指摘するアイウの事情については、判決の効力と異なる事実上の影響にすぎず前記の判断を左右しない。

イについては、第三者のYに対する損害賠償請求に本件における確認判決の既判力が及ばないことから疑問が呈されていた。

本判決:
23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても弁護士会は専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはない旨の判示をしている

確認判決によって当事者間の紛争が全面的ないし終局的に解決されることを要するという趣旨ではなく、確認判決に当事者間の紛争を解決する法的な効力が何ら認められない場合に、専ら当事者が確認判決に従うであろうという事実上の期待のみを理由として確認の利益を認めることはできないという趣旨のものと考えられる。

判例時報2410

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2019年9月 1日 (日)

消費者金融業者の破産⇒過払金確定⇒過年度の決算を遡って減額修正

大阪高裁H30.10.19      
 
<事案>
破産管財人であるXが、債権調査を経て確定した破産債権(総額555億円余の過払金返還請求権、本件過払金返還債権1)が確定⇒かつての確定申告には誤りがあり、益金が過大であった⇒税通法23条2項1号に基づき、過年度の法人税に係る課税標準等又は税額等につき各更正すべき旨(法人税額は合計66億5526万3845円の減額更正)の請求⇒更正をすべき理由がない旨の各通知処分⇒
主位的に同各通知処分の一部取消し(法人税相当額5億円の範囲での取消し)を、
予備的に不当利得の一部返還(法人税相当額5億円及び遅延損害金の支払)
をそれぞれ求めた。 
 
<原審>
①本件過払金返還債権1が破産債権者表に記載されることにより、当該債権に係る不当利得返還義務が確定判決と同一の効力により確定したとしても、企業会計原則における前記損益修正によって、同義務に係る損失が生じた日の属する事業年度において当該損失を損金の額に算入する方法によって処理するのが公正処理基準に従ったもの
前記のような処理をしないで本件各事業年度の益金の額を減算すべきではない

本件各事業年度の益金の税務申告(本件申告)に誤りはなく、税通法23条1項1号所定の要件に該当しない⇒本件各通知処分は適法
Y(国)が本件各事業年度の法人税額を保持することに法律上の原因がないと認めることはできない。
   
控訴したが、控訴審において不服の範囲を限定し、
法人税額合計2億5000万円の範囲で本件各通知処分の取消しを求め、
予備的に同額(遅延損害金も含む。)の不当利得返還を求めた。
 
<判断>
①Xが本件破産会社についてした本件会計処理(確定した本件過払金返還債権1に係る制限超過利息のうち、当該事業年度に関するものを貸借対照表の負債の部に計上し、貸借対照表の資本の部を同額減少させること等を内容とする会計処理)は、公正処理基準に合致するものであり是認されるべきであった⇒結果的に、本件申告に係る納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定(法人税法22条4項)に従っておらず、同納税申告書の提出により納付すべき全額が過大であったことになり、税通法23条1項1号に該当
②本件破産手続において本件破産会社が本件過払金返還債権1に係る不当利得返還義務を負うことが確定判決と同一の効力を有する破産債権者表への記載により確定し、その結果、本件破産会社に生じていた経済的成果が失われたか又はこれと同視できる状態に至ったと解されることにより、本件申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なることが確定したというべき(税通法23条2項1号)

本件各更正の請求は理由があり、これに理由がないとした本件各通知部分はいずれも違法

原判決を取り消し、主位的請求を認容。
 
<解説> 
●主位的請求の関係で、租税手続法である税通法23条1項1号が、更正の要件として、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことなどを定めている。 
国税に関する法律(租税実体法)である法人税法は、法人税の課税標準を各事業年度の所得の金額とした上(21条)、同所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額であり(22条1項)、益金及び損金の額の算定要素となる収益の額並びに原価、費用及び損失の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って計算されるものとする」旨を定めている(同条4項)。

本件破産会社における過年度の益金の計算上、後年度に過払金債務が確定したとして、本件会計処理をした上で、過年度の益金の算定要素となる収益の額を遡及して減らすことが、公正処理基準に合致するかが問題

制限超過利息が無効であってもこれを現実に収受した場合には益金となり、課税の対象となる(最高裁昭和46.11.9)。
従来、法人税の実務では、契約の解除等いわゆる後発的な事由により発生した損失等について、「ひとり民事上の契約関係その他法的基準のみに依拠するものではなく、むしろ経済的観測に重点を置いて当期で発生した損益の測定を行う」という理解を前提に、前記損益修正の処理が行われてきたとされている。
but
税務上は、前記損益修正の場合であっても、内容次第では当初に遡って課税を修正することもあるとして、事業廃止、解散等により事業の継続性が失われた場合には、既往に遡って課税を訂正し、税額を還付するなどの措置が認められる余地がある

本判決:
前記損益修正による処理を行うことが更生処理基準に合致すると考える余地は十分にあると考えられるとした上で、
収益・費用等の帰属年度をめぐり、公正処理基準に適合する会計処理は必ずしも単一ではないと考えられ、本件のような場合のの収益・費用等の帰属年度に関し、前期損益修正により処理又は過年度遡及会計基準による遡及処理のみが更生処理基準に合致する唯一の会計処理としなければならないと解するのは相当ではないとした。

公正処理基準に合致する会計処理は、唯一の基準によってしなければならないというものではなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる基準の中から当該法人が特定の基準を選択していたような場合には、法人税法上も同会計処理を正当なものとして是認すべきとした判例(最高裁H5.11.25)を踏まえたもの。

本判決:
破産手続の特質
(①裁判所の監督の下で、利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とする手続であること、②国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする税徴法においても、破産手続は強制換価手続に、破産管財人は執行機関にそれぞれ位置づけられていること)を考慮し、
本件の場合における収益・費用等の帰属年度に関する会計処理については、破産管財人において、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行と矛盾せず、かつ、破産手続の目的に照らして合理的なものとみられる会計処理を行っている場合には、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものではない。

本件破産会社の場合、
①企業会計基準が全面的に適用されるべき理由はなく、
②会社法上も前期損益修正の処理等に係る計算書類関係諸規定は適用されない上、
③過去の確定決算を修正しても、通常の株式会社の場合のような弊害が生じることもない、
④Xが本件会計処理を行うことは、本件破産手続の目的に照らして合理的なものである

遡及的な会計処理が公正処理基準に合致するものとして是認すべき
 
●法人が一旦収受した制限超過利息は、制限超過利息に係る合意の私法上の効力いかんにかかわらず課税の対象となり得るところ、これは制限超過利息を現実に収受することにより当該法人に経済的成果が生じていることによるものと考えられる。
⇒逆に、更正の対象とするには、経済的成果が消失していなければならないとされている。
破産管財人であるXは、制限超過利息相当額の一部を各破産債権者に配当⇒少なくともその額の限度では経済的成果が失われたことが明らか。
but
それを超える経済的成果は失われていないのではないか?

本判決:
破産手続の特質に着目し、
①納付された法人税の還付の可否をめぐる問題に本件破産会社自身は利害関係を有しているということはできない、
当該法人について破産手続開始決定がされ、本件破産会社自身が利害関係を有さず、専ら顧客ら(破産債権者)の損失の上に、Yが利得を保持し続けることについての利害の調整が問題となる局面において、破産管財人が破産債権者に債権の全部又は一部を現実に弁済(配当)していることを求めるという意味での「経済的成果が失われること」を要求する理由に乏しい

破産債権者に対する現実の配当を要することなく、破産債権者表への記載がされたことをもって経済的成果が失われるか又はこれを同視できる状態に至ったと解するのが相当

判例時報2410

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