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2019年8月21日 (水)

不正競争防止法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があるとされた事案

最高裁H30.12.3      
 
<事案>
自動車会社に勤務していた被告人が、同業他社への転職直前に、不正の利益を得る目的で、2度にわたり、勤務先会社のサーバーコンピュータに保存されていた営業秘密に係るデータファイル合計12件の複製を作成した不正競争法違反の事案。 
 
<争点>
不正競争法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」の有無等 
 
<規定>
不正競争防止法 第21条(罰則)
次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
三 営業秘密を保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
 
<判断>
本件における「不正の利益を得る目的」の有無について、
勤務先会社のサーバーコンピュータに保存された営業秘密であるデータファイルへのアクセス権限を付与されていた従業員が、同社を退職して同業他社へ転職する直前に、同データファイルを私物のハードディスクに複製したこと、
当該複製は勤務先会社の業務遂行の目的によるものではなく、その他の正当な目的をうかがわせる事情もないこと等の本件事実関係の下では、
同従業員には、法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があったといえる
と職権判示して、原判決を是認。 
 
<解説> 
●営業秘密侵害罪に対する刑事処罰規定は、平成15年の不正競争法改正により新設された。
さらに平成21年の同法改正により、
①営業秘密を保有者から示された者(従業者等)が、営業秘密の管理に係る任務に背き、図利加害目的をもって営業秘密を領得する行為自体が新たに営業秘密侵害罪の対象とされるとともに、
②営業秘密侵害罪の目的要件が、「不正の競争の目的で」から「不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で」(図利加害目的)に改められた。
本件は、①の罪に問われているものであり、また、②の改正後の目的要件である「不正の利益を得る目的」の解釈適用が問題。
「不正に利益を得る目的」は、公序良俗又は信義則に反する形で不当な利益を図る目的」を意味し、自ら不正の利益を得る目的(自己図利目的)のみならず、第三者に不正の利益を得させる目的(第三者図利目的)も含む

具体例:
①金銭を得る目的で、第三者に対し営業秘密を不正開示する場合
②外国政府を利する目的で、営業秘密を外国政府関係者に不正開示する場合


図利加害目的が否定される具体例:
①公益の実現を図る目的で、事業者の不正情報を内部告発する場合
②労働者の正当な権利の実現を図る目的で、労使交渉により取得した保有者の営業秘密を、労働組合内部に開示する場合
③残業目的で、権限を有する上司の許可を得ずに営業秘密が記載された文書な等を自宅に持ち帰る場合

 
●本決定は、
従業員が同業他社への転職直前に営業秘密を領得した本件のような場合においては、当該領得につき勤務先の業務遂行目的がなく、その他の正当目的(内部告発・報道・労働組合活動等)もないのであれば、通常は消去法的に自己又は転職先等の第三者のために退職後に利用する目的があったことは合理的に推認できる旨の事実認定上の判断と、
そのような退職後の利用目的が認定できる以上、具体的な利用方法の如何にかかわらず、法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」はあたっといえる旨の法的判断を
本件の事実関係に即して示したもの。

判例時報2407

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