GPS捜査で違法収集証拠排除法則⇒一部無罪の事案
東京高裁H30.3.22
<概要>
GPS捜査が行われた可能性を認め、検察官に対して、改めて事実関係を確認した上で、答弁書を提出するよう求め、検察官もGPS捜査が行われたことを認める答弁書を提出。
⇒
GPS捜査の実施状況に関する報告書等の取調べや、当該捜査に従事した警察官2名の証人尋問
⇒
無令状で行われた本件GPS捜査について、違法の重大性と排除相当性の2要件を認めて、違法収集証拠排除法則を適用し、当該捜査から直接得られ、または密接に関連する証拠と判定された証拠の証拠能力を否定。
⇒
2件については無罪、
残る2件についてはその他の証拠のみによっても有罪(懲役2年6月)
<争点>
①本件GPS捜査が違法であるか
②(①を前提として)違法収集証拠排除法則が適用されるか
③(②を前提として)証拠能力が否定される証拠の範囲
<判断>
●争点①について
最高裁H29.3.15(「大法廷判決」)を挙げて、これと異なる考え方を採るべき理由がない。
本件GPS捜査は大法廷判決前に行われたものであり、当時の警察庁の運用要領に基づいて実施されたもの
but
大法廷判決の見解は普遍的に妥当する
⇒
無令状で、秘かに被告人使用車両にGPS端末を装着して行われた本件GPS捜査は違法。
●争点②について
本件GPS捜査の期間や位置情報の検索回数のほか、警察官らが、被告人の公道確認時に失尾した場合のみならず、直接の必要性がない場合にも検索を行っていた
⇒
行動把握の継続性、網羅性を認め、プライバシー侵害を認定。
①警察官らが、捜査関係書類等への不記載、検索履歴の消去など、GPS捜査の実施が判明しないように意を用いていた
②原審証人尋問において、事前に隠ぺいの意を通じた上で、意図的に事実と異なる証言
⇒
令状主義の精神を没却するような重大な違法を認め、違法収集証拠排除法則を適用。
●争点③について
原判決が有罪を認定した主たる間接事実は、
2件については、ア「被告人が、窃盗被害発生日時の当日中に、被害品の一部を換金処分した事実」であり、
残る2件については、イ「被告人が、窃盗(未遂)被害発生日時と合致する日時に、被害者方敷地内に出入りした事実」
アを基礎付ける証拠は、本件GPS捜査以前の捜査で獲得した証拠が主要なもの⇒密接関連性を否定し、証拠能力を肯定。
イを基礎付ける証拠は、本件GPS捜査によって得られた位置情報を用いて行動確認したことによって得られた被告人の写真などを中核とするもの⇒密接関連性を認め、証拠能力を否定。
<解説>
●判決①~⑤
無令状のGPS捜査は違法
残る問題点は、当該GPS捜査の違法の程度、証拠排除する範囲。
⑤判決:
GPS捜査が検証許可状の発付を得た上で実施⇒違法の重大性を否定し、そもそも違法収集証拠排除法則が適用されていない。
(無令状の)GPS捜査と密接に関連するものとして排除する証拠に関して、
①別の手段によっても獲得された可能性がある、あるいは、
②新たな令状が発付されて押収されたことなど
⇒関連性が稀釈されたとして、排除すべき証拠の範囲をやや狭く解した裁判例。
このような稀釈に言及せずに証拠排除を認めた裁判例(①判決)。
本判決:
違法なGPS捜査との関連性を詳しく検討した上で、密接に関連する証拠でないとは言い切れないなどとして、排除すべき証拠の範囲を広めに認めた。
~①判決と似た傾向のもの。
●警視庁が、本件GPS捜査を実施した警部につき、GPS端末を使った捜査を隠すために部下2名に偽証を指示したとして書類送検し、停職6か月の懲戒処分に処したとの新聞報道。
判例時報2406
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