殺人等7事件で一部無罪となった事案
神戸地裁H30.11.8
<事案>
パチンコ店の実質的経営者であった被告人が、Xら共犯者と共謀し
①被告人から10億円を借入れたR社が、その返済を滞らせ、更に借入時にR社が資力を偽っていたことが判明した件に関連して、
ア:R社代表取締役であるVaをマンション内の檻等に約1年2か月監禁の上(逮捕監禁、Va第1事件)殺害し(殺人、Va第2事件)、
イ:R社財務担当役員のVbを拉致・監禁等して死亡させ(逮捕監禁致傷、Vb第2事件)
②被告人の父が暴力団T会関係者とのトラブルで死亡させられた件に関連して、
ア:T会元組員のVdを拉致・監禁等して死亡させ(生命身体加害略取・逮捕監禁致死、Vd事件)
イ:T会元組員で前記父親死亡の件で処罰されたVcを監禁等した(生命身体加害略取・逮捕監禁致傷、Vc第1事件)後、殺害し(生命身体加害略取・逮捕監禁、・殺人、Vc第2事件)
③パチンコ店の従業員で被告人の下から逃走したVeを倉庫内に約1か月監禁した(逮捕監禁、Ve事件)
前記7事件以外にも、公判前整理手続において裁判員裁判審理事件から分離された5事件が存在
<主張>
検察官:全7事件について被告人は首謀者として犯行を主導した旨主張
弁護人:ほぼ全面的に公訴事実を争うとともに、著しい捜査の違法等を理由に控訴棄却を主張。
被告人と共犯者らとの共謀の有無が争われたほか、
遺体未発見のVa・Vdに関しては死亡事件そのものが争われ、Vcの殺人に関しても死因や殺意の有無が争われた。
<判断>
Va第2事件(殺人)について、
Xが被告人と共謀してVaを殺害した可能性はかなりの程度考えられるものの、
そこにXがVaを殺害したと考えなければ合意理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が存在するといえるかにはなお疑問が残る。
XによるVaの殺害が、常識に照らして間違いないといえる程度に立証されているとはいい難い
⇒
実行犯による被害者殺害の立証が不十分であるとの理由で、被告人を無罪。
~
最高裁H22.4.27が、犯人性が争点となった事案において、情況証拠によって有罪を認定するには、「情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する」と説示。
⇒
実行犯による殺害に関する直接証拠がないVa第2事件においても、同様の枠組みから検討を重ねて結論を導いた。
Va第2事件以外の全事件について、いずれも有罪。
公訴棄却の主張についても「本件各公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に当たらない」などとして排斥
⇒被告人を無期懲役。
<解説>
公判審理の期間が長期(職務従事予定期間207日、公判回数70回)に
←
①事件数が多いうえに、ほぼ全面的に公訴事実が争われており、争点が多岐にわたった
②共犯者ほか関係者が多数存在した上に、被害者2名の遺体が未発見とされ、さらに、全事件について主要な実行犯として関与したとされるXも被告人との共謀等を否認
⇒総じて直接証拠が乏しく、検察官が多数の証人によって様々な間接事実を積み上げる立証構造となった
③重要な証拠太の同一性・真正等についても争われ、捜査官証人による証拠物の押収過程等の立証も相当の分量となった
④人獣鑑定や死因等に関する専門家証人による立証・反証も一定の分量になった
区分審理制度(裁判員法71条以下)
but
多数の重要証人や三木倉庫といった犯行場所等が複数事件にまたがって登場するなど、各事件の相互関連性が強い⇒区分審理には適さないとの判断がされたものと考えられる。
著しく長期にわたる事件に関しては、平成27年改正により新設された裁判員対象事件からの除外規定(裁判員法3条の2)の適用。
but
本件では、当事者から同規定の適用に係る請求はなされていないようである。
判例時報2406
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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